保育ノウハウ

保育士が覚えておきたい「素話」のイロハ

保育士試験や保育技術検定(1級)の実技試験にも組み込まれている素話
子どもの想像力を育てる要素をもつ保育に欠かせない取り組みですが、なじみのないことから気遅れしてしまう保育者さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな中である日突然、子ども達に素話を披露することになったら?
そこで今回の記事では、素話の概要や保育で行うメリットなどについてまとめてまいります。

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素話とは

素話とは
素話は、絵本や紙芝居など一切の小道具を使わずに話す素朴なお話のこと。
元は音曲や鳴り物を交えずに行う、基本的なスタイルの落語を指す言葉(素噺)でした。
保育の現場では、語り手(=保育者)が一度物語を自分の中に落とし込んでから、独自の声と言葉で子ども達に語り聞かせることを指します。
ただ本の内容を丸暗記してそらんじればいい、というわけではありません。
別名「ストーリーテリング」とも呼ばれています。

保育で扱う素話は、童話やイソップ物語などの世界の民話・日本昔話などが一般的です。
ただし、決まったスタイルがあるわけではないので、保育園にある本や、子ども達が知っているお話、保育者や子どもとの創作など自由に取り上げることができます。

素話のねらい

素話のねらい
大人から「話しかける」「語りかける」素話は、子どもの言葉の発達において重要な意味をもちます。
また、素話では絵本や紙芝居も持たないため、子ども達は自由に想像しながら物語を受け止めることができます。
絵を頼りに話を理解することもできないので、しっかり集中して人の話を聞くようになるでしょう。

乳幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を担うものです。
幼保連携型認定こども園教育・保育要領の中でも、子どもが乳幼児期に培うべき5分野の能力が記載されています。そのうちのひとつが「言葉」です。

経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の 話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
引用:幼保連携型認定こども園教育・保育要領

子どもの言葉の発達は、まず「聞く」ところから始まります。大人が話している言葉を繰り返し聞いているうちに、少しずつ言葉を覚えて話せるようになっていくのです。

「様々な言葉に出会う機会」を作りだすことは保育者の重要な役割です。
低年齢児の際は特に「言葉そのものの美しい響きを楽しめるような素話」の題材選びをまずは意識してもいいかもしれません。

【発展】「10の姿」からみる素話のねらい

ランドセル
4歳、5歳……と年齢があがってきたら、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」いわゆる「10の姿」も意識して、素話を保育に取り入れてみてください。
特に重要な項目は「言葉による伝え合い」です。

【言葉による伝え合い】
保育教諭等や友達と心を通わせる中で、絵本 や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。
引用:幼保連携型認定こども園教育・保育要領 

また、卒園後の小学校の授業において「先生の話をじっくり聞いて、理解する」こと、そして友達同士の意志の疎通など、子ども達の未来がより豊かになるイメージをもって素話も実践してみましょう。

素話のメリット

素話のメリット
素話を行うことは、子どもにとっても保育者にとってもメリットが多くあります。

言語力・集中力が育つ

前項で触れた通り、素話によって子どもの言語力・集中力が育まれます。

語彙力が増えるだけでなく、考える力となり、伝える力にもつながっていくでしょう。

手ぶらでもできる

道具を用意する手間がないので簡単にいつでもどこでも始められますす。

子どもは同じ話の繰り返しでもしっかり聞いてくれるので、短いお話から少しずつ覚えていけるといいですね。

寝かしつけにも最適

お昼寝のシーンでも素話は役に立ちます。子どもが目をつぶったまま話を聞ける上、保育者も隣で横になりながら話ができるので、スムーズに寝かしつけることができます。

素話をするポイント

素話のポイント
素話を行う際に意識したいポイントをご紹介いたします。

素話を読む前に……

素話の題材が決まったら、以下のポイントを意識しながら実践してみましょう。

□話のあらすじを覚え、内容を理解する
□この素話を通じて子どもに伝えたいことを考える
□子ども達全員に話しかけるつもりで、表情や反応を見ながらゆっくり話す
□声の大小・強弱・高低も意識した話し方にする
□集中を削がないよう、不自然に大げさなジェスチャーは避ける

「上手く話そう!」と意気込んでしまうと、その緊張は子ども達にも伝わってしまいます。
それよりも「楽しいお話を一緒に聞いて!」と、話すことや聞かせることをあなた自身が楽しむのがポイントですよ。

素話の始め方はどうしよう?
保育者の周りに集まってもらうだけでなく、簡単な手遊びをしたり「目を閉じてイメージしてみて……」とお話の世界に導いてみてもよいね。

素話をする場所

子ども達がゆったり落ち着いて聞けるよう、話し手である保育者は壁を背にして座るとよいでしょう。子どもの視界に何か注意を引くものが入ると、素話に集中できなくなってしまうからです。

屋外や園バスの中でもできるのが魅力だね

素話をする時間帯

特に決まりはありません。園の予定や子ども達のその日のコンディションに応じて行えるといいでしょう。
短いお話が主ですので、給食やおやつの前や次の活動に移る前などの切り替えとして行うことも可能です。
長めの話を分割して話すような時には、お迎え前の夕方頃に実施して「続きはまた明日」と期待感を持たせるのもよいかもしれませんね。

また時期にあった話を選べば、季節を感じることもできますね。

たとえば、夏であれば海水浴をテーマにしたお話、お正月には「十二支の物語」など……。ねらいに応じて題材を選ぶホィ!

読み聞かせとの違い

素話と読み聞かせの違い
保育で行うねらいや性質がよく似ている「素話」と「読み聞かせ」。よく混同されがちですが、素話がどのような点において読み聞かせと異なるのか見てみましょう。

素話はココが読み聞かせと違う!
・保育者と子ども達の間に本がないため、子ども達の反応がわかりやすい。
・保育者は子ども達の反応を受けながら語るので、話を膨らませたり省略したり、話にアレンジを加えることができる。
・言葉の選び方や間の取り方に、保育者それぞれの個性が出る
・互いに物語の内容を想像しながら過ごすので、語り手と聞き手に連帯感が生まれる。

もちろん、読み聞かせも保育では欠かせないもののひとつです。子どもが受ける影響には個人差もありますし、子どもの年代や保育者の得意不得意なども関わってくるので、一概にどちらがよいとは言えません。
それぞれ使い分けられるといいですね!

素話は基本のスキルがつまっているから、これができると保育の幅が広がるね!

どんな題材を選べばいいの?


素話の題材は、まず話の内容を覚えやすいものを選ぶのがいいでしょう。
絵本のように絵や文の補足がない素話では、自分の言葉によって物語を表現しなければなりません。同時に子ども達は、先生の声や表情、場の雰囲気からそれを理解する必要があります。はじめのうちは、内容が覚えやすいお話から選ぶのがよいでしょう。

慣れてきたら、以下のポイントも意識して題材を選んでみるとよいですね。

自分自身が語りたい話か

まずは自分が話したいと思う、好きな話を題材に選びましょう。無理に語っても、それは子ども達に伝わってしまいます。

また、自分の声質や話し方にあうお話を選ぶのも大切です。
たとえば、子ども達の大好きな『ようかいウォッチ』のジバニャン。この声で怪談話をしても、あまり怖くないと思いませんか?それと同じで、声と話の内容がマッチしていないと、物語に集中しづらくなってしまうのです。
ぜひ、自分の声がどんなものなのか把握してお話を選んでみてください。

子ども達が求めている話か

子どもの年齢によっては、長い話だと飽きてしまったり興味がそがれてしまったり……ということがあります。聞き手に応じて馴染みのある日常生活の話にしたり、面白いところを要約したり、わかりやすい言葉に変えたりしましょう。

素話デビューは3歳児クラスからが多いホィ。始めは言葉のリズムやストーリーの面白さを重視して題材を選んでみるホィ!
4歳児以降は反応をみつつ、登場人物が多いものにしたり、少し複雑なストーリーにしたり、お話の時間も3~4分程度と少し長くしてみても◎

保育者に人気の題材5選


それでも「どれを話そう……」と悩んでいる方に、保育士さんに人気の高い定番の題材を紹介します。

ふしぎなたいこ(日本昔話)

太鼓をたたくと鼻がのびたり縮んだりするユーモラスなお話です。鼻がのびていく様子をジェスチャーで示しても楽しいですね。
岩手であれば河童の伝説、岡山であれば「桃太郎」……など郷土のお話を選んでもよいでしょう。地域の昔話について探す際はこちらのサイトが役に立ちます。

三匹のこぶた(イギリスの昔話)

登場キャラクターが性格の違いが顕著な三匹のこぶたと怖いおおかみといった声の演じ分けのしやすさがあります。展開の繰り返しと予想外のラストも魅力です。
「三匹のやぎのがらがらどん」も似たような理由から根強い人気です。

マッチ売りの少女(アンデルセン童話)

情景がイメージしやすく、冬にぴったりなお話です。子ども達も主人公に感情移入して、灯した火の先の「あたたかい暖炉」や「ごちそう」をみんなでイメージすることができるでしょう。

星の銀貨(グリム童話)

貧しい少女は自分のわずかな持ち物を周りの困っている人に分け与えていくストーリー。最後はその行いが神様からほめられて彼女は幸せに暮らします。
メッセージ性も高く、キリスト教系の園でもおすすめです。

ホットケーキ(ノルウェーの昔話)

のちほど紹介する「おはなしのろうそく」シリーズにおいて、人気に火がついた作品。言葉遊びの要素が強く、子どもが一緒になって笑い合ったり、言葉遊びの発展が生まれると話題です。

『はらぺこあおむし』や『おおきなかぶ』など、視覚的な情報が多いストーリーや登場人物の多いストーリーであれば、素話よりも読み聞かせやパネルシアターの方が適しているホィ!

お話を覚えるコツ

素話を覚えるコツ
素話の題材を覚えるには、以下のステップで行うのが良いでしょう。

    1.選んだ題材のストーリーを繰り返し読み、あらすじを掴む
    2.ストーリーを絵や漫画、映像にして、頭の中で登場人物を動かす
    3.登場人物の動きを掴み、イメージを作る
    4.何度も語って慣れる

「一言一句間違えないように」と気負うのではなく、物語の大枠をつかみ、言葉とイメージを結びつけることが大切です。

実際に素話を聞いてみよう!

それでは、実際に保育の現場で素話を行っている様子を動画で見てみましょう。

穏やかな語り口だけでなく、子ども達をやさしく見渡したり、短いながらもハラハラする展開にしたり、歌のように節を付けたり……と参考になる箇所がたくさんありますね。
自分の素話を録画して振り返ったり、保育者同士で素話を見せてお互いの感想を言ったりしてもよい練習になりそうです。

編集者より

素話
保育士試験では3歳児を対象とする設定で素話の実技試験が行われますが、実際の現場でも同じ年齢のクラスになるとは限りません。
「どのくらいの長さなら聞いていられるかな?」「どんな話なら興味を持つかな?」など……子ども達の特徴を考えながら、じっくり想像の世界に浸ってもらえるような素話にチャレンジしてみてくださいね!

参考文献・サイト

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