インクルーシブ保育をご存じでしょうか。年齢、国籍、障害の有無にかかわらず、どんな背景を持った子どもも受け入れるというインクルーシブ保育では、「違い」を排除することなく受け入れ、共に育つ環境を提供しています。
今回はそのインクルーシブ保育について、その魅力や課題を考えてみましょう!
「インクルーシブ」ってどんなもの?
インクルーシブ(inclusive)には「包括的な」「すべてを含んだ」といった意味があります。
その考え方を教育に当てはめたのが「インクルーシブ(インクルージョン)教育」。2006年12月に、国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」においては、以下のように記されています。
第二十四条教育
1締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度(inclusive education system at all levels)及び生涯学習を確保する。
簡単に言うと、障害のある、ないなどにかかわらず、誰もが個々の違い、個性を認め合いながら共に学ぶことを目指すのが、インクルーシブ教育の考え方なんだホィ。
◆「インクルーシブ保育」とは
ここまでインクルーシブとは何か、そして教育分野におけるインクルーシブについてお伝えしてきましたが、保育現場における「インクルーシブ保育」とはどのようなものなのでしょうか。
- 「インクルーシブ保育」とは…
子どもの国籍や発達段階、障害の有無などの違いにかかわらず、どのような背景を持っていたとしても排除せずに受け入れる保育。
明確な定義があるわけではありませんが、シンプルに言えばこのように、すべての子どもが共に育ち、学んでいけるようにそれぞれの発達に寄り添うのが、インクルーシブ保育の特徴です。
教育分野では、特に障害の有無という点が重点に置かれていたけれど、インクルーシブの考え方は本来、それ以外の違いについても、排除せずに受け入れるというもの。
インクルーシブ保育を実践している保育園の中には、年齢という違いも取り払って縦割り保育を実践しているところも多くあるよ!
インクルーシブ保育のメリット
ではインクルーシブ保育にはどのような魅力があるのでしょうか?そのメリットをまとめてみました。
- ◆子どもたちにとってのメリット◆
-
□それぞれに「違いがある」ということを知ることができる
□多様な人とのかかわり方を学べる
□「違い」からさまざまな刺激を受け、成長につなげられる
□思いやりや相手を尊重する力が身につく
□分離から無意識に作り出される偏見や差別がなくなる
子どもたちは周囲の環境から多くを学びます。インクルーシブ保育では、年齢などが近しいグループの中ではできなかったような経験を積むことが可能です。
「違い」が当たり前であるという環境に身を置くことで、立場の異なる子とののかかわり方を学び、相手を思いやることや、相手の考え方を尊重することを学ぶことができるでしょう。
また、私たち大人が無意識に持ってしまっている偏見は、幼いころからの分離から生まれている部分も多くあります。違いを認め共に成長する環境は、そのような潜在的な差別や偏見が生まれることを防ぐという将来的なメリットもあります。
- ◆保育士にとってのメリット◆
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□多様な子どもたちの保育に携わるなかで高い保育スキルを身につけられる
□療育や医療的ケアなど、知識の幅を広げられる
□子どもたちの成長から多くを学べる
□保護者に感謝される
□社会貢献になる
□将来的なニーズが大きい
一方保育士さんは、さまざまな障害に対する支援の方法を学んだり、ケアに必要な資格を取得したり、医療ケアに関する講習を受けたり…と幅広いスキルを習得することができます。
また、インクルーシブ保育の場合には、子ども同士のかかわり方、保護者への対応方法なども通常の保育とは大きく異なるもの。日々の経験のとつひとつが保育スキルとして蓄積され、仕事へのやりがいやステップアップにもつながるでしょう。
こんな課題やデメリットも!?
インクルーシブ保育は、導入にコストや従業員の専門的な知識、スキルが必要なことから、導入は一部の限られた保育施設に留まっているのが現状です。
デメリットや今後の課題についてもチェックしてみましょう。
- ◆子どもたちにとってのデメリット◆
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□正しい援助がなければ「できない」ことへの劣等感が生まれかねない
□保育者が、より多くの支援が必要な子どもにつきっきりになりかねない
□「違い」を認め合うまでには時間がかかる
□正しい援助がなければ違いを認められずに衝突が生じることもある
□活動内容によっては物足りなさを感じる子も出てくる
インクルーシブ保育を実践するには、それぞれの個性に対する十分な理解や、適切な支援が不可欠です。
人員体制や職員の理解、知識が不十分であれば、単に同じ経験をすることを強要するような保育になってしまうことも考えられます。そのような場合には子どもたちが環境を活かしてのびのびと成長することが難しくなってしまうでしょう。
- ◆保育士にとってのデメリット◆
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□高い専門スキルや幅広い知識が必要になる
□保育士の資格のみでは対応しきれない部分がある
□より綿密な指導計画を練る必要がある
□危険やトラブルに対してより敏感になる必要がある
□保護者対応が難しいケースもある
□前例が少ないためノウハウの蓄積が不十分
保育士さんにとっても、インクルーシブ保育の環境に慣れるには時間と努力が必要です。場合によっては、新たな知識を習得するために、資格を取ったり、講習を受けたり、業後に勉強をしなくてはならない場面も出てくるかもしれません。
ご自身のスキルアップ、子どもたちの育ちのために学び続ける姿勢がなければ、インクルーシブ保育の実践は難しいでしょう。
またインクルーシブ保育は導入例がまだ少なく、日々の経験のなかでは前例にないことも多いでしょう。職員同士で連携を取って、日々課題を解決していく姿勢も不可欠と言えそうです。
インクルーシブ保育を実践したい保育士さんへ…
インクルーシブ保育に関心がある、インクルーシブ保育を実践している園で働きたい!という保育士さんは、まずインクルーシブ保育についての知識を書籍などでしっかり身につけておくと良いでしょう。
◆保育士+αの知識を身に付けよう!
インクルーシブ保育実践の園で働くにあたっては、たとえば医療的ケア(※)が必要な子どもたちに対応するために一定の研修を受ける必要があったり、他国籍の子どもや保護者への対応のために外国語の習得が必要だったり…というケースも考えられます。
求人の応募要件に照らし合わせて、また自分の興味・関心に合わせて積極的に知識習得に努めると良いでしょう。
今までたん吸引などの医療的ケアは、医師や看護師などの免許を持たなくては行えなかったものの、平成24年4月より、一定の研修を受けることで保育士や介護職員、教員なども実施できるようになりました。
◆職場選びは慎重に!
ひとくちに「インクルーシブ保育」と言っても、その実践をうたう保育施設のなかには、入園者数を増やすために受け入れを行っている園や、障害などに対して職員が正しい知識を持っていない園、インクルーシブ保育を実践するに十分な職員配置や、職員への指導・支援体制がない園もあります。
応募の前に、ホームページやパンフレットをチェックする、職場見学をさせてもらうなど、きちんとご自身が納得したうえで、職場を選べると良いですね!
編集者より
いままでの「当たり前」を崩すことは、大人にとってとてもむずかしいこと。そんな中でこのインクルーシブという考え方が保育や教育に導入されることは、とても画期的なことのようにも感じられます。しかしながら、世間におけるインクルーシブへの正しい理解は、まだまだ不十分であると言えるでしょう。
これからを担う子どもたちが、それぞれの違いを認め合いながら、共に活躍できる世の中を作っていくためにも、まずはこのインクルーシブという概念が、広く社会に浸透すると良いですね。
参考文献・サイト
- 障害者の権利に関する条約|外務省(2017/6/23)
- 1日5分で教師力アップ!インクルーシブ教育時代の生き残り術【DATABANK】(2017/6/23)
- 共生社会の形成に向けた インクルーシブ教育システム構築のための 特別支援教育の推進 (報告)|中央教育審議会初等中等教育分科会(2017/6/23)
- インクルージョンに至るまでの保育|玉川大学(2017/6/23)
- インクルージョンの難しさ(2017/6/23)
- 「プロフェッショナル仕事の流儀」にも取り上げられた、インクルーシブ保育とは?|スゴいい保育 保育のいまの声と必要な未来を伝えるサイト(2017/6/23)
- 「すべての子どものための教育」インクルーシブ教育って?背景、具体的な取組み、課題点について|LITALICO(りたりこ)発達ナビ(2017/6/23)
- インクルーシブ保育における課題と必要性と可能性|ICTキッズ(2017/6/23)
- インクルーシブ保育とは?インクルーシブ教育の課題と危険性!|40’s Exchange Hack(2017/6/23)