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「まずは処遇改善を」の声多く…厚労省の保育士確保対策に疑問の声

全国で保育士不足が問題になっています。これに対し厚生労働省は資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士の掘り起しや、新たな保育士の確保、離職防止の3点に着目した緊急対策案を打ち出します。果たしてこの緊急対策案は、保育士確保に功を奏するものになり得るのでしょうか…。今回は実際に保育の現場で働く方を中心に、190名の読者の皆さまにご意見を伺ってみました。

厚生労働省が打ち出す保育士確保の緊急対策とは?

保育のイラスト
約50万人分の保育の受け皿を確保するためには、9万人ほどの保育士の確保が必要とされていますが、保育士不足問題は以前深刻な状態が続いています。厚生労働省はそれに対し、緊急対策案を打ち出すことを発表しました。12月17日に日本経済新聞が報じた内容によれば、今年度の補正予算案には必要費用約710億円を盛り込み、来年度以降に実施する方針とのことです。
 
では具体的に緊急対策案とはどのようなものなのでしょうか。まずはその内容をチェックしてみましょう。

◆緊急対策案の内容◆
就職準備金の貸付 就業が決まった保育士に15万円~20万円の一時金を貸し付けます。転居費や交通費などの就職準備金に充てられ、2年ほど勤務すれば返済が免除されます。
優先的に保育を受けられる仕組み作り 就業した保育士の子どもが、勤務先付近の保育所などに優先的に入れる仕組みを作り、保育料も3万円~4万円を上限に半額とすることとしています。
保育士資格取得支援 補助員として保育ママなどを雇用する保育所に対し1人あたり300万程度を3年間貸し付けるというものです。その労働者が3年以内に保育士資格を取得した場合は、貸付金の返済が免除されます。
事務負担の軽減 業務管理ソフトなどを導入して、業務の効率化をはかります。助成額は80万~100万程度で調整される予定です。

 
就職準備金の貸付に関しては、就業するうえで必要となる費用を心配せずに就職活動ができることから、全国に40万人いるとされる潜在保育士の復帰を促す目的があります。また結婚や出産などのライフイベントがきっかけで離職する保育士さんも多いことから、子育てをしながら働きやすい環境を整えることも対策に盛り込まれています。
 
一方で新規の保育士確保も重要な課題。働きながら資格取得が目指せるよう支援することで、保育士になるための門戸を広め、同時に資格取得後即戦力とできるという利点も踏まえた対策と思われます。
 
事務負担軽減については、日誌の作成などの業務の重さから保育士さんが離職してしまうことを防止する狙いがあるようです。

 

緊急対策案の認知度はまだ低い?

今回ご意見を伺ったのは保育士さんをはじめとする190人の読者の皆さま。まずは厚生労働省の打ち出す緊急対策案について、その認知度を調査してみました。
 
認知度グラフ
 
すると緊急対策案が打ち出されることについて「良く知っている」と回答したのは全体のわずか5.8.%。一方で44.7%と約半数の方は「知らなかった」と答える結果となりました。
 

就職準備金の貸付に半数以上が「効果がないと思う」と回答!

不満そうな保育士さん
では具体的な各対策案について保育士不足の解消に効果があると思うか、保育現場の意見を伺っていきましょう。まずは就職準備金の貸し付けについて伺ってみました。
 
貸付金効果調査
 
するとそれぞれ「大きな効果があると思う(2.9%)」「ある程度の効果はあると思う(20.6%)」「どちらとも言えない(22.4%)」「あまり効果はない思う(45.9%)」「まったく効果はないと思う(7.6%)」「わからない(0.6%)」となり、その効果を疑問視している方が半数を超えることがわかりました。
 

何らかの理由で2年以内に勤められなくなった場合、返済しなくてはならない可能性が出てくるので、あまり効果的な対策には思えない。(20代/女性)
貸し付けではなく給与額の改善が必要です!臨時保育士だと契約期間があるため返済免除の条件が当てはまらない場合が多い!(40代/女性)
貸し付けは貸し付け。結局は少ない給料から返済というのは、やはりなんかズレている。(20代/女性)

 

子育て支援のニーズは高い

保育士と女の子一方で子育てと仕事を両立しやすい仕組み作りについては、ある程度その効果に期待を抱くご意見が多く寄せられました。
 
育児支援効果調査
 
回答はそれぞれ「大きな効果があると思う(13.2%)」「ある程度の効果はあると思う(42.1%)」「どちらとも言えない(18.4%)」「あまり効果はない思う(19.5%)」「まったく効果はないと思う(6.3%)」「わからない(0.5%)」となり、一定の割合で効果があるのではと考える方が55.3%となりました。
 

子ども預けられなければ保育士復帰できないので、優先的に入れるのであれば復帰して保育に携わりたい。(20代/女性)
子育て中で保育園も入れないので仕事を諦めました。良い保育園に歯いれればいくらでも復帰したいと考えています。(30代/女性)

 

資格取得補助、業務効率化への期待は薄く…

動物のイラストまた、働きながらの資格取得を後押しする対策や、事務負担の軽減による離職防止案についてもご意見を伺ってみました。
 
資格取得支援効果調査
 
まず働きながら保育士資格が取得できるように、園に対して貸付を行い、無資格者雇用を後押しするという対策案については、「大きな効果があると思う(4.7%)」「ある程度の効果はあると思う(21.1%)」に対して、「あまり効果はない思う(37.4%)」「まったく効果はないと思う(16.3%)」となり、やや効果を疑問視する声が多い結果となりました。自由回答では、これから資格取得をする人よりも、今保育士として資格を持って働く人の支援をしてほしいという声や、無資格者が多く働けるようになることで有資格者の負担が増えるというご意見が集まりました。
 

これから働く人達よりも今働いてる人たちへの改善をしてほしい。今働いている人の大変さを見て、これから働く人が希望をもって保育士にはならないと思う。(20代/女性)
資格を取得してから現場に出て欲しい。混乱のもとだし有資格者の負担ばかり増えてしまう。(40代/女性)

 
業務ソフト効果調査
 
続いて業務管理ソフトなどの導入を促進することで、業務の効率化を図る案ですが、「大きな効果があると思う(5.6%)」「ある程度の効果はあると思う(20.6%)」に対して、「あまり効果はない思う(33.9%)」「まったく効果はないと思う(18.3%)」となりました。こちらも過半数が効果に否定的な見方をしています。業務効率化は必要ではあるものの、保育士確保、離職防止のための策としては他にやるべきことがあるのでは?という声が多く挙げられました。
 

どれだけ仕事を簡略化しても、持ち帰りの仕事はある程度残ると思う。それも加味した最低賃金の保証なとも考えて欲しい。(30代/女性)
事務ソフトを導入したからといって、子どもの成長は事務的にはあらわせない。仕事にみあったお金がもらえないことが問題なのでは?(30代/女性)

 

約8割は緊急対策案あっても「保育の職に就こうとは思わない」

落ち込む女性
最後に、ご自身がこれから保育士を目指すあるいは潜在保育士の立場だったとして、今回厚生労働省の打ち出す緊急対策案があることで、保育の仕事に就こうと思えるか伺ってみました。
 
意識調査
 
するとこれらの対策案があることで「保育の仕事の仕事に就こう」と思う方はわずか4.1%。「どちらかと言えばそう思う(14.4%)」と合わせてもわずか18.5%にしか満たない結果となりました。一方で「あまりそう思わない(41.2%)」「まったくそう思わない(35.6%)」の合計は76.8%。約8割の方がこれらの対策案全体が、保育士確保にあまりつながらないのではないかと考えていることが分かりました。
 
自由回答で最も多く寄せられたご意見は「何よりもまず給与をはじめとする処遇面での改善を急いでほしい」というもの。月収や年収の額はもとより、休みがとりにくく家庭を優先できないこと、事務面の非効率だけでなく業務そのものの量が多いことなども、続けることを断念せざる得ない原因となっています。「現実を見てほしい」「保育士という職業の価値をもっと認めてほしい」というご意見の中から一部をご紹介します。
 

今現在働いている保育士に対しての優遇策や給与面での対策がなされてないのは遺憾。公務員であれば年齢と同じ額面がもらえるのに対し民間で、40歳でも20万そこそこの収入であれば続けようと思う人は少ないと思う。
 
普通に派遣で違う仕事をする方が給料が良いならば、国家資格を取ったにもかかわらず、そちらの方が良いとなってしまう。今現在働いている保育士の待遇面も改善してもらわないと、どんどん潜在保育士が増えてしまう。(30代/女性)
男性保育士は仕事が好きだからだけで 生活も安定しないような最低賃金で結婚すらできない…そんな仕事ってないだろうと思う。一時的な対策より先を見据えた対策でないとお話にならない。(女性)
時給が深夜バイトよりも安いなんてバカにしすぎ…。保育士に対しての子どもの基準の見直しも必要。何年も前にできた基準をいつまで引き継ぐのだろうか?時代が変わるように子どもも親も変わっている。目を覚まして現実を直視して…問題から逃げないでほしい。(30代/女性)
せっかくの緊急対策だが、根本的な解決にはならず、残念ながら効果は期待できないと思う。根本的な保育士の身分保証、労働条件の改善を強く望みたい。日本の未来を築き支える子どもたちを育てるためにも。「子どもの最善の利益」を貫いていける保育が私たちの願いである。(50代/女性)

 

編集者より

葉っぱのイラスト
働くことは生活に直結しています。保育士は将来を担う子どもたちの命を守り、育てていく素晴らしいお仕事ですが、夢ややりがいだけでは生活を保てないのが現実です。それこそが潜在保育士の数の多さ、離職率の高さに表れているのではないでしょか。
 
多くのご意見からも伺えるように、どんなに高い理想や強い想いがあっても許容できない最も深刻な問題は、給与や安心して働ける労働環境など、他にあるように感じます。
 
今回の緊急対策案では、確かに一部の保育士不足の原因を補うことができるかもしれません。しかしながらその一部を補てんするために多額の資金を使うことが果たして得策と言えるのか…。そんな疑問が今回のアンケート調査からは伺えたように思います。
 
保育士不足解消のために割ける予算は無限にあるわけではありません。また今豊富な経験を持ち現場で活躍する保育士さんの離職を防ぐには、悠長な対策検討であってはならないでしょう。だからこそ行政には、現場の声に真摯に耳を傾け、早急に本当に必要な部分へ必要な支援を行う姿勢が必要なのではないでしょうか。
 

【アンケート実施概要】
・実施期間:2015年12月18日~12月24日
・実施対象:
 保育士(90.0%)・幼稚園教諭(5.6%)・その他保育関連職(5.0%)・
 学生(5.0%)・主婦 その他(13.1%)
・回答者数:190人(平均年齢:35.5歳)
・男女割合:女性/95.2%・男性/4.8%
 
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!

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