保育の基礎知識

保育士さんのための産休・育休基礎知識

子育てと仕事とを両立するためになくてはならない産休・育休制度。皆さんはこの制度についてどれくらいご存じでしょうか。

長く働きたい保育士さんにとって、出産・育児といったライフイベントを考えた職場選びはとても大切です。将来利用する際に困ることのないよう、今回は産休・育休制度とはどのようなものか、そして制度利用の注意点や保育士さんならではのお悩みについて詳しくお伝えしていきます。

産休・育休ってどんなもの?

まずは産休・育休がそれぞれどういったものなのか詳しく見て行きましょう。

◆産休(産前産後休業)とは

女性が出産のために取得できる休業期間で、産前休業と産後休業に分かれます。

産前休業 出産予定日の6週間前(双子以上の場合には14週間前)から請求すれば取得できます。なお出産日は産前休業に含まれます。
産後休業 出産の翌日から8週間は働くことができません。ただし産後6週間を過ぎた後に本人が請求し、医師が認めた場合には就業も可能です。
◆男性は取得できないの?
産休は労働基準法第65条に定められた母体保護規定にもとづいたもの。あくまで出産のための休業なので、男性は取得することができません。
◆妊娠したら自動的に取得できるもの?
産前休業は女性労働者が請求した場合に限り取得できます。産後休業について、産後6週間は強制的な休業ですが、6週間より後は本人が請求し医師が認めた場合には就業も可能です。産後の復帰時期をいつにするのかも含めて、事業者に産休取得の請求をきちんと行う必要があるということですね。
◆出産予定日よりも遅れて赤ちゃんが生まれたらどうなるの?
予定日を過ぎての出産だった場合、お休みの期間や手当金がどうなるのか…心配ですよね。しかし、そのような場合でも予定日から出産当日までの期間は産前休業として、産後8週間は産後休業としてきちんと確保されますのでご安心を。産休中に支給される出産手当金の計算も、延長された休業日数で算出されます。
◆赤ちゃんに万が一のことがあったら…?
妊娠・出産においては、両親がどんなに強く赤ちゃんの健康を祈っていても、無事に生まれてくることができないケースもあるでしょう。産後休業における「出産」とは、妊娠4ヶ月(12週)以上の分娩のことで、死産や流産(中絶)も含まれますので、万が一そのような場合でも産後8週間は産後休業として確保されます。

◆育休(育児休業)とは

1歳に満たない子を育てる労働者が子育てのために取得できる休業期間のこと。平成29年1月から施行された改正育児・介護休業法にもとづいており、事業所の規模などに関わらず適用されます。また産休とは異なり、男女どちらでも取得することが可能ですが、取得するには雇用形態などに一定の条件があります。(※後ほど詳しくご説明します!)

期間 子どもが満1歳になるまで取得できます。
(※場合によって延長も可能)
パパ・ママ育休プラス 父母ともに育児休業を取得する場合は、休業期間が延長され、子どもが1歳2ヶ月になるまでの間に父母それぞれ1年間まで育児休業を取得できます。
育児休業期間の延長 保育所に入れないなどの事情がある場合には、育児休業期間を子どもが1歳6ヶ月になるまでの間延長することができます。延長するためには2週間前までに申し出が必要です。
◆産休を取得したら自動的に育休も取れる?
育児休業を取得するためには事業者に申し出ることが必要です。また育児休業中であっても、復帰の日程をどうするのか、延長の必要性があるのかなど、都度相談しながら復帰に向けて準備を行う必要があります。
◆1歳までに保育園に入れなかったら退職?
まずは事業者と相談のうえ、1歳6ヶ月まで育児休業期間を延長できる制度を利用しましょう。それでも保育園の入所が決まらない場合については、事業者に確認を行う必要があります。(※厚生労働省は、2017年10月1日から期間延長を子どもが2歳になるまでと変更する方針を決めています。)
◆育休を取得してから退職しても良い?
育児休業制度はあくまで仕事に復帰することを前提とした制度です。育休取得中に赤ちゃんやお母さんが体調を崩してしまうなど、やむを得ず育休後に退職するケースはあっても、取得前に辞める意志が固まっている場合には取得することはできません。なお、不正な手段で育児休業給付を受けた場合には不正受給の処分を受けることとなりますので注意しましょう。

パート・契約社員・アルバイトでも取れる?

子どもと遊ぶ保育士さん

正規職員ではなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用として働いている場合でも産休や育休制度は利用できるのか…。気になるところですよね。

まず産休については、勤務先の健康保険に加入している女性職員であればどなたでも取得できます。しかしながら育休に関しては取得に一定の条件があるため、注意が必要です。

◆育児休業を取得できる方の範囲◆
期間に定めのある労働契約で働く場合には、申請時点で以下の要件を満たすことが必要です。

□1年以上その事業主に雇用されている
□子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれる
□子の2歳の誕生日の前々日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない

◆以下の場合には育児休業を取得できません◆
□雇用された期間が1年未満である
□1年以内に雇用関係が終了する
□週の所定労働日数が2日以下である

また、日々雇用される場合にも育児休業を取得することができません。
その他、事業者によっては法律を上回った独自の支援制度を取り入れている場合もあります。産休や育休に関する制度のことや、必要な手続きについては、まず事業者に確認してみると良いでしょう。

産休・育休中のお給料はどうなる?

保育士さんのノート

検診費用や入院費、赤ちゃんの衣類の購入など、妊娠・出産にはなにかとお金がかかるものですよね。職場の規定にもよりますが、一般的に産休中、育休中は無給であることがほとんどです。 そのため、休業中の収入を補う制度があります。

【産休中】出産手当金
産前・産後休業の期間に給与の支払いを受けなかった場合に、勤務先で加入している健康保険から支給されます。もらえる金額の目安としては、給与の3分の2相当額程度です。
対象 勤務先の健康保険に加入し、産前・産後休業を取得する労働者
金額 (支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷30日×3分の2
手続き 産前・産後期間を一括で受ける場合が一般的で、その場合には産後56日以降に申請します。勤務先から申請書をもらい、入院中に医師の証明を受け、産休後に勤務先に提出します。郵送でもOKか持参する必要があるかは勤務先に確認しましょう。本人が所轄の社会保険事務所に提出する場合と、勤務先から提出する場合とがあります。
(なお、出産手当金は産前・産後で分けて受けることも可能です。希望する場合には職場の担当者に確認してみましょう。)
【出産時】出産育児一時金
妊娠4ヶ月以上で出産をしたときに、加入している健康保険が、子ども1人あたり42万円(※)支給してくれる制度です。
対象 勤務先の健康保険に加入している本人またはその扶養家族で、妊娠4ヶ月以降に出産をした人
金額 子ども1人あたり42万円(※産科医療補償制度の対象外となる出産の場合には39万円※平成27年1月1日以降の出産は40.4万円)
直接支払制度 出産をした医療機関で直接支払制度を導入しており、その制度を利用する場合には、健康保険と医療機関との間で一時金の請求と支払いが行われます。退院の際には出産手当一時金の金額を超えた分のみ窓口で支払えるので大きな金額を支払わなくて済みます。入院の際に直接支払い制度の合意書に記入を行い、健康保険証を提出します。
受取代理制度 医療機関に出産育児一時金が支払われるという点では直接支払制度と同様ですが、申請の方法が異なる制度です。(認可された医療機関のみ)健康保険より受取代理制度の申請書をもらい、医療機関で必要事項の記入を受けます。出産予定日の2ヶ月前に健康保険に事前申請を行い、医療機関が後日請求を行って一時金の支払いを受けます。
産後申請方法 いったん出産費用を全額自分で支払った後に、指定口座に出産育児一時金を振り込んでもらう受取方法です。健康保険から出産育児一時金申請書をもらい入院時に持参、証明欄に医師の記入をもらったうえで後日提出します。なお、この場合については一時金が振り込まれるまで申請後2週間から2ヶ月程度かかるのでご注意を。
備考 ・早産・死産・流産・人工妊娠中絶も支給の対象となります。多胎児を出産の場合には胎児数分支給されます。
・出産に要する費用が必要な場合には出産育児一時金が支給されるまでの間、無利子で一時金の8割まで借りられる貸付制度もあります。出産予定日前1カ月以内または妊娠4カ月以降で申請します。
【育休中】育児休業給付
育児休業を取得したとき、一定の条件を満たした場合に雇用保険から支払われる給付金です。もらえる金額の目安としては、休業開始時の賃金日額の67%(休業開始から6ヶ月経過後は50%)相当額です。
対象 雇用保険に加入し、育児休業を取得する労働者で、下記の要件を満たす人
1…育児休業期間の各月で、休業開始前の賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと。
2…就業している日数が各月(各支給単位期間)10日以下であること。さらに休業終了の月には休業日が1日以上あること。
金額 休業開始時の賃金日額×支給日数の67%(休業開始から6ヶ月経過後は50%)相当額(※賃金日額:過去6ヶ月間に受け取った賃金総額÷180)
手続き 事業者が育休スタート時に「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します。育児休業給付金の支給を受けるためには事業主を経由して2か月に1回支給申請を行う必要がありますので、郵送等で書類のやりとりをします。
(※希望する場合、1か月に一度、支給申請を行うことも可能です。)
備考 パパ・ママ育休プラス制度利用時や、育休延長時には事前に事業者に連絡、確認をしましょう。

◆産休・育休中の社会保険料・住民税は?

クローバー

収入が落ち込む中での毎月の社会保険料などの支払いは大変ですよね。そのため産休中・育休中に関しては健康保険・厚生年金保険の保険料は徴収されないこととなっています。なお、免除の手続きに関しては事業者が行います。

ただし住民税に関しては産休・育休中についても支払わなくてはなりません。給与からの天引きができないため、事業者に支払い方法を確認のうえ、きちんと支払いを行うようにしましょう。

◆ここは注意しよう!

産休中や育休中に収入を補ってくれる制度は、とてもありがたいものですが、注意したいのは産休に入ったらすぐにお金を受け取れる訳ではないということ。出産手当金は、先に述べたとおり産後56日が経過してからの申請が一般的で、その場合には出産から2ヶ月半~4ヶ月ほど経った後にはじめて手当金が支給されることになります。

また育児休業給付についても基本的には2ヶ月に1回の支給となりますので、各種手当を生活資金として考えている場合には注意が必要でしょう。

妊娠中・復帰後の働き方は?

家族のイラスト
妊娠中、また子どもが生まれた後は、どうしても今まで通りの働き方を続けることが難しい場合があります。子育てと仕事とを両立するために、さまざまな制度が設けられています。

◆妊娠中の働き方

◇健診を受ける時間の確保
妊婦健康診査等を受けるための時間が必要な場合には職場に申請ができます。申請があった場合には事業者は必要な時間を確保しなくてはなりません。(有給・無給は職場の規定によります。)
◇医師から指導を受けたら…
通勤緩和や休憩時間の延長、つわりなどの症状に合わせた勤務時間短縮や作業制限など、医師の指導を受けた場合には職場に相談しましょう。事業者は申し出を受けた場合には医師の指導内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。
◇時間外、休日労働、深夜業の制限、変形労働時間制の適用制限
妊婦は時間外、休日労働、深夜業の免除を請求できます。また変形労働時間制で働く場合も、1日、1週間の法定労働時間を超えて労働しないことを請求できます。
◇簡易業務転換
妊娠中に立ち仕事や重いものを取り扱う仕事がつらい時は、他の簡易な業務への転換を請求できます。

◆職場復帰後の働き方

◇産後1年以内に復帰する場合
生後1年に達しない子を育てる女性は、1日2回少なくとも各30分の育児時間を請求できます。また、医師から指示があった場合には健康診査等に必要な時間の確保を申請することも可能です。妊娠中同様、時間外や休日労働等の免除を申請することができます。
◇短時間勤務制度
3歳未満の子を育てながら働く場合には、職場は短時間勤務制度(原則として1日6時間)を設けなければなりません。
◇子の看護休暇
小学校入学前の子を育てる労働者は申し出により、年休とは別に年5日(子が1人の場合。2人以上なら10日まで)、病気やけがをした子の看病、予防接種や健康診断のために休暇を取得できます。
◇時間外労働、深夜業の制限
小学校入学前の子を育てる労働者から請求があった場合には、1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならないことになっています。深夜に働かせてはなりません。

事業所によってはこれ以外にもさまざまな支援制度が用意されている場合があります。

妊娠を理由に解雇された…!これってアリ?

困った顔の女性

事業者が、妊娠・出産したこと、育児のための制度を利用したことなどを理由に、労働者を解雇したり、減給や降格を行ったりすることを「不利益取扱い」といいます。妊娠・出産・育児休業などを理由とする不利益取扱いは、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法で禁止されています。

そのような扱いを受けてしまったら、都道府県の労働局に相談してみましょう。
匿名での相談ができる窓口が設けられています。

【問い合わせ先一覧はこちら!】
職場でつらい思いしていませんか?厚生労働省(2017/5/12)

◆ワンポイント◆
職場によっては不当な扱いを妊娠や出産のためであるとは言わず、その行為を正当化してしまうというケースもあるようです。
そのようなことにならないためにも、職場を選ぶ際には「産休・育休制度あり」の文言があるだけで安心せず、過去に取得実績があるかどうか、また実際に取得する場合の体制について確認しておくと良いでしょう。

保育士は産休・育休が取りにくい?

保育士さん

「保育士は産休・育休が取りにくい!」そういったイメージをお持ちの保育士さんも多くいらっしゃることでしょう。

公立か私立かの違いや、事業所の規模、職場の人間関係などにもよりますが、制度上は整っていても、ギリギリの人数の中で運営を行う中で「取得しづらいな」と感じたり、慣例的に「妊娠したら退職するもの」という考えが根付いてしまっていたり…。実際に制度の利用が難しいと感じるケースもあるでしょう

ただし、すべての職場で産休・育休が取りにくい、取れないという訳ではありません。しっかりと制度や体制を整えて、取得実績も多くある保育園もたくさんあります。

「妊娠・出産後も長く働きたい!」「子育てと仕事とを両立させたい!」とお考えの保育士さんは、就職先、転職先を検討する段階で、産休・育休の制度がきちんと利用できる職場なのか、子育てとの両立がしやすい体制が整っているかなど、慎重に見極めることが必要でしょう。

保育のお仕事でも保育士の皆さまのお仕事探しをサポートいたします!お気軽にご相談くださいね。

編集者より

赤ちゃん

編集者も実は産休・育休を取得して仕事に復帰したばかり。いざ自分自身が産休・育休制度を利用するとなると、いつから休みに入るのか、上司や人事担当への報告はどうするのか、スムーズに手当が受給できるのかなど、不安に思うことも多くあり戸惑いました。

出産・育児においては赤ちゃんや自分自身の体調など、考えることが山ほどあります。仕事のこと、産前産後の収入のことなど不安要素を少しでも減らし、安心して赤ちゃんを産み育てるために、そして長期的なライフプラン・キャリアプランを練るためにも、制度をあらかじめきちんと理解しておくことが大切ですね!

参考文献・サイト

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