2016年8月、厚生労働省は認可保育所の入園予約制を導入するよう各自治体に促していく方針を発表しました。これを受けて各報道機関がいっせいに報じ、ネットでも話題になっています。認可保育所の入園予約制とはどんなものなのでしょうか?背景やメリット、課題についてお届けいたします。
認可保育所の入園予約制とは
必要とされた背景
認可保育所の入園予約制が必要とされるようになった背景には、保護者さんたちが1年の育休を満期消化することが難しいという現状があります。
育児・介護休業法では、会社員は1年の育休を取得できると定められています。しかし、ご存じのように現在は慢性的な保育所不足。特に競争の激しい都市部では1歳児クラスの入園枠が満杯になっていることが多いです。このため、育休を満期消化してからの入園(=子どが1歳になってからの入園)が難しい状態になっています。結果として、子どもがまだ0歳のうちに、年度初めに合わせて育休を切り上げ0歳児クラスに入園、という選択肢を選ぶ人が多くなっているのです。
保護者さんたちは、本来ならば1年間取れる育休を十分に消化することができず、ときにはまだ出産前の時点から保活に奔走しなければならない現状に苦しんでいます。また、「本当はもう少し家で見たいのに入園枠確保のために0歳児から預ける」というケースが、保護者さん・園側双方の負担をさらに重くしているという課題もあります。
安心して育休をとれる子育て環境を目指して
認可保育所の入園予約制は、上記のような課題を乗り越えるために作られました。以下で詳しく見ていきましょう。
年度途中からの0歳児クラス入園
保育園の入園枠は年度ごとに運用されているので、年度初めには比較的空きが出やすく、年度途中には出にくいという特徴があります。このため、0歳児クラスに入れようと、年度初めに合わせて育休を切り上げざるをえない保護者さんのケースが多く出ています。
入園予約制では、0歳児クラスに途中入園枠を設け、あらかじめ予約した人を入園させることで、この問題を緩和する試みを行なっています。
育休満期消化後の年度初めからの1歳児クラス入園
多くの保護者さんが0歳児クラスからの入園を目指さざるをえない現状は、1歳児クラスからの入園が難しいために起きていることです。このため入園予約制では、育休を満期消化したあとでも保育園に入れることができるよう、年度初めからの1歳児クラスの入園枠を確保して予約者を入園させています。
育休明け後年度初め入園までの短期保育サービス
出産の時期にもよりますが、育休の満期消化と年度初めとの間には空白期間ができてしまうことがほとんどです。これも保護者さんたちを育休の早め切り上げに追い込む原因のひとつでした。これを解消するため、育休明け後年度初めまでの間。短期的に子どもを預かる保育サービスを充実させようという試みも始まっています。
具体的事例
東京都品川区の導入ケース
品川区では全国に先駆けて入園予約制を導入しています。
先駆的に予約制を導入している東京都品川区では、区立の認可保育所37カ所であらかじめ計146人分の「予約枠」を設定。1年以上の育休取得を条件に予約を受け付ける。選考は年4回で、出産後に予約の可否や入園先が決まる。昨年度は582人の予約申し込みがあった。
今年4月時点の品川区の待機児童数は178人で、定員に余裕があるわけではない。同区保育課の担当者は「入園予約の子どもが入ってくるまでの空き枠は、地域の子どもの一時預かりに活用している。多様な保護者のニーズに対応するための制度だ」と説明する。
認可保育所の入園予約制、都市部は課題も 横浜は見送り:朝日新聞デジタル
品川区の入園予約制に関する情報ページはこちらです。
育休明け入園予約制度のご案内|品川区
神奈川県横浜市の導入見送りケース
横浜市では、懸念点や課題が多かったため、2016年時点では導入を見送っています。
横浜市は2010年度に検討した予約制の導入を見送った。予約できた人より保育の必要性が高い家庭の子どもが待機児童になる「逆転現象」や、自営業など育休を取れない人が制度を利用できないといった課題が検討当初からあったという。与党議員からは「年度途中のための予約枠を設ければ、新年度に預け先が見つからなかった保護者との取り合いになってしまう」との懸念も出る。
―認可保育所の入園予約制、都市部は課題も 横浜は見送り:朝日新聞デジタル
入園予約制のメリット
会社員の育休の権利を保護できる
会社員の育休取得の権利は、本来は育児・介護休業法で保護されています。しかし現実には、保育所不足・待機児童問題のため満足に育休を消化できない保護者さんが多いです。入園予約制はこの現状を打破する一助となる可能性があります。
0歳児保育における社会的コストが削減できる
0歳児クラスに必要な、子ども1人あたりの保育士数は、1歳児クラスの2倍。上にも書きましたように、現在、少ない空きを獲得するために無理をして0歳児クラスに預けるケースも多くなっています。ですから、入園予約制によって本来不必要な0歳児クラス入園が減れば、保育士不足解消のひとつの助けとなると言われています。
入園予約制に残る課題
入園予約制には効果もあるのですが、複数の課題も指摘されています。
逆転現象
入園予約制は、どちらかというと保育の必要性の高さよりも時期的に急ぐかどうかに基づいて入園枠を確保するものです。このため、もともと保育の必要性のより高い人が予約制利用者よりも入園しづらくなる、という逆転現象が起きる可能性が指摘されています。
自営業の人などとの間の不公平感
そもそも育休制度は、会社員の人向けの制度です。自営業など、育休制度に守られていない人たちはそもそも予約制の対象から外れています。このため、会社員と自営業などの人との間に不公平感が出るのではという懸念点が出てきています。
根本的な待機児童解消にはつながらない?
日本は根本的に保育所が不足しています。入園予約制は、その少ないパイを誰に優先的に回すかの部分にコテ入れするものに過ぎません。このため、根本的な待機児童解消にはつながらず、他の対策と併用する必要があるだろうと言われています。
入園予約制のメリットを引き出していくには
入園予約制の課題をカバーし、より効果を生かしていくにはどうしたらよいのでしょうか。
保育所増設と並行させて運用
上にも書きましたように、入園予約制単体では待機児童解消への効果は限られたものになる可能性が高いです。このため、保育所を増設する動きも同時に強力に進めていく必要があります。
短期的保育サービスの選択肢を増やす
保育所の側で自由な時期に入園できる仕組みを整えても、育休満期消化後から年度初めまでの空白期間をカバーしてくれる短期的預かり先が十分でなければ、やはりこの時期の子どもは待機児童化してしまいます。このため、平行して保育所以外の短期的保育サービスの選択肢を増やしていく必要があります。
編集者より
いかがでしたか?今回は、2016年8月に厚労省が各自治体に導入を促す方針を決めた、認可保育所入園予約制について解説いたしました。入園予約制の普及によって、少しでも待機児童の解消が近づくことが望まれます。