子どもたちの思わぬ行動や、突然の様子の変化に「ドキッ」としたことはありますか?保育士さんや幼稚園の先生として長く活躍されている方なら、そんなヒヤリハット体験もお持ちなのではないでしょうか。本日は保育園でのさまざまなヒヤリハット事例を集めてみました。今後の事故防止に活かしていきましょう!
1つの事故には300のヒヤリハットが隠れている!
「ハインリッヒの法則」をご存じでしょうか?これは1件の重大な事故の背後には、29件の軽い事故があり、300件のヒヤリハット事例が存在するという考え方です。例えば2014年度の保育施設での死亡事故は17件。この事故の裏には5100件以上のヒヤリハットが潜んでいるのです。
保育士さんにヒヤリハット経験の有無を聞いた、弊社のアンケートでは、回答者全員が「経験あり」と回答する結果に。重大な事故を防ぐためには、これらのヒヤリハット事例を共有し、考えられる危険を取り除くことが必要なのです。では、実際にどのようなところに危険が潜んでいるのでしょうか。
最も多いのは「転倒・衝突・遊具使用中のケガ」
自社アンケートでは、最も多くの方が危険を感じたことがあるのは、「転倒」「衝突」「遊具を使用中のケガ」でした。
◆みんなが経験した”ヒヤリハット”ランキング◆ | |
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1位 | 転倒 |
2位 | 衝突 |
3位 | 遊具を使用中のケガ |
4位 | アレルギー |
5位 | 転落 |
6位以下 | 誤飲・のどに詰まらせる・与薬に関するもの・制作活動中のケガ・睡眠時の事故・プールなど水の事故・やけど・持病発作 |
・実施期間:2015年1月8日~2月21日
・実施対象:保育士(93.3%)・幼稚園教諭(6.7%)
・回答者数:15人(平均年齢:27.3歳)
・男女割合:女性/86.7% 男性/13.3%
転ぶ、ぶつかる言っても、もしも頭を棚の角に打ち付けたら?顔面を強打したら?最悪の場合、大きな事故にもつながりかねません。まずは上位にランクインした項目から、その事例を見てみましょう。
◆転倒
外遊び中、3人の子どもが仲良く手をつないで歩いていた。途中からエスカレートし、3人横並びで走り始めた。両端の子どもの走るスピードが違いすぎて、真ん中の子が転んでしまう。3人はとっさに手を放すことができず、つられて転倒。真ん中の子は腕をねじってしまい、両端の子はそのねじれた手の上に転ぶかたちになった。
上記は脱臼や、最悪の場合は骨折などにもつながる事例です。手をつないでいて顔面をかばえないため、頭部のケガの可能性もあります。手をつないで走ることの危険性が、理解できていなかったことも原因でしょう。
□ 子どもたちが脱臼しやすいことを伝える
□ 腕は引っ張らない、手をつないで走らないよう言い聞かせる
□ レクなどで手をつないで行動する時はゆっくり歩くよう声掛けをする
◆衝突
走っていて、家具や木に衝突してしまった。
未満児クラスだと子どもが小さいので,足元にいることに気がつかず、当たってしまいそうになり、ハッとすることがある。
事例2の場合には、まず構造上衝突がおこりやすい仕組みがあるかもしれません。また衝突しても安全なよう配慮も必要でしょう。事例3の場合には、心がけのみでなく、下が見えにくくなっている要因がないかも検証の必要があります。
□ 衝突が起こりやすい場所を把握する
□ ぶつかりやすい家具のコーナーなどには緩衝材を付ける
□ 動きやすいよう、足元にあるおもちゃなどは定期的に片づける
□ 子どもがいることが感じにくいような分厚いジャージは避ける
□ 髪はしっかりとまとめ視界を邪魔しないようにする
◆遊具を使用中のケガ
走って遊んでいた子どもが、ブランコで遊んでいる子どもの前を通ろうとして、危うくぶつかりケガを負わせてしまう所だった。
園児がジャングルジムに登った時に、予想よりも早く登ってしまい、一番上の高いところで両手を離した時にまさに「ヒヤリハット」を感じた。
どちらの事例でも、保育者の手が届かなければ大ケガにつながりかねません。屋外の遊具の場合には、頑丈な素材が使われているため、少しぶつかっただけでも、ケガにつながるケースも多くあるでしょう。
□ 遊びの際の目配り、気配りは十分に気を付ける
□ 危険度が高い遊びであれば、必ず保育士が傍に付く
□ ブランコの可動範囲などにはフェンスを設ける
呼吸が止まる…こんな事例は特に注意して!
ヒヤリハットの中でも、特に注意しなくてはならないのが、呼吸が止まってしまう可能性のある事例。死亡事故につながりかねないリスクは、早急に取り除く必要があるでしょう。
◆食べものを詰まらせる
リンゴを食べていて急に苦しそうになり、一瞬、チアノーゼになった。背中をトントンしたが何も出なかった。チアノーゼになったということで救急車で病院へ。肺にしっかり空気が通っているので、「異常なし」との診断であった。
子どもの噛む・飲み込む力が十分に発達していないと、のどに食品を詰まらせる可能性が高くなります。とっさの応急措置法を学んでおくとともに、その子に合った、かみ切れる大きさ、固さに調整することが大切です。
□ 一口サイズで吸い込みやすい食品はすりつぶすなど工夫する
□ 必ず傍について食べさせる
□ 1人ひとりの咀嚼力や嚥下の能力を把握し共有する
◆食物アレルギー
小麦やエビなど多くのアレルギーがある1歳児に、同僚の保育士が、他児と同じ小麦入りのクッキーを配ってしまった。未然に防ぐことはできたがドキッとした。
食品アレルギーは、アナフィラキシーショックを起こす可能性があるなど、生命に直結するもの。職員間の情報共有不足と、誤って一般食を配膳しない物理的な対策が必要です。
□ 調理の際、受け渡しの際、配膳の際に複数人で指さし確認する
□ 色のついた食器で提供するなど、見た目でわかる工夫をする
□ 名札にアレルギー食材を書き注意喚起する
□ 除去食を先に配膳する工夫を行う
◆睡眠時無呼吸症候群(SIDS)
0歳担当。本人、および家族兄妹に痙攣の経験あり。朝の受け入れから、体調、表情が、いつもと違う感じ。 午睡時その子が気に掛かり、そばに付き見守る。呼吸、痙攣、目の動きに変化があり、即職員や保護者に連絡。すぐ救急を手配した。
SIDSは発見の遅れが命取りになります。この事例の場合には、既往症の確認や、朝の様子の変化への気付きがあり、見守りが徹底できていたため、大事に至らなかったものの、一歩間違えば命の危険があったでしょう。
□ 保育士間で連携をとり既往症の把握をする
□ 朝の視診での変化を見逃さない
□ 家庭での様子をきちんと聞いてリスクを把握する
□ 子どもの体調、表情、動きの変化を見逃さない
□ 午睡の時は定期的に呼吸のチェックを行う
◆ひもが首にからまる
その他、壁に下げたバッグのひもに、首が絡まったという事例も。カーテンなども危険性があるとされています。身の回りの衣類や布製品なども、危険がないか、今一度見直してみましょう。
防げなかった死亡事故…情報共有不足が原因
次の日、床のおもちゃ箱にはいつも通り昨日のレモンが…。夕方のお迎え対応の時間、少し目を離したすきに、1歳児がそれを口に入れ…誤嚥窒息で亡くなりました。
小さなことでも情報を共有することは、本当に重要です。アンケートでは、園内でヒヤリハット事例の共有ができているかという質問に対し、「できていない」という回答が20%ありました。子どものため、そして自分自身を守るためにも、日常に潜むリスクを、皆で共有し、安全な環境を作っていきたいものですね。
編集者より
人には楽観バイアスという「都合の悪いことは見ない、考えない」心理が自動的に働くのだそう。他の園で起こっても、うちでは大事には至らないだろう…という油断は、重大な事故につながりかねません。
多くの園で集められた、ヒヤリハット事例を見ることで、自園ではリスクとして認識していなかった部分に、着目することにもつながります。参考資料などにも、多くの事例が紹介されていますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
参考文献・サイト
- 保育所におけるリスク・マネジメント|ヒヤリハット/傷害/発症事例 報告書