保育士不足は待機児童問題の解消を目指すうえで、課題のひとつとなっています。厚生労働省によれば平成28年度11月時点の保育士の有効求人倍率は2.34倍、東京都では5.68倍となっており、保育の受け皿を増やそうと新たな保育園が整備される一方で、保育士の採用が追いつかずに定員を減らす園も多くあります。
ではなぜ保育を担う人材の確保は難しいのでしょうか。
今回は1時間1000円~24時間 即日も予約手配もできるベビーシッターサービス「キッズライン」を運営する、株式会社キッズラインと共同でアンケート調査を行い、現場で働く保育士を中心に、その原因についてご意見を伺ってみました。
待機児童/待機児童問題とは?
待機児童とは、保育所に入所するために申し込みがされ、入所要件にも該当しているものの、入所ができていない子どものこと。
平成29年4月1日時点での待機児童(暫定数)は全国で23,700人。ただし認可保育所に入所ができず認可外保育所に通う子どもや、保護者が育休を延長している家庭の子どもは待機児童数に数えない場合があるなど、待機児童数の数え方の定義が自治体ごとに異なるため、潜在的な待機児童はさらに多いと言われています。
国は多くの待機児童が生じてしまっている問題(待機児童問題)を解消するために、以下のような施策を行っています。
- 保育の受け皿を増やす(保育園の整備)
- 保育を多様化する(小規模保育施設や企業内保育施設の整備)
- 保育人材を確保する(潜在保育士の掘り起こし)
待機児童問題への対策には「保育士確保が不可欠」84%!
アンケートではまず、待機児童問題について、どのような対策が必要かを伺ってみました。
調査結果によれば、「待遇改善などによって保育士を増やす」と回答された方が最も多く、全体の84%。次いで「企業内託児所を完備する(57%)」、「小規模保育施設を増やす(50%)」「保育士シッターが1対1で自宅で保育を行う(31%)」「保育士配置数の規制を緩和する(18%)」となりました。
(※企業内託児所や小規模保育施設、保育士シッターの利用料は認可保育園と同等程度とした場合でお答えいただいております。)
保育施設を増やす以上に、保育の現場を担う人材の確保が急務であると多くの方が認識されていることがわかります。
待機児童を少しでも減らすためには、保育士さんが足りないという現状をなんとかしなくてはいけないね!
保育士不足の原因は「給与」だけ?
待機児童問題の要因のひとつとなっている保育士不足ですが、その原因の一つとして問題視されているのが給与の低さです。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば平成28年の保育士の平均年収は約326.7万円。平成25年の約310万円から比べて多少上がったものの、全職種の平均と比べると93万円程低いものとなっており、その処遇改善の必要性が叫ばれています。
しかし、保育士不足の原因はそれだけなのでしょうか?
実際に保育士の採用が難しいとされている理由について、ご意見を伺ってみました。(複数回答可)
アンケート結果では、保育士採用が難しい理由として、「給料の安さ(72%)」という回答が最も多いものの、「残業など勤務時間の長さ(58%)」、「人間関係の難しさ(48%)」「保護者対応の大変さ(42%)」など回答者の半数前後が賃金以外の労働環境にも課題を感じていることがわかります。
では、ここからは回答項目ごとに、現状抱えている課題や改善してほしいと感じている点などを具体的に見てみましょう。
「給料の安さ」(72%)
まずは賃金の低さが保育士不足の原因である、と回答された保育士の皆さまに、
実際の給与額と希望する給与額をそれぞれ教えていただきました。
(※月給および時給に分けてご紹介いたします。)
アンケート結果によれば、回答者の給与額分布でもっとも多かったのは月収で「15~17万円未満(22%)」、時給では「900~1000円未満(30%)」。
今回の調査は年齢や勤続年数、役職などを問わず実施していますが、新卒のみでなく何年も保育士として頑張っている回答者様も多くいらっしゃる中での数値と考えると、やはり他職種よりも低いことが伺えます。
また、希望する給与について伺ったところ、月給では「19~21万円未満」と「25~27万円未満」の回答がそれぞれ26%と高く、時給では「1500~1600円未満」が44%と最も回答が多い結果となりました。
国は保育士の処遇改善として2015年度の子ども・子育て支援新制度で3%の処遇改善を実施、2017年4月からはさらに2%の上乗せを行い、中堅保育士に対する給与の上乗せも実現すると発表していますが、現状と希望とのギャップを見る限りでは、更なる処遇改善が必要とされていることが伺えます。
「残業など勤務時間の長さ」(58%)
続いて残業などの勤務時間の長さが保育士不足の原因、と回答をされた保育士の皆さまに、実際の勤務時間と希望する勤務時間をそれぞれ教えていただきました。
回答が最も多かった現状での勤務時間は「10~11時間未満」で34%。それ以上勤務している方の回答と合わせると、実に回答者の62%が10時間以上の勤務を行っており、8時間の基本勤務時間よりもかなり多く働いている現状が伺えます。
希望の勤務時間を見てみると、「8~9時間未満」という回答が最も多く56%。雇用条件と同等の勤務時間の中で働きたいと考えている方が過半数であることがわかりますね。
「人間関係の難しさ」(48%)
職場の人間関係の難しさも保育士というお仕事の課題のひとつ。職場にもよりますが、いじめやハラスメントが日常的に起こっている現場もあるようです。
- 保育士全員がコーチングなどのスキルを身につけ、コミュニケーション力を上げる、人材育成をしっかりやる。(保育園以外の保育関連職)
- 女同士の現場なので対策があっても変わらないと思う…。(キッズラインサポーター)
- 定期的な人材ローテーション。(キッズラインサポーター)
- 定期的なメンタル面でのフォローアップ。(保育士)
「保護者対応の大変さ」(42%)
保育士さんは毎日の送迎や連絡帳、行事などで保護者と常にコミュニケーションを取りながら仕事をしています。しかしながらこの保護者対応に課題を抱えるケースも多々あるようです。
- 保護者からの相談専門の機関の存在。(非保育関連職)
- 今の保護者の考え方に対応できるマニュアルを作ってほしい。(現在は就業していない)
- 保育士側をしっかりサポートし、守ってくれるような対策。(保育園以外の保育関連職)
- 児相などの職員との連携強化する仕組み。虐待防止や貧困家庭などへの配慮もスムーズにいくと思う。(保育士)
「モチベーションが続かない」(25%)
給与や勤務体系など今までの回答にも通じる部分ですが、やはり仕事を続けていく上ではモチベーションの維持が欠かせません。そのための環境づくりも重要です。
- 日々の業務が重すぎて心身に余裕がなくなる、詰め込みがあると、一日中命を守り、他のことが考えられなくなる。規制緩和で保育士を減らすのではなく、適正な人数で、働ける環境にしてほしい。(現在は就業していない)
- 今の保護者の考え方に対応できるマニュアルを作ってほしい。(現在は就業していない)
- 外部研修の際、保育に関係ないものにも手当てがでるなど、自分で選んで自己啓発ができるようにしてほしい。(保育士)
- 処遇改善。有資格者、専門家としての社会的地位の確立が必要。(保育園以外の保育関連職)
- 毎年必ず消化できるようなリフレッシュ休暇や、消化できない場合の買い取り制度がほしい。保育士自身の子育てのための時短制度があるとよい。(保育士)
「休日出勤の多さ」(21%)
保育士さんの中には休日に出勤をしなくてはならないという方も多くいらっしゃいます。アンケートによれば、休日出勤の多さが課題であると回答されている方のうち約9割は2日間以上の休日出勤があるとのこと。
「できれば休日出勤がない方が良い」という回答は79%にものぼり、現在の勤務体系に不満があることが伺えます。
「人事評価制度がないこと」(11%)
正しい人事評価がされないという点も、長く働きつづける上では大きなストレスになります。給与とも関わる部分ですが、きちんと働きぶりを評価し、処遇に反映する環境の整備も必要でしょう。
- 会社のように、ある程度規定がきちんとあること、時々監査のようなチェックが入ると良いと思います。(保育園以外の保育関連職)
- 個々の仕事量や、子ども達たち、保護者からの評価も含め、それを給料に反映することが必要。(保育園以外の保育関連職)
- 現場に来て職員の働きぶりを見てほしい。(保育士)
「その他」(13%)
その他のご意見としては以下のようなものがありました。
- 命を預かる責任の重さに加え、業務内容が多い。(保育士)
- 保育士自身も子育てをしながら働ける環境がほしい。(保育園以外の保育関連職)
- 持ち帰りの仕事が多い(保育士)
- 我が子を持つと、自分の子供と行事が重なることも多く、我が子を預けて他人の子供をみることへの葛藤との闘いがとてもつらい。(現在は就業していない)
保育士確保には多面的な環境改善が必要
ここまでご紹介したとおり、給与面以外でも保育の現場が抱える課題はたくさんあります。「給与さえ上げれば保育士は確保できる」とは決して言い切れないのが現状ではないでしょうか。
今回のアンケート結果からは、保育士不足について給与改善のみでなく、多面的な労働環境の改善が必要であることが伺えます。もちろんすべての問題を行政や事業者の努力で取り去ることは難しいでしょう。しかしながらこういった問題があることを、国や自治体、事業者がしっかりと把握し、対策を検討していくことが必要なのではないでしょうか。
編集者より
保育士は日本の将来を担う子どもたちの成長を支える大切なお仕事。
しかしながら現実には、体力的にも、また精神的にも長く続けていくことが難しい現状があります。保育士さんの善意や我慢に頼った状態では、保育士不足が解消されることは決してないでしょう。
保育士不足を解消し、待機児童問題を解決するため、そして何よりもこの国の将来を担う子どもたちが安全に、安心して過ごせる場所を確保するためには、まずは現場の保育士さんの声に耳を傾けることが不可欠だと感じました。
・実施企業:株式会社キッズライン
株式会社ウェルクス(共同調査)
・実施期間:2017年5月16日~5月21日
・実施対象:
ウェルクス:保育園勤務(37名)・その他保育関連職従事者(8名)・
保育以外の職業従事者(2名)・無職・専業主婦等(8名)計55名
キッズライン:サポーター(76名)・保護者(28名)計104名
・回答者数:159名(2社合計)
・調査方法:インターネット調査
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!
※ご紹介している調査データの数値に関しましては、四捨五入にて表示しております関係上、合計値が100になっておりません。
参考文献・サイト
- 子ども・子育て 保育関連|厚生労働省(2017年6月5日)
- (参考)平成29年4月1日時点での待機児童の状況(暫定値)|首相官邸ホームページ(2017年6月5日)