保育施設での死亡事故が毎年後を絶ちません。内閣府の資料によれば、平成28年には13名の尊い子どもたちの命が保育施設の中で失われています。保育中に起こりやすい事故とはどのようなものなのか、子どもたちの「命」を守るために何ができるのか…
今回は過去の保育事故データから、保育事故防止対策について考えていきましょう。
保育施設における死亡事故発生件数は?
保育施設における死亡事故は、年間どれくらい発生しているのでしょうか。まずはその実態について詳しくご紹介していきます。
内閣府および厚生労働省では、平成16年から平成28年までに報告のあった、保育施設における事故を取りまとめています。今回は事故報告のうち子どもが死亡してしまったケースについて発生件数を一覧にしました。
教育・保育施設等で発生した死亡事故件数 | |
---|---|
平成16年 | 14件 |
平成17年 | 14件 |
平成18年 | 13件 |
平成19年 | 15件 |
平成20年 | 11件 |
平成21年 | 12件 |
平成22年 | 13件 |
平成23年 | 14件 |
平成24年 | 18件 |
平成25年 | 19件 |
平成26年 | 17件 |
平成27年 | 14件 |
平成28年 | 13件 |
(※平成18年度、認可外保育施設において4名が死亡する事故があったため、事故発生数と死亡人数は一致しません。)
保育施設における死亡事故はここ12年の間に187件も発生していることがわかります。
認可外保育施設での死亡事故は認可保育所の○倍?
これらの保育施設での死亡事故について、施設別に発生件数を見てみましょう。
上のグラフは、認可保育所、認可外保育施設に分け、それぞれ保育事故で亡くなってしまった子どもの人数を示しています。平成16年から28年までの死亡人数を合計すると、認可保育所は57名だったのに対し、認可外保育所は129名。認可保育所の2倍以上に及んでいることがわかります。
一部の認可外保育施設では、子どもの数に対して保育士さんの人数が少なかったり、資格を持っている職員が少なかったり、施設の中に死角ができていたり…安全対策が不十分な面もあるようだホィ。
調べによればこの時には保育士が1人もいない状態だったそう。
ごく一部ではあるけれど、管理体制がずさんな園も存在するみたいだね…。
死亡する子どもの半数以上は0歳児
続いて、保育施設における死亡事故について、年齢別に見てみましょう。
上のグラフは、平成16年から平成28年に保育施設で発生した死亡事故について、亡くなった子どもの数を年齢別に示したものです。
グラフからわかるとおり、死亡人数は0歳が最も多く97名。これは全体の51%に及び、事故で亡くなる子どもの半数以上は0歳児ということがわかります。
睡眠中の事故が75%!注意すべき点は?
ではどのような時に死亡事故が発生しているのでしょうか。内閣府、厚生労働省では保育施設における死亡事故発生時の状況や、主な死因を公開しています。
情報が公開されている平成25年分から28年分までを見てみましょう。
死亡事故発生時の状況 | ||||
---|---|---|---|---|
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | |
睡眠中 | 16 | 11 | 10 | 10 |
(睡眠中のうちうつぶせ寝) | 9 | 4 | 6 | 4 |
その他 | 3 | 6 | 4 | 3 |
事故における主な死因 | ||||
---|---|---|---|---|
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | |
SIDS (乳幼児突然死症候群) |
2 | 1 | 2 | 0 |
窒息 | 1 | 2 | 1 | 0 |
病死 | 6 | 1 | 2 | 4 |
溺死 | 0 | 1 | 1 | 0 |
その他 | 10 | 12 | 8 | 9 |
2つの表からは、以下のことがわかります。
- 子どもが亡くなる事例のうち75%は睡眠中に発生した事故であること
- 睡眠中に発生した死亡事例のうち49%はうつぶせ寝の状態であったこと
- 死因で最も多いのは「その他」であること
保育施設での死亡事故は、午睡など睡眠時に最も多く発生しており、その約半数はうつぶせ寝の状態で子どもを寝かせている時に起こっています。これは0歳児の死亡事例が多いこととも無関係とは言えないでしょう。
窒息やSIDSを予防するために、またその他睡眠時の体調の急変を見逃さないためにも、睡眠時にうつぶせ寝にさせないこと、呼吸や顔色のチェックを定期的に行うことなどの徹底が必要と言えそうです。
https://hoiku-shigoto.com/report/archives/5424/
子どもたちの命を守るためにすべきこと
厚生労働省では、保育施設等における重大事故の発生防止策として「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン(平成28年3月)」を公表しています。
ここからはガイドラインに沿って、保育事故を防ぎ、子どもたちの命を守るためにどのような点に注意すべきか、チェックしていきましょう!
◆睡眠時の注意点
前項でもご紹介したとおり、子どもの死亡事故が最も発生しやすい睡眠時。保育者は以下のことに十分注意する必要があります。
- ・医学的な理由から勧められている場合以外は、うつぶせ寝をさせない
- ・折りたたんだ布団やぬいぐるみなどをそばに置かない
- ・重い掛布団や毛布などを使用しない
- ・ヒモや紐状のものを置かない
- ・口内に異物がないかチェックする
- ・嘔吐物がないかチェックする
- ・呼吸や体位、睡眠状態をこまめにチェックする
保育施設での死亡時の状況でも多かった「うつぶせ寝」については、SIDS(乳幼児突然死症候群)の発生率が高いとも言われています。うつぶせ寝の姿勢が安心する、という子どもいますが、事故防止のためにも「うつぶせ寝をさせない」ことを徹底しましょう。
◆プール活動・水遊びの注意点
夏の暑い時期に注意したいのがプール・水遊びの際の溺死のリスク。幼い子どもたちはたとえ10センチ程度の水位であっても溺れてしまうことがあると言われています。監視体制には絶対に空白が生じないように徹底し、以下の点に注意しましょう。
- ・監視をする保育士は監視に専念する
- ・部分的な監視にならないよう監視エリア全体をチェックする
- ・動かないなど不自然な動きをすばやく見つける
- ・目線を一点に置かず、規則的に動かす
- ・十分な監視体制が確保できない場合には活動中止も検討する
- ・時間的な余裕をもって活動を行う
また基本的なことですが、心肺蘇生の方法など応急処置について、職員全員がしっかりと理解しておくことも重要です。緊急の際に慌てないよう、日頃から情報共有、訓練を行うようにしましょう。
https://hoiku-shigoto.com/report/archives/7320/
◆食事中の注意点
食事中は誤嚥が発生しやすく、窒息のリスクに十分注意しなくてはなりません。また嚥下機能の発達には個人差もあります。個々の発達状況や日々の健康状態などに応じてきめ細やかなチェックを心がけましょう。介助の際には以下の点に注意しましょう。
- ・身近な食べ物が窒息につながる可能性があることを認識する
- ・子どもの意思に合ったタイミングでゆっくり与える
- ・一度に多くの食べ物を詰めすぎない
- ・食べ物を飲み込んだかを確認する
- ・水分を適切に与える
- ・食事中に眠くなっていないかチェックする
- ・正しい姿勢で食べさせる
丸のままのプチトマトや白玉だんごは過去に事故が発生した食材。できることなら使用しないことが望ましいとされているよ!
また、食事中は食品アレルギーにも注意の必要性があります。予め保護者からアレルギーについて申し出てもらう、家庭で摂ったことのない食物は与えない、除去食提供の場合は提供のプロセスの中で人的エラーが発生しないよう、職場全体でアレルギー対応の仕組みづくりを行うことなど、十分に対策を行いましょう。
https://hoiku-shigoto.com/report/archives/912/
◆玩具で遊ばせる際の注意点
口に入れることで窒息の危険がある玩具。保育施設で誤っておもちゃを飲み込むことがないように、十分注意する必要があります。具体的には以下の点に注意しましょう。
- ・口に入れて窒息の可能性のある大きさ、形状の玩具は園内に置かない
- ・玩具のパーツが外れないか定期的にチェックする
- ・衣服のボタンや女児の髪飾りなどについても誤飲のリスクを認識し、必要に応じて保護者に協力を仰ぐ
- ・誤飲、窒息の危険性があった玩具に関しては職員間で情報を共有し除去する
保育士は「命を預かる」仕事
保育士という仕事には、子どもたちの命を預かるという責任が伴います。それは職位や経験年数、雇用形態に関係ありません。また保育園で子どもたちを預かる以上、無資格の職員であっても、責任感を持って業務にあたることが必要でしょう。
施設全体で子どもたちの命を守るためにも、
- 保育中の事故事例について情報共有を行うこと
- 事故防止のための留意点を全職員に周知徹底すること
- 応急処置など実践的な研修、訓練を定期的に行うこと
- 緊急時の役割分担を決めておくこと
など、職員の資質向上、体制の改善を目指して園全体で取り組んでいくこと、そして職員一人ひとりが、「命を預かっている」という認識を持って、事故のリスクに対して高くアンテナを張っておくことが大切ではないでしょうか。
編集者より
今回は重大な保育事故発生を防ぐために、保育士さんにできることを中心にご紹介しましたが、職員体制や環境をきちんと整えること、保育士さんがもっと余裕を持って保育に向かいあえるよう、処遇や業務量などを見直すことなど、事業者や自治体などが検討すべき課題もあるように思います。
状況が改善がされるには、まず体制や環境の不十分さが事故につながりかねないということが広く認知される必要があるでしょう。
厚生労働省は2018年度から、いままで事故報告が義務付けられていなかった認可外保育施設に対しても、重大事故が起こった際に情報開示を義務付ける方針を決めました。
事故の詳細が開示されることが今後の保育事故予防につながっていくこと、そして一人でも多くの子どもたちの命が守られることを心から願います。
参考文献・サイト
- 教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン|厚生労働省(2017/7/26)
- 子ども・子育て支援新制度概要|内閣府(2017/7/26)
- 「教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について|内閣府(2017/7/26)
- 「平成 28 年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について|内閣府(2017/7/26)
- 保育施設における事故報告集計|厚生労働省(2017/7/26)
- 保育事故 認可外にも報告義務 厚労省、質向上めざす|日本経済新聞(2017/7/26)
- 認可外保育施設でのうつぶせ寝死亡事故 都が国指針厳格化へ 「1歳以上もあおむけ寝」|産経ニュース(2017/7/26)
- 1歳児に塩飲ませ死亡させる? 保育施設の元経営者を逮捕|産経ニュース(2017/7/26)
- 保育園で失われる幼い命、10年で146人 再発を防ぐために遺族は立ち上がった|BuzzFeed News(2017/7/26)