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聞かせ屋。けいたろうさんが教える! 保育士さんのための読み聞かせ実践のコツ

絵本の読み聞かせは、子どもたちの心の成長を促す大切な時間です。保育園でも毎日のように取り入れられている読み聞かせですが、「今のやり方でよいのだろうか?」「どのような工夫をすれば、もっと子どもたちが楽しめるのだろう?」と悩んでいる保育士さんも多いのではないでしょうか。

今回は、読み聞かせのプロである、聞かせ屋。けいたろうさんをお招きして、保育士さんのための、読み聞かせのポイントを教えていただきました!

読み聞かせは「絵本って楽しいね!」という気持ちを共感する時間

絵本
まず、読み聞かせる絵本を選ぶ際には、どのような点に注意したらよいのでしょうか?

「子どもたちにこんなメッセージを伝えたい」「〇〇の行事があるからそのテーマの絵本を選ばなくては」など、絵本選びにおいてはいろいろなことを考えてしまいがちです。しかし、重要なのは「絵本って楽しいね」「絵本を読んでもらうのってうれしいね」という気持ちです。

読み手と聞き手が「絵本って楽しい!」「この絵本、いいね!」と共感することが、読み聞かせにおいて、とても大切なポイントだと思います。

――なるほど、テーマやメッセージよりも、まずは楽しさを「共感する」という視点が大切なのですね。

読み手が伝えようと思っていたメッセージを受け取ってくれるかどうかは、子どもによりますし、その受け取り方もさまざまです。ですから、1回の読み聞かせで「〇〇を伝えよう」ということに、そこまで執着しなくてもよいと思います。

まずは保育士さん自身が「好き」「読みたい」と思える絵本を選ぼう

けいたろうさん
――具体的にはどのような絵本を選んだらよいのでしょうか。

「誰に読むのか」によって選ぶ絵本は変わってきますが、選び方について共通して言えることは、自分(読み手)が「好きだな」「読みたいな」と思う絵本を選ぶことが大切ですね。

自分のなかに好きな絵本をストックしていって、「あ、もう〇〇の時期だから、あの絵本を読める!」というように選ぶことができるとよいでしょう。

「この絵本を読みたいな」「読んであげたいな」という、読み手自身がウキウキするような気持ちが大事ですね!

年齢別の絵本選びのポイント

――年齢別に、おすすめの絵本というものはあるのでしょうか?

自分が好きな絵本のなかから、どれを読むか選ぶ際には、やはりその絵本が、今の子どもたちに合っているかどうか、考えなくくてはなりません。

0歳~赤ちゃんが楽しんで発音できる両唇音を~

絵本
絵本のなかには特別に「あかちゃん絵本」とジャンル分けされているものがあります。0歳に読む「あかちゃん絵本」を選ぶときには、次のような点に着目するとよいですね。

◆ボール紙でできている・角が丸くなっている
0歳児に向けては、ボードブックといって、分厚いボール紙で作られている絵本がとくにおすすめです。赤ちゃんに配慮したつくりになっていて、角が丸く加工されています。
0歳の赤ちゃんたちが、はじめて触れる本として、保育室に置くのにとてもよいですね。自分で持つにもよいですし、口にいれてしまったときでも安心です。
◆擬音語・擬態語(オノマトペ)がたくさん用いられている
言葉が未発達なので、赤ちゃんが楽しめる、そして言いたくなるような音を使っているかどうかも、0歳の赤ちゃんに絵本を選ぶ際には大切なポイントです。
▲『だあれだ だれだ?』(ポプラ社)を読んでくれたけいたろうさん
たとえば『だあれだだれだ?』に出てくる「あむあむあむ」などは、赤ちゃんにとって楽しい音です。繰り返し使われていますね。
◆両唇音がたくさん用いられている
「まみむめも」「ばびぶべぼ」「ぱぴぷぺぽ」といった、上下の唇をあわせて発音する音を「両唇音(りょうしんおん)」といいます。
この両唇音は、赤ちゃんが初期に獲得できる音で、楽しく発音でき、思わず言いたくなってしまう音なんです。ですからそういった音がたくさん出てくる絵本であれば、赤ちゃんも一緒に楽しむことができるでしょう。
▲あたたかいタッチの絵と、やさしい言葉の響きが親しみやすい、けいたろうさんの著書『おっぱいごりら』
『おっぱいごりら』も、「ぱぱの ぱいぱい おっぱいぱい ぽこぽこ ぼんぼん ぽこぽこぼん」というように、赤ちゃんにとって心地よい音である両唇音にフォーカスして、構成をしています。
◆身近なものを扱っている
赤ちゃんの世界は、大人と比べてとても狭いですよね。外出するのも近くの公園まで、家で目にするものも、天井や家族の顔ばかり……。だからこそ、赤ちゃんにとって身近なテーマを扱った作品を選ぶということも、ひとつのポイントですね。

1歳~子どもたちのブームにあわせて~


1歳の頃には、子どもたちができることが、どんどん増えていきます。そういった「発達」にあわせて、あるいは子どもたちのなかで、いま「ブーム」になっていることをもとに、絵本選びをするのもおもしろいでしょう。

たとえば、「ジャンプができるようになって、楽しくてたまらない」そんな子どもたちには、ページをめくるたびに、さまざまな動物たちが飛び跳ねる、『ぴょーん』(ポプラ社)の展開はとても楽しいものでしょう。

『たっちだいずき』▲ご自身の育児の経験から生まれた『たっちだいすき』

『たっちだいすき』(アリス館)は「たっち たっち たっちっち」「あかちゃんと……た~っち!」とハイタッチを題材にした絵本ですが、僕の娘がハイタッチ・ブームだったときに、「絵本のなかの動物たちとハイタッチできたら、おもしろいのでは?」と思ったことから生まれました。

子どもたちをよく観察していると、今どんなことに興味があるのか、どんなことが流行っているのかがわかりますから、それを絵本選びに活用してみるとよいですね!

0歳から2歳までの絵本選びは親子のかかわりが大切!

2歳になると、ちょっとしたストーリー性のある絵本も楽しめるようになってきますが、0歳から2歳までの絵本選びでは、共通して「親子のかかわり」が重要なポイントだと考えています。

たとえば、この『ぶう ぶう ぶう』(講談社)は、「おくちで ぶう」「ほっぺたに ぶう」「おててにも ぶう」「おなかに ぶぶう」……こんなふうに唇を震わせる「ぶう」だけで展開していく絵本です。シンプルな展開ですが、親子のかかわりを促してくれるような作品ですよね。

この絵本は、おーなり 由子さんと、 はた こうしろうさんのご夫婦が、子育てが大変ななかで、子どもの体に「ぶう」とするだけで笑顔の時間ができたご経験から生まれたそうです。

今は子育てが「しんどい」時代だと思いますが、そんななかで絵本は「これだけでいいんだよ」「こんなことをするだけで一緒に楽しめるんだよ」と、子どもとのかかわりを提案してくれます。

「親子のかかわり」につながるというのは、まさに0歳から2歳に読み聞かせる絵本に求められているポイントだと思いますね。

▲絵本作家として「親子が笑顔で過ごせること」を大切にしたい。そう語ってくれたけいたろうさん

歌絵本もおすすめ!

――保育室では、大勢の前で読み聞かせを行いますが、そのような場合にはどんな絵本を選んだらよいでしょうか?

0歳から2歳向けの赤ちゃん絵本には、ふれあいをテーマにしたものが多く、一対一で、ひざに座って……など、安心できるようなスタイルでの読み聞かせが理想ですが、保育室ではやはり対面式がメインになりますよね。

ふれあいをテーマにした絵本を対面式で読んでも、十分に楽しむことはできますが、もうひとつの選び方としては、「歌絵本」もおすすめです。

『どんないろがすき』▲「どんな いろが すき」とリズミカルに歌いながらの読み聞かせ

2歳ごろというのは、捉えるのが難しい時期だと感じています。幼児期への過渡期でもあり、まだ赤ちゃんでもあり……。イヤイヤがでてきたり、「なんで、なんで」と質問攻めにしたりもする。絵本をじっと見ている子もいれば、体を動かしたくて仕方がないという子もいる。歌絵本であれば、どんな子も一緒に楽しめると思いますね。

3歳~絵本に向かう力に個人差がでてくる~

3歳になると、ひとクラスあたりの人数がぐんと増えますよね。子どもたちの「絵本に向かう力」にもずいぶんと個人差が出てきます。そんななかで絵本を選ぶときには、子どもたち皆が理解しやすいように、できるだけシンプルな絵本を選ぶとよいでしょう。とくに『おおきなかぶ』(福音館書店)や、『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)『てぶくろ』(福音館書店)などに代表される「繰り返しのパターン」を用いた絵本はおすすめです。

『てぶくろ』は文章量としても、3歳の子どもたちにあっているのではないかと思いますね。

どうぶつしんちょうそくてい▲けいたろうさんの『どうぶつしんちょうそくてい』も繰り返しのパターンを用いた絵本

シンプルな言葉や展開が繰り返される絵本は、ページをめくるたびに楽しみがあるので、子どもたちが「次はどうなるんだろう?」という気持ちを、最後まで持ち続けることができます。

また、年度初めなど、まだ落ち着かない時期であれば、歌絵本などもあわせて活用してみてもよいでしょう。

4歳~絵本に夢中になるパワーが付いてくる~

4歳、年中さんの中盤~終盤ごろになると、子どもたちが絵本にぐっと引き込まれるようになります。3歳でおすすめしたような「繰り返し」の絵本も、引き続き楽しむことができますが、4歳児クラスの読み聞かせでは、より「じっくり味わえる」内容の絵本を取り入れるのがおすすめです。

『ぼくひこうき』(ゴブリン書房)は、主人公のせいくんが折った紙飛行機が、どこまでも飛んでいくお話なんですが、子どもたちにとっては「すごい!」「どこまで飛んで行ってしまうんだろう」といった共感を呼ぶストーリー展開なんです。

「もしかして宇宙まで行っちゃうの?」なんて言いながら、子どもたちは、絵本の世界に見とれ、夢中になってくれます。

絵に見入ったり、ストーリーの展開にワクワクしたり……そんな「じっくり味わうことができる絵本」は、4歳の子どもたちにぜひおすすめしたいですね。

けいたろうさん▲4歳の子どもたちには「夢中になるパワー」が溢れている、と語るけいたろうさん

5歳~長くなければダメということはない!~

5歳児は理解のスピードも早いので、昔話のようなボリュームのある絵本も楽しめるようになります。また、絵本とは少し違いますが『エルマーの冒険』(福音館書店)や『いやいやえん』(福音館書店)といった、長いストーリーを、何日かにわたって読んであげるのもいいですね。

ただ、「年長さんになったから、長いお話でなくてはならない」「小学校にあがるから、長いお話に慣れさせなくてはいけない」ということはありません。

集中力をしっかり身につけて欲しいなどと考えがちなのですが、まずは「絵本の楽しさ」というところを大切に考えるようにしたいですね。

――5歳児にとくにおすすめの絵本はありますか?

5歳児におすすめなのが、言葉の絵本です。たとえば『めくってごらん ことばのかくれんぼ』(こどもプレス)は、「すこっぷのなかにかくれているものなーに?めくってごらん」「こっぷ」というように、言葉のなかに違う言葉を探す絵本です。

『めくってごらん』▲大人でも一瞬考え込んでしまうような言葉あそびが楽しめる『めくってごらん ことばのかくれんぼ』

言葉の中に言葉を見つけるというのは、かなり高度なテクニックで、理解力がついた年長さんだからこそ楽しめる作品だと思いますね。

5歳頃には、だじゃれやさかさま言葉、早口言葉といった言葉のおもしろみを楽しむことができます。絵本を通じて、そのような言葉遊びを楽しむのもおすすめです。

たとえば『だじゃれどうぶつえん』(絵本館)は、「ペンギンぬりたて」「おおきなモモンガどんぶらこ」……といったように、ページをめくるたびに、動物をモチーフにしただじゃれを楽しむことができます。

『だじゃれどうぶつえん』▲愉快なだじゃれとユーモアあふれる絵にクスっと笑える『だじゃれどうぶつえん』

『はやくちこぶた』(瑞雲舎)は聞いているだけではよくわからない「早口言葉」の世界を、こぶたたちが演じてくれています。「ああ、こういうことなのか!」と理解しながら楽しむことができる、楽しい絵本ですね。

▲早口言葉が視覚的に表現されているのがユニーク

教えるのではなく、わかるようになったから「楽しもう」と考える

小学校に進学するにあたって「ひらがなを教えよう」「言葉を教えよう」と考えてしまいがちですが、ぜひ「言葉の楽しさがわかるようになってきたから、この絵本を読んで一緒に楽しもう」という提案をしてみてください。

そして、絵本を通じて「言葉って楽しいね」ということを、子どもたちに伝えられたらよいと思います。

導入についての考え方

子どもたちの気持ちが向くようにするのが「導入」

――絵本を読む前の導入に迷う保育士さんも多いと思うのですが……

読み聞かせの前の環境づくりは大切ですね。保育学生の時代には、よく絵本を読むまえに手遊びをしていましたが、日々の保育のなかで、毎回違った手遊びを準備するのは大変ですよね。

導入はなにも手遊びだけではありません。たとえば、かんたんなゲームをしてもよいですし、クイズを出したり、質問をしたり、絵本の表紙を見せながらその絵本にまつわる問いかけをしてみるだけでもよいと思います。

▲けいたろうさんが読み聞かせ公演でよく導入として取り入れるウクレレ

そもそも絵本を持って子どもたちの前に立つだけで、子どもたちが「なにかはじまるよ!」「なんだろう、楽しみだな」と気持ちを向けてくれれば、導入は必要ないんです。

子どもたちの気持ちが絵本に向かうように、環境を整えるのが「導入」なので、はじまりの拍手や、ちょっとした声掛けも、十分導入になりますよ。

見返しの与えてくれる「間」もひとつの導入に

絵本の表紙をめくると、本の表紙と中身をつなぎ合わせている「見返し」があらわれますが、この見返しも、実は導入の役割を持っています。

表紙のタイトル、作者を読んだあとに、この「見返し」を見せることで、少しの間が生まれます。そこで子どもたちは「さあ、はじまるぞ」と気持ちを落ち着けることができます。

▲「見返し」にもさまざまな意味が込められていると語るけいたろうさん

絵本によって、絵が描かれていたり、単色だったりとさまざまな「見返し」ですが、実は物語に関連した色が使われているなど、大切な意味が込められているんですね。

だから「見返し」は絵本が与えてくれるひとつの導入だと、僕は考えています。

複数の絵本を読むときに「関連性」は必要ない!

読み聞かせをする際、読む絵本を1冊だけに絞り込む必要はありません。

たとえばメインで読みたい絵本を決めて、その前に短い絵本を読んであげるなど、
2冊の絵本を使って「導入」「展開」の流れをつくるのもよいでしょう。

――複数の絵本を読むときに、そのテーマなどは関連付けたほうがよいのでしょうか?

関連性はあまり必要ないと思いますね。テーマを決めてしまうことで、絵本の選択の幅を狭めてしまう一面もありますし、たとえば、絵本の中に共通して「月」が登場するとしても、作品ごとにでてくる「月」はまったく別のものです。

それよりも、子どもたちの様子や空気感、今どんなことに関心を持っているのか、そういった点に注目して、絵本選びをするとよいでしょう。

ただし、長い絵本を2冊連続で読むと、どちらの絵本も活きてきません。短い絵本と長い絵本、歌絵本とストーリー性のある絵本など、性質の違う絵本を組み合わせると、メリハリがついて、より楽しめると思います。

けいたろうさん▲「読み聞かせる絵本にはそれぞれ役割がある」と語るけいたろうさん

読み聞かせは「読み手」がいてはじめて成り立つもの

けいたろうさん
読み聞かせというのは、読み手がいて、聞き手がいてはじめて成り立つものです。絵本を読み聞かせるという行為は、読み手である保育士さんと聞き手である子どもたちとをつないでくれるんですね。

ぜひ、絵本が与えてくれる「ふれあい」や「関わり」を大切にしながら、読み聞かせを実践していただければと思います。

編集者より

「子どもたちに読み聞かせをするなかで得られた技術や経験が、保育士さんたちの日々の保育に少しでも役立てば……」と語ってくれた聞かせ屋。けいたろうさん。今回は聞かせ屋としてだけでなく、保育士、絵本作家の視点も含めて、読み聞かせのポイントを教えてくれました。

この記事をきっかけに、皆さまの日々の読み聞かせが、今よりもさらに豊かで充実した時間になることを願っています。

けいたろうさんプロフィール

プロフィール
聞かせ屋。けいたろう
夜の路上で、大人に絵本を読み始めた、聞かせ屋。
親子読み聞かせ、絵本講座、保育者研修会で全国を駆け回る。
絵本の文章、翻訳も手がける。保育士。一児の父。
作品に「どうぶつしんちょうそくてい」「おっぱいごりら」(アリス館)
「まいごのたまご」(角川書店)「絵本カルボナーラ」(フレーベル館)など。

ホームページhttp://kikaseya.jp
公演予定、ご依頼もこちらです。

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保育のお仕事レポート
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