毎年秋から冬にかけて猛威をふるう「インフルエンザ」。
乳幼児が感染した場合には、合併症を引きおこすなど、重症化するリスクもある恐ろしい感染症です。とくに、保育園などの集団生活の場においては、爆発的に感染が広がってしまうおそれがあるため、予防には細心の注意を払う必要があります。
今回は、保育園におけるインフルエンザ予防のポイントと、感染の拡大を防ぐための対策について、くわしくお伝えしていきます!
意外と知らない?!インフルエンザの基礎知識
そもそも、「インフルエンザ」とは、どのような病気なのでしょうか。まずは基礎知識として、感染してしまう原因や、感染の経路、なぜ繰り返し流行するのかといったメカニズムを、確認していきましょう。
インフルエンザの原因は?
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することが原因でおこる、呼吸器感染症です。インフルエンザウイルスに感染すると、1日~4日程度の潜伏期間を経て、以下のような症状を引き起こします。
- 38℃~40℃の高熱
- 筋肉や関節などの痛み
- 倦怠感
- 咳
- 鼻水
- 悪寒
- 頭痛 など
個人差はあるものの、症状は4日~5日ほど続き、回復には7日~10日程度かかります。
さらに、かかると怖い「合併症」については、後ほど解説します。
インフルエンザウイルスには、A型・B型・C型の3種類があり、そのうち季節性のインフルエンザとして流行するのは、A型のA/H1N1型(ソ連型)とA/H3N2型(香港型)、B型のウイルスです。
A型 | B型 | C型(非季節性) | |
---|---|---|---|
種類(亜型) | 144種類 | 2種類 | 1種類 |
感染する動物 | トリ・ウマ・ヒトなど | ヒトのみ | ヒトのみ |
感染経路は?
インフルエンザの感染経路には、「飛沫感染」と「接触感染」の2種類があります。
- 飛沫感染
- インフルエンザ感染者の咳やくしゃみなどによって、空気中に拡散したウイルスを、他者が吸い込むことで感染すします。
- 接触感染
- インフルエンザウイルスがついた、感染者の手、あるいはドアノブや手すりなどに接触し、その手で鼻や口、傷口などを触ることで感染します。
なぜ毎年流行するの?
感染症には、感染したら2度と同じ病気にはかからない、いわゆる「2度なし病」と、何度もかかってしまうものとがあります。インフルエンザは、ヒトが何度もかかってしまう感染症のひとつ。
その原因には、ヒトの体の構造上の問題と、ウイルスの変異という2つの要因が関係しているとされています。
- 【原因1】体の構造上の問題
- インフルエンザウイルスが、のどなど呼吸器の上部で増えるため、全身の免疫があまりできず、免疫が長続きしないため。
- 【原因2】ウイルスの変異
- インフルエンザウイルスは、その表面の構造や遺伝子の変化を繰り返し、少しずつ新しい型に変化するため。
なぜ秋から冬に流行するの?
日本においては、毎年11月~3月頃にかけて、大流行するインフルエンザですが、その流行には「空気の乾燥」が大きく関与しています。
まず、水分を含んだウイルスが、冬時期の乾燥によって空気中を浮遊しやすくなることで、ヒトの体に入りやすくなります。また、寒さによる体温低下が、体の抵抗力を下げることで、ウイルスに感染しやすくなります。
「ウイルスが浮遊しやすい環境」と「寒さによる抵抗力の低下」が、毎年秋から冬にかけてインフルエンザが流行する理由なのです。
保育園でのインフルエンザ対策実践のポイント
では、インフルエンザにかからないようにするには、具体的にどうすればよいのでしょうか。ここからは、保育園という集団の場において、どのようにインフルエンザを防ぐのか、予防対策のポイントをご紹介していきます。
保育園で流行しやすい理由とは
まず、保育園でインフルエンザが流行しやすいことには、以下のような理由があります。
- 【1】子ども同士の距離が近いため
- 保育園では、集団生活を行っているため、遊びの際や食事、午睡時などで、子ども同士が密に接触することも多いもの。ひとりがインフルエンザに感染してしまうと、飛沫感染や接触感染が、非常に起こりやすくなってしまいます。
- 【2】子どもの数が多いため
- 保育園には、毎日多くの子どもたちが登園してきます。インフルエンザにかかった子どもが、他の多くの子どもに接する環境だからこそ、感染が拡大しやすいと言えるでしょう。
- 【3】子どもの生理的特徴・行動特徴のため
- 生後6ヶ月をすぎると、お母さんからもらった免疫が減少し、感染症にかかりやすくなります。また、乳児の場合には、手やおもちゃなどを口に入れてなめてしまいますので、接触感染のリスクが高くなります。
- 【4】自分で身を守ることができないため
- 子どもたちは、マスクを正しく着用する、手洗いをしっかり行う、うがいを上手にするなど、インフルエンザウイルスから、身を守る行動が十分に取れないことも原因のひとつです。
【対策1】手洗い
インフルエンザの感染経路のひとつに「接触感染」があります。飛沫感染の場合は、感染者が近くにいなければ感染のリスクがぐんと減るのに対して、接触感染の場合には、感染者が近くにいなくても、ウイルスが付着したドアノブなどを触り、その手で顔などを触ることで感染してしまいます。
だからこそ、手洗いはインフルエンザ予防の基本と言えるでしょう。
正しい手洗いの手順 | |
---|---|
石けんをつける | 手を濡らして、両手で石けんをしっかりと泡立てる |
手のひら | 両手のひらをこすり合わせ、石けんの泡を全体に行き渡らせる |
手の甲 | 手の甲を、反対の手のひらでこするようにして洗う |
指の間 | 指を組み合わせるようにしてこすりあわせる(指を組み変えて洗い残しのないようにする) |
親指 | 手のひらで親指を握り、ひねるようにして根元までこする |
指先 | 手のひらをひっかくように動かして指先と爪を洗う |
手首 | 両手首を交互に反対側の手で握り、回転させるように洗う |
泡を流す | 流水で泡と汚れをしっかり洗い流す |
水をふき取る | タオルやハンカチで水気をしっかり取る(かならず清潔なタオルなどを使い、共有は避ける) |
【対策2】予防接種を受ける
家庭との連携が必要ですが、インフルエンザワクチンを接種することで、感染のリスクを減らし、感染した場合に重症化するのを防ぐことができるとされています。
ワクチンを接種することで、免疫を高めてインフルエンザウイルスに対する抵抗力をつけてくれるんだホィ!
子どもは大人に比べ、インフルエンザワクチンによる抗体ができにくいため、2回接種する必要があります。
いつ予防接種を受ければいいの?
インフルエンザワクチンの接種から、抗体ができるまでの期間は約2週間。また、その効果が十分に持続するのは約5ヶ月間とされています。その年によって流行時期は異なりますが、10月中に1回目を接種し、その後4週間をあけて2回目を接種するとよいでしょう。
【対策3】保護者との情報共有
インフルエンザは、保育園の中だけで予防対策を行っても、感染を防ぐことはできません。感染を予防するためには、家庭との連携が不可欠です。
園だよりや連絡帳、送迎時の申し送りなどで、インフルエンザの危険性や、家庭でできる予防法などの情報提供を行うほか、インフルエンザワクチン接種のリマインドなどもあわせて行うとよいでしょう。
また、インフルエンザ感染を早期に発見できるように、子どもの健康状態についてしっかりヒアリングすることも大切です。
免疫力アップが感染予防につながる!
体の免疫力が弱っているときは、インフルエンザウイルスに感染しやすくなります。また、感染時に免疫力が弱っていれば、重症化するリスクも高くなります。
家庭と連携し、休日にも規則正しい生活を心がけてもらう、栄養のある食事を与えてもらうなど、子どもたちの免疫力を高めることに協力してもらうよう、心がけましょう。
【対策4】加湿
インフルエンザウイルスは、湿度が40%を下回ると浮遊しやすくなります。加湿器などを活用して、室内の湿度を50~60%に保つようにしましょう。
うがいはインフルエンザ予防に効果があるの?
うがいは一般的な風邪に対しては一定の効果が認められていますが、残念ながら、インフルエンザを予防する効果については、科学的な証明がありません。
ただし、軽い風邪にかかることでも、免疫力は下がってしまいますので、病後、あるいは回復後にインフルエンザにかかってしまうリスクも高まります。うがいはインフルエンザを直接予防するものではありませんが、園全体で習慣的に行うとよいでしょう。
もしもかかってしまったら……
どんなに予防に力を入れていても、子どもたちが、インフルエンザにかかってしまうこともあります。ここからは、園でインフルエンザの疑いがある子どもがいた場合に、どのようにすべきか、対応のポイントをご紹介します。
まずは「隔離」を!
インフルエンザの疑いがある子どもがいたら、まずは他の子どもたちから隔離しましょう。医務室などの別室が確保できれば、そこで保育をするようにします。
これは、飛沫感染で近くにいる子どもにうつってしまうことを防ぐ、またウイルスがついた手で、園共有のおもちゃや、手すりなどの設備に触れてしまわないようにするための対策です。
隔離したあとは、速やかに保護者に連絡し、できるだけ早くお迎えに来てもらうようにしましょう。園内での感染拡大を防止するためにも、職員はマスクを着用し、感染が疑われる子どもと接したあとには、手洗いをしましょう。
登園可能な目安をしっかり伝えよう
保護者がお迎えに来たら、病院への受診のお願いとともに、インフルエンザと診断された場合の対応について、説明を行います。
インフルエンザウイルスは、発熱などの症状が治まってすぐにはまだ感染力が強く、他の子どもにうつってしまう可能性があります。
そのため、学校保険安全法では、「発症後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」は登園ができないと定められています。
保育士さんも感染しないよう注意!
大人は子どもに比べて、高い体力と免疫力を持っているため、保育士さんがインフルエンザウイルスに感染した場合、発熱など顕著な症状があらわれない場合や、風邪のような軽い症状で済んでしまうこともあります。
インフルエンザにかかったことに気づかずに、保育にあたってしまうと、知らず知らずのうちに保育士さんが「感染源」となってしまうこともあります。
人ごみを避ける、マスクを着用するなど、保育士さん自身もインフルエンザにかからないよう、しっかりと対策をとりましょう。
怖い「新型インフルエンザ」には要注意
インフルエンザは、少しずつその構造を変化させますが、10年から数10年ごとに、大きな変異をして、基本的な構造をがらりと変えます。これがいわゆる「新型インフルエンザ」です。
また、多くの動物に感染するA型インフルエンザの場合には、動物を介してウイルスに突然変異が起こり、新型のインフルエンザウイルスが生まれることもあります。
新型インフルエンザは、免疫を持っている人がいないため、従来のインフルエンザに比べて、大流行してしまうおそれがあります。また、重症化する可能性も高いため、もしも流行した場合には、予防と感染拡大防止によりいっそう注意が必要です。
インフルエンザが引き起こす合併症
毎年のように流行するため、身近な病気にも思われるインフルエンザ。しかし、ときには深刻な合併症を引き起こし、重い障害が残ってしまう、また最悪の場合には死にいたることもある、恐ろしい感染症です。
乳幼児にとくに多い合併症には、次のようなものがあります。
インフルエンザ脳炎・脳症 | インフルエンザ脳炎は、インフルエンザウイルスに感染して脳に炎症が起こる病気です。インフルエンザ脳症は、ウイルス感染は不明ながら、脳炎と同じような症状があらわれます。呼びかけに応じず、ぐったりと寝込む状態が続くほか、けいれんが続くことがあります。死亡、あるいは回復後も重度の障害が残る可能性があるので注意が必要です。 |
肺炎 | ウイルスが肺に入り込み炎症を起こします。激しい咳と高熱が続く。入院による治療が必要な場合が多くあります。 |
気管支炎 | 気管支にウイルスがが入り込んだり、細菌による二次感染を起こしたりすることで生じます。激しい咳と高熱が続きます。 |
熱性けいれん | 発熱に伴い、全身にけいれんを起こします。意識を失い、白目をむいたり唇が紫に変色するなどが見られます。2~3分で治まり、後遺症が残ることはありません。 |
中耳炎 | ウイルスや細菌が耳管を通って中耳という部分に入り、炎症を起こします。激しい耳の痛みがあり、炎症がひどい場合には、鼓膜を切開して膿を出す処置が必要となることがあります。 |
保育士さんの最大の役割は「感染拡大の防止」
日本では、毎年約1千万人、約10人に1人がインフルエンザに感染しています。どんなに予防対策をしっかりしていても、その感染のリスクを「ゼロ」にすることは、難しいでしょう。
保育園は、多くの子どもたちの命を預かっています。その中では、一人ひとりの子どもたちだけでなく、集団全体の健康や安全にも配慮する姿勢が大切です。
インフルエンザに対しては、園全体で予防対策を取りつつ、「感染拡大を食い止める」ために、最大限の努力をする必要があると言えるでしょう。
編集者より
抵抗力の弱い子どもたちは、インフルエンザの脅威に、真っ先にさらされてしまいます。熱や痛みに苦しむ子どもたちの姿を見るのは、周囲の大人にとって、とてもつらいことでしょう。
まだ自分自身で身を守ることができない子どもたちを守るため、そして苦しむ子どもの数をできる限り少なくするためにも、ぜひ今回ご紹介した内容を活かして、園全体で、インフルエンザ対策に取り組んでくださいね!
参考文献・サイト
- 国立感染症研究所 感染症情報センター長 岡部信彦(2009)『知って防ごう かぜと新型インフルエンザの基礎知識』少年写真新聞社
- 厚生労働省『インフルエンザと予防接種(啓発資料)』(2018/10/30)
- 首相官邸『(季節性)インフルエンザ対策』(2018/10/30)
- 医療法人清友会 笠松病院『子供のインフルエンザ 予防とホームケア』(2018/10/30)
- エステー『冬になると、風邪やインフルエンザが流行するのはなぜですか?』(2018/10/30)