保育の基礎知識

支配する保育から脱却するために~受容の意味とその必要性~

子どもと保育者との間に信頼関係を築くためには、受容のプロセスが非常に大切であると言われています。受容とは子どもたちをありのままを受け入れること。しかしながら現実には、怒り、命令し、禁止していつのまにか”支配する”保育が当たり前になってしまっていることも多くあるようです。今回は子どもを支配するとはどのようなことか、受容することはなぜ重要なのか、少し考えてみましょう。

言うことを聞かない子=悪い子なの?

頬に手を当てる保育士
大人のいうことをおとなしく聞く子どもは”良い子”、そうでない子は手のかかる”悪い子”…世間では子どもに対してそのような見方がされる場面が多々あります。しかしながらその良い子、悪い子というレッテルは、大人の価値観を押し付けたものでしかありません。
 
では例えば園で、他の子をいきなり叩いたり、噛みついたり、食事の時間に突然走り出したり…そういった子どもたちは「悪い子」なのでしょうか?その子は、その行動を取ることで、誰かに注目されたい、受け止めてもらいたいという想いを表現している部分もあるのかもしれません。
 
確かに、他の子どもを傷つける行動そのものは良いことではありません。しかしだからと言ってその「子ども」が悪い子、ダメな子であるわけではなく、安定した心の状態でいられない、素直に甘えたいなどの要求が伝えられない何らかの原因があるために、そのような行動が出てしまうのです。
 
そのような場面で「悪い子ね!」と人格を否定したり、大声で怒ったり、脅したり…そういった支配的な関わりをしたところで、子どもたちには届かないでしょう。大人にとってのあるべき姿に戻そうと支配的な関わりを増やせば増やすほど、子どもの自己肯定感は下がり、子どもが満たされない状態になってしまいかねません。
 

大人の不便さから子どもを言うとおりにさせようとすると…

指示棒を持つ女性のイラスト
例えば運動会の練習の際、後ろの子と話してばかりでまっすぐ並べない子どもがいたとします。あなたならどうするでしょうか。おしゃべりしないでキチンと並びなさい!と叱責するでしょうか、腕をつかんで正しい位置に誘導するでしょうか、あるいは「しっかり並ばないと遊べないよ」など条件を提示するでしょうか。実はこのようなついやってしまいがちな手段は、いずれも子どもの行動をコントロールしてしまう支配的な関わりです。
 
この関わり方の問題点は、子どもたちが自分たちで考えて行動する機会を奪ってしまうだけでなく、やりたいと思っている行動を制限されたり、やりたくないことを強要されるので、さらに支配を強めなくてはならない状況に陥りがちである点。
 
叱る、言うとおりにさせるといった否定的な関わりを増やすのではなく、まずは遊びや会話の中で、その子どもを受け止めてあげる時間を設ける、褒めたりかわいがったりといった肯定的な関わりのなかで、徐々に信頼関係を築き、その子の自己肯定感を高めてあげることが必要になってくるでしょう。
 

なんでもやってあげる!も支配の一環?

小鳥のイラスト
ここで注意したいのが、受容と過保護とは違うということです。ケガをすると危ないから危険な遊具には近づかせないようにする、うまく着替えができないだろうから、初めから手を貸して着替えさせてしまう…一見すると愛情からくる肯定的な行動のように思えますが、これは子どもの気持ちを無視し、「できる・できない」を大人が決めて可能性を奪ってしまうことであり、受容とは言えません。
 
「0歳だからまだわからないだろう。」
「どうせまだできないのだから」と初めから子どもの行動を制限してしまうのも、また大人の支配であることを忘れてはいけません。
 
受容は、今はできないけれども、それを達成しようとする子どもの姿を、信じて見守るということでもあります。なんでも先回りして大人が準備してあげることは、子どもが「できた!」という達成感を味わう喜びや、自分で考えて工夫して取り組むチャンスを奪ってしまうので注意しましょう。
 

子どもを受容するためのポイントとは

シーソーで遊ぶ子ども
では、具体的に子どもを受容することで信頼関係を築くためには、どのようにすれば良いのでしょうか。さまざまな方法がありますが、ここでは大切な5つのポイントをご紹介します。
 

◆〇〇できなくては…!の思想をやめる◆
子どもの成長には個人差があります。発達段階の目安や他の子どもとの比較によって「この子は〇〇が遅れている」「〇〇できるようにしなくては!」といった一種の焦りをもって接すると、どうしても子どもたちのマイナスの部分にばかり目が行き、注意したり叱る場面が増えがちです。できない部分も含めて受け入れる気持ちを持ちましょう。
◆好意的・肯定的な表現を増やす◆
「〇〇しちゃだめ!」「うるさくする子は嫌いです」そのようなマイナスな表現は子どもの自己肯定感を低くしてしまうだけでなく、大人への不信感にもつながりかねません。例えば「〇〇してくれたら嬉しいな」「ここでは静かにします」など、肯定的な言葉に直した声掛けを増やしてみましょう。改善できたら、しっかり褒めてあげましょう。
◆気持ちを代弁して考える機会を作る◆
好ましくない行動を子どもがとった場合には、頭ごなしに叱ってしまいがちですが、子どもなりに何らかの理由があります。特に言葉が未発達な場合や、受容の関わりが少なく、満たされない気持ちを抱えている子どもの場合には、気持ちがうまく言葉にできずに行動に出てしまうこともあります。
 
まずは気持ちを汲み取って、共感してあげること。そして感情を代弁してあげたうえで、どうすればよかったかを一緒に考えていくことで、その子の気持ちを受け止めてあげましょう。
◆能動的な関わりを心がける◆
「抱っこして」「絵本を読んで」そういった子どもの欲求に答えてあげることももちろん大切ですが、保育者から子どもたちに優しく声をかけたり、スキンシップを取ることも重要です。何か要求しないと振り向いてもらえない…ではなく、いつでも傍にいて見ていてくれる、という実感が信頼感の構築には大切です。
◆見守る姿勢を大切にする
何でもかんでも先回りして手伝ってしまうのではなく、子どものやってみたいという気持ちを大切にして、信じて見守ってあげましょう。保育士さんがいつも見ていてくれる、その安心感が子どもたちの自身や心の安定につながっていくでしょう。

 

編集者より

ハート2
大人であっても、組織や人間関係の中で受容されない状態が続くと、そのうちに頑張っても意味がないと無気力になったり、組織の中で孤立したりと、大変ネガティブな状況に陥りがちです。そのような状況は周囲の人間や自分自身への不信感を招き、いつしか生活をものすごく退屈でストレスフルなものにしてしまいます。
 
子どもにとっても、それは同じことなのでしょう。強い叱責や強制だけで大人の思うようにコントロールしようとしたところで、子どもには満たされない気持ちが募ってしまうばかりです。
 
今は、子どもたちが保護者に受容される自分でいようと、大人にとっての「いい子」でいようとする傾向もみられるそうです。保護者や保育士など周囲の大人は、そうではなく、たとえちょっと困った行動や失敗があってもしっかりと受け止めてくれる…そのような安心できる存在でありたいものですね。

参考文献・サイト

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