ご自身もお子さんを育てながら保育士として働いていると「もし自分の勤務先に、我が子を預けることができたら……」と考えることもあるのではないでしょうか。通勤も一緒で安心、何かあった時もすぐに様子が分かるかもしれない、と期待が膨らむ一方で、「周りの目が気になるかな?」「仕事とプライベートの区別がつきにくくなるかも?」といった不安や疑問も頭をよぎるかもしれません。
この記事では、そのように悩んでいる保育士のために、ご自身の勤務先にお子さんを預ける場合に考えられるメリットや、知っておきたいデメリット、そして事前に心にとどめておきたい注意点などを、分かりやすく丁寧にお伝えします。
実際に勤務先に預けた経験のある先輩保育士のアンケート結果もご紹介しますので、ご自身やご家族にとって良い選択は何かを考える上で、ぜひ参考にしてください。
【この記事で分かること】
- 子どもを自分の勤務先に預けるメリット・デメリット
- 他の施設に預けるメリット・デメリット
- 自分の勤務先に預けたときの注意点
もくじ
自分の子どもを自分の勤務先に預けられる?

自分の子どもを勤務先の保育園に預けることは可能ですが、あまり歓迎されていないケースが多く見られます。ただし、最近では保育士確保のため、勤務先に自分の子どもを預けることを積極的に推奨している園も増えています。
2017年には、内閣府子ども・子育て本部より「保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて」という通知がなされました。この通知は保育士が勤務先に子どもを入園させることを、他の保育園への入園と同様に認め、優先的に入園を促すことで、保育士の就労と子育ての両立を支援するものです。
自治体によっては「保育士等優先入園」の制度を設けているところもあり、保育士の子どもの入園選考において加点や優遇措置を実施しています。優遇措置により、保育士の人材確保や就業継続支援の体制が整いつつあります。
※参考:渋谷区.「保育士等優先入園の条件について」.https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kodomo/hoiku/chosa-kijun/hoikushi_yusen_joken.html ,(参照 2025-05-19).
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
保育士の子どもの優先入所は、育児と仕事の両立を支える大切な仕組みです。出産後も保育士が復帰しやすい環境を整えることで、潜在保育士や育児休暇中の保育士が現場に戻り、より多くの子どもたちを受け入れることが可能になります。こうした「長く安心して働ける環境」は、保育園の定着率の向上、それに伴う保育の質の向上にもつながるでしょう。
保育士へのアンケート結果では7割以上が「自身の勤務先に子どもを預けたいと思わない」と回答
「保育のお仕事レポート」では、保育士100人に勤務先に子どもを預けたいかどうかに関するアンケートを実施しました。
回答結果を見ると「他の職員に気を遣うから」「仕事とプライベートを混同したくないから」といった理由で、勤務先に自身の子どもを預けることを希望しない保育士が全体の7割以上でした。
その他にも「我が子のことでは、素の“親”として関わりたい(40代/女性)」「気になって仕事に集中できない。(30代/女性)」「我が子を悪く言われたくない。(30代/女性)」「子どもにとっても良くないと思う。(20代/女性)」などの意見もあります。
実際に勤務先に子どもを預けた、具体的なエピソードも一部紹介します。
「なるべく子どもの目に入らないようにしていたが、見つけてしまった時は大泣き。泣いてるのにそばに行ってあげられないのは正直辛かった。(30代女性)」
「同僚に気を遣わせてしまう、我が子が困惑してしまう、通勤ラッシュに子どもを巻き込んでしまう、などマイナスに感じることが多かった。(30代女性)」
他にも、子どもの行事に参加できない辛さを訴えるケースがあり、デメリットを感じる回答が多く見られました。
▼アンケート結果の詳細はこちら

自分の子どもを自分の勤務先に預けるメリット・デメリット

保育のプロとして、日々多くの子どもたちの育ちを支えている皆さまでも、いざご自身の子どもの預け先を選ぶとなると、また違った視点で深く悩まれることと思います。中でも、「自分の勤務先に預ける」という選択肢は、仕事の延長線上に子育てがあるような安心感と、逆に公私の区別が難しくなるかもしれないという心配が入り混じり、簡単には決められない複雑さがあるのではないでしょうか。
この記事では、そうした保育士ならではの視点も大切にしながら、ご自身の子どもを勤務先の保育園に預ける場合に考えられるメリットとデメリットについて、一つひとつ丁寧に解説していきます。
メリット
勤務先の保育園に子どもを預ける際のメリットは、送り迎えが不要になり、通勤時間の短縮や時間の有効活用ができることです。子どもを保育園に連れていく時間がなくなり、保育園の支度や家事の時間に余裕を持てるようになります。
また病気やけがなどの緊急事態が発生した際に、すぐに駆けつけられるのも保護者としては安心材料といえます。保護者としての心配要素が減り、仕事に集中できる環境作りにもつながります。
気心の知れた同僚の保育士に、子どもの成長を日々見守ってもらえるというのもメリットです。子どものちょっとした変化や成長の喜びを分かち合ったり、育児でふと悩んだ時に相談をしたりする際にも、遠慮なく話せる関係性がすぐそばにあるのは、働く保育士さんにとって大きな心の支えになるでしょう。
勤務中でも子どもの様子を確認しやすく、成長の過程を見守れることもメリットといえます。園での様子が把握しやすいのは、働く親にとって大きな喜びといえるでしょう。
デメリット
一方で、勤務先の保育園にお子さんを預ける際に、少し気がかりな点として挙げられるのが、やはり他の先生方に対して「必要以上に気を遣ってしまうのではないか」ということかもしれません。例えば、もしご自身のお子さんがお友達と何かトラブルを起こしてしまったときや、なかなか泣き止まずに先生の手をわずらわせてしまっているときなど、「一人の保護者」としての気持ちと、「同じ職場で働く同僚」としての立場の間で、どう振る舞えば良いか少し戸惑ったり、申し訳なく感じたりする場面も出てくるかもしれません。そうした状況で、「自分の子のことで、他の先生方に余計な負担をかけてしまっているのではないか」と、つい心配になってしまうこともあるでしょう。
仕事中も子どもの存在をすぐそばに感じることで、かえって「仕事に集中しにくいな…」と感じる場面が出てくるかもしれません。ふとした瞬間にお子さんの泣き声が聞こえてきたり、園庭で楽しそうに遊んでいる姿が目に入ったりすると、嬉しい反面、ついそちらに意識がいってしまうこともあるでしょう。特に、お子さんが入園したばかりで新しい環境に慣れるまでは、心配でつい様子が気になってしまうのは、親として自然なことです。
園の行事に保護者として参加できないことも、デメリットの一つです。特に入園式や卒園式、運動会などの行事では、子どもの晴れ姿を保護者として十分に楽しめず、後々になって寂しさを感じることもあるでしょう。
他にも、子どもが活動中に自分の姿を見つけて泣き出したり、甘えてきたりして、他の子どもたちの保育に支障を来す可能性もあります。
自分の子どもを他の施設に預けるメリット・デメリット
職場と子育ての場を分けたい、あるいはもっと純粋に子どもに合った園を選びたい、そんな思いから、勤務先とは別の保育園に子どもを預けることを考える保育士さんもいらっしゃるかもしれません保育士として働く際、勤務先とは異なる保育園に預ける選択肢があります。以下では、自分の子どもを他の施設に預けるメリット・デメリットについて詳しく解説します。
メリット
勤務先とは別の保育園にお子さんを預けるメリットは、職場の同僚や他の保護者の方へ過度に気を遣うことなく、ご自身の仕事に集中しやすくなる点です。仕事と家庭の切り替えもしやすくなり、生活にメリハリが生まれると感じる方も多いようです。子どもにとっても、保育園での時間と家庭での時間、それぞれの区別がつきやすくなるという面もあるでしょう。
また純粋に「一人の保護者」として、園に対して意見や要望を伝えやすいというのもメリットといえます。勤務先の人間関係やご自身の立場などを気にすることなく、我が子のために思ったことや感じたことを素直に伝えられるのは、精神的な負担も少ないでしょう。他の保護者の皆さんとも、対等な立場で自然な関係を築きやすいというメリットも期待できます。
デメリット
デメリットは送り迎えの手間がかかることです。勤務先と異なる施設に子どもを預けると、通勤時間が増加します。特に天候が悪い日や交通渋滞がある場合は、さらに送迎に時間がかかるでしょう。急な残業や会議が入った際の対応も課題となり、柔軟に対応することが難しいです。
子どもにトラブルがあった際に迅速な対応ができないのもデメリットといえるでしょう。体調不良やけがなど、緊急事態が発生した場合、即座に駆けつけることが困難です。子どもが近くにいないため、保護者として不安になることもあるでしょう。
また自分の子どもを預けながら、他の子どもの保育をする状況に矛盾を感じるかもしれません。
保護者として自分の子どもに十分な愛情と時間を注ぎたい気持ちがある一方で、保育士として他の子どもたちのケアに専念する必要があり、この状況に心理的な葛藤を感じることがあります。
特に、行事や特別な活動がある日には、自分の子どもの大切な瞬間に立ち会えないことへの後ろめたさや、保育士としての責任との間で板挟みになることもあるでしょう。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
保育士が自分の子どもを他の施設に預けると、職場と家庭の切り替えがしやすく、子どもも家庭と保育園の時間の区別がつきやすくなるなどのメリットがありますが、送り迎えの手間や急なトラブルへの対応が難しくなるといったデメリットもあります。そのため、生活リズムや通勤・送迎の負担、勤務環境の柔軟性を考慮して、自分と子どもにとって最もストレスの少ない方法を選ぶことが重要です。
自分の勤務先に預ける際の注意点

保育士として働きながら、自身の子どもを勤務先の保育園に預ける際には、いくつかの注意点があります。以下では、円滑な受け入れのために確認すべき注意点について詳しく解説します。
- 勤務先の許可を事前に得る
- 保育は子どもの担任に任せる
- 他の保護者に自身の子どもがいる旨を伝えない
勤務先の許可を事前に得る
勤務先によっては、保育士の子どもの受け入れに関する規定や制限を設けているケースがあります。そのため、事前に施設長への相談と確認が必要です。施設の保育方針や受け入れ体制、職員配置の状況についても詳しく確認しておきましょう。
保育園では定員に空きがないと預けられないため、入所希望の数カ月前から空き状況を確認し、必要な手続きや書類の準備を進めることが重要です。
万が一入所できない場合の代替案についても、事前に検討しておきましょう。
保育は子どもの担任に任せる
ご自身も保育のプロであるからこそ「もっとこうしてあげたい」「こうした方が……」と、つい色々な考えが浮かんでしまうでしょう。それでも、お子さんの健やかな成長と発達のため、そして何よりも担任の先生との信頼関係を育むために、先生の保育方針を尊重し、まずは温かく見守ることを心掛けてみてはいかがでしょうか。
担任の先生に保育を信頼して任せているという姿勢を明確に示すことは、職場内の良好な人間関係を保ちやすくなり、子ども自身も安心して園生活を送れるでしょう。そしてそれは、クラス全体の保育環境がより良いものになっていくことにもつながるはずです。
他の保護者に自身の子どもがいる旨を伝えない
他の保護者に自分の子どもが同じ園にいることは、できるだけ伝えない方が良いでしょう。
自分の子どもが同じ園にいることが知られると、特別扱いを受けているのではないかと他の保護者からの誤解を招く可能性があります。他の子どもたちへの対応との違いを指摘される可能性もあるため、慎重な対応が必要です。
特に保育施設内での子どもとの関わり方や、他の保護者とのコミュニケーションには細心の注意を払いましょう。
ご自身の中で「保育士」としての役割と「保護者」としての役割を上手に切り替え、仕事中は、ご自身のお子さんだけを気にかけたり、特別な態度で接したりすることがないよう、他のお子さんたちと同じように公平に関わることを心掛けましょう。他の保護者の方々と接する際も、まずは一人の保育士としての立場から、丁寧な対応を意識できると素敵です。
そうした一つひとつの細やかな配慮の積み重ねが、園全体の温かく良好な雰囲気を育み、すべての子どもたちの健やかな成長を支えることにもつながるはずです。
託児所付きの職場を選ぶのも手段の一つ
子どもを預けられる保育施設が併設されている職場もあります。託児所付きの職場は、働く親たちにとって大きな安心感をもたらすだけではなく、仕事に集中できる環境を整えることにも最適です。
近年、勤務先や同事業者の運営する施設内に、従業員が利用できる託児施設があるケースが増えています。
福利厚生としてかかる保育費用の全額または一部を補助してもらえることもあり、経済的な面でも大きなメリットです。特に都市部では保育費用が高額になる傾向があるため、補助は重要な支援となっています。
さらに、職場によっては延長保育料金の補助や、病児保育のサポートなどの支援を提供しているケースも見られます。
ただし託児所は職場とは別の場所にある場合もあるので、事前に場所や送迎方法、開所時間などの条件を詳しく確認することがおすすめです。また空き状況や入所条件についても早めに問い合わせることが大切です。
託児所のカリキュラムや保育方針、スタッフの資格や経験なども確認しておくと、より安心して子どもを預けられるでしょう。
▼託児所付きの職場に関する詳しい情報はこちらから

まとめ
保育士が自身の子どもを勤務先に預けることには、さまざまなメリット・デメリットがあります。子どもの様子を直接確認できる安心感や通勤時間の短縮といったメリットがある一方で、保育士や親としての線引きが難しくなるというデメリットもあります。
子どもを勤務先の園に預けるかどうかを決める際には、やはりご自身の職場の雰囲気や、ご家庭の状況などをよく考え合わせ、じっくりと検討することが大切になってくるでしょう。それぞれの状況に合った選択をし、必要な配慮や工夫を重ねていくことで、子どもにとってより良い保育環境を整えていくことができるのではないでしょうか。
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監修者情報

礒部はるか
保育士資格・幼稚園教諭一種免許状を保有。大学卒業後、学童・児童館にて保育士として従事。その後、保育園にて乳幼児クラスを担当。現在は複数の保育メディアにてライター・編集者・監修者として活動。