保育の基礎知識

子どもが”奇声”を上げる理由とその対処法

いきなり甲高い声で「キー!」「キャー!」と叫ぶ子どもたち。近年では保育園の音に対する苦情が増えるなど、少子化の影響からか子どものたてる物音に周囲が敏感になる傾向があり、子ども独特の叫び声も”奇声”と呼ばれて近隣トラブルの一因となっています。では子どもたちはなぜ奇声を発するのでしょうか?また大人はどのように対処すべきなのでしょうか。今回は発達段階別に奇声の原因と対処法をご紹介します。

【奇声という表現について】
一部ご不快に感じられる方もいらっしゃるかとは存じますが、一般的に広く使われている表現であること、また周囲に受け入れられにくい問題であるという視点を含め、今回の記事では子どもたちが発する高周波な叫び声を”奇声”と表現させていただきます。何卒ご了承ください。

「キーーッ!!」子どもの奇声はしつけが悪いから?

泣く子ども
例えばスーパーやレストランで急に「キーー!」と甲高い声を上げる子どもがいたら…皆さまはどのように感じますか?「子どもだから仕方がないか…」と感じる方もいれば「うるさいなぁ…親はどういうしつけをしているんだろう」と不快に思う方もいるかもしれませんね。
 
コミュニティサイトなど、世間の声を伺ってみると「子どもの奇声は親のしつけの悪さが原因である」と考える方がかなり多くいらっしゃるようです。しかし実際には、子どもの奇声は単にしつけや育て方に問題がある訳ではなく、子どもの心身が発達していくうえで重要な意味も持っています。
 
子どもたちが突然奇声を上げることには、その発達の段階ごとにさまざまな理由が考えられます。大人はその理由をくみ取ったうえで、適切な関わりを持つことが重要であると言えるでしょう。

通常子どもの奇声は、心身の発達に伴って次第に見られなくなります。お母さん、お父さんのなかには「いったいいつまで続くんだろう…」と不安になる方も多くいらっしゃいます。
保育士さんにとっては、正しい知識を身に付けて、適切なアドバイスを行うことはもちろん、周囲から白い眼を向けられたり、時には傷つくような言葉を浴びせられてしまう保護者の気持ちに寄り添ってあげることも大切な役目です!

 

【0~1歳】奇声を上げる5つの大きな原因と対処法

悩む保育士の女性
子どもの発達段階によって、奇声を上げる原因はさまざまです。まずは0~1歳、まだ体や言語の発達が未熟な乳児期および幼児期初期における奇声の原因と特徴をチェックしてみましょう。

【原因1】要求したいことがある場合

乳児の場合には、自分の思い通りにならない場合でもそれをうまく表現できません。そのためお腹が空いてミルクが飲みたい、おむつが濡れて替えてほしいなど、要求を奇声をあげて表現することがあります。
 
また生後8カ月頃を過ぎると徐々に自我も発達してきます。そのため自分の思い通りにならないと怒りながら奇声を発することもあるでしょう。

◆対処法◆
まず子どもが何を要求しているかを探りましょう。「お腹が空いたんだね」などと優しく声をかけて対応することで、気持ちを受け止めてあげながら、要求を伝える言葉を伝えることができます。
 
また奇声を発したら口の前に人差し指をあてて「しー」とポーズをして見せて、大きな声を出してはいけない場所であることを早くから伝えることも大切です。
 
【月齢が上がってきた場合】
大声をあげてはいけない理由を「ここは本を読む場所だから静かにしようね」などと具体的に伝えましょう。あらかじめこれから行く場所は静かにしなくてはいけないことなどを伝えて、できたら褒めてあげるのも良いですね。

 

【原因2】不安が大きい時

知らない人や知らない場所に対して、戸惑いや不安を感じて奇声を発する子どももいます。嫌がっているアピールだけでなく、大声を出すことで精神状態を安定させようとして防衛本能が働いていることの表れでもあります。

◆対処法◆
抱き締める、気持ちを代弁して共感を示すなど、まずは安心できる環境を作りだしてあげましょう。どうしても気持ちが落ち着かない場合には、おもちゃで注意をそらせたり、ビニールをこすり合わせる音など、胎内環境に近い落ち着く音を聞かせたりしても良いでしょう。

 

【原因3】眠い、疲れた(たそがれ泣き)

一般的に夕方の時間帯に奇声を発する場合には、1日の疲れが出てきたことや周囲が暗くなってきたことに、不快感や不安を覚えていることが考えられます。

◆対処法◆
外が暗くなってきたならば早めに電気をつけてあげましょう。好きなおもちゃで一緒に遊んだり、抱っこしながらゆらゆら揺らしたり、リラックスできる環境を作ることを心がけます。また生活のリズムが一定でないと睡眠の質が安定せずに、ストレスを感じやすくなることも考えられます。早寝早起き、良質な午睡などで奇声を上げやすい状況を防ぐことができるでしょう。

 

【原因4】声を出すのが楽しい時

生後5~6カ月にもなると、聴覚が発達して、自分自身の声が認識できるようになります。そのため自分の声を聞くことが楽しくて奇声と取られるような大声を発することが良くあります。笑顔で奇声を発している場合などはこのケースが当てはまるでしょう。

◆対処法◆
まだ声量のコントロールがうまくできない時期ですので、口の前で「シー!」とジェスチャーをすることを繰り返し、奇声をあげる以外に楽しめる遊びを提示して気をそらしていきます。
 
「シー!」のジェスチャーはすぐにはわかりませんが、繰り返すことで、ここでは大声を出してはいけないことを学び、徐々に声量を調整できるようになっていくでしょう。

 

【原因5】注目してほしい・周囲の反応を試したい時

誉めてほしいときや注目してほしいとき、奇声をあげた際の周囲の反応を楽しんでいるときなども奇声を発します。

◆対処法◆
この場合には、都度強く反応してあげることが得策とは限りません。短時間でも集中して子どもに向き合う時間を作り、離れる際に「今から〇〇するからひとりで遊んでいようね!」などとリマインドを行い、できたら誉めてあげることを根気よく行いましょう。
 
毎日の行動に一定の習慣をつけることで、この時間は奇声をあげてもかまってもらえない、と自然に理解させるのも良いでしょう。

 

【2~3歳】表現できないもどかしさを理解しよう

ハートのイラスト
2歳にもなると自己主張も一層強く見られ、多くの子どもたちがいわゆる「イヤイヤ期」に突入します。ここからはある程度は大人の言うことも理解できる2~3歳が奇声を上げる原因と対処法をご紹介しましょう。

◆2~3歳が奇声を発する主な原因◆
0~1歳の項目で挙げた他に、下記のような要因が奇声を発する原因になっていることがあります。
 
□ 上手く言葉にできない
□ 感情の表現方法がわからない
□ うまく体が動かせない

 
自我が発達してきますので、自分でやりたいこと、伝えたいことも多くなってきますが、一方で月齢によってはまだ体や言語の発達が不十分なために、それをうまく表現したり実現したりすることができない場合もあるでしょう。
 
またまだ経験が浅くどのように対応して良いかわからずに、そのストレスが奇声となって表れるケースもあります。まず予防策として、やりたがっていることがあれば、できる範囲でチャレンジさせてあげるようにしましょう。またうまくできない様子が見えた時には、状況に応じてそっと補助をしてあげ、できたところを十分に褒めてあげましょう。
 
上手く気持ちを表現できない、感情をどのように表して良いかわからないなどで奇声をあげて泣きわめいたら、まずは「〇〇したかったんだね」「上手くいかなかったんだね、それは悔しかったね」など気持ちを代弁してあげましょう。抱き締めて気持ちを落ち着かせてあげることも大切です。
 
少し気持ちが落ち着いたようならば、「こういう時はこのようにすればいいんだよ」と具体的な方法や言葉を伝えてあげましょう。また大声をあげてはいけないこと、それがなぜいけないかも根気強く教えていく必要があります。
 
これらを繰り返すことで、徐々に奇声を発する回数は減ってくるでしょう。

ただ「静かにしなさい!」と怒鳴りつけたり、なぜ叱られているのかわからないような「いい加減にしなさい!」という言葉で叱るだけはNGだホィ。しっかり気持ちに寄り添って、なぜダメなの理由を伝えることで、子どもたちは徐々に社会のルールを学んでいくホィ。

 

奇声=発達障害ではない!注意すべきポイントとは

指示棒を持つ保育士さん
奇声をげる子どもは発達障害がある、そのように周囲から言われたという保護者の方も中にはいらっしゃるようですが、今までお伝えしたように、奇声=発達障害という訳ではありません。おおよそ3歳を過ぎるまでは、その行動が発達障害によるものなのか否かの判断はつきにくいと言われています。
 
保護者の方が心配されているようならば、過度に心配しすぎないよう伝えることも時に必要ですし、例えば他の気になる行動があり、保護者自身が問題意識を持っている場合や、どうしても心配が拭い去れない場合には、医師や専門機関に相談することをアドバイスしてあげても良いでしょう。
 
また5歳を超えても奇声を発する回数が減らない、適切な声掛けなどを行っているのにもかかわらず一向に状況が改善しないという場合にも、一度医師などに相談をしてみた方がよいかもしれません。
 

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編集者より

保育士さんのイラスト
いきなり公共の場で鼓膜が破れるような奇声が聞こえたら、多くの人はビックリしたり「うるさいな」と感じてしまったりすることでしょう。それは子どもと頻繁に関わらない方にとってはごく自然な反応です。
 
確かに子どもの奇声にはそれぞれ理由があり、いたしかたない部分もありますし、あらかじめ防ぐことが難しいものでもあります。しかしながら、周囲への配慮を怠って「子どもだから仕方ない」とするのは、余計に反感を買うことであり子どものためにも良くありません。
 
子どもが奇声を上げる原因をしっかりと理解し、気持ちに寄り添いながらも、周りの人に気を遣う。そして態度をもって「ここは大声を出すべき場ではない」ということを示すのも必要なことです。
 
子育てに関わる者にとっては、根気を要しストレスが溜まりやすくもありますが、ある程度長期的な視点を持って対応していきましょう。

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