保育の基礎知識

「療育」ってなに?保育士の役割と連携の必要性

療育」という言葉を聞いたことはありますか?
療育とは、障害のある子ども達がより自立した生活を送れるように行われるものです。保育施設では「乳幼児健診で療育を勧められて……」と保護者から相談を受けたり、療育センターと連携して子どもの成長・自立を支えたりするなど、保育士にとっても馴染みのあるものになっているのではないでしょうか。
今後は、ますます療育に対する理解や知識が必要になってくることでしょう。

今回の記事では、「療育」に関する基礎知識や必要性についてお伝えしていきます!

療育とは?

療育とは

「療育」とは、障害のある子どもたちが、社会的に自立できるようにするために行う治療・教育のことです。
子ども達が抱える困っている特性をできる限り改善し、生かせる長所は伸ばしていく理解・支援を指します。
もとは肢体が不自由な子どもを対象としたものでしたが、今は発達障害などその他の障害に関しても支援が行われています。

発達障害とは?
誰しも発達していく中で「○○は得意」「××は苦手」といった発達の特性が現れるもの。この苦手の部分が大きく、日常生活に支障をきたす場合は発達障害と診断されます。
ただし子どもは発達のさなかにあるため、環境や対応によってその特性も変わることがあります。
https://hoiku-shigoto.com/report/trouble-at-work/developmental-disorder-find/

発達障害のある子どもが増えている、とは一概には言えませんが、保育園や幼稚園にはいわゆる「気になる子ども」すなわち発達において何らかの心配がある子どもたちがいるのも確かです。
発達障害に関する認知度も近年上がり、保護者の方の意識も高くなっているさなか。発達障害と向き合い、子どもがより自立した生活を送れるように支援するために、療育の必要性はますます高まっていると言えるでしょう。
 

療育は地域の療育センターや、障害児支援センターなどで受けることができるホィ。療育センターでは、医師、保育士、理学療法士などの専門スタッフが、子どもたち一人ひとりの発達段階や、障害の種類などに応じて適切なサポートを行うんだホィ。
でも、そういった専門スタッフの数も、療育センターの数もまだまだ少ないのが現状…。何カ月も待たなければならなかったり、頻繁に通うことができなかったり……だからこそ保育士さんは、療育について正しく理解をしたうえで、療育センターなどとしっかり連携を取ることが必要です。

療育にはどんな種類があるの?

ひとくちに療育と言っても、さまざまなアプローチ方法があります。

応用行動分析学(ABA)

行動分析学とはその名の通り、人間や動物の行動を分析する学問のことです。
環境を変えることでどのくらい行動が変わったかを調べることで、行動の「原理」や「法則」が導き出せます。そして法則がわかれば、おのずと行動の「予測」「制御」が可能になります。
この成果を問題行動の解決に応用することを、応用行動分析と呼びます。

この応用行動分析学をで子どもの行動を分析し、問題行動の原因を見つけることで、それを起きにくくしたり新しい行動を学習しやすくしたりする指導の工夫が可能になります。

TEACCH

TEACCHはアメリカ・ノースカロライナ州で実施されている、自閉症などのコミュニケーションに障害がある子どもやその家族に対する包括的対策プログラムの名称。
自閉症の発達過程を矯正していくことより、一人ひとりの優れた部分を発揮できるように支援していくことに重きを置いたアプローチです。

「パーテーションを立てて何をする空間かを明確にする」
「文字や絵カード等を用いてスケジュールを提示する」
といった『構造化』が大きな特徴で、これによって子どもに何をするべきかをわかりやすく伝えることができます。

認知行動療法

認知行動療法とは、人間の認知(ものの見方、受け取り方)に働きかけて気持ちを楽にしたり、行動をコントロールしたりする精神療法です。
人はストレスを感じるとネガティブになって、問題解決が難しい状態まで心の状態を追い込んでしまいがちです。認知行動療法ではそうした考え方のバランスを取って、ストレスに対応できるようにしていきます。

特に自閉症スペクトラムの子どもの場合、不安障害を併発しているケースも多いもの。そうした子どもは特に、生活のリズムを振り返ったり認知のゆがみを修正したりしながら、自助力の回復や向上を目指すことが望ましいです。

SST(Social Skills Training)

SST(Social Skills Training)とは「生活技能訓練」または「社会生活技能訓練」と訳される、認知行動療法に基づくリハビリテーション技法です。
社会生活を営むために対人関係を良好に維持する技能を身につけさせ、ストレス対処や問題解決がうまくできるようにすることを目的としています。

日常で起こりそうな場面をロールプレイングで疑似体験する中で、気持ちをうまく伝えたり、相手に反応できるようにトレーニングします。

箱庭療法

箱庭療法とは、部屋の中にあるおもちゃを自由に箱の中に入れていく心理療法の一種です。
子どもに自由な表現をしてもらうことによって、心の状態を表し、理解や支援につなげていくことができます。

子どもにとって、複雑な概念を理解したり言葉を組み立てて話したりするのはとても難しいことです。
むしろ遊びの中で非言語的な自己表現をする方が有意義な治療だ、とする意見もあります。
絵を描いたり音楽表現をさせたり、物語を作ったりといった創造体験を通じて自己表現させ、コミュニケーションを図る遊戯療法のうちのひとつに数えられます。

音楽療法

音楽を聞いたり、楽器を奏でたり、歌ったりすることで、生活の質の向上や、心の解放を行っていきます。音楽療法士が定期的に施設を訪問することもあります。

作業療法(OT)

日常の生活動作がスムーズにできるように、手先を使った遊びや体操、レクリエーションなどを通してトレーニングしていく方法です。

理学療法(PT)

これは主に身体障害がある場合に多く用いますが、運動療法や、温熱、マッサージなどの物理的な方法で身体機能の改善を図る方法です。

障害を持つ子どもへの接し方のコツ

療育をしていく上で大切なのは、当事者である子ども自身の自己肯定感を下げてしまわないように接するということです。
障害によってもっとも困っている、歯がゆい思いをしているのは子ども自身。「どうしてこんなことができないの!」は自分がいちばん悩んでいるのに、周りの大人にまで叱られてしまったら、子どもはこれから自分に自信を持てないまま育っていくことになります。
自分の特性を長所だと思えるようになるには、日頃の大人とのかかわりがとても重要です。

脅さない

たとえば「お片づけをしないとお菓子を食べられないよ」といった、否定的な言い回しは避けましょう。
子どもにとってはお菓子を食べられない状況だけが印象に残ってしまい、ストレスを感じてしまいます。
○○しないと××できない、ではなく、肯定的にやるべきことを伝えてあげるのがいいですね。

×「お片づけをしないとお菓子を食べられないよ」
○「お片づけしたら、お菓子の時間だよ」

よかったところに注目する

誰しも失敗したときは、できなかった部分・うまくいかなかった部分に目を向けてしまいがちですよね。
それで落ち込んでしまって、自信を無くしてしまった経験……あなたにもあるのではないでしょうか?
子どもも同じ。特に障害を抱えている子どもはどうしても「できない」「うまくいかない」ことが普通の子どもに比べて多いため、余計に自信を失いがちです。
「○○はうまくいかなかったけど、××のところはちゃんとできたね!」と、よかったところやできるところに目を向けて気持ちを切り替えさせてあげましょう。

共感する

どんな考え方であっても、それが間違っていると思っても、子どもが話していることを一旦は受け止めましょう。
「なるほど、そういう風に思ったんだね。わかったよ」と共感を示すことによって、子どもは自分の考えた方を尊重してもらえた、と感じることができます。
そのうえで他の意見も受け入れられるように、少しずつ誘導してあげるのがいいでしょう。頭ごなしに叱りつけるのは当然NGです。

×「どうして新しいおもちゃを独り占めするの!?わがまま言わないで友達に貸してあげなさい!」
○「新しいおもちゃだから遊んでみたかったんだね。でも、これはお友達にとっても新しいおもちゃだよ。遊んでみたい気持ちは同じだよね?」

希望を持たせる

子どもは療育の中で、自分のできないことに多くぶつかることとなります。その度につらい思いをして、自信を失ってしまうこともあるでしょう。
そんな状況では、現状の改善のために頑張ろうとする意欲もなくなってしまいますよね。
子どもの自己肯定感を下げてしまわないためにも、周りの大人が「次はうまくいくと思うよ」「ちゃんとあなたをわかってくれるお友達はこれからできるよ」と、将来に希望を持たせてあげることが大切です。

「いつでも味方でいるからね」といった、子どもがひとりじゃないことを感じられるような声かけもいいですね。
子どもの心の支えになれるよう、何度でも繰り返し伝えてあげましょう。

保育園と何が違う?療育施設の役割とは

療育とは
療育センターでは、医師、保育士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、言語療法士、臨床心理士、児童指導員、介護福祉士など、それぞれの分野に長けた専門スタッフが働いています。

保育園などとの違いとして挙げられるのは、発達の段階や年齢等に応じて小規模なクラスを作り、きめ細かく支援を行うこと。施設にもよりますが、毎日通園する場合もあれば、保育園や幼稚園に通いながら週に数度のみ療育センターに通うという併行通園が行われることも多くあります。
 
併行通園の場合には、保育園の先生が療育センターでの子どもの様子を見学に行ったり、療育センターの職員が保育園の様子を見学したり、互いに情報交換をしつつ、療育の視点から保育園に子どもとの関わり方のポイントを指導したり……連携体制を整えることが必要となります。

全国の療育施設は以下のリンクから探すことができます。
子どもを療育施設に通わせたい保護者の方はもちろん、療育施設で活躍したい保育士さんも、チェックしておくといいですね!

>>発達障害情報・支援センター「相談窓口の情報」<<
 

保育現場でも療育の視点は必要?!

療育とは
保育園や幼稚園は、保護者から発達障害に関する相談を受けた際に、療育について伝える窓口ともなりますし、療育センターと連携を取るうえでは、保育士さん、幼稚園教諭さんにも療育や、発達障害のある子どもの具体的な支援法について学んでおく必要があるでしょう。
 
また、自治体などにも異なりますが、療育センターに通うには、診断を受け、受給者証や療育手帳を受け取る必要がある場合も…。そのため保護者がなかなか受け入れられずに、療育が受けられないこともあるようです。そういった場合にも、子どもがどこに困難を抱えているかしっかりと観察し、適切な働きかけをする必要も出てきます。
 
自治体や療育センターでは、保育士さんや幼稚園教諭さんなど、子どもたちの支援を行う方向けに定期的な研修会を開催しているケースも多くあります療育の視点を持って正しい接し方ができるように、参加してみるのも良いでしょう。

障害のある子どもの受け入れを行う保育園などでは、加配の保育士さんを付けることもあります。しかしかかる人件費を自治体と保護者あるいは事業所で折半ということも多く、資金状況によって付けることが難しいケースもあるようです。
 加配担当でなくても、しっかりと療育や発達障害について知識を付けておきたいですね!

 

仕事として療育に関わる方法とは

遊ぶ子どもたち
「もっと専門的に療育に携わりたい!」「仕事をしながら療育の専門性を高めていきたい」という方は、療育施設に勤務するという方法もあります。具体的には下記のような施設で、療育に携わることができるでしょう。

◆療育に携われる職場の例◆
□療育センターや障害児支援センターなどの療育施設
□放課後等デイサービス
□児童発達支援
放課後等デイサービスとは~働くうえで必要な資格・仕事内容・学童との違いは?~「放課後等デイサービス」をご存じでしょうか?放課後等デイサービスは、特別支援学校などに通う、障害のある子どもたちが、放課後や長期休暇中に...
児童発達支援とは?働く上で知っておきたい特徴と仕事内容「児童発達支援」は、障害のある子ども達のための、通所支援のひとつです。 住んでいる地域の児童発達支援センターや児童発達事業所に通いなが...

こういった施設で働くには、まず保育士資格が必要となることがほとんどでしょう。合わせて障害児保育に携わった経験などがあれば、経験を活かせます。また経験がない場合でも、発達障害に関する認定資格や社会福祉士などの関連資格・知識があれば役立てることができるでしょう。

編集者より

療育とは
療育は、障害を”完治させる”ものではありません。あくまでも適切な方法でアプローチすることで、その子どもの自立や成長をサポートして、より困難を感じずに生きていけるようにする方法です。
 
障害とは一生付き合わなくてはなりませんが、保育士さんの適切な関わりや、保護者への助言、療育施設との連携によって、その子の一生はきっと変化するはず…。それは保育に関わる職業でなくては成し遂げられないことでしょう。
 
子ども一人ひとりの特性に応じた対応は大変ですが、各施設が連携を取って、その子の将来をもっと素晴らしいものにできたらステキですね。
 
※漢字表記については、厚生労働省および政府広報などに合わせて「障害」とさせていただいておりますが、「障碍」「障礙」「障がい」とも表記されます。

参考文献・サイト

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