保育の基礎知識

保育士や保護者を困らせる子どもの「試し行動」~原因と対処法~

わざと困らせることをして大人の様子をうかがう、子どもの「試し行動」。「いったいどうしたらいいの?」と対応に困ってしまう保育士さんやママ・パパも多いのではないでしょうか。

今回は子どもの試し行動について、その原因や子どもたちの心理、対処法について解説します!

わざと大人を困らせる「試し行動」とは?

困る保育士さん
「試し行動」とは、「自分のことを受け止めてくれるのか」「自分にどれくらい愛情があるのか」「こんなことをしても受け入れてくれるのか」を試すために、悪いこととわかっていながらネガティブな行動を取って大人の様子を見る、子どもの愛情確認行動です。

    【試し行動の例】

  • ものをわざと投げる
  • 手に負えないほど泣き叫ぶ
  • 絵本をわざと折る、破くなど物を壊す
  • 食事やジュースをわざとこぼす、吐き出す
  • 床や壁をわざと汚す
  • 大人や友だちにわざと噛みつく
  • 大人の様子を見ながら逃げる
  • わがままを繰り返す
  • 何度も叱られた行動を繰り返す
試し行動かそうでない行動かの違いは、
・その行動を「悪い」とわかってわざとやっているか
・大人の顔色をうかがっているか

でわかるホィ。

試し行動は信頼関係をつくる第一歩

子ども
子どもの試し行動が続いてしまうと、どうしてよいかわからず、「私のことが嫌いなのではないか」「愛情不足なのではないか」と思い悩んでしまう方も多いことでしょう。

また、試し行動のことをインターネットなどで調べてみると、「虐待を受けた子どもに多い」「里親など大人を信頼しきれていない場合に多い」など、ネガティブな情報が多く載っています。情報を見てさらに不安になり、自信をなくしてしまうこともあるかもしれません。

しかしながら、子どもの試し行動は「あなた(ママやパパ、保育士さんなど)の愛情が変わらないものであることを確かめたい!」という思いが行動にあらわれています。つまり、試し行動は信頼関係を確かなものにするための第一歩なのです。

「試し行動をすること=愛情不足」とは限らないホィ!だから落ち込むのではなく、正しい対処法でツライ時期を乗り切っていこうホィ!
試し行動にはさまざまな原因が考えられるから、保育園で試し行動が見られる場合に、それだけで「家庭での愛情不足では……?」と結び付けてしまわないように注意したいね。

試し行動の原因はさまざま!

保育士と子ども
では、子どもたちが試し行動をする背景には、どのような原因が潜んでいるのでしょうか。ここからは試し行動の理由について詳しくご紹介していきます。

◆愛情をはかってみたい

「この人はどれくらい僕(私)のことを大事に思ってくれているんだろう」「こんな悪いことをしても、この人は受け止めてくれるのかな、嫌いにならないかな?」と、身近な大人の愛情を確認したいとき、試し行動はあらわれます。

その背景には、子どもが抱える不安や、大人に対する不信感があります。ただし、それはとてつもなく大きな不安や、絶対的な不信感というわけではありません。

たとえば、感情的に怒ってしまった後や、残業でお迎えが遅くなってしまった後など、ちょっとしたきっかけでも子どもが試し行動をすることがあることを、覚えておきましょう。

◆気を引くための方法がわからない

愛情をはかることと似ていますが、「悪い」とわかっていることをすることで、大人の気を引こうとしているケースもあります。

たとえば、自分よりも幼い兄弟がいて、ママやパパの視線を独り占めできないときでも、ネガティブ行動をとれば、兄弟のお世話を中断してでも飛んできてくれる……。このような場合には、気を引くために取るべきポジティブな行動がわからずに、手っ取り早いネガティブ行動で注意を向けようとしていることが考えられます。

◆知らない人を試してみたい

まだ担任になって日が浅い年度のはじめなどにあらわれやすいのがこのケース。「この人はどんな人なんだろう?」「信用できる大人なのかな」「僕(私)を大切にしてくれる人かな?」と、子どもなりに大人を試しています。

◆環境の変化などに対する不安から

引っ越しをした、兄弟が生まれるなどで家族構成が変わった、年度が上がり新しい友だちが入園してきたなど、環境が大きく変わると、子どもたちは不安を覚えます。その不安が試し行動というかたちであらわれることも考えられます。

◆虐待など特殊なケースも

虐待を受けていて愛情を感じることが難しいケースや、里子で親子の信頼関係がうまく築けていないケース、親の再婚などで子どもがかまってもらえなくなってしまったケースなどでも、試し行動があらわれます。

これらはあくまでも特殊な事例。試し行動がみられるからといって、即座にこれらの原因と結び付けてしまうのは尚早でしょう。

ただし、不自然な外傷が複数あるなど、虐待の可能性がある場合には、子どもの安全を守るために、必要な措置をとる必要があります。

「なんで私にだけするの?」その心理とは?

困っている保育士
「保育士さんの前ではしないのに、ママにだけ試し行動をする。」「主担任の保育士さんにはしないのに、なぜか副担任の私にだけ試し行動をする。」

試し行動をされる立場からすれば「どうして自分だけにするの?」と不安に思ってしまいますよね。では子どもたちはなぜ、特定の人にだけ試し行動をするのでしょうか。その理由と子どもたちの心理を考えてみましょう。

◆関係の深さの違いから
主担任は去年からの持ちあがりで、副担任は今年から新規で受け持つ場合など、まだ子どもたちとの信頼関係が十分に築けていないと、「この先生はどんな先生なんだろう?」と、新しい先生だけに試し行動をする場合があります。
◆甘えたい存在だから
たとえば、パパにはしないのに、ママにだけ試し行動をするという場合には、甘えたい存在だからこそ試し行動をして確かめているというケースが考えられるでしょう。また逆の場合で、パパの帰宅がいつも遅いなどの場合には「もっとパパに甘えたい!愛情を確かめたい!」という心理があらわれているとも考えられます。

いずれにせよ、その人が「嫌い」だから、あるいは「困らせたい」から試し行動をしているわけではありません。前向きにとらえて対応していきましょう。

「試し行動」の対処法!ポイントは?

保育士のイラスト
試し行動は、大人にとっては困ってしまう行動であるため、感情的に怒ったり、「そんなことをする子は知りません!」などと突き放した言い方をしてなんとか止めたいと思ってしまいがちですが、こういった行動は逆効果です。

ここからは試し行動に対してどのように対応したらよいのか、正しい対処のポイントを確認していきましょう!

◆よいことと悪いことははっきり区別しよう!

まず、やってよいことと悪いこととの区別ははっきりとつけるようにしましょう。

子どもたちが試し行動をする時には、その行動が悪いことと把握しています。大人がうんざりしてしまい、叱るべきところできちんと叱らなければ、子どもたちは「してはいけないこと」なのか否かの判断ができなくなってしまいます。

「ダメなことはダメ」と根気よく伝え続けることが大切です。

◆「どんなあなたも大好き」と伝えよう

ただ「ダメ!」と叱るだけでは、愛情を確認したいと思っている子どもの不安感や不信感を取り去ることができません。

だからこそ、「どんな行動をとろうと、私はあなたのことが大好きだよ、愛しているよ」ということを、言葉や態度で伝え続けることが大切です。

【対応の例】
・叱った後に「あなたに成長してほしいからこそ、私はああやって叱ったんだよ」と伝える。
・「あなたのことは大好きだけど、〇〇するのは好きじゃない(嫌い)だよ」という。
・叱った後には抱きしめてあげる。
・「そんなことをしなくても、あなたのことが大好きだしいつも見ているよ。大丈夫だよ」と受け止めてあげる。

◆満足できる愛情の量はそれぞれ違う!

上記のように愛情を伝えても、なかなか試し行動を止めないこともあります。「これだけやっているのになぜ……」と感じてしまうかもしれませんが、落ち込んだり、自信を無くしたりする必要はありません。

子どもたちが満足する愛情の量というのは、一人ひとり異なります。一日一回抱きしめてもらうだけで満足する子もいれば、10回同じことをされても満たされない子もいます。それは個人差なのです。

大変ではありますが、子どもが「もう大丈夫だ」と安心するまで、根気よく愛情を伝え続けることが大切です。

◆【注意】こんな対応はNG!

試し行動を改善するどころか悪化させてしまう対応には、次のようなものがあげられます。子どもたちの不安を増幅させてしまうことにつながります。注意しましょう。

【してはいけない対応の例】
・「そんなことをする子は嫌い!」など子どもを否定する
・うんざりした態度をとる、無視するなど、子どもと向き合わない
・「そんなことをする子は知りません」「もう勝手にしなさい!置いていくからね」など疎外感を与える対応をする

こういった対応をすると、子どもたちの自己肯定感が下がってしまいます。そのことは試し行動を増やしてしまうだけでなく、たとえば摂食障害や非行など、ネガティブなかたちで子どもたちの将来に影を落とす可能性もあります。

時にイライラしてしまうこともあるかもしれませんが、しっかりと心にとめておきましょう。

編集者より

小鳥のイラスト
大人にとっては対処に困ってしまう試し行動ですが、子どもたちにとっては、「自分は愛され、受け入れられている。」と安心感をもって成長していくための、大切なステップであることがわかります。

試し行動に対処するためには、多大な努力や忍耐が必要で、「こんなに愛情をかけているのになぜ……」とつらく感じてしまうこともあるかもしれません。

しかし、そこでうんざりしたり、あきらめて無視をしてしまったりしては、状況はさらに悪化してしまうでしょう。

前半でもお伝えしましたが、試し行動は「あなたに受けとめてもらいたい」というメッセージであることを心にとめて、肯定的な視点で見ていけるとよいですね。

参考文献・サイト

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