厚生労働省の調査によれば、保育士の離職率は平成25年度時点で10.3%に及びます。待機児童が増加の一途を辿る中で、保育士の人材不足はどんどん深刻になっているのです。
しかし、退職することになってしまった保育士も、いま辞めようか悩んでいる保育士も、はじめは「保育」に希望や期待を持って国家資格を取得したはず。辞めてしまった・辞めたくなってしまった原因は、そうした入職前と入職後のギャップにあるのではないでしょうか。
そこで今回は、保育士さんを対象に「入職前後でどんなギャップを感じたか?」「そのギャップにどう対処したか?」についてお聞きしました!
入職前後でギャップはありましたか?
「保育士になる前に思い描いていた保育士像と、実際に保育士になってからの現実にギャップはありましたか?」と質問したところ、「ギャップがあった」が93.6%、「ギャップはなかった」が6.4%となりました。
どのようなイメージを持って、保育士を志していましたか?
「どのようなイメージを持って保育士を志していましたか?(※複数回答可)」と質問したところ、
- 「子どもと一生懸命遊んで、成長を見守る仕事」が74.1%
- 「子どもの面倒を見るのが好きな、優しい女性の多い仕事」が72.9%
- 「国家資格を必要とする、安定した仕事」が27.6%
- 「楽器演奏や工作など、自分の得意分野を活かせる仕事」が15.9%
となりました。
その他には
- 「子育て支援に開けるエキスパート」(50~54歳:保育園経営者・園長/女性)
- 「働く女性の支援者として」(45~49歳:保育園経営者・園長/女性)
- 「子ども一人一人にあった発育状況を把握し、分析した中で成長へと繋げられるようなアプローチをする仕事」(30~34歳:保育士【正規職員】/女性)
といった回答も見られました。
どのようなところにギャップを感じましたか?
「実際に保育士として働いてみて、どのようなところにギャップを感じましたか?」と質問したところ、以下の回答がありました。
- 「現場最優先・子供最優先と思っていたが、あらゆる書類の作成や大人の都合に追われ「どちら優先なんだろう?」と感じることが多かった」(35~39歳:元保育士/女性)
- 「子どもに対するのと同じくらい、大人への支援が必要なことが多い。保護者にしろ、職員にしろ」(30歳~34歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「上の先生たちからのいじめで仕事が楽しくなくなった。子どもと関わる仕事だから、現場でそんな目に合うと思わなかった」(25歳~29歳:元保育士/女性)
- 「仕事量(週案、月案、個人記録、研修、出張、行事)があるわりに、給料が少なすぎる。こんなに大変な思いをしてたんだと感じた」(30歳~34歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「定時で勤務終了できると思っていたが事務仕事が膨大で、常に時間外勤務や持ち帰り仕事が多い」(45歳~49歳:保育士【正規職員】/女性)
ギャップを解消するための行動を起こせましたか?
「ギャップがあった」と回答した人に「ギャップを解消するための行動を起こせましたか?」と質問したところ、「行動を起こせた」が30.1%、「行動を起こせなかった」が69.9%となりました。
ギャップ解消のため、どのような行動を起こしましたか?
「ギャップ解消のために行動を起こせた」と回答した人に「どのような行動を起こしましたか?」と質問したところ、以下のような回答が寄せられました。
- 「書類の見直しを園長に訴えることで、書類の負担がこれから軽減されるところだ」(20~24歳:保育士【正規職員】/男性)
- 「保育士同士で声かけあい、見守っている」(35~39歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
- 「土曜日出勤をしないようにしていたが、土曜日を月2回入れるようにして、他の先生が休めるようにした」(40~44歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
- 「陰口いう人には直接話をしに行きます。又労働基準局に行きました」(25~29歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「必要な知識や技術を取得すべく、自主的に研修を受けに行くなど専門職としての自己研鑽に努める」(50~54歳:保育園経営者・園長/女性)
行動を起こして、状況は改善されましたか?
「ギャップ解消のために行動を起こせた」と回答した人に「行動を起こしたことで状況は改善されましたか?」と質問したところ、「改善された」が35.8%、「改善されなかった」が69.9%となりました。
ギャップ解消のために動けなかったのはなぜですか?
「行動を起こせなかった」と回答した人に「ギャップを解消するために行動を起こせなかったのはなぜですか?」と質問したところ、以下のような回答が寄せられました。
- 「みんなやっているからとあきらめてしまう」(40~44歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
- 「年功序列の社会で、どうしようもないと思ったから」(30~34歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「先輩の先生方には常にイエスマンでいなければならないので、行動を起こすなんて、もってのほかでした」(25~29歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「狭い社会なので、園長や主任に嫌われると働きづらくなるから」(40~44歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「意見しようとしても他の先輩に告げ口をされたことがあるから」(25~29歳:元保育士/男性)
ギャップが生じたのはどうしてだと思いますか?
「ギャップが生じたのはどうしてだと思いますか?(※複数回答可)」と質問したところ、
- 「覚悟はしていたが、そのギャップが自分の想像以上に大きかった」が66.5%
- 「入職先の保育士から直接話を聞ける機会がなかった」が39.6%
- 「「入職前の情報収集が足りなかった」が31.7%
- 「保育園から提示された情報が実際と異なっていた」が29.9%
となりました。
そのほかにも、以下のような回答が寄せられています。
- 「期待と夢が大きすぎた」(40~44歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
- 「養成機関での教育内容が実務に追いつかない」(50~54歳:保育園経営者・園長/女性)
- 「そもそも日本の労働の仕方昔からおかしい。保育に限らず。仕事のせいで過労死や病気になっていっているのはおかしい!!!」(20~24歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
ギャップをなくすにはどうすべきだと思いますか?
「ギャップをなくすにはどうすべきだと思いますか?(※複数回答可)」と質問したところ、
- 「待遇を期待通りの水準に向上させるべき」が64.0%
- 「入職先の保育士とディスカッションできる機会を設けるべき」が48.4%
- 「保育園や養成校の情報開示がより詳細になるべき」が41.6%
- 「1日体験など、事前に現場に入る機会を設けるべき」が2.4%
そのほかにも、以下のような回答が寄せられています。
- 「経営者側の、保育に関する知識アップ」(40~44歳:元保育士/女性)
- 「定時内で事務仕事ができる時間を設けられるだけの人員配置をするべき」(45~49歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「保育士にも経験年数ではなく資格の更新制度を設けて、伝統や慣例にとらわれない保育の最新のスキルアップを常にしていく」(40~44歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
復職のためには、どのような改善が必要ですか?
ギャップをきっかけに退職してしまった人に対して「復職するためには、どのような改善が必要だと思いますか?」と質問したところ、以下のような回答が寄せられました。
- 「下の先生でも、きちんと意見を言える職場づくり。上がいうことは絶対という時代は終わっていると思う」(25~29歳:元保育士/女性)
- 「園長や主任の意識改革」(35~39歳:元保育士/女性)
- 「一般的に問題だと思われる内容に関して、外部の視点も入れた議論ができる場を」(45~49歳:保育士【パート・アルバイト】/女性)
- 「休みをもっととりやすく、フォローしあえる環境になって欲しい」(30~34歳:元保育士/女性)
- 「職場にメンタルヘルスケアができる人がいると良いかと思う」(45~49歳:保育士【正規職員】/女性)
保育士を目指す学生さんにアドバイスを!
「7~9月は保育学生の就活開始時期です。保育士を目指す学生たちに、エールやアドバイスがあればお聞かせください」と質問したところ、以下のような回答が寄せられました。
- 「仕事内容でギャップはあるものの、子供が好きだ!という気持ちや可愛いとおもう気持ちがあれば、多少は乗り越えられる。そして、三つ子の魂100までというが、一番人間の基礎的な部分を培えている職業なことを誇りに思って欲しい」(30~34歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「ネットに書いてある評判よりも実際に行って目で見て動いたほうがいいと思います。ネットだけ頼ると大切なところ見落とします」(25~29歳:保育士【正規職員】/女性)
- 「デメリットを探して自分にあうところに面接にいくとよい、あとまずピアノを頑張って。必ず戦力になります」(30~34歳:元保育士/女性)
- 「色々な園を見ること。行事の練習風景と本番のどちらも見ておくべき」(25~29歳:保育士【正規職員/女性】)
- 「貴方を待ってます。たくさん辛いことが多いと思いますが、頑張って下さい🎵」(20~24歳:保育士【正規職員】/女性)
編集者より
今回のアンケートでは、ギャップが生じた理由を「思っていたよりもずっと現実が厳しかった」と回答する人がもっとも多くなりました。
ギャップによる離職を防ぐためには、まず入職前に保育園や職場の人間、行事の様子までしっかり調べておくのがよさそうですね。
また、ギャップがあったとしても、「それを相談できる相手がいるか?」「それを改善するために動ける職場か?」も、離職してしまうか否かの分かれ目になりますよね。
自分の意見をきちんと言えて、受け止めてもらえる職場であれば、ギャップがあってもきっと長く働いていけるはず。保育士の待遇改善については誰もが切望するところではありますが、まずはいきいき働いていくためには、「自分ができることは何か?」考えてみるのもよいかもしれません。
相手を変える前に、まずは自分から変わっていきましょう。
保育士さんが幸せに働けることは、子ども達にもいい影響を与えるはず。それは巡り巡って、社会全体の財産に繋がっていくのではないでしょうか?
・実施期間:2017年8月25日~9月8日
・実施対象:保育のお仕事の読者のほか、保育系のSNS(facebookページ、twitter)の読者となっている全国の20代~60代の男女173名
保育士/正規職員(55.5%)・保育士/パート・アルバイト(27.7%)・
元保育士・潜在保育士(12.1%)・その他(4.7%)
・年齢層:
20~24歳(13.9%)・25~29歳(19.1%)・30~34歳(17.3%)・
35~39歳(15.6%)・40~44歳(18.5%)・45~49歳(9.2%)・
50~54歳(4%)・55~59歳(1.7%)・60~64歳(0.6%)
・男女割合:女性/96%・男性/4%
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!
※ご意見は個人情報のわからないよう、一部抜粋・編集しご紹介しております。数値については四捨五入している関係で必ずしも合計が100とならない場合があります。