厚生労働省が2016年に発表した資料「アレルギー疾患の現状等」によれば、日本人のふたりにひとりは何らかのアレルギー疾患に罹患(りかん)している、とされています。
アレルギーと言っても喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど……その種類はさまざまですが、そのいずれか、あるいは複数に罹患している人が年々増加傾向にあるようです。
しかも、アレルギーは全体的に若年層に多く出るという統計も出ています。
小さい子どもを預かっている保育士さんも、決して他人事にはできない問題ですよね。
今回の記事では、きちんと知っておきたいアレルギー……特に食物アレルギーの対応についてまとめました。
そもそも、アレルギーってどんなもの?
アレルギーとは、人間の身体が異物を排除しようとする免疫の機能が過剰反応してしまうことで起こる現象です。
本来なら無害であるはずのものにも過敏に反応してしまい、以下のような症状が引き起こされます。
●粘膜:目のかゆみ、充血、涙目、唇の腫れなど
●鼻:くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなど
●皮膚:湿疹、じんましん、かゆみ、乾燥など
●循環器:血圧低下、顔色の悪化など
●その他:嘔吐、下痢、便秘など
春先に多い花粉症も、スギやヒノキなど植物の花粉をアレルゲン(アレルギーの原因物質)とするアレルギーのひとつ。
害がないはずの花粉に対して免疫が過剰に反応し、目がかゆくなったり鼻水が出てしまうのです。
さまざまなアレルギーがある中で、食べ物をアレルゲンとするのが食物アレルギー。
乳幼児に多く発症するもので、おおよそは食物中に含まれるたんぱく質が原因で起こります。
アレルゲンとなる食べ物を摂取することによってアトピー性皮膚炎を引き起こしたり、口の中がかゆくなったりといった症状が出ます。
ひどいときには「アナフィラキシー」を引き起こすこともあるため、アレルギーのある子どもの食事には細心の注意を払わなければなりません。
- アナフィラキシーとは?
- 短時間のうちに現れる激しいアレルギー症状。
じんましんなどの「皮膚の炎症」やゼーゼー息が切れるような「呼吸器の症状」、腹痛や下痢・嘔吐などの「消化器の症状」がいくつか重なって生じます。
よく耳にする「アナフィラキシーショック」は、こうした緊急性の高いアレルギー症状が悪化して、血圧低下・意識不明といった危険な状態になっていることを指します。ただちに処置をしないと命にかかわります。
アレルギーの予防のために、保育園ができること
保育園では原則として、アレルゲンとなる食べ物を必要最小限で除去するという対応によってアレルギー発症を予防しています。
乳幼児の発育・発達を考えると、不要に食事制限をすることは望ましくありません。そのため、厚生労働省による「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」を参考に、実際の対応を保護者との面談によって決定することになります。
それによって園がとる対応はおおよそ、以下の通りになります。
- 除去食:申請のあった原因食物を除いた給食を出す
- 代替食:申請のあった原因食物を除き、その分の栄養価を別の食品で補った給食を出す
- 弁当対応:すべての給食に対して弁当を持参してもらう「完全弁当対応」と、どうしても給食から除去が困難であるために除去食や代替食を用意できない場合のみ持参してもらう「一部弁当対応」がある
給食の時間は、アレルギーのない他の子ども達から離れたところで、保育士がつきそいながら食事をするケースが多いようです。
他の子どもの食事にはその子にとってのアレルゲンが入っているため、間違って口にしたり、自分の給食に混入したりしないようにするための配慮と言えます。
①保護者と緻密にやり取りしてアレルギー児についての確認・連絡をする
②保護者と共に園の給食の献立を見ながら、園の対応を決めて個別の献立をつくる
③アレルギー対応について、園内の全スタッフに共有する
などが挙げられるよ!
アレルギー対応の流れ
実際にアレルギー児の給食についてどのように対応していくか、順を追ってみてみましょう。
1.アレルギーのある子どもの把握
アレルギーについて配慮が必要な場合は、入園面接時に申し出てもらいます。
健康診断や保護者からの申請によって、子どもの状況を把握することが大切です。
2.保護者へ必要書類を配布
保護者に、以下の必要書類を配布します。
- 生活管理指導票
- 食物アレルギー対応票
- 緊急時個別対応票
- エピペン対応票(処方されている場合)
食物アレルギーがある場合には医療機関を受診し、医師からも「生活管理指導票」を記入してもらうようにします。
3.保護者との面談
「生活管理指導表」「食物アレルギー対応票」を基に、保育所での生活や食事の具体的な取り組みについて、園長や保育士・看護師・栄養士・調理担当者と保護者が話し合って対応を決めます。
4.園内職員の共通理解
「アレルギー児対応一覧表」「個別の献立表」などを作成し、子どもの状況や保育所での対応(緊急時など)について職員が共通理解を持てるようにします。
定期的に、取り組みにおける状況を報告するようにしましょう。
5.情報の更新
「生活管理指導表」については少なくとも年一回、除去期間に応じて再評価してもらうようにしましょう。
それまで除去していたものを解除する際には、保護者から「除去解除届」を提出して申請してもらうようにします。
過去に摂取したことでアレルギーを経験したために除去していた、といった食物の除去を解除する場合は、量によって反応したりしなかったりすることがあるので、保護者と十分な相談が必要です。
日々の保育で、実際にどう対応すべき?
それでは、日々の食事の際にどのような対応をするべきか見ていきましょう。
調理担当者編
栄養士や調理師など、給食室で勤務しているスタッフは、まず調理室での事前準備をすることが必要になります。
調理室内でアレルギー児の対応について情報共有したり、個々の献立表について間違いがないか確認したり、専用の食器を用意して一目でそれがアレルギー児用だとわかるようにしたりします。
調理を始める際にも、アレルギー児の出欠についてまず保育士からの報告を受けるようにします。
その上でアレルギー対応食の調理手順を全員で確認しながら、誤って通常の給食が混入してしまうことのないように何度も注意して作ります。
保育士編
教室にもアレルギー児の専用献立表を掲示しておくほか、事前にアレルギー児の座る場所を決めておくといった対応が求められます。
誤食事故を防ぐために、アレルギー児にアレルゲンとなる食べ物を明記したワッペンなどを登園時からつけておいてもらうという工夫の方法もあります。
配膳時も、まずはアレルギー児の給食から先に配膳するようにします。
そしてアレルギー児が他の子の給食を間違って食べてしまわないよう、保育士が隣に座ったり他の子との間に入ったりするようにします。
やむを得ず離席して目を離してしまう際には、他の保育士さんに声掛けをするようにしましょう。
他の子の担当をしている保育士も、専用の食器やトレーがアレルギー児のものであることをきちんと認識しておきましょう。実習生などがいる場合には情報共有をして、できるだけ正規職員以外が配膳することのないようにします。
誤配膳がないように強く意識しましょう。
保育士として気をつけたい調理師との連携は、主に
- 朝の出欠、食事の確認
- 受け渡し時の確認
が挙げられます。お互いに声に出して、アレルギー児の食事に間違いがないかどうかを確かめ合いながら給食を提供していきましょう。
どうする!? 緊急時の対応
アナフィラキシーなどの緊急性の高いアレルギー症状が子どもに出ているのを発見したときは、あわてず、即座に救急車を要請します。
その上で子どもから目を離さないようにしながら、周囲の人に呼びかけて協力を仰ぎます。エピペンを用意する、内服薬を用意する、AEDを持ってくる……など、役割分担を指示しましょう。
緊急性の高い症状 | |
---|---|
呼吸器 | 喉・胸の強い締め付け、声の掠れ、息苦しさ、強い咳の持続、ゼーゼー切れる呼吸 |
全身 | ぐったりしている、意識低下・消失、失禁・脱糞、不整脈、唇・爪が青白い |
消化器 | 我慢できないほどの激しい腹痛、繰り返す嘔吐 |
救急車が来るまで、以下のような応急処置をして待ちます。
- 1.エピペンの使用
- エピペンとは、アナフィラキシーが現れた際に自分で注射するアドレナリン自己注射薬のことを指します。
アドレナリンによって心臓の働きを強めたり血圧をあげたり、気道を拡張したりすることで、症状の進行を一時的に緩和させてショックを防ぐ効果があります。
対象の子どもにエピペンが処方されている場合には、ただちに打つようにしましょう。
一般的な小児では副作用もさほど大きなものではないので、「迷ったら打つ」と考えておくのがいいですね。
- 2.安静な体位で休ませる
- 足を15~30cm高くした状態で仰向けに寝かせます。呼吸が苦しくて仰向けになれないときは上半身を起こして、ソファなどに座らせましょう。
嘔吐が続いている際は、それで喉が塞がってしまわないよう、身体と顔を横向きにして寝かせます。
- 3.内服薬を飲ませる、エピペンをもう一度打つ
- 可能であれば、医師から処方されている緊急時の内服薬を飲ませましょう。
エピペンが複数本あるときは、最初に打ってから10~15分しても改善が見られない場合に再度使用します。
- 4.心肺蘇生を行う
- 反応も呼吸もなくなってしまった場合には、心臓マッサージと人工呼吸による心肺蘇生を行います。
緊急性がなくとも、強いアレルギー症状が出た場合にはすみやかにエピペンを使用し、医療機関を受診させるようにしましょう。
症状が軽微でも油断は禁物。内服薬を飲ませ、少なくとも一時間は様子を見ることが大切です。
編集者より
アレルゲンとなる食べ物が入っていると気付かずに食べてしまい、発作で苦しい思いをする。こういったことは、日頃から気を付けているはずの大人でさえ起こりうることです。
自分の身を自分で守れない小さな子どもを預かる保育士さん達は、毎日大変なご苦労をされているのではないでしょうか。
「万が一のことがあったら責任が問われる……」と、不安になってしまっている方もいらっしゃるのでは?
大切なのは保護者と対応についてよく話し合うこと、必要な事前準備のためにまずは正しい知識をつけること、そして万が一のとき即対応できるよう、対処法について繰り返し学ぶこと。
子どもの命を守るため、発育に欠かせない食事をよいものにしていくため、保育士さん自身がしっかり構えてアレルギー対応に向き合っていきたいですね。
参考文献・サイト
- 『子どもをあずかる人のための救命マニュアル』向井直人編/学研(2015/03/10)
- 厚生労働省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」(2011/03)
- 東京都福祉保健局「保育園・幼稚園・学校における食物アレルギー対応ガイドブック」(2018/10/30)
- 横浜市「食物アレルギー対応」(2019/05/17)
- 明治の食育「集団給食の食物アレルギー対応で知っておきたいこと」(2018/10/30)