保育の基礎知識

【海外の保育園事情】雰囲気は?日本との違いは?7カ国の実例を紹介

【海外の保育園事情】雰囲気は?日本との違いは?7カ国の実例を紹介

「海外の保育園ってどんな感じなのかな」と気になったことはありませんか?今回は、欧米、北欧、東アジア、東南アジアから厳選した7カ国の保育園・保育の事情について、実際のケースにもとづいてお届けいたします。

英語で保育園・保育士はどう表現する?

海外には日本の保育士とまったく同じ資格はありません。英語では、保育園と幼稚園は、例外や混用もありますがだいたいこのように呼び分けられています。

保育園(就学前の子どもを預かることがメイン)
= nursery, nursery school, day care, day care center, childcare

幼稚園(就学前の子どもを教育することがメイン)
= preschool, kindergarten

日本でのいわゆる「保育園の先生」の呼び名は「nurse(ナース)」が最も一般的なようです。

日本語でナースというとまず看護師さんが思い浮かぶと思います。しかし、nurseという英語の語源のひとつは、実は「乳を与える」です。この英語の感覚からすると、子どもを預かり世話をする場所である保育園が英語でnursery(ナーサリー)、そこで働く人がnurse(ナース)と呼ばれるのは自然なことなのですね。

他にも、託児室での仕事や出張保育などに従事する人のことは、childcare worker(保育所で働く人), childcare giver(保育を提供する人), childcare professional(保育のプロ)などと呼ばれます。イギリスではchildminder(チャイルドマインダー)という子どもを預かる国家資格があります。

海外の保育園事情

さて、海外7カ国の保育園事情について詳しく紹介していきます。

アメリカ

アメリカ

海外といえばまずアメリカが気になる方は多いのではないでしょうか。

アメリカでは、デイケア(2歳までの保育園のようなもの)に預けるか、ナニーさん(自宅で赤ちゃんを世話する乳母さん)に来てもらうかが主流のようです。

日本より充実している点

赤ちゃんは生後6週間から預けられるところが多く、首が座っていなくても大丈夫なようです。も普及しており、デイケアのスタッフもミルクまわりの業務の負担は比較的軽いようです。

日本と比較して課題のある点

施設によりますが、子どもがはだしで怪我をしないようにと室内土足にしているところがあります。室内裸足に慣れている日本人にとっては衛生的に少し気になるところかもしれません。

また、デイケアは月約10万円、ナニーさんはその2倍の月約20万円とのこと。ニューヨークで良質なサービスを提供しているデイケアで、なんと月24万円という情報があります。

アメリカでは収入に応じて保育料の変わるシステムがないので、良い保育を受けさせたい場合はその分高い出費を覚悟しなくてはなりません。良い保育サービスに手が届かない低所得層は、仲間で子どもを預けあって乗り切っているそうです。

子育てをめぐる社会的背景

アメリカで生後6週から預かってくれるデイケアがある理由は、産休期間の短さにあります。アメリカでは産休は基本的に産後12週間までなので、赤ちゃんが生後3ヶ月のころには仕事復帰している家庭が多いのです。

公立の保育所が存在せず、どこも保育料が高いにも関わらず子どもを預けて働ける人が多いのは、中年以降の女性の正社員雇用が豊富なうえに、彼女たちの年収が高いからと言えるでしょう。

保育に関する資格は年齢別の縦割りになっていて、0~2歳児までとそれ以降で分かれています。このため、2歳まではデイケア、それ以降はpre schoolといって幼稚園に準ずる施設に通わせるのが一般的です。

カナダ

カナダ

カナダは、海外で保育士をしたいと思う保育士さんに人気のようです。

日本より充実している点

カナダの保育園では、3~5歳児の保育でも「スタッフ対子ども」の数が8:1と、人員配置がはるかに手厚いです。また、日本のようにみんなで揃って先生の決めたことをするというよりも、読書コーナー、おもちゃコーナーなどそれぞれが好きなように過ごせます。

保護者さんに提出する書類の作成は日本に比べると圧倒的に少ないです。スタッフの保育以外の書類仕事は日本よりもずっと楽だといえるでしょう。

登園時間が特に決まっていないのも保護者さんにとっては嬉しいポイントです。

日本と比較して課題のある点

書類仕事が少ないのはスタッフにとっては気楽ですが、子どもの様子を細かく知りたい保護者さんにとっては情報が少なすぎて不安かもしれません。

また、カナダでも保育料の高さが問題になっていて、「大学の学費よりも高い」と言われています。カナダ都市部では月13~14万円かかるとの情報もあります。

子育てをめぐる社会的背景

登園時間が決まっていないのは自由にも思えますが、その背景には「子どもを1人で行動させない」という規範の強さがあります。必ず保護者などの大人が送迎することが最優先で、大人の都合に子どもが合わせる感じになっているのですね。

皆がそれぞれ自由なことができるという点には、その後の小学校での自主性を重んじた教育の雰囲気が感じられます。

保育に関する資格は子どもの年齢、そして障害の有無で分かれていて、スタッフは資格の対象年齢が合っていれば保育園でも幼稚園でも働くことができます。

イギリス

イギリス

イギリスはナニー(乳母)文化の発祥の地です。子どもと家庭で1対1で関わるような保育を特に得意としているようです。

日本より充実している点

イギリスでは3~4歳のとき、週に15時間の就学前教育を無償で受けることができます。週15時間以上子どもを預けたい・通わせたい場合は差額を支払います。

またカナダと同じで、登園時間が決まっていません。曜日単位で通う時間を変えたり、複数の園に掛け持ちで通うなど、フレキシブルな選択肢をとることができます。

ナニーさん(乳母さん)の利用が普及していて、気軽に利用する人もいるようです。人件費の安い移民のナニーさんにお願いしたり、費用削減と遊び相手づくりのため、近所の複数の家庭で1人のナニーさんをシェアし、複数人まとめて世話してもらったりすることも多いとのこと。費用は高額になりますが、イギリス人のプロ・ナニーさんもいます。

日本と比較して課題のある点

イギリスではお昼やおやつのシステムが日本より緩く、お弁当や給食がないところもあるようです。

また、イギリスも日本と違って就学前教育や保育に対する公的支援が基本的になく、保育料は質の高さを求めるほど高額になる傾向があります。

子育てをめぐる社会的背景

保育料が日本より高いのにシステムが成り立つ理由と、フレキシブルな登園時間が認められている理由には、保護者さんたちの日本とは違った労働事情にあります。日本では週5日8時間勤務が当たり前ですが、イギリスでは週に数日、1日に数時間といった働き方もごく一般的です。子どもができるとお母さんお父さん問わず気軽に転職し、子どもの世話主体に生活をシフトしていく家庭が多いようです。

子どもを預ける選択肢としては、ナニーさん、ベビーシッターさん(ナニーさんの下位に位置するもので、学生のアルバイトもいる)、チャイルドマインダー(イギリスの国家資格で、主に自宅で小規模保育をする人)、ナーサリー(保育園)と、選択肢がたくさんあります。

フランス

フランス

フランスというと、女性がカッコよく自立している、という印象を抱く人もいるのではないでしょうか。自立をよしとする文化が影響しているのか、フランスの保育園のサービスは「良くも悪くも最小限」です。

日本より充実している点

こちらのケースでは、登園してからは子どもを引き渡すだけで、保護者が日本のようにコップやタオルなどこまごましたものを準備する必要がなくてとても気楽だったそうです。

「公認保育ママ」という制度があり、自宅で1~4人までの子どもを預かってくれます。公認保育ママは120時間の研修を受けるなどの条件で比較的簡単に登録できるのでかなり普及しており、保育園以外の選択肢のひとつとして活用されています。

日本と比較して課題のある点

いっぽう上のケースでは、散歩をまったくしてくれず、連絡帳もなくて、子どもの様子を知る手がかりはお迎え時のごく簡単な口頭報告のみだったとか。トイレトレーニングや断乳トレーニングもしてくれないため、大きくなってもおむつがはずれていなかったり、哺乳瓶でミルクを飲んでいたりする子が多かったそうです。

また、公認保育ママは比較的高額な報酬の支払いを求められるので、どちらかというと富裕層の選択肢となっています。

子育てをめぐる社会的背景

フランスでは、一定の基準を満たした子育て中の人には、子どもが3歳になるまで、「最短でフルタイム時の2割」までの短時間勤務が認められるという制度があります。この間も正社員としてきちんと福利厚生を受けられるので、子持ちのフランス人女性は日本女性のパートタイム労働者と比べてかなり安定した立場だと言えるでしょう。

幼稚園はほとんどが公立で費用も安いのですが、0~2歳児の入る保育園、特に認可保育園は激戦で、東京と変わらない様相を呈しています。しかし、待機児童問題は保育ママ制度のおかげである程度は和らげることができているようです。

スウェーデン

スウェーデン

スウェーデンといえば福祉先進国です。子どもにも高齢者にも優しい国という印象があります。

日本より充実している点

スウェーデンでは、待機児童がほぼゼロです。スウェーデンの自治体では入園申し込みから3~4ヶ月以内に席を用意することが義務づけられているためです。

育児休暇中の親のうち、1歳未満の子どもがいる家庭では、給与額のうち80%が支給されており、子育て中の経済的支援が行き届いています。また幼児のいる親は6時間の短時間勤務で良いと法律に定められているため、長時間保育が必要とされません。

人員配置については子どもと先生の割合が6:1 という手厚くなっています。また小規模保育園でも採算がとれるようなシステムが構築されていて、理想に近い保育・教育ができるようになっています。

子育てをめぐる社会的背景

スウェーデンでは幼稚園と保育園をまとめて「就学前学校」として教育庁の管轄とし、手続きなどのムダを省いています。日本でも2014年ごろから認定こども園の制度が始まっていますが、これはスウェーデンの良いところを真似したものと言えるかもしれません。

管轄を教育庁としたことで、保育や就学前教育が子どもを重視する目線へと移りました。そして「長時間子どもを預けて働くことは子どもと保護者のためになっていない」という感覚が生まれ、子育て中の長時間勤務を減らす動きがいっそう進んだわけです。

また保育園・幼稚園を就学前教育機関としてまとめることで、保育園の社会的地位が高くなりました。このことで保育士の地位や給料も上がり、結果として保育の質が高くなったと言えるでしょう。

中国

中国

東アジアの大国、中国をとりあげます。特に近年経済が発展するなかで国内での貧富の差が拡大し、保育・幼児教育にもその影響が出ている様子です。

日本より充実している点

中国では、80年代末以降「遊びを中心とした幼児教育」への方向転換を行ないました。現在では感覚統合訓練やモンテッソーリ教育、リトミックを取り入れるなど、工夫を凝らした多彩な保育を行なう園もあるようです。

日本と比較して課題のある点

中国でも保育料が高くつく点は課題となっています。過去に豊富にあった安価に子どもを預けられる国営託児所は、ここ数十年でもともとの機能を失いました。民間保育園の1年間の保育料は、中国の大学1年間の授業料より高いそうです。

子育てをめぐる社会的背景

中国では一人っ子政策の影響がまだ残っており、一人っ子が多いという背景に即した保育・幼児教育が行われています。特に富裕層の子どもは、両親・祖父母の資力が一身に注ぎ込まれるので、小さな頃からかなりの英才教育を受ける子もいるようです。

経済的な事情で共働きせざるをえない家庭が増えており、母親が子育てと仕事との板挟みに遭ってしまっている点は日本と似ている点です。

タイ

タイ

タイは仏教国ですが、その優しく平等な印象とは裏腹にかなりの身分社会と言われます。東南アジア代表としてタイの保育周辺の事情を見てみましょう。

日本より充実している点

タイにもナーサリー(保育園)はありますが、欧米人、中国人、日本人などの富裕層は、人件費の安い地元のメイドさんを気軽に雇います。富裕層のお母さんは、ナーサリーに子どもを預けるだけでなく、家事をメイドさんに任せて自分は子育てや仕事に専念する、またはメイドさんに家事も子育てもやってもらって自分は仕事する、など、多くの選択肢があります。

タイ長期滞在経験者の話では、タイではメイドさんに頼ることで日本より子育てがずっと楽にできるので、タイ駐在の日本人の中には2人3人と子どもを産み、「日本ではこんなに産めないよね」とよく言っているそうです。

日本と比較して課題のある点

タイはなんでも「マイペンライ!(大丈夫)」と言って済ませる気軽なところが良いのですが、ときにその気軽さ、緩さによって、日本ではありえないような低いサービス、不誠実な対応などに出会うこともあるようです。上記の方の話では、やはり高いサービスを受けたければ高い出費を覚悟しなければならないですし、口コミなどを最大限に使って信頼のできる預け先を見つけるのが大事になります。

子育てをめぐる社会的背景

タイでは文化的に、女性が働くこと、生活の中に子どもがいることがごく自然な空気なので、男女問わず気軽に職場に子どもを連れてきて子守をしながら仕事をすることも許されることが多いとのこと。こういった点も、タイ駐在の日本人がたくさん子どもを産みたくなる要素のひとつなのかもしれませんし、地元の中産階級以下の人たちにとっても良い影響を及ぼしているようです。

それぞれの国なりの保育の姿がある

それぞれの国なりの保育の姿がある

以上、7カ国の保育園・保育の事情を検証してみました。それぞれの国に、それぞれの社会的背景に沿った保育サービスがあることがわかって、とても興味深いですね。

各国の情報を集めるなかで見えてきたことは、「日本の保育料は高く感じるが、それでも多くの他国と比べればまだ安価である」ということでした。ほかの国の事情を知ると自国の課題も見えてきますが、いっぽうで恵まれている点も見えてきます。

7カ国の中でも、やはり福祉大国スウェーデンの保育園事情は素晴らしいと思います。日本の認定こども園制度には賛否両論ありますが、この制度がうまく展開していけば、日本の保育もスウェーデンに近づく日が来るかもしれません。

編集者より

いかがでしたか?この記事が少しでも、海外での保育士を検討している方、海外の保育園事情について知りたい方のお役に立ちましたら幸いです。

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