取材・インタビュー

教えて!保育士おとーちゃん~子供を受容する保育の秘訣とは~【後編】

前編に引き続き、今回は『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』の著者であり、現在2作目を執筆中の保育士おとーちゃんこと須賀 義一(すが よしかず)さんにお話を伺っていきます。子供を受容し、叱らずに育てるその方法とは?これからの保育士に求められることとは?そして真の子育て支援とは?今回も子供に関わるうえで大切なエッセンスが満載です!

★前編の記事はこちら★⇒前編を読む!

失敗から気づいた”信頼関係”の大切さ

縄跳びする子どもたち
前編で、公立保育園で保育士として活躍されていた際のお話を伺った編集者。子供を受容する「叱らなくていい」子育てにたどり着いた経緯をたずねてみました。

大島
大島
どうですか?公立保育園で働き始めた当初から、今書籍やブログ書かれているような、子供を認め、寄り添って関係性を築くような保育って実践できていましたか?
須賀さん
須賀さん
僕自身?…ま~、全然出来てなかったかな(笑)。とてもじゃないけど。特に僕自身男だからっていうところもあって、なにか「やらせなくちゃ」っていう気持ちがすごく強かった。それこそ叱咤激励してでもやらせようと思っちゃって。

須賀さん:で、最初の1年目幼児さんを持って、それで子供たちが良くなっていくかと言ったら、一生懸命やっても良くはならない。それでなんとなく「違うんだな…」というのは感じて…じゃあどうしようかと考えるようになったかな。 
子供との信頼関係を築くとか…まぁ、言葉になったのはもっと後だけど、経験の中で徐々に身についていったと思う。
大島:コツを掴んだ瞬間とかって、覚えていらっしゃいます?
須賀さん:うーん、2歳時のクラスを持った時に非常に幼い女の子がいたんだよね。
大島:あぁ!すごく須賀さまになついておられたというあのブログ記事の?
須賀さん:そう。噛み付きがものすごく多くて、ベテランの保育士さんは「厳しくしなさい!」ということを言っていたのだけれど、少し距離をおいた時に「(須賀さんが)自分の先生じゃないから…園に行きたくない」と言われてしまって…。

噛み付いていたのは、別にその子が悪かったり、我慢ができないからじゃなくて、その子が環境に対して不安だった、それとその場の大人が、「噛み付かなくてもいられるだけの信頼関係」を築けていなかったんだよね。
 
その子は体も心もまだ幼かったから、よりあたたかくケアする必要があったのに、かえって厳しい関わりをしてしまった…。ハッキリ言って失敗談なのだけど、そこから気付いたことは大きかったかな。
 
積み木で遊ぶ幼児
 
大島:あのエピソードはブログでも印象的でしたね。
須賀さん:今でも連絡取り合ってるんですよ(笑)。
大島:え?!すごい!随分大きくなられたんじゃないですか?
須賀さん:うん。バレエの発表会とか運動会に呼ばれて顔を出したりね。本当にかわいい(笑)(我が子のことのように目を細める須賀さん。素敵な保育をされてきた証だと感じました。)
 

言葉で教えなくても子供は学ぶ!

大島
大島
ご自分のお子さんができてから気付いたことって何かありましたか?
須賀さん
須賀さん
そうだね…下の子はまるまる2年間1対1で見ることができたから…それは得難い経験だったかな。特に男性でそれができるって、なかなか無いでしょ?楽しくて仕方がなかった。毎日。

 
大島:なかなか無いですね!パパは寝顔を見るだけ…という家庭も多いですもの。 
須賀さん:気付いたこと…そうだね…
 
大人の姿って不思議なもので、自然と「トレース」されていくものなんだよね。例えばご飯の食べ方でも、残さず綺麗に食べる。日頃きちんと見せていると、わざわざ教えていなくてもやるんだよ。
大島:へえ…、やっぱり信頼関係があるからなのですかね。
須賀さん:きっと寄り添った形で子供と関わる中で、自然とできてしまっていることなんだよね。多くを教えなくても、勝手に学んでいく。
 
そういったことができる関係が、家庭で過ごす中でできたんだな…という。実際子育てをやってみる中でわかりましたね。
 
お父さんと子供
大島:信頼が築けていれば、大人の姿を見せるだけでも学びや成長につながるんですね。
須賀さん:それこそ、うちの子たちはお店なんかに来ても「静かにしなさい!」って言わなくていい。子育てのなかで実際にそのようにできているからこそ、自信を持って「”信頼関係”を築いていけばいいんですよ!」って言える。
大島:なるほど…今の子育て世代は、「全て言葉で教えなきゃ」とか「なにか教材を買い与えてトレーニングしなきゃ」となりがちですよね。
須賀さん:うん、真面目すぎてね。
大島:でも、そうやって信頼関係を築くだけで、グッと子育てが楽になりますし、子供のことを信じる関わり方ができるようになりますよね。
須賀さん:そうだね。それに、教えて「できるようにならなきゃ」って思っていると、できなかった時にマイナスの方向に働いてしまう。親も自分を否定してしまうし、イライラを蓄積してしまう。だから子育てがストレスフルになっちゃう。
大島:子供の自己肯定感も下げてしまいますしね…。
須賀さん:だから「〇〇できるようにしなきゃ」という関わり方は、デメリットが本当に大きいんだよね。
 

本当の意味での「子育て支援」とは

大島
大島
今は核家族化や地域のコミュニティーの弱まりで、いろいろな部分で「育てにくさ」を感じながら育児をしている保護者の方も多いと思いますが、保育士はそういった保護者にどう関わっていくべきだと思いますか?
須賀さん
須賀さん
それね…僕もずっと考えてるんだけど、保育園はただ子供を預かっているだけじゃ、もう仕事が完結しない時代に来ているのは明らか。じゃあ何ができるかっていうところで、「子育て支援」「家庭支援」というものが出てくる。
システマチックな部分では、それは保育時間を長くしたりすることだと解釈されているけれど、保育士ができることは、それだけではなくて「難しい子育てを安定化させてあげること」なんだよね。

 
大島:具体的にどうすればよいのでしょう…。
須賀さん:僕は文字で伝えているけれど、文字だけで理解・実践できる人って一部だと思う。だから保育士は、「具体的な子供たちとの関わりを見せてあげる」っていうことが大切なんじゃないかな。これが保育士の最大の強みであり武器。
 
例えば座って食事ができないというときに「こうすれば、保育園ではしっかり座って食べてくれますよ。お家でもやってみてくださいね!」と実際にやり方を見せてあげる。それで家庭でうまくいけば、保育士に対する信頼感もすごく高まる。
大島:そのサイクルは良いですね~。
須賀さん:そうすれば、少しのケガやトラブルがあった場合にも、大きな問題になりにくいんだよね。
 
家庭にいかに子育ての見本を見せてあげられるか、園での姿を伝えてあげて、子供をたくさん褒めてもらって、大変になりがちな育児の中で、いかに「うちの子かわいいところがあるんだな」と感じさせられるか、そこをもっと意識して、研究することが大切なんだよね。
 
保育士さんには「実際にできる子供へのアプローチ」をもっとたくさんプレゼントしてあげてほしい。それは保育士にしかできないことだと思う。
 
保育士さんのイラスト
大島:それこそが真の「子育て支援」だ…と。
 
なるほど。では例えば、子供の問題行動が家庭にある場合はどのように関われば良いのでしょう。
須賀さん:いろいろなアプローチの仕方があるけれど、それこそやってほしいこと…できることを与えることかな。「くすぐりをしてみましょう」とかね。
 
今の人は真面目でやさしいし、子供のことを大切に思っている。でも空回りしちゃっている。だから実効性のある方向に振り向けてあげることが大切。
 
あと、もう一つは園として、「子育てにおいて大事なのはこういうことだよ」ということを、自信を持って伝えていくこと。それこそ0歳の頃から積み重ねてね。そうでないと、お勉強や習い事をさせることが子育てになってしまう。保護者会などで受容の大切さなんかを話してもらって、子育てにおいてどこを目指せばいいかを伝えてあげるといいんじゃないかな。
 
…もちろん保育士自身が「叱りなさい、もっと強く教え込みなさい」という意識でいると、できないことだけどね。
 
須賀さま横顔
 
大島:そうですよね、古い思考では決してできないことですね。
須賀さん:昔の保育は、責任を家庭と子供に押し付けてしまう。でもそれじゃだめなんだよね。できないものをできるように支えてあげるのが現代の保育者なんだよね。
大島:なるほど。
 

「満たされない子供」と関わるうえで大切なこと

大島
大島
書籍の中に、「クッキーの缶」のお話がありましたね。子供がそれぞれ大きさの異なる容器を持っていて、それを良いもので満たすことで、子供の安定につながるという…。
 
例えばその「クッキーの缶」が大きくて、なかなか満たされない子に関わる際、大勢の保育を行う保育園の場合は、どのように関われば良いと思いますか?一人に付き切りにはなれませんよね…?
須賀さん
須賀さん
プロだから、ただ時間をかけるだけでなくて、その密度を高めて満足感をぐんとと高めることができる。例えば子供の呼びかけにただ返事をするだけでなく、グッと顔を寄せてあげる。これだけでずっとその時間は密になるよね。
 
それと、大切なのは「この子はまだまだ(関わりや満足感が)足りないんだな」って見ないことかな。自分の関わりに自信を持つこと、やれるだけのことをやっているってね。

大島:自信ですか…。
須賀さん:保護者もそう。「まだ足りないんじゃないか」「もっともっとしてあげなくちゃいけないのに、この子に申し訳ないことをしているんじゃないか」って自信のなさをどこか抱えている。それが子供を混乱させて「依存」になってしまうんだよね。
 
お母さんたちの口癖で多いのは「ごめんね」。それは「あなたに足りないことをしてごめんね」って意味なんだけれど、一生懸命やってるんだから、自信を持てばいいんだよね。「ごめんね」と言われることで、子供は「申し訳ないことをされているんだ」って感じて混乱してしまう。
大島:「ごめんね」ってついつい言ってしまいますよね…。
須賀さん:一生懸命な人ほど、この「ごめんね状態」に陥ってしまう。「お迎えが遅くなってごめんね」ではなくて「待っててくれてありがとう」とか、肯定の言葉にしてあげれば子供はもっと安定してくれる。
大島:それは本当に保育士さんや保護者の方に伝えてあげたいですね!
 

保育士おとーちゃんから保育士さんへのメッセージ

大島
大島
最後に、須賀さまからこの記事を読んでいる読者の皆さまに、何か応援のメッセージを頂けませんか?
須賀さん
須賀さん
う~~ん…(しばし考え込まれる須賀さま)カンタンに??

大島:(笑)難しいお願いなんですが…そうですね、なにかシンプルに…。
須賀さん:今の時代はこれまでになく保育士の専門性が必要とされているんだよね。保育士は単なる子守りに終わることもできてしまうけれど、本当にその子の人生にまで影響を与えられる存在にもなれる。同じ保育士、同じ保育園なんだけれどそこで全然違う展望が開ける。

だから、これから保育士を目指す人、保育士として頑張っている人は、「専門性を高めることによって、仕事のやりがいが全然変わってくる」っていうことを知ってほしい。日々クタクタになるだけの日々も送れるけれど、子供たちの将来をより良いものにできる存在になれるんだという…なんだろうな、その展望があるということを是非知ってもらって、そこを目指してほしい。
大島:ありがとうございました!
 

編集後記

珈琲の写真
須賀さんは8月末の書籍の現行締め切りに向けて、日々執筆活動に励んでおられるそう。モチベーション維持のためにも珈琲は必須のようで、こちらや、近くの珈琲が楽しめる書籍店を、しばしば仕事場として利用されるのだとか。
 
「実はシャイなんですよ…」と語ってくださった須賀さま。しかしそれをインタビュー中に感じることはなく、隣の席の小さな子供たちに、柔らかな笑顔を向けられているのが、とても印象的でした。子育ての話をされる時の真剣な表情と、雑談中の笑顔とのギャップがとても素敵なお方でした!
 
須賀さま、現在もいくつも仕事を掛け持ちされているご多忙中にもかかわらず、わざわざお時間を頂いてありがとうございました!
 

★今回取材させていただいた方★
須賀 義一(すが よしかず)さま
 
1974年東京都江戸川区生まれ。現在は東京都墨田区に在住する子育てアドバイザー。
大学卒業後、国家試験にて保育士資格を取得。都内の公立保育所にて10年間勤務。その後お子様の誕生をきっかけに退職され、子育てに関する研究を重ねて、現在は既成の子育て理論に縛られない、子供たちの”個”を尊重した関わり方を提案して、多くの保護者や保育関係者より厚い信頼を得ている。著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』があり、現在2作目を執筆中。小学校4年生の男の子と幼稚園年長さんの女の子のお父さんでもある。

※この取材記事の内容は、2015年6月に行った取材に基づき作成しています。

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