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心がスッと軽くなる! 保育士さんのためのマインドフルネス講座

職場の人間関係や保護者対応、行事準備に事務仕事……忙しい保育士さんの毎日は、常にストレスと隣り合わせ。日々のイライラやプレッシャーに押しつぶされそうになっている保育士さんも、多いのではないでしょうか。

保育士さんの心身のお悩みに寄り添うシリーズ「保育士さんのための保健室・メンタル編」。
第1回は、精神科医・産業医としてご活躍されている、奥田弘美先生をお招きし、ストレスを低減して、心の穏やかさを取り戻してくれると、今話題の「マインドフルネス」について、お話をうかがいます!

誰もが実践できるマインドフルネスを……奥田弘美先生

奥田弘美先生
今回お話を聞かせてくださるのは、精神科医・嘱託産業医として、長年多くの人々のメンタルヘルスケアに携わってきた、奥田弘美(おくだひろみ)先生。

わかりやすいマインドフルネス実践教科書として大人気の『ストレスと疲れがみるみる消える 1分間どこでもマインドフルネス』の著者でもあります。

奥田先生が、ライフワークのひとつとして掲げられているのが、誰もがわかりやすく実践できるマインドフルネスを広めるということ。現在は同じ考えを持つ大学教授や臨床心理士とともに、日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ、代表理事として執筆や講演会など、幅広く活動されています。

今回はそんな奥田先生に、マインドフルネスの効果や、基本的な実践法を教えていただきました。

そもそも「マインドフルネス」とは?

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――「マインドフルネス」とはどのようなものなのですか?

マインドフルネスとは、ひとことで言えば「今ここ」に対する気づきのことです。今、この瞬間に心を戻して、それに適切に気づくこと。それが「マインドフルネス」です。

”心ここにあらず”の状態「マインドレス」

――あわただしい毎日のなかで「今」に目を向けることは、案外難しいことですね。

私たちは、過去や未来に心をとらわれてしまいがちで、「今この瞬間」というものを感じて生きることが、なかなかできません。

人間は刺激に対して、自然と思考や感情が浮かぶ生きものですから、日々多くの刺激に囲まれている現代人は、常に思考し、さまざまな感情を抱いて「心ここにあらず」、つまりマインドレスの状態になってしまうことが、非常に多いんです。

――思考と感情に縛られてしまっているのですね……

「ランチはなにを食べようか」「今週末はどこに行こう」あるいは「今日のプレゼンは失敗してしまったな」「夏休みの旅行は楽しかったな」など、未来や過去について、常に思考を巡らせては、それに対して喜びや不安、怒りなどの感情を抱く。その結果「今この瞬間」に心をとどめておくことができなくなってしまっているのです。

――「マインドレス」の状態でいると、どのような弊害があるのでしょうか?

「今は思考しよう」と意識して過去や未来のことを考えるのは悪くないのですが、無意識に漫然とマインドレスの状態が続くと、「今ここで起こっていること」に対して、おろそかになってしまいます。

そのため、仕事でちょっとしたミスをしてしまったり、事故につながったりすることがあります。また、目の前にいる人との人間関係に集中できずに、ついおざなりに接してしまったり、八つ当たりをしてしまったりすることもあるでしょう。

そういったことを防ぐためにも、マインドレスになっている自分に気づき、今この瞬間に心を戻してあげること(=マインドフルネス)が大切であり、そのためのトレーニング法がマインドフルネス瞑想なのです。

日々の保育にとっても必要なマインドフルネス

――目の前の子どもたちに、常に注意を向けなくてはならない保育士さんにとって、マインドフルネスはとても必要ですね

そうですね。「心ここにあらず」の状態では、日々の保育活動においてもヒヤリ・ハットや事故につながりやすくなってしまいます。そんなことが起こってしまったら、心配や後悔といった感情にとらわれて、二重に苦しむことになってしまいますよね。

マインドフルネス瞑想を続けると、自分の思考や感情が、過去や未来に向いてしまっている状態に、気づきやすくなり、「今この瞬間」に心を戻しやすくなります。

マインドフルネスは、ストレスの軽減やメンタルケアにも役立つと同時に、保育士さんの毎日のお仕事にも、きっと活かすことができるでしょう。

マインドフルネスがもたらす3つの効果

笑顔の保育士さんのイラスト
――マインドフルネス瞑想を行うことは、私たちの心身にとって、どのような効果があるのでしょうか?

マインドフルネス瞑想を行って、「今、ここ」の瞬間に意識的に心を向けることには、さまざまなメリットがあります。

具体的には、静かに瞑想をすることで脳と心の緊張を取ってくれる休息効果が生まれます。また瞑想を続けていると、嫌な気持ち、思考に翻弄されにくくなり、心の安らぎや集中力を取り戻してくれる効果が生まれます。さらに瞑想の種類によっては、自分と他人を慈しむ、広く安らかな心を育てる効果が期待できます。

脳と心の緊張を取ってくれる効果

まず、マインドフルネス瞑想を日常に取り入れると、心や脳がゆったりと休むことができる時間が持てるようになります。

保育士さんは仕事量も多く、責任も大きいお仕事です。「これが終わったら連絡ノートを書かなくちゃ」「昨日先輩に叱られてしまったな……」など、仕事中、あるいはプライベートの時間に、思考や感情にとらわれてしまうことも多いでしょう。すると心や脳が、いつも緊張している状態になってしまいます。

そんなとき、マインドフルネスを実践すると、さまざまな刺激をシャットアウトしてくれるので、心と脳の緊張が取れて、穏やかな時間を過ごすことができるのです。

ストレス思考から離れて心の安らぎを取り戻してくれる効果

また、マインドフルネス瞑想を続けていると、自分のストレス思考・感情に素早く気付くことができるようになってきます。その結果、ストレス思考・感情を手放しやすくなるのです。

――ストレス思考、ストレス感情というのは具体的にどういうものなのでしょうか?

簡単にいえば、日常的に感じる「ちょっぴり嫌な気持ち」「ネガティブな思考」のことです。たとえば、他人やものごとに対する「怒り」、過去の出来事を「後悔」する気持ちや、他人の幸せを妬む「嫉妬」など、自分からエネルギーが奪われるタイプの思考や感情です。少し考えただけでも、たくさん挙げることができますね。

ネガティブな思考は吸引力が強い!

未来や過去に思考や感情が向かってしまうなかでも、「週末のお出かけ、楽しみだな」といったポジティブな思考は、比較的手放しやすいものです。それに対して、「怒り」や「後悔」のような、ネガティブな思考というのはとても吸引力が強く、いちど引き込まれてしまうと、なかなかその思考や感情から、抜け出せなくなってしまいます。

――なるほど、だからこそまずはその心の状態に「気付く」ことが必要なのですね

自分自身がそういったストレス思考・感情に飲み込まれている、ということに気づけるようになると、そこから離れる時間を、瞑想を活用して意図的に作ることができます。するとその嫌な感情が次第に薄くなりやすく、流れやすくなっていくんです。

マインドフルネス瞑想を実践することで、自分の状態に素早く「気付く」ことができるようになることが、ストレス思考・感情を手放し、心を癒すための第一歩といえるでしょう。

自分も他人も慈しむ広く安らかな心を育んでくれる効果

また、マインドフルネス瞑想の中には、心を癒すだけでなく、成長させてくれる効果を持つ瞑想もあります。

全てのマインドフルネス瞑想は自分の心を穏やかで平和な状態に整える効果があります。さらにその穏やかな心を他者に、外の世界に向けていくタイプのマインドフルネス瞑想も存在します。これらの瞑想は「慈しみの心」を育てること」にもつながっていきます。

これらの瞑想は、慈愛の心を育てるのに役立つ「慈悲の瞑想」や自分の心を観る「ヴィパッサナー瞑想」という瞑想法になりますが、こちらはまた別の機会に、詳しくご紹介していきましょう。

【実践】手軽にできる!深呼吸瞑想をやってみよう

マインドフルネスには、さまざまな瞑想法がありますが、今回はまず、取り組みやすい「深呼吸瞑想」をやってみましょう。

深呼吸瞑想には、胸で呼吸をする胸式と、おなかで呼吸をする腹式とがありますが、ストレスを軽減し、緊張を取り除きたいときには、副交感神経というリラックス神経を高めてくれる腹式がおすすめです。

◆深呼吸瞑想(腹式)のやり方◆
(1)目を閉じておなかに両手を当てます。
(2)まず息を吐き切ったら、おなかを膨らませるようにゆっくり、鼻から息を吸います。

マインドフルネス瞑想法
【ポイント】おなかが風船になったイメージで。その風船が膨らむのを手のひらで感じることに意識を向けましょう。

(3)おなかが膨らみきったら息をとめ、こんどはゆっくりと、できるだけ長く口から息を吐きだします。

マインドフルネス瞑想法
【ポイント】おなかがぺたんこになっていくのを、両手でしっかり感じましょう。

(4)これを3回以上繰り返します。

いかがでしょうか。ちょっと前まで考えていたことや、そのときに抱いていた感情が、瞑想をする前より薄れていませんか?または、瞑想を終えてはじめて、そのような思考や感情にとらわれていたことに気付く方もいるかもしれません。

おなかの呼吸を両手で感じることは、「今この瞬間」に心を向けること。短時間でも未来や過去に向いている心を「今」に戻すことで、心や脳の緊張をほぐし、ストレス思考・感情から距離をとることができるでしょう。

――深呼吸瞑想は、どのようなときに取り組めばよいでしょうか?

深呼吸瞑想は、日常のなかで手軽に取り入れられる瞑想法です。「心に余裕がなくなっている」と感じたときや、嫌な思考・感情が浮かんだとき、「なんだか落ち着かないな」と思ったときなどには、気軽に実践してみるとよいでしょう。

マインドフルネス瞑想をするときの注意点は?

女性のイラスト

体が整っていることが大切!

――マインドフルネス瞑想を実践するうえで、なにか注意することはありますか?

マインドフルネス瞑想の効果を最大限に引き出すためには、まず体が健康であることが大切です。

心は、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感を通じて入ってきた刺激が、脳で統合され、その刺激によって「ここちよい」「嫌だ」「楽しい」といった感情や意思が生まれることで、成り立っています。つまり体全体をフルに利用して、脳が心を作りあげているのです。

体の状態が整い、脳がよい状態に保たれていないと、ポジティブな心を作り上げることはできません。忙しさのなかで、どうしても生活リズムが崩れがちですが、心の健康の基本は「体の健康」とくに「睡眠」と「食事」であるということを、頭にいれておきましょう。

最低でも6時間の睡眠を

まずは睡眠をしっかりとって、心と体を休めることが大切です。保育士さんは、体を動かす機会も多いお仕事ですので、できれば1日7時間の睡眠をとっていただきたいですね。

働く人に必要な睡眠時間は、最低6時間といわれており、それを下回ると、疲労が残ってしまったり、脳に前日の嫌な気持ちがこびりついてしまったりします。ですから最低6時間は連続して睡眠をとることを心がけましょう。

体の「原材料」となる食事も大切に

私たちの体は、私たちが食べたもので成り立っています。栄養不足だと、五感や脳がうまく働かず、刺激にうまく対応できずに、不安になりやすかったり、イライラしやすくなったりします。

また、冷静な思考を生み出すために必要なセロトニンや、やる気を高めてくれるドーパミン、眠るために必要なメラトニンといった物質も、すべて食べ物がもとになっています。

車もガソリンを入れなければ動きませんよね。それと同じで、いわば人間の「原材料」ともいえる食べ物をきちんと摂ることは、とても大切なことなのです。

――忙しいと、どうしても食事を抜いたり、簡易的な食事になってしまったりしがちですよね

保育士さんの場合には、昼食は栄養バランスの整った給食を摂ることができますから、せめてあと1食は、きちんと栄養を考えた食事を摂るように心がけるとよいですね。

肉、魚、卵などのたんぱく質野菜海草類、適度な炭水化物脂質が揃ったバランスの良いメニューを選んでください。

「1回で効果が出る」というものではない

また、マインドフルネス瞑想は、いわば「心のトレーニング法」です。筋トレをたった1回やっただけでは、すぐに効果を実感できませんよね。マインドフル瞑想もそれと同じです。短時間の瞑想でも、繰り返し実践することをおすすめします。

日々の生活の中に取り入れよう

今回は深呼吸瞑想をご紹介しましたが、マインドフルネス瞑想には、歩きながらできる瞑想や、食事に取り入れられる瞑想、ストレッチの要素を加えた瞑想など、さまざまな方法があります。

それらを日常生活のなかに取り入れて、習慣づけることで、マインドフルネス瞑想を続けやすくなるでしょう。

――奥田先生、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!

編集者より

ラベンダーのイラスト
よい文章を声に出して読む、丁寧に字を書く、花を丁寧に活ける、意識しながら丁寧にスキンケアをする……それらもすべてマインドフルネスのひとつと、優しく話してくださった奥田先生。

「瞑想」と聞くと、どうしても敷居が高く、身構えてしまいがちですが、今回お話をうかがって、そのハードルを、ぐっと下げてもらったように感じました。

保育のお仕事レポートではこれからも、奥田先生に、保育士さんのメンタルケアについて、アドバイスをいただく予定です。ぜひ楽しみにしていてくださいね!

◆奥田弘美先生について◆

奥田弘美先生
奥田 弘美(おくだ ひろみ)

精神科医、産業医(労働衛生キャリアアドバイザー)
作家、日本マインドフルネス普及協会代表理事

平成4年山口大学医学部卒。
精神科医・産業医として都内20か所の企業で産業医として
働く人の心身のストレスケアに携わるほか、
日本マインドフルネス普及協会を仲間とともに設立し、マインドフルネスの普及活動も
行っている。
著書にはベストセラーとなった「心の折り合いをつけて、うまいことやる習慣」(すばる舎)
「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)のほか、
「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)
「図解・めんどくさいをスッキリ消す技術」(マキノ出版)、など多数。

    ※本連載でご紹介しているマインドフルネス瞑想は、「悟り」を目的とした瞑想修行や、病的症状の治療を目的とする集中プログラムではありません。
    ※心身の病気などで医療機関にかかっている場合などには、主治医に相談し、許可をうけたうえでマインドフルネス瞑想を取り入れることをおすすめします。

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