取材・インタビュー

「子ども中心に考える保育の本質へ」導入保育園で聞いた!ICT化の本当の魅力~あい・あい保育園 錦糸町園~

近年、保育士さんの業務負担を減らすため、全国の保育園で「ICT化」を推進していく流れができています。
ICTとはInformation and Communication Technology(情報通信技術)の略で、パソコンやタブレット端末を利用した業務支援システムのこと。手書き作業の多い保育士さんの事務業務を簡略化することを目的としたものです。
厚生労働省も平成27年度補正予算より、「保育所等における業務効率化推進事業」を新たに創設。ICTシステム導入の際に一定額の補助を受けられるというもので、これを契機に保育園のICT導入は、ますます注目されるようになりました。

しかし、そうしたICTは、まだ保育現場に浸透しきれていないのが現実。
ずっとアナログ作業でやってきたところに突然パソコン・タブレットが入ってくる……ということに、抵抗感のある保育園も少なくないようです。

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とはいえ、「事務業務に追われて子ども達とも満足に関われない……」とお悩みの保育士さんは少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は、実際にICTを導入して業務負担の軽減に成功している保育園に取材してきました!

    *シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。

あい・あい保育園 錦糸町園とは?

今回お邪魔したのは、福祉事業を展開する株式会社global bridgeが運営する「あい・あい保育園 錦糸町園」。
東京・千葉・神奈川・大阪で約40園ほど展開している保育園のうちのひとつで、2015年に開園したばかりの認可保育園です。

▲スタイリッシュなエントランス

「ひとりでも多くの子どもが、人間が生まれながらに持っている素晴らしい力を育むことに喜びを感じ、笑顔と元気があふれた園を創造すること」という保育理念のもと、全クラス計40人ほどの子ども達を保育士さん全員で見るアットホームな保育を行っています。
「どんな未来でも人間らしく生き抜いて、輝ける子ども達になってほしい」とは施設長・山本宏美先生の談。
そのために保育士さんは第一に子どものことを考え、今現在の子どもの姿に合わせた保育計画を立てています。

日々の保育の振り返り・反省を行うことが毎日の宿題であり、そのPDCAサイクルを繰り返し行うことで、保育の質が向上していくのだと考えています。

そうした”よりよい保育”を実施するのに一役買っているのが、このあい・あい保育園 錦糸町園に導入されているICT――「Child Care System+Pro(チャイルド・ケア・システム・プロ)」通称CCS+Pro(以下、CCS)です。

▲ シフト管理画面。パターンを登録できるので組むのもらくらく

保育園の運営会社である株式会社global bridgeグループが開発したシステムで、38種類にわたる多彩な機能によって保育園の事務作業を簡略化することができます。
保育士さんのシフト管理や出退勤管理、保育計画作成のほか、園児の登園・降園管理など……こうした業務の効率を向上させることで、保育士さん達は子どもと向き合う時間を確保できる、というわけです。

「これがなかったら、何倍の時間がかかっていたんだろう」

今回は実際にICTを利用することでどのような変化があったのか、あい・あい保育園 錦糸町園の施設長、山本先生にお話を伺いました。

▲忙しい業務の合間の取材でしたが、常に笑顔で対応してくれた山本施設長

――ICT化されている保育園で働かれていて、率直にどのような感想がありますか?

山本先生:やっぱり、今はもうCCSがないとやっていけないんじゃないか……と思います。もし、今CCSでやっている業務が全部手書きだったら、今よりも3~5倍くらい時間がかかるんじゃないかな。
たとえば、行政に書類を提出しなきゃいけない時期など、シフト管理とか通常の事務業務が全部止まってしまうんですよ。その上で何時間も手書きでやっていたら、もう何時に終わるの? って状況になってしまうなって。持ち帰り業務が発生しちゃうんですよね。だからこうやって効率化できていて、とても助かっています。

――CCSについて、保育士さんの反応はどのようなものでしたか?

山本先生:パソコンに慣れていない先生も多かったので、初めは戸惑っていたと思います。ですが、CCSはボタンもわかりやすく配置してあるし、慣れればみんなすぐ使いこなせていましたね。私も使い方のマニュアルを作って、みんなに配ったりして。今は新人さんが入ってきても、マニュアルを渡すだけでいいので、教える手間も省けています。
たまに「CCSがなかったら、今の何倍仕事の時間かかっていたんだろう……」なんて話題にもなります。先生達も、もうCCSなしではいられないかもしれないですね。

▲CCSで使用されるiPadを手に

――保育士さんの持ち帰り業務なども減りましたか?

山本先生:持ち帰りというか、保育士さんの宿題って「今日の保育はどうだったかな?」と振り返りや反省をして、明日の自分の保育を今日よりもよくしていくことだと思っているんです。だから、事務仕事は絶対に持ち帰らせないようにしています。「どうしても残る時には声かけてね」って言っていますけど、それも大体30分くらいですね。保育日誌と午睡チェック表だけは手書きにしているので、そこだけ少し時間がかかるみたいです。

――山本先生は、ICTを導入していない園でも勤務された経験があるとお聞きしました。CCSなどのICTを導入している園と導入していない園で、違いは感じますか?

山本先生:あい・あい保育園に来る前の保育園は全部手書きでしたが、それが普通だったので苦ということはなかったですね。でも、やっぱり事務作業に時間を取られていたのは事実です。どうにか仕事を終わらせなきゃ、って焦って追われている感じがずっとありましたね。

▲実際のシフト作成の様子を見せてもらいました。本当に早い!

――余裕が持てなかった、ということでしょうか。

山本先生:そうですね。当時はそういうものが当たり前だと思っていましたが、周りの保育士さんも余裕がなくて、全体的にギスギスしていた感じはあります。事務仕事に時間がかかりすぎて終わらないんですよね。たとえば、提出した書類を添削されて返されたとして、ICTだったらぱぱっと切り取り・貼り付けで直せるんですけど、手書きの場合は一からやり直しで、それにまた時間がかかってしまっていました。

「子ども中心の保育」のために

――それでは持ち帰り業務や残業になってしまいますよね……。では、ICTによって保育士の業務改善だけでなく、「保育の質」も変わると思いますか?

山本先生:子どものためにクリエイティブなことを考える余裕ができるので、変わると思います。というのも、手書きの園にいた頃は事務仕事がとにかく終わらないので、「保育を抜けてでも事務をやりたい」という思考になっていたんです。
それが当たり前になっていましたけど、今振り返ると、本末転倒だったな……って思いますね。
子どもの保育をすることが保育士として一番大切な仕事なのに、自分のことが中心になってしまうんです。でも保育士の仕事は、本来子どもが中心に来るべきじゃないですか。
CCSで業務負担が減らせた今だからこそ、当時を振り返ってそう思えますね。

▲室内に入ると子どもたちが駆け寄ってきた!

――ありがとうございます。それでは、山本先生がCCSで便利だと思う機能はどんなものですか?

山本先生:延長保育料の請求がボタンひとつでできるのが楽だなと思います。園児ひとりひとりの利用時間を入力して、その子が標準保育なのか短時間保育なのか、延長保育も月極延長なのかスポットなのか……って情報を全部入れてあげると、CCSが勝手に集計してくれるんです。素敵すぎる!と思って(笑)機械がやってくれているので、ヒューマンエラーも減ったかなと思いますね。

あと、これは便利な機能とは違うんですが、「少し不便だな」と思ったことをCCSの開発の人に伝えると、いつの間にかCCSがアップデートされて解決されていることがあります。本当に保育士さんのことを考えて、日々改善してもらえるのは嬉しいですね。

――今後ICTを導入したい園に、何かアドバイスはありますか?

山本先生:初めはやっぱり戸惑うし、ICTに馴染みがないところだと大変だとは思います。手書きが当たり前の世界にいると、いきなり新しいものに変えるのにすごい抵抗があるとは思うんですけど……。
ただ、ICTを導入していない園の方はよく「うちはまだいいや」と仰るんですけど、まずやり始めてみる方がいいんじゃないかな。使い始めてみればすごく楽になるし、それまで事務仕事に使っていた時間を他のところに使える、ときっと気付けると思います。

実際に働く保育士さんの声

▲玄関に置かれたiPad。保護者が登降園時タッチする

さらに今回は、ICTを用いて日頃の業務を行っている保育士・田辺先生(仮名・女性)にもお話を聞くことができました。

――日頃の業務で、便利だと思うCCSの機能は何ですか?

週案作成の機能で「前週コピー」というのがあって、前の週のものをそのままコピー&ペーストできるものなのですが、これがすごく便利だなと思います。今のようなプールの時期などは基本的な活動の部分が変わらないので、保育のねらいとか新しく変わるところとか、これはやりたい!ってところだけちゃんと変えて書いて出せるのがいいです。これが手書きだったら、かなり負担だったなあと思いますね。

――初めてICTに触れたときはどう思いましたか?

私はずっと手書きが当たり前の福祉業界で働いていて、パソコン自体に不慣れだったので不安はありましたね。タイピングから練習を始めたのですが、慣れるまでに2~3か月くらいかかって。それはちょっと大変でした。でも今は便利な機能がたくさんあるとわかって、事務作業の時間も減らせたのでよかったな、と思います。どんな保育をしようか、考える時間の余裕も増えました。

――今後、こんな機能があったらいいなと思うことはありますか?

そうですね、制作物の型紙のアイデアや、楽譜をダウンロードできるようになったらいいなと思います。より実務に寄り添う形でサポートしてもらえたら、もっと便利になると思います。

編集者より

子どもと関わりたいと思って保育士を志したにもかかわらず、山積みの事務作業に追われて子どもとの時間をないがしろにせざるを得なくなってしまう……そんな悲しい思いをしてきた保育士さんは、決して少なくないのではないでしょうか。

ICTは保育士が本来注力するべき「子どもの保育」に集中できるように、少しでも雑務の負担を減らすために導入が検討されているものです。
今まで馴染みのなかったものをいきなり始めるのはなかなかハードルが高いかもしれませんが、思い切って一歩踏み出して導入を検討してみるのもよいのではないでしょうか。

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