保育を取り巻く環境が変化している昨今、保育園に対するニーズはますます多様化・複雑化しています。
そうした中で、保育士にはより高度な専門性が求められるようになってきました。数の充実だけではなく、質の向上に向けた取り組みが必要になってきているのです。
そこで厚生労働省が定めたのが、「保育士等キャリアアップ研修」です。
今回の記事では、平成29年度から新しく始まったこの研修についてご紹介します。
保育士等キャリアアップ研修とは?
保育士等キャリアアップ研修とは、保育士の専門性の強化と待遇向上を目的として、厚生労働省が平成29年4月から実施することを定めた研修です。
保育現場の質を高めるためには、さまざまな課題に対応したり若手の指導を行ったりする「リーダー的な職員」の育成が必要であると考えられていました。
そのため、リーダー的職員の専門性を向上させる研修機会をいかに充実させるか?が重要な課題となっていたのです。
そこで、経験年数などの要件を満たした保育士が、所定の研修を受けることでキャリアアップできるように……と設けられたのが、この「保育士等キャリアアップ研修」です。
研修を受けてから役職についた場合は手当が支給されるため、キャリアアップが処遇改善につながる仕組みになっています。
保育士等キャリアアップ研修の受講対象となるのは?
条件を満たしていれば、正社員に限らず施設で働いている全職員が保育士等キャリアアップ研修の受講対象となります。
契約社員やパート保育士、派遣社員(※受講に際して雇用元の派遣会社と保育園で要相談)でも、キャリアアップのチャンスがあるということですね!
ただし、受講者は所属している園によって決められるため、希望しても受講できない場合もあります。
また、保育施設に併設されている学童などの職員は対象外です。
研修の内容は?
保育士等キャリアアップ研修は「専門分野研修」「マネジメント研修」「保育実践研修」の3つの分野から構成されていて、1分野15時間以上の研修時間を設けることが義務付けられています。
専門分野研修
専門分野研修では、以下6分野の専門分野について研修を受けます。
保育現場において、それぞれの分野でリーダー的な役割を担う人が受講の対象です。
- ①乳児保育
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□乳児保育の意義、環境
□乳児への適切な関わり
□乳児の発達に応じた保育内容
□乳児保育の指導計画、記録および評価
- ②幼児教育
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□幼児保育の意義、環境
□小学校への接続
□幼児の発達に応じた保育内容
□幼児保育の指導計画、記録および評価
- ③障害児保育
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□障害の理解
□障害児保育の環境
□障害児の発達の援助
□家庭および関係機関との連携
□障害児保育の指導計画、記録および評価
- ④食育・アレルギー対応
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□栄養に関する基礎知識
□食育計画の作成と活用
□アレルギー疾患への理解
□保育所における食事の提供ガイドライン、アレルギー対応ガイドライン
- ⑤保健衛生・安全対策
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□保健計画の作成と活用
□事故防止および健康安全管理
□保育所における感染症ガイドライン
□教育・保育施設における事故防止および事故発生時の対応のためのガイドライン
- ⑥保護者支援・子育て支援
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□保護者支援・子育て支援の意義
□保護者に対する相談援助
□地域における子育て支援
□虐待予防
□関係機関との連携、地域資源の活用
マネジメント研修
マネジメント研修は、専門分野のリーダー経験がある保育士のうち、主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う人が受講の対象となります。
- マネジメント研修
-
□マネジメントの理解
□リーダーシップ
□組織目標の設定
□人材育成
□働きやすい環境づくり
保育実践研修
保育実践研修は、保育士試験合格者などの「保育現場における実習経験が少ない人」や、潜在保育士などの「長時間にわたって保育現場で保育を行っていない人」が受講の対象となります。
- 保育実践研修
-
□保育における環境構成
□子どもとのかかわり方
□言葉・音楽を使った遊び
□ものを使った遊び
新しく設けられた役職
保育士等キャリアアップ研修の開始に伴い、保育園には園長・主任保育士・保育士に加えて、新しい役職が3つ設けられました。
それぞれどのような役職なのかチェックしていきましょう。
職務分野別リーダー
研修を修了した分野でのリーダー職です。
経験年数おおむね3年以上、マネジメント研修と保育実践研修を除く専門分野研修6分野の中から、担当する職務分野研修を修了した保育士が対象となります。
専門リーダー
現場専門のリーダー職です。
経験年数おおむね7年以上、職務分野別リーダーを経験した保育士で、4つ以上の分野の研修(計60時間以上)を修了している人が対象となります。
副主任保育士
主任保育士の下につく役職です。
経験年数おおむね7年以上、職務分野別リーダーを経験した保育士で、マネジメント研修+3つ以上の分野の研修(計60時間以上)を修了している人が対象となります。
どこで研修を受けられる?
保育士等キャリアアップ研修は分野別(専門6分野+マネジメント+保育実践=計8分野)での研修となっていて、各自治体によって実施機関の指定があります。
自治体のホームページには指定一覧が掲載されているので、開催施設や日時・分野の内容を確認して申し込みましょう。
(例)東京都の保育士等キャリアアップ研修の指定一覧
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/jigyo/careerup-kensyu_sitei-ichiran.html
研修は平日だけでなく、土日に開講しているものもあります。仕事の都合をつけながら、受講できるものに申し込むのがよいでしょう。
ただし、研修の実施機関によっては申し込み方法が異なります。保育園経由での申し込みが必須の研修もあるので、注意してくださいね。
研修を受けるとどうなるの?
保育士等キャリアアップ研修を受けると、その人数に応じてまず保育園に処遇改善等加算Ⅱが加算されます。
これは技能・経験を積んだ職員にかかわる人件費の加算で、このお金を元として保育士も処遇改善が受けられるのです。
処遇改善される金額 | |
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職務分野別リーダー | 5,000円/月 |
専門リーダー | 40,000円/月 |
副主任保育士 | 40,000円/月 |
いずれの役職でも、園から公式に発令を行われた保育士が対象となります。
ただし、ここでひとつ注意しなければならないことがあります。
それは「保育士等キャリアアップ研修による処遇改善は、研修を受けたすべての人になされるわけではない」ということ。
なぜならこの処遇改善加算Ⅱでは、「必ず4万円支給しなければならない人数は対象者のうち1/2(端数切り捨て)」と定められているからです。
副主任保育士・専門リーダーの場合
90名定員の保育園(職員17名)を例とした場合、まず、職員の内訳は園長(1人)主任保育士(1人)保育士(12人)調理師等(3人)となります。
このうち、副主任保育士・専門リーダーの候補となるのは、園長と主任保育士を除いた職員の1/3。
このモデルで言えば15人のうち1/3、5人が副主任保育士・専門リーダー候補として保育士等キャリアアップ研修を受ける対象となります。
この時点で、保育園には4万円×5人=20万円の加算がされています。
しかし、必ず処遇改善をしなければならない人数は対象者のうちの半分。
対象者が5人いる場合は、2人しか役職手当を受け取ることができない可能性がある……ということになります。
職務分野別リーダーの場合
職務分野別リーダーの場合は、兼務も可能ですが3名以上の配置が望ましいとされています。
若手の保育士が多い職場の場合は、副主任保育士・専門リーダーの加算で余ったお金をこちらに分配して、職務分野別リーダーの配置を増やす……といった運営も可能です。
編集者より
保育士等キャリアアップ研修を受講しておくメリットは、単純に処遇改善されるがどうかだけではありません。
副主任保育士が不在となった際のサポートができたり、他園へ転職する際のアピールポイントになったり……早い段階で修了しておくことで、保育士さんの活躍の場を増やすことにつながるのです。
もし経験年数などの条件が合致するのであれば、この機にぜひ受講してみてはいかがでしょうか?
参考文献・サイト
- 内閣府「処遇改善等加算Ⅱの運用の見直しについて」(2018/03/07)
- 内閣府「技能・経験に応じた保育士等の処遇改善等について(案)」(2018/06/15)
- 東京都福祉保健局「東京都保育士等キャリアアップ研修に関すること」(2018/06/13)
- 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修の実施について」(2017/04/01)
- 保育の求人あるある「保育士等キャリアアップ研修を解説します!」(2018/06/13)
- 保育タイムズ「保育士キャリアアップ研修とは?」(2017/10/17)
- 保育タイムズ「保育士等キャリアアップ研修|役職手当の支給・分配は?」(2018/02/09)
- 保育タイムズ「保育士等キャリアアップ研修|研修前に知っておきたいこと」(2018/02/27)