保育の基礎知識

保護者とよりよい関係を築くために――配慮の必要な保護者への「支援」のポイントは?

「○○くんママ、いつも前もってお知らせしてるのに忘れ物しちゃうな……」
「落ち込んでいる保護者を励ましたいけど、保育士の立場で何ができるんだろう?」

などなど、保護者対応に悩んでいる保育士さんは数多くいるはず。
誠心誠意接しているはずなのに関係がうまくいかないと、保育士としての自信もなくしてしまいますし、保護者の方に抱く印象も悪くなってしまいますよね。
しかし 、それでは保護者との関係性がますます悪化するばかり。

そのようにやり取りがうまくいかない保護者の中には、実は「支援を必要としている」方がいるかもしれません。悪気があるわけではなく、保育士の要求を理解しきれずに困っているかもしれないのです。
今回の記事では、そうした支援を必要としているかもしれない保護者の方にできる配慮をご紹介いたします。

発達障害の傾向がある


発達障害とは、生まれつき脳の発達・機能が多くの人とは異なるために、過ごす環境や周囲の人とのかかわりにずれが生じて日常生活・社会生活に困難を抱える状態を指します。
障害の有無に関する正確な線引きはなく、「その特性がとても強く、生活に支障をきたす」場合に発達障害があると判断されます。しかし見た目からは障害があるかどうかが分かりにくく、「本人の甘え」「親のしつけが悪い」などの誤解を受けがちです。

今でこそ発達障害に対する認知度は上がりましたが、近年まではそうした診断を受ける機会もなかなかありませんでした。それゆえに「自分が発達障害である」という自覚のないまま成長して、大人になった人も少なくありません。

それでは、以下に発達障害の主な分類を解説します。

アスペルガー症候群

アスペルガー症候群とは、コミュニケーション能力や社会性、想像力の欠如などの障害があるために、対人関係を上手に築けない障害を指します。
相手の話を理解できなかったり、自分ばかり一方的に話してしまったり、イレギュラーな出来事を予測できずパニックに陥ったり……といった困難を抱えていることが多いようです。

文部科学省では、このアスペルガー症候群を

知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。
文部科学省「主な発達障害の定義について」(2018/07/20)

と定義しています。
つまり知的遅延も言語障害もないため、周りからは「変な人」という誤解を受けてしまいがちなのです。

ケース:保護者の集まりで、自分の作業が終わったらそのまま帰ってしまう
「社会性の問題」を持つ、アスペルガー障害の傾向にある人がやってしまいがちなこと。
周囲の人の気持ちに意識が向かない、他人の感情やその場の空気を読むのが苦手……といった特性から、周りの人に「非常識・失礼」だという印象を持たれてしまいます。

そんな時は、やるべきことを具体的に伝えることを心がけてみましょう。
曖昧な指示を与えられても、当人は「終わってからどうするべきか」にとても悩んでしまいます。「自分の作業が終わったら○○さんのお手伝いをお願いします」など、その場でどのように行動するべきか具体的に伝えてみるのがよいでしょう。

ADHD

ADHDとは、日本語で「注意欠陥・多動性障害」などと略されている障害です。
注意力が散漫になる「注意欠陥」、落ち着きがない「多動性」、考えずに行動してしまう「衝動性」から構成されています。

文部科学省では、ADHDを

年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
文部科学省「主な発達障害の定義について」(2018/07/20)

と定義しています。

成長につれて症状が目立たなくなる……という傾向はありますが、大人でも「ケアレスミスを頻発する」「貧乏ゆすりなど目的のない身体の動きをしてしまう」「相手の気持ちを考える前に思ったことを口にしてしまう」といった症状が現れることがあり、生活や対人関係で困難を抱えるケースが多いようです。

ケース:忘れ物・紛失が多い
もっともよく見られるケースが、連絡事項を口頭で伝えているにもかかわらず忘れ物・なくし物が多いこと。メモに書いていてもメモをなくしてしまうなどして、なかなか覚えていられない……という状況になりがちです。

そんな時は、忘れても思い出せるように促すことが大切です。
その場でノートにメモを取ってもらって、それを子どものカバンに結び付けておく。携帯電話のリマインダー機能を使ってもらう。園でも玄関などに連絡事項を貼りだし、「ここだけは見ておいてください」と徹底して伝えるなどの工夫をしてみましょう。

精神疾患がある


ストレスの多い現代社会では、多くの人が心の病(うつ病や統合失調症、パニック障害)などを抱えています。そのため、保育士が対応する保護者の中にも、そうした精神疾患を抱えている方がいてもおかしくありません。
とくに病気を患って間もない場合は、保護者はそれを言い出せないもの。保護者に笑顔がない、子どもの遅刻・欠席が多いなどの様子が目立つ場合には、「もしかして……」と考えることが重要です。
もちろん、それだけで決めつけるのは絶対にNGです。不適切な対応をしないよう、十分な注意が必要です。

うつ病

うつ病とは、憂うつな気分やさまざまな気力の低下が長く続き、やがて身体的な不調(食欲不振や寝不足など)も現れてしまう状態のこと。さまざまなストレスによって脳のエネルギーが枯渇してしまうことで引き起こされます。
気分転換や時間経過によって気持ちが癒されることがなく、仕事や家事などの生活・周囲の人との交流にも支障をきたしてしまうと、病気として扱うことになります。
保護者の方がうつ病になると、朝起きられないなどの理由から子どもの登園準備ができず、子どもは保育園を休みがちになってしまうのです。

うつ病を患っている保護者の方の支援は、まず地域の保健師に協力を仰ぐことが不可欠になります。その上で、
・励まさない(かえってプレッシャーになってしまうため)
・うなづいて話を聞く(親身に気持ちを受け止める)
・重要なことを決める相談をされても、その場で決断させない(精神が不安定な時にした決断は後悔につながる)
といったポイントを意識するとよいでしょう。

統合失調症

統合失調症とは、何らかの原因により精神機能がうまく働かなくなり、思考・行動・感情をひとつにまとめる(=統合する)能力が長期間にわたって低下してしまう病態を指します。
自分の考えや気持ちがまとまらなくて混乱したり、存在しないものを幻覚として見てしまったり、被害妄想などに取りつかれてしまったり、意欲の低下などが引き起こされたりすることが主な症状です。

統合失調症を患っている保護者の方の支援は、まず否定しないことを意識するといいでしょう。「わたしにはそうは思えませんでしたよ」くらいの相づちにとどめ、親身に話を聞くようにしましょう。話を途中で遮らないよう、最後までしっかり耳を傾けるのがポイントです。

子どもに障害がある


目に見える障害(視覚障害や肢体不自由など)を持つ子どもなのか、それとも目に見えない・わかりにくい障害(発達障害など)を持つ子どもなのかによって、保護者の障害受容のプロセスは異なります。
保育士は保護者の心の動きを理解しながら、前向きになれるようサポートする必要があります。

イクミ

「障害受容」とは、主に障害を持った人がさまざまな過程・段階を踏んで、自分の障害を受け入れることを指すよ。

ほいくん

今回のケースでいう障害受容は、本人ではなくその保護者が「どのようにしてわが子の障害を受け入れていくか?」ということホイ。

障害児に対する保護者の障害受容のプロセスは、おおむね以下のようになります。

目に見える障害がある場合

子どもに視覚障害や肢体不自由のような目に見える障害がある場合、保護者の方は保育園に子どもを預ける以前に、障害に対してある程度の認識を持っています。
完全には受け入れられていないにしても、子どもが3歳になるころには障害受容のプロセスに入っていることがほとんどのようです。
その場合、保護者の方は障害受容のプロセスを、葛藤しながらも段階的に子どもの障害を受容していくことになります。

支援のポイントとしては、子供の成長に目を向けてもらうことが挙げられるでしょう。
保護者は子どもの失敗をとがめられる経験をたくさんしてきているため、「また何か注意されるかも」と身構えてしまいがちです。そのため、保育士はその子のいい部分を積極的に伝えるようにするとよいですね。
また、周りの子どもと比べてできないことに対しても落ち込みがちなので、その中でも具体的な工夫を示しながら「こうすれば●●ちゃんもできますよ」と提案することが大切です。

目に見えない障害がある場合

発達障害などのわかりづらい障害を持っている場合、保護者の方は子どもの障害に気づかず、「ちょっと発達が遅れているだけ」と厳しく教育してしまうことがあります。しかしそれは子どもにとって悪影響。問題行動が余計に強く出たり、子どもの自己肯定感を著しく低下させてしまう恐れがあります。

こうした場合、保護者の障害受容のプロセスは少しずつ前に進んではいますが、時には逆戻りして不安になったりもするものです。

そのため、保育士は保護者が受容の過程にあることを理解して接する必要があります。保護者から攻撃的な発言をされても、「今はそういう時期なんだな」と受け流すことが大切です。親身に支援するのはもちろんですが、攻撃的な時期にある保護者を真正面から受け止め続けるのは、保育士さんにとっても大きな負担となってしまいます。

また、保護者の方が子どもの障害に気づいていない場合は、一度園に来てもらって子どもの様子を見てもらうのもよいでしょう。
自宅は子どもが自由に過ごせる環境であるため、問題行動がさほど現れないこともあります。そのため保護者の方は、保育士から子どもの様子を伝えられても実感を持てない場合があるのです。
こうした状態では、子どもが適切な支援を受けることができません。集団の中で過ごす様子を見てもらうとともに、支援を受けることのメリットを伝えられるといいですね。

編集者より

多様化する保護者対応。保育士さんにとっては気を付けなければならない点も多い、とても重大な仕事のひとつです。
相手を「この人絶対障害があるんだ!」などと先入観で決め打ちせず、さまざまな保護者の方がいることを念頭に置きながら、「どういう工夫をしたら伝わるだろうか」を柔軟に考えられるようになれるといいですね。

参考文献・サイト

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