政府や自治体の取り組みにもかかわらず、なかなか解決しない待機児童問題。
2016年には、子どもを保育園に預けることができず仕事を辞めざるを得なくなった女性が「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名ブログで憤りをあらわにし、大きな反響を呼びました。
いまや「待機児童問題」は、看過することのできない大きな社会問題となっています。
保育士の皆さんはまさに「待機児童問題」の現場で働いているわけですが、この問題についてどれくらい関心をもっているでしょうか?
今回は待機児童問題の現状と原因、解決のための対策について紹介します。
そもそも「待機児童」って?
「保育施設に入所したいけれど入所できずにいる子ども」がすべて待機児童としてカウントされるわけではありません。
まずは2017年3月に変更された新しい定義を確認するとともに、その定義の陰に隠された「隠れ待機児童」の問題について解説していきます。
待機児童の定義(2017年3月に変更)
待機児童とは、「保育施設に入所申請をしており、入所の条件を満たしているにもかかわらず入所ができない状態にある子ども」のことです。ただし、例外として以下のようなケースは待機児童としてカウントしなくてもよいとされています。
- ◆待機児童にカウントしなくてもよいとされるケース◆
-
・特定の保育所を希望している
・保護者が求職活動を休止している
・自治体が補助する保育サービスを利用している(保育ママ、東京都の認証保育所など)
定義から外れてしまう「隠れ待機児童」も存在する
先にご紹介した定義は、認可保育所に入所できなかったにもかかわらず待機児童としてカウントされない「隠れ待機児童」が多かったため、厚生労働省が変更を加えて定めたもの。
ですが、これによって「隠れ待機児童」がいなくなったわけではありません。
その理由にはたとえば以下のようなケースが当てはまります。
・「兄弟で同じ園に通園しないと、通勤にものすごく時間がかかってしまう」などの理由から特定の保育所を希望するケース
・子どもを預けられないために求職活動ができず、やむを得ず休止しているケース
・利用時間が短いなどのデメリットがあっても、保育園に入所できなかったために仕方なく利用しているケース
待機児童としてカウントしなくてもよいとされる「例外」について、どこまでを待機児童としてカウントするかは、各自治体の判断にゆだねられているのが現状。
そのため、実際には保育園に入れなくて困っているのに待機児童にはカウントされない「隠れ待機児童」は、新たな定義のもとでもまだ多く残ると見られています。
全国の待機児童の数はどれくらい?
では実際、待機児童としてカウントされる子どもはどれくらいいるのでしょうか。
厚生労働省が発表している「保育所等関連状況取りまとめ」によれば、2018年4月1日時点での待機児童数は19,895人。
認定こども園や地域密着型の保育事業を含めた保育所等利用定員が大幅に増加したことから、前年比6,186人の減少に成功しています。
近年の待機児童数の推移(平成28年以降) | ||
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2018年(平成30年)4月1日 | 19,895人 | 前年同月比6,186人減 |
2017年(平成29年)4月1日 | 26,081人 | 前年同月比2,528人増 |
2016年(平成28年)4月1日 | 23,553人 | 前年同月比386人増 |
(2018年4月)待機児童数ワーストランキング
2018年4月1日の時点で、もっとも待機児童の数が多いのは東京都で5,414人。これは全体の待機児童数の約3分の1にあたります。
次に多い兵庫県は1,988人、3番目に多い沖縄県は1,870人でした。
【都道府県別】待機児童数ワースト5 | ||
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1 | 東京都 | 5,414人 |
2 | 兵庫県 | 1,988人 |
3 | 沖縄県 | 1,870人 |
4 | 埼玉県 | 1,552人 |
5 | 千葉県 | 1,392人 |
なお、市区町村別に見るともっとも待機児童が多かったのは兵庫県明石市の571人。次いで岡山県岡山市の551人、東京都世田谷区の486人となっています。
【市区町村別】待機児童数ワースト5 | ||
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1 | 兵庫県明石市 | 571人 |
2 | 岡山県岡山市 | 551人 |
3 | 東京都世田谷区 | 486人 |
4 | 東京都江戸川区 | 440人 |
5 | 兵庫県西宮市 | 413人 |
なぜ待機児童は増え続けているの?
政府が2013年から取り組んできた「待機児童解消加速化プラン」では、2017年度末までの待機児童解消を目指して、保育所の整備やそこで働く保育士さんの確保などに力を注いできました。
しかし実際には、2018年になった今でも待機児童問題は解決していません。。
なぜ待機児童は一向に減らないのか。そこにはさまざまな原因があります。
- 待機児童が減らない原因
- ◆共働き世帯の増加や女性の社会進出が進んだことなどから、女性の就業率が上がり、保育ニーズが高まっているため
- ◆核家族化によって祖母や祖父が父母に代わって子育てをすることが難しくなっているため
- ◆定義の変更でいままで待機児童としてカウントされてこなかった「隠れ待機児童」が明るみに出たため
- ◆保育士の確保が追い付かず、保育所を整備しても定員を減らすなどのケースがあるため
とくに保育士不足については、給与などの処遇改善や働く環境の改善などが求められ、早急な対策が必要でしょう。
保育は保育園を作るだけでは成り立ちません。保育士不足問題と待機児童問題とは、決して切り離して考えることのできない「表裏一体」のものなのです。
地方でも待機児童問題は深刻!
働くにも住むにも便利な都市部には子育て世帯が集中し、保育ニーズも高まります。そのことから待機児童問題が深刻になっていますが、地方での待機児童問題においては別の課題があります。
保育園そのものが少ない
地方で待機児童が多い自治体では、子どもの人数は都市部ほど多くはないものの「過疎化で保育園が減った結果、保育園に入園しづらくなっている」というケースがあるようです。
保育士の確保が難しい
若年層が都市部に出てしまい過疎化が進んでいるような場合には、保育士の確保も大きな課題となります。
所得の水準が低い
平均所得が低くなる傾向にある地方では、共働き世帯が増え保育ニーズが高まる傾向にあります。たとえば平均年収が全国でももっとも低い沖縄県では、待機児童数が東京に次いで2位となっています。
待機児童解消に向けた今後の対策は?
もともと「待機児童解消加速化プラン」では、平成29年度末には待機児童をゼロにすることを目標にしていました。
しかしながら現在も待機児童が減らない状況となっていることから、2018年以降は「子育て安心プラン」という新たなプランに取り組み、2020年(平成32年)末までの3年間で待機児童を解消する方針を立てています。
「子育て安心プラン」とは
「子育て安心プラン」は、2020年(平成32年)までの3年間で全国の待機児童を解消し、5年間で約32万人分の受け皿を整備するという、国の新たな政策です。
子育て安心プランの2つの目標 | |
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待機児童の解消 | 2018年度から2019年度末までの2年間で、待機児童解消に必要な受け皿、約22万人分の予算を確保する。2020年度末までの3年間で全国の待機児童を解消する。 |
「M字カーブ(※)」の解消 | 2018年度から2022年度末までの5年間で、女性の就業率80%に対応できることのできる約32万人分の受け皿を整備する。 |
女性の就業率が、結婚や出産を機に一度下がり、育児が落ち着いた時期にまた上昇するという状況をグラフ化したときに表れる特徴的な形状のことを示しているよ。
6つの支援パッケージ
子育て安心プランは主軸として6つの支援パッケージを設定しています。
1 | 保育の受け皿の拡大 (都市部対策や既存施設活用、多様な保育の推進を行う) |
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2 | 保育の受け皿拡大を支える「保育人材確保」 (処遇改善や業務負担減などの支援、保育補助者の育成を行う) |
3 | 保護者への「寄り添う支援」の普及促進 (更なる市区町村による保護者支援を行う) |
4 | 保育の受け皿拡大と車の両輪の「保育の質の確保」 (認可外保育施設を中心とした保育の質を確保する) |
5 | 持続可能な保育制度の確立 (保育実施に必要な安定財源を確保する) |
6 | 保育と連携した「働き方改革」 (男性による育児の促進や育児休業制度のありかたの検討などを行う) |
↓6つの支援パッケージの各項目については厚生労働省の資料で詳しく説明されています!
厚生労働省『「子育て安心プラン」について』(2017年6月22日発表)
東京都では保育士給与補助を上乗せ
東京都は待機児童対策のために、過去最高となる1576億円の予算を組み込みました。2019年度末までに待機児童ゼロを目指しており、保育所整備促進や人材確保などの政策に力を注いでいます。
とくに話題を呼んでいるのが保育士の給与補助の引き上げで、平成29年度から保育士1人当たり4万4,000円を上乗せするというもの。
今までに類を見ない大幅な給与上乗せは高く評価されるいっぽうで、「保育士人材が周辺自治体から東京都に流出するのではないか」との懸念も出ています。
編集者より
待機児童問題の解決には保育士が不足している現状を打破する必要があり、そのためにも「保育士資格を持ちながら、現在は保育士として働いていない「潜在保育士」の確保が不可欠です。
保育士有資格者のうち現在現場で働いている人の数は、3割〜4割程度しかいないとも言われており、有資格者のほとんどが現場で働けるようになるだけで、保育能力は現在の2〜3倍程度になるとされています。
ただし、潜在保育士の確保には大幅な処遇の改善や労働環境の改善が必要です。先に紹介した子育て安心プランの支援パッケージにもあったとおり、保育所の整備といったハード面への支援だけでなく、人材というソフト面への支援を行うことが、待機児童問題の解決への糸口であるといえるでしょう。
参考文献・サイト
- ハフィントンポスト『隠れ待機児童とは? 定義は決まったが、問題は解消せず「虐待の疑惑で入れたくない保育園もある」の声も』(2018/7/9)
- コトバンク(2018/9/7)
- 朝日新聞DIGITAL『「きょうだいバラ不可」わがままか 待機児童の判断基準』(2018/9/7)
- 厚生労働省『平成28年4月の保育園等の待機児童数とその後』(2018/9/7)
- Fledge(フレッジ)『一体何が問題なのか…待機児童問題の原因と解決策について考えてみた』(2018/7/10)
- BizHint(ビズヒント)『M字カーブ』(2018/7/10)