保育士の悩み

ケーススタディから学ぶ!保護者からの相談&対応事例集

核家族が増え、家庭環境も複雑となっている現在、保育士さんが保護者から相談を受ける機会も少なくありません。保護者が抱えている不安を和らげたり、適切なアドバイスを提供するためには、保育に関しての知識やソーシャルワークの技術の他、職員間での相談事例の共有や対応経験の蓄積も必要となってくるでしょう。今回は保育士さんを中心とした読者さまに、相談の事例と対処法をお伺いしました。

30%以上の保育士さんは週に数回保護者からの相談を受ける!

笑顔の女性のイラスト
近年、子どもたちを取り巻く家庭環境はより複雑となり、保育士は子どもたちのお世話のみでなく、家族支援を行うことも重要となっています。また児童福祉法の改正により、地域の子育て支援の必要性も高まっています。そこで今回は実際に保育現場で働く保育士や幼稚園教諭の皆さまに、保護者から多く寄せられる相談内容やその対応方法を伺いました。
 
今回アンケートにご協力いただいたのは、保育士を中心とした44名の読者の皆さま。まずは日常の保育業務で、どれくらい保護者から相談を受ける機会があるか伺ったところ、「ほぼ毎日ある」と回答したのは25.0%、「週に何回かある」と回答したのは31.8%、「月に何回かある」が25.0%、「年に数回程度」「ほとんどない」と回答したのはそれぞれ9.1%と、多くの方が定期的に保護者から何らかの相談を受けていることがわかりました。
 
相談に関する自社調査グラフ1
 

よくある相談内容は?

悩む女性のイラスト
続いて、保護者から寄せられる相談のうち最も頻繁な内容はどのようなものか伺ったところ、最も多かったのは「子どもの発育状況に関する悩み」で29.5%、次いで「子どもとの接し方に関する悩み(18.2%)」「子どもの問題行動(かんしゃく・噛みつき)に関する悩み(15.9%)」という結果となりました。
 
相談に関する自社調査グラフ2
 

具体的な相談例と保育士さんの対応集

指示棒を持つ保育士さん
ではここからは実際に保育士さんが受けやすい相談の事例と、対応例をご紹介していきましょう。

◆子どもの発達状況に関する悩み◆

◇歩行に関する悩み◇
【相談内容】
1歳3ヵ月を過ぎても歩かないのですが、この子は歩くのか?と心配な気持ちを伝えられた。
【対応事例】
自分自身も歩くのが遅く、1歳半で立って歩きだしたという自分のエピソードを話して、「私のような子もいるので、もう少し待ってあげてみてください」と話した。
【ポイント】
発達に関しては、個人差があるにもかかわらず、周囲と比較されて焦りや不安を抱えている保護者の方もたくさんいらっしゃいます。個人差がある旨や、園でのちょっとした変化を伝え、ゆっくりと見守っていく姿勢を示して不安を軽くしてあげましょう。また足の発達に役立つ運動遊びなどを紹介してあげても良いですね。事例のように保育経験や育児経験で、歩行の開始が遅かったケースがあれば、伝えてあげると良いでしょう。

◆子どもの接し方に関する悩み◆

◇言うことを聞いてくれない…◇
【相談内容】
家で言うことを聞かない。食事中立ってしまったり手がかかる。保育園ではできているようなのに、どのようにしているか知りたい。
【対応事例】
「ご家庭に帰ると安心して頑張った分甘えているのかもしれませんね。」などと伝える。
【ポイント】
園ではどのように声掛けをしているか、どのような様子かなどは都度伝えるようにしていきましょう。自宅だけで問題が生じている場合には、その理由がわからずに自分を責めてしまう保護者もいるので、かまってほしいあるいは安心しているためなど、プラスの部分も伝えたうえで、具体的に実践できる声掛けや対応の工夫を伝えてあげると良いでしょう。
◇甘えがひどく…◇
【相談内容】
下の子ができてから甘えがひどい。赤ちゃん返りをする。
【対応事例】
ちょっとした時間でも、二人きりの時間を作ってみてほしい旨や、言葉で「大好きだよ」と伝えてほしい旨を伝える。
【ポイント】
赤ちゃん返りの原因などを伝え、事例のように具体的な対応を示すことで、ご自宅で保護者も実践がしやすくなります。イライラして怒ってしまうなど相談を受けることもあるかもしれません。その場合も下の子のお世話で大変なことに共感を示し、保護者の頑張りを認め、その上で避けた方がよい言葉かけや、逆に不安や寂しさを取り除く工夫を伝えると良いでしょう。
◇子どもの友だちとの関係が心配◇
【相談内容】
友だちに入れてと言ったけど、ヤダと言われ、遊びに入れてもらえない事があるらしい、仲良しの子と遊びたいけど、自分の意見が通らないらしいなどの心配の声を受けた。
【対応事例】
園でも把握してることなので「おうちでもお話ししてるんですね。」と同調してから こちらからも声をかけて仲裁している旨や、あらためて相手の子にも話してみる旨保護者に伝える。両者の意見を聞きながらじっくり今後について話し、保護者には、都度報告をする旨を伝える。数日後には、再び保護者と話す。
【ポイント】
子ども同士の交友関係などは、即時での解決は難しく、継続的なフォローが必要となります。子ども同士の様子とともに、保育者の働きかけ方、それによってどのような変化があったかなど、詳しく伝えていきましょう。ケンカをしてしまう場合などは、保護者にもしっかり話を聞いてあげて同調してもらえることで不安や悲しい気持ちの払しょくにつながることや、言葉で伝える方法などを伝えてあげると、子どもの気付きや成長にもつながっていくことでしょう。

◆かんしゃくや噛みつきなどの問題行動に関する悩み◆

◇イヤイヤ期の偏食が…◇
【相談内容】
いやいや時期で好きなものしか食べない。炭水化物と糖質しか摂らないが大丈夫なのか?これはずっと続くのか。
【対応事例】
見た目を変えるなど、調理法や味付けに関する工夫を伝える。
量の加減を行い、しっかり食べられたら誉めてあげることで、自信を付ける工夫や、気長に見守ることを伝える。
【ポイント】
まずその年齢で必要な栄養素など、客観的な情報を把握しておくことは必要です。園での給食やおやつの摂取状況や栄養バランスについて伝え、しっかり食べているならば、園ではしっかり栄養が摂れていることを伝えましょう。ご自宅でのおやつの状況などによって、食事に集中しにくい環境ができてしまっていることもあります。責めたり問い詰めたりする雰囲気にならないよう注意しつつ、ご自宅での状況を伺っていくのも良いでしょう。栄養バランスが良く、子どもが好むおやつのアイデアなどを伝えてあげても良いですね。
◇噛みついたり叩いたりする行動が直らない◇
【相談内容】
1才児クラスで、自分の気持ちが伝わらないと兄弟に噛みついたり叩いたりしてしまう。ダメと伝えても一向に減らない。
【対応事例】
まだ、自分の気持ちを言葉に出すのが難しい時期で、自分が思ったようにならず悔しいのかもしれないということを伝える。親御さんが「○○だったの?」とお子さんの気持ちを代弁してあげたり、共感してあげると気持ちが落ち着くかもしれない旨、その後に「○○って言うんだよ」と 言葉に出して伝える方法を教えると少しずつ言葉にだして伝えることを覚えること、そうすれば手が出るのも減ってくるとお伝えした。
【ポイント】
問題行動を繰り返すと、保護者の方が自分自身を責めてしまうことも考えられます。事例のように原因やその年齢の発達段階など客観的な事実に触れ、具体的な声掛けの方法などを伝えてあげることは、大変重要でしょう。合わせて園での様子も気になることが予想されますので、連絡帳などで都度伝え、できたことを伝えてあげるとより信頼関係が築けるでしょう。
◇夜泣きについて◇
【相談内容】
夜泣きをしてしまい、対応に困っている。なかなか夜泣きがなくならないため、心配している。
【対応事例】
脳の発達、発育の段階で起こる。「脳が騒ぐ」とも言われているが、日中起こったことを整理しているとも考えられている。など事実を説明したうえで、自分の経験談なども交える。
【ポイント】
夜驚症や睡眠サイクルの不安定さなど、夜泣きの原因はさまざまです。お家での状況を詳しく聞いたり、園での午睡の様子を伝えたり、相互のコミュニケーションから原因を一緒に考えていく、また泣き止ませるための日々の保育ノウハウを伝えてあげても良いでしょう。夜泣きが続く場合の保護者の方のストレスは相当なものですので、そういった大変さに共感を示し、受け止めてあげる姿勢も重要です。

◆発達障害に関する悩み◆

◇多動傾向があると言われ…◇
【相談内容】
多動傾向ありと検診で言われたが、診断名がつかないので困っている。小学校就学時に、普通学級と支援学級どちらにしようか迷っている。
【対応事例】
園での様子を伝えたり、かかりつけの医師との連携をはかったりしている。就学時には、保護者、本児、園長、担任、小学校の校長、教頭、教務主任、学年主任で話し合いの場をもうけるようにしている。
【ポイント】
発達障害に関する相談は、大変繊細な内容を含んでいますので、診断名を決めつけたり、安易に「大丈夫」などと言わないことが大切です。自治体ごとの発達障害支援センターを紹介したり、専門機関との連携を取ったりしつつ、園ではどのような支援によって、子どもがより困難を抱えずに生活を行えるようにするか、話し合い、都度伝えていくように心掛けましょう。
◇就学に関して心配…◇
【相談内容】
務めているのが療育施設なので、独特な相談内容だが、今の状態から、どのようにして就学につながるのかという内容が多い。
【対応事例】
今まで担任になり、卒園していった子どもたちの実例や、各地域の小学校の現場の実態、市の教育委員会の研修で得た情報などの中から、その子に合うであろう内容をアドバイスしている。
【ポイント】
発達障害がある場合には、就学について情報が少なく、不安を抱える保護者の方も多くいらっしゃいます。特に普通学級に進むか、特別支援学校や特別支援学級に進むかなど、迷うケースも多いでしょう。地域の教育委員会では就学相談を受けつけており、進路についてのカウンセリングや検査を行っています。そういった情報の提供や各機関との連携、今までの事例の紹介を通じた適切な助言が求められるでしょう。

 

相談を受ける中で気を付けている点は?

困惑する保育士さん
保育士にとって、保護者から受けた相談への対応は、信頼関係に大きく結びつき、場合によってはトラブルにも繋がりかねないため、その対応には十分な配慮が求められます。日頃保育士さんが実践されていることを一部ご紹介します。

◆否定をしないこと◆
・言っていることを否定しない。一度受け入れた上で、こちらの意見、考えを話すようにしている。(40代/女性)
 
・保護者の方の自信を損なわないように気を付ける。親としてのプライドを認めつつ、前向きに子育てできるよう言葉をかける。(40代/女性)
 
・否定的なことばをなるべく使わないようにしている。(20代/女性)
◆共感の姿勢を示す◆
・親身になって、話をよく聞いてあげること。相槌、うなずきを大事にしている。(20代/女性)
 
・保護者の話をまず聞いてあげる。頑張っていますね!良いと思いますよと誉めたうえで提案をしてみる。(40代/女性)
 
・保護者の大変さが少しでも共感できるように、他職種の方々との関わりを作っている。(30代/女性)
◆信頼関係の構築◆
・普段から、些細な子どもの様子も伝えて信頼関係を構築することを心がけている。(40代/女性)
 
・特に保護者にとってマイナスに捉えられてしまいがちなことは信頼関係を築いてから柔らかく伝えるようにしている。(30代/女性)
◆自己判断をしない◆
・自分の考えを押し付けない。自分の判断ではなく、園長や主任に相談した上で保護者に伝える。(20代/女性)
 
・自分だけで考えないで先輩たちにも聞くようにしている。(20代/女性)
 
・実体験など経験を基にして話をする際は、自分の場合など偏らないように言葉を添えるようにする。(20代/女性)

 
保護者の不安な気持ちに寄り添うために、まずはすべて保護者の言うことを受け止め、聞く姿勢をきちんと示す、否定ではなく、提案という形でアドバイスを行うなど、保育者の皆さまの多くは日頃から傾聴の姿勢を大切にされているようです。また特に若手の場合には、自己判断をせずに上席や先輩に助言を求めることで、適切な助言が行えるようにしているケースも多く見られました。
 

編集者より

保育士さんのイラスト
核家族化や地域のコミュニティの希薄化により、子育てに悩みを抱えながらも、なかなか相談できない保護者の方は非常にたくさんいらっしゃることでしょう。だからこそ、保育における家族支援のニーズは今後高まっていくことが予想されます。
 
また一方でインターネットやスマートフォンの普及で、身の回りには情報があふれ、いったい何を信じたらいいのかわからないと困惑している保護者の方もまた、多いことでしょう。
 
日頃から保育に関して正しい情報を収集しておく、保育知識のブラッシュアップをすることはもちろんですが、今後は知識の豊富な保育士さんの対応事例などを共有できるよう、職員間で情報共有を行っていくこともますます重要になってくるのではないでしょうか。
 

 

【アンケート実施概要】
・実施期間:2015年8月21日~9月15日
・実施対象:
 保育士(79.5%)・幼稚園教諭(11.4%)・学生(2.3%)・主婦その他(6.8%)
・回答者数:44人(平均年齢:32.9歳)
・男女割合:女性/95.5%・男性/2.3%・無回答2.3%
 
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!

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