保育園の給食と聞いて多くの人が想像するのは、決まったメニューが規定量盛られたものが、毎日同じ時間に提供されるというスタイルでしょう。
しかし近年、子ども達が自分で食べたい量を盛りつける「セミ・バイキング形式」を導入する保育園が増えているそう。
セミ・バイキング形式を給食とはどのようなものか、子ども達にどのような影響を与えるのか、導入にあたって大切なこととは……?
今回はセミ・バイキング給食を実践している「さくらしんまち保育園」を取材。園長の小嶋 泰輔(こじま だいすけ)さん、保育のお仕事レポートでもおなじみ、管理栄養士の隅 弘子(すみ ひろこ)さんにお話をうかがいながら、バイキング給食を子どもの育ちにつなげるためのポイントを紹介していきます。
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*シリーズ「しあわせ食育教室」は保育園における食育実践のポイントや、日々の保育に楽しく「食」を取り入れるためのヒントをご紹介する、連載企画です。
バイキング形式の給食ってどんなもの?
まず、セミ・バイキング形式の給食とはどんなものか、確認しておきましょう。
一般的に「バイキング」と聞くと、好きな食べものを好きなだけ皿に盛って食べるスタイルを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、保育園におけるセミ・バイキング給食の場合、そのイメージとは少し異なります。
配膳する「量」を自分で決める
保育園におけるセミ・バイキング形式の給食は、自分で料理を取るのではなく、配膳の担当者が子どもの「希望する量を皿に取り分ける」のが一般的。
規定量の料理が盛られた皿が配膳台に置かれ、それよりも多めにしたいのか、少なめにしたいのか、子ども達が配膳担当者に伝えられるようになっています。
なお、配膳は職員が担当する園もあれば、子ども達が当番制で担当する園もあります。
形式はさまざま!お誕生日会など特別な日に実施する園も……
セミ・バイキング形式の給食を毎日提供する園もありますが、なかにはお誕生日会やクリスマス会など、特別な行事のときのみ実施している園もあります。
では、実際に毎日の給食にセミ・バイキング形式を採用している園の取り組みを見てみましょう。
セミ・バイキング形式の給食を実施!さくらしんまち保育園
今回取材させていただいたのは、東京都世田谷区にある「さくらしんまち保育園」。
2008年の開園当初から給食にセミ・バイキング形式を採用しており、「子どもの偏食が解消する!」と保護者からも好評です。
また、メディアにも何度も取り上げられており『偏食解消で大人気。さくらしんまち保育園の給食レシピ』(メディアファクトリー)という書籍も出版されています。
自分で食べる量を選ぶセミ・バイキングスタイル
さくらしんまち保育園の給食も、職員が子どもの希望する量の給食をよそって提供する「セミ・バイキング」形式。
子ども達は「ごはんは少なめで」「ニンジンは苦手だから1個だけ」「お味噌汁は多めがいい!」など、自分が食べたい量を職員に伝えていきます。
いっぽう、職員は「これくらいでいい?」「もう少し減らす?」など、子ども達一人ひとりに向き合い、その要望に沿って配膳していきます。
さくらしんまち保育園の園長、小嶋 泰輔(こじま だいすけ)さんによれば、この配膳形式の大きな魅力は「子ども達一人ひとりが“尊重されている”ことを実感できる」ということなのだそう。
職員は「どのくらいの量にする?」と問いかけて、その子の気持ちや選択を尊重する。そうすることで子ども自身が「自分で選んだ」という意識を持って食事に向き合うことができます。
食事時間も自分自身で決める!
さくらしんまち保育園のセミ・バイキング給食で特徴的なのは、食事を摂る時間も子ども達自身が決めるということ。
起床時間や朝食の時間、登園時間や月齢によって、生活のパターンは大きく異なるもの。だからこそ、子ども達自身が自分で昼食の時間を選べるよう、工夫されています。
昼食を摂れるのは、11時半~13時半くらいまでの間。テーブルごとにおおよその食事の開始時間が決まっており、同じ時間帯に集まった子ども5人ほどが揃って「いただきます」をします。
各テーブルには、食べ始めの時間、おかわりができる時間、食べ終わりの時間の目安として時計が置かれているものの、「ごちそうさま」のタイミングも子ども達の自由です。
『楽しく美味しい給食』を保育方針のひとつに
さくらしんまち保育園では、保育方針のひとつに『楽しく美味しい給食』を掲げています。
これは献立や味付け、盛付けを工夫することはもとより、食べものへの興味を持たせること、職員や子ども同士のかかわりあいを通じて、自ら食べようという意志を育て、生きる力を育もうという考え方。
セミ・バイキング形式という給食スタイルも、子ども自ら食事の時間を選ぶというシステムも、この方針のもとに成り立っています。
さくらしんまち保育園の定員は100名と大規模。それにもかかわらず子ども達の意志を尊重する給食スタイルが実現できているのも、園長をはじめ職員全員がこの方針を重んじ、「食」から子ども達の育ちを見つめようという視点を持っているためだと言えるでしょう。
【子どもの育ちにつながる!】セミ・バイキング給食の魅力
では、さくらしんまち保育園で実践されているセミ・バイキング形式の給食は、子ども達の育ちにどのような影響を与えるのでしょうか。
『保育のお仕事レポート』でもおなじみ、mamaful代表で管理栄養士の隅 弘子(すみ ひろこ)さんに、食育の観点から見るセミ・バイキング給食の魅力と導入のメリットについてお話を聞いてみました。
隅弘子 さん(以下、隅):さくらしんまち保育園のようなセミ・バイキング形式を給食に取り入れる場合、次のようなメリットがあると考えられます。
子どもの気持ちを尊重できる/食事への意欲を高められる
隅:以前の記事でもお伝えしましたが、乳幼児期の食育においてとくに大切なのは、「食べることを「楽しい」と思えるような、豊かな食体験を積み重ねてあげること」ですね。
隅:セミ・バイキング形式の給食スタイルでは、子ども達が自分の食べる量を自分で決められる、つまり子ども達の気持ちを尊重して給食を提供できます。
無理やり「食べさせられる」よりも、自らすすんで「食べる」ほうが食事が楽しいと感じられるはず。自分で選ぶということは食事に対する意欲を高めることにもつながるでしょう。
子ども達の気持ちや選択を尊重する給食の提供スタイルは、単に「食べる」ということを「楽しい体験」としてより豊かで心地よく過ごせる時間にしてくれそうですね。
空腹感を感じたときに食事が取れる、そして食事量も調節できる環境で、食べることに集中できれば、自然と落ち着いて食べることができますし、より食事を楽しめます。
結果として保育士さんも子ども達に対して、見守る気持ちで穏やかに寄り添えそうですね。
職員と子どもとでコミュニケーションを図ることができる
隅:配膳の際に職員と子どもとでコミュニケーションをとれるということは、小嶋園長も話していたように、子どもが「尊重されている」ということを実感することにもつながりますし、子どもの体調の変化や好き嫌いなどを知る手がりにもなります。
好き嫌いの状況を知ることができれば、今その子がどのような発達段階にいるのかという把握にも役立つでしょう。
適量を知ることができる/完食する喜びを積み重ねられる
隅:『保育所における食事の提供ガイドライン』には次のような記載があります。
保育の原理のなかに、「一人一人に応じる」という原則がある。食事についても、食べる量や食事にかかる時間は一人一人異なり、その子どもにあった食事量と時間がある。したがって何をどれだけ食べるのが良いのか、自分に合った適量を決める力を育てていくことも保育の大切な目標である。
(引用)厚生労働省『保育所における食事の提供ガイドライン』より
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/shokujiguide4-5.pdf
隅:自分に合った食事の摂取量は、ひとそれぞれ。「好きなものだから山盛りに!」「嫌いだから食べなくていいや」ではなく、食事のバランスや自分の食べきれる量を考えて適量を選択するという力は、子どもの将来における「生きる力」となってくれることでしょう。
隅:また、自分の適量がわかれば、完食という「成功体験」にもつながります。
「完食できた!」というのは子どもにとってやはり嬉しいこと。ご家庭で完食したときに、「ママがニコニコしてくれた」という経験を積んでいることも背景にあるのかもしれません。
食事をより楽しい時間にするためにも、完食できる環境を整えることは大切な要素のひとつだと思いますね。
配膳してもらった量を食べきることに対して責任感を持つことができる
隅:さくらしんまち保育園のセミ・バイキング給食では、子ども達が自分たちの「選択」に対して責任感を持っている姿が印象的でした。
選択できる環境は、子ども達によい責任感を持ってもらうきっかけになっていると思いますね。
バイキング給食を導入するうえで抑えるべきはココ!
さまざまなメリットから導入事例も増えているバイキング給食。これから導入を検討するうえで重要なポイントはなにか、小嶋園長と隅さんそれぞれに聞いてみました。
小嶋泰輔 園長(以下、小嶋):まずは「どのくらいの量にする?」「少し減らしてみる?」といった、配膳時の職員の声かけを大切にしてほしいですね。
それは「自分で選びたい」という子ども達の思いを大切にすることでもあります。形だけを取り入れるのではなく、しっかりと目の前の子どもに意識を向け、その思いや選択を尊重してあげる、その姿勢が重要だと思います。
バイキング給食のねらいを意識することも大切
隅:「なぜバイキング給食を取り入れるのか」ということを意識することも大切です。日々の保育活動にねらいがあるように、バイキング給食導入にあたってもねらいを検討し、それが達成できるように運用やフォローの体制を整えていくことが大切でしょう。
偏食がなくなるってホント?!配膳形式以外にも工夫が……
「給食を残す子がほとんどいない」「子どもの偏食が解消する」として数多くのメディアに取り上げられているさくらしんまち保育園の給食。
しかし、バイキング形式の給食を取り入れるだけで、自然と子ども達の偏食がなくなるというわけではありません。
いったいどのようにして子どもの偏食と向き合い、それを克服して楽しく給食を食べられるようにしているのか……園での工夫やその食育上の意義について、小嶋園長と隅さんのお二人にうかがいました。
無理強い・完食指導はしない
小嶋:まず、苦手な食べものがあったとしても、子どもに無理やり食べさせることはしないようにしています。
たとえばピーマンが苦手な子がいたとして、給食で「残さず食べなさい!」と無理やり食べさせたとすれば、その嫌な思い出から、ピーマンが一生嫌いなままになってしまうかもしれません。
だから今は無理をさせない。「完食指導」にならないように、食べたくないものは「食べない」という選択もできるようにしています。
単に味がイヤだという理由だけではない「好き嫌いが生じる背景」が子ども達にはあるので、強制させないということにはとても共感しますね。
無理にでも食べさせようとするより、ゆっくり時間をかけて「食べてみようかな」と子どもが思えるような環境を整えることが大切です。
家庭でも「楽しく食べられる環境」を
小嶋:子どもの偏食に悩む保護者に対しても、園の方針と同じく「無理をして食べさせなくてもいい」ということを伝えるようにしています。
「なにがなんでも食べさせなくては……」と過度に頑張りすぎると、保護者にとっても子どもにとっても、食事の時間が苦痛になってしまいますから。
忙しければ、たまには総菜やお弁当を買って食べたっていい。苦手で食べられない食材の栄養は、ほかの食材で補ったっていい。
それよりも家族が「おいしいね」といっしょに食べるという体験が大切なんです。
幸せな食の体験を積み重ねることが、苦手な食材を克服するための近道になるということを、伝えるようにしていますね。
食材は「隠さない」
小嶋:調理法については、すりおろしたりほかの食材に混ぜ込んだりなど、食材を「隠す」ことをしないようにしています。
細かく刻んだり、味付けに工夫を凝らしたりはしますが、食材はそれとわかるようにしておく。
そうすることで、能動的な「食べさせられる」ではなく、自発的な「食べてみよう」という気持ちにつながりますし、苦手な食材を食べられたときには達成感が生まれます。
発想を変えることで、楽しい雰囲気で食事をすることが自然と実践されるのではと思います。食卓の時間はとくにお子さんにとって試練を与えられる場所ではなく、「安心を感じる場」として存在して欲しいと思います。
友達が美味しく食べる姿を見せる
編集部:なかなか子どもが苦手な食べものに手を伸ばさない場合には、どのようにされているのでしょうか……
小嶋:嫌いなものを「食べない」という選択肢も与えてはいますが、いっぽうで子ども達の偏食をそのまま放置するわけではありません。
たとえば、トマトが嫌いでまったく食べない子がいたとすれば、給食の際にトマトが大好物という子と同じテーブルに座ってもらう。
友達が美味しそうに食べている姿を見れば「自分も少しだけ食べてみようかな……」という気持ちになれます。
隅:まさに小嶋先生のおっしゃるとおりですね。セミ・バイキング給食が取り入れられている3~5歳は、認知発達の段階では「前操作期」にあたります。
この時期の子ども達はものごとの「見かけ」に左右されやすいため、友達が美味しそうに食べている姿を見るということが、偏食解消の第一歩となりやすいのです。
「共食(きょうしょく)」=みんなで食べるという体験ができるのは、保育園における給食の大きな強み。自由に食事の時間を選べるスタイルながら、友達と一緒に食事が摂れるよう工夫されていることは、食育のうえでも大きな意味があると思いますね。
苦手を克服しやすい工夫をしたうえで成功体験を重ねる
小嶋:また、子どもに苦手な食材があった場合には、その原因を徹底的に探ります。
どんな種類の野菜がダメなのか、苦手な部位は?調理法は?など、職員同士でさまざまな議論を重ねて、「苦手」とする要素がどこにあるのか、突き詰めて考えていくんです。
そのうえで子どもが食べやすいような食材の調理法や味付けを検討し、苦手を克服しやすいようにします。
編集部:なるほど、あくまでも子ども達が自発的に「食べてみよう」と思えるように工夫されているのですね!
小嶋:はい。そのうえで「ひとつだけ食べてみない?」など職員からもフォローして、子どもの意欲を後押しできるようにしています。
はじめはほんの少しでもいい。成功体験をだんだんと積み重ねていくことで自信がつき、好き嫌いの多かった子も卒園時には多くの「苦手」を克服して巣立っていきます。
子どもから調理する職員の姿が見えるようにする
小嶋:子ども達が食材や調理している職員を身近に感じられるようにする環境づくりも工夫のひとつです。
調理室には子どもの視点からでも室内の様子がよく見えるよう、大きな窓がついています。朝登園すると、調理台のうえにさまざまな食材が並んでいる。それが調理されて、しだいに美味しそうな香りが漂ってくる……。
子ども達は食材や調理する職員の姿を見ながら、給食に対するモチベーションを高めていくことができます。
見守るだけじゃない!緻密な観察をもとにした「給食会議」
ここまで紹介してきたように、セミ・バイキング形式を給食に取り入れるだけでなく、子どもの偏食に対するフォローや食の環境づくりなど、さまざまな工夫を凝らしているさくらしんまち保育園。
じつはもうひとつ、重要な取り組みとして月に一度、「給食会議」というミーティングを開いているのだそう。
その会議の内容や目的について教えていただきました。
編集部:「給食会議」とはいったいどのようなミーティングなのですか?
小嶋:給食会議は、子ども達一人ひとりの食事についてその様子をくわしく観察し、抱えている課題やその解決法を検討するための会議です。
編集部:具体的にどのようなことをするのでしょうか?
小嶋:まず会議の前には、担任が分担し、子ども達一人ひとりの食事の様子について詳しく資料に記載します。
小嶋:会議には栄養士や、園長である僕や主任、副主任なども参加し、それぞれの子どもの食事の様子について議論します。
たとえば、食具がうまく扱えずに食が進まない子がいれば、「いったん手づかみ食べに戻してみよう」、残りがちな食材があれば、「刻みを細かくして提供してみよう」というように、課題をどう解決していくか、皆で話しあって検討するんです。
見守ることと緻密な観察とは「車の両輪」
編集部:子どもの思いや選択を尊重し、見守る姿勢を大切にするいっぽうで、細かく子どもの食事の様子を観察し、対応について話し合っているのですね
小嶋:「おおらかさを持って子どもを見守ること」と、「緻密に子どもの様子を観察していくこと」は、いわば車の両輪のようなもの。
子ども達の成長を支え、後押ししていくためにはいずれも欠けてはならない要素だと考えています。
「食」から子ども達を理解するという姿勢
編集部:さくらしんまち保育園において「食」というものがいかに重視されているかがわかります
小嶋:僕は「食」とは「CTスキャン」のようなものだと考えています。
子どもの食事の様子や食べる量、好きなものや苦手なものを知れば、たとえば手先の発達状況だったり、家庭での食生活や就寝時間だったり……いろいろなことが見えてくる。
子どもの食を知るということは、子ども全体を知るためにも欠かせないことだと思います。
編集部:偏食を解消するためにバイキング給食を取り入れる、食育のために給食会議を実施する……ではなく、あくまで子どもを理解し、育ちを支えるために現在の給食スタイルや、工夫の数々があるのですね
子ども達が将来「ステキな食の世界」に出会えるように……
編集部:最後に、さくらしんまち保育園での食を通じて子ども達になにを得てほしいか、小嶋園長の想いを聞かせてください
小嶋:「毎日楽しく食べることができる」ということは、本当に幸せなこと。僕ら大人だって仕事で大変なときや落ち込んだときに、「今日はお昼になにを食べよう」「今晩はあれを食べよう!」そんなことを考えるだけで、楽しみな気持ちになりますよね。
子ども達にも将来、そんなステキな「食の世界」を知ってほしい。
だからこそ、これからも子ども達を、そして子ども達の食をしっかり見守っていきたいと思いますね。
保育士・保護者の見学も大歓迎!
取材の最後に「見学や取材は大歓迎です!」と話してくださった小嶋園長。
さくらしんまち保育園の保育内容に興味のある保育士さん・保護者の方は、子どもを尊重し、あたたかい保育を実践する園の雰囲気を肌で感じてみてはいかがでしょうか。
【さくらしんまち保育園ホームページはコチラ】
園情報の詳細や連絡先はホームページに掲載されています!
http://www.sakurashinmachihoikuen.com/
取材後記
編集部:隅さん、今回は取材にご同行いただきありがとうございました。さくらしんまち保育園の給食の様子を見て、どのように感じましたか?
隅:「保育園の給食がバイキング!?」最初に編集者の方から聞いたときは驚きました。
バイキング形式の給食は、まだまだ実施している園が少ないと思います。私自身、興味津々で同行させていただきましたが、ただ「やってみよう」と始めたのではなく、保育方針に則り実践されていることに大いに感動しました。
給食はこどもの成長のために「栄養を摂取する時間」としてあるだけではない。そのことが、日常の一コマとして体現されていましたね。
食育への取り組みが、大きなイベントや特別な活動の企画ではなく、ごく自然に日々の保育のなかに溶け込んでいることが、よくわかりました。
とくに、「豊かな食行動の実践」のために小嶋園長先生をはじめ、保育士の先生および栄養士の先生など専門職の先生方が集まって行われる給食会議は、すばらしい取り組みでした。
これもまた、「一人一人に応じた」という園の原則に沿って、真剣に取り組まれていることが成功の秘訣となっているのだと思います。
それぞれの園の状況、場合によっては食物アレルギーや宗教上の理由などで食事に工夫が求められるケースも多々あることでしょう。ですが、できる環境の中で、園長先生をはじめ、保育士、栄養士そして保護者それぞれが、「食べること」を「知育・徳育・体育にもつながる、子どもの成長を支える生活習慣」として捉えていただける……そんな園が増えるといいなと感じました。
編集者より
セミ・バイキング形式という給食提供方法の珍しさや、子ども達の偏食がなくなったということで注目を集めるさくらしんまち保育園。しかし、取材を通じて感じたのは、そのまなざしがあくまでも「子どものよりよい育ち」に向けられているということ。
その確固たる「根っこ」を持って実践しているからこそ、セミ・バイキング形式の給食も、毎月の給食会議も、子ども達の笑顔と成長につながっているのでしょう。
「僕らは“食育”という言葉をあまり使わないんです」
取材のなかでそう話してくれた小嶋園長。その言葉からは、食育がなにか特別なイベントや定例行事としてではなく、日々の保育、園での子ども達の生活そのものに自然と溶け込んでいることがうかがえました。
隅 弘子(すみ ひろこ)さんについて
・管理栄養士/こども成育インストラクター食専科ディレクター
・母子栄養指導士
相模女子大学学芸学部食物学科管理栄養士専攻を卒業後、集団給食・FC展開支援・外食産業、グルメ探訪などの業務に携わる。30才を前に、より食のことを本質的に学びたいと本格的に学び直す。
その後、自身の妊娠・出産を機に「子育てを自己のキャリアとして積むことができる」と確信。2013年より、「ママの笑顔がいっぱい(ful)な世の中になりますように」という思いから、mamaful(ママフル)を立ち上げる。
現在はフリーランスの管理栄養士として、セミナーでの講演や、子育て支援施設での栄養相談を担当するほか、母と子の食事に関して、アドバイスできる人材を養成するための講座において、講師を務めている。
- 【主な講座】
- 一般社団法人 日本こども成育協会
・こども成育インストラクター - 一般社団法人 母子栄養協会
・妊産婦食アドバイザー
・幼児食アドバイザー
・学童食アドバイザー 他
参考文献・サイト
- 厚生労働省『保育所における食事の提供ガイドライン』(2019/7/3)