子どもたちの自主性を重んじる「のびやか保育」をテーマにする、ピノキオ幼児舎芦花保育園。2018年4月に開園したばかりの新園をとりまとめ、「のびやか保育」を実践するのが、園長の内山 征治(うちやま せいじ)先生です。
内山先生は、まったく異なる業界から保育の世界に飛び込み、保育補助として現場で働きながら保育士資格を取得。そして、今では園長になったという、まさに「努力の人」。
そんな経歴を持つ内山先生に、保育の魅力や園長として働くことのやりがいについて、お話をうかがいました!
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*シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。
「向いてるんじゃないの?」大切な人のひとことで保育の道に
――内山先生はどうして保育の道を目指そうと思われたのですか?
実家が自営業を営んでいて、もともと僕は、そこで工作機械を扱う仕事をしていたんです。油にまみれながら、徹夜で働く毎日。それこそ保育とはまったく異なる世界に身を置いていました。
しかし、あるとき廃業することが決まって、「この先どうしよう……」と考えたんですね。そんなときに、たまたま地域の子どもたちと交流する機会があったんです。
知り合いの子どもたちや、そのお友だちと、公園などでワイワイと関わるなかで、ふと一緒にいた妻が「保育士に向いてるんじゃないの?」と言ってくれて。
――ドラマチックなエピソードですね!
もともと学生時代に、「保育士をやってみたいな」と思っていたこともあったんです。でもそれはあくまで漠然とした興味・関心であって、現実にその道に進むことはありませんでした。
でも、彼女のそのひとことが、背中を押してくれた。それで実際に「チャレンジしてみよう!」と考えるようになりました。
働きながら取得した保育士資格
――未経験から保育の道を目指すのは、大変だったのではないですか?
保育士は「やりたい!」という気持ちだけでできる仕事ではないことは分かっていました。ただ、当時、僕はまだ保育士資格を取得していなかったので、まずはある保育園に「働かせてください!」とお願いに行ったんですね。
すると園長先生が、保育補助の職員として快く受け入れてくれたんです。
「何もない状態」で飛び込んだ僕のことを、快く受け入れてくれたことには、とても感銘を受けました。その園では10年間お世話になりましたね。
――では、働きながら保育士の資格取得に向けて勉強を?
通信教育や、保育士資格取得のための集中講座を受講しながら、保育士試験合格を目指しました。でも、働きながらということもあり、とんとん拍子にはいきませんでした。
年月が経つにつれて、「頑張って!」と応援してくれていた職場のみんなも、次第に話題にしなくなっていって……(笑)。「これは、もうあきらめた方がいいのかな」と悩んでいたときに、ようやく合格することができたんです。
結局、保育士資格を取得するまで、6年かかってしまったので、喜びもひとしおでしたね!
念願の保育士に!「辞めたい」ほどのつらさを乗り切れた理由とは?
――憧れの保育士になってみて、実際どうでしたか?
最初に務めた園では、保育の楽しさや奥深さ、やりがいなど……たくさんのことを味わわせてもらいました。本当にかけがえのない経験だったと思っています。
でも、もちろんつらいこともありました。「辞めたい」と思ったことだって、数えきれないほどありましたね。
――それでも保育士を辞めなかったのは、どうしてですか?
当時、僕の働く園には、先輩にあたる男性の主任保育士さんがいらっしゃいました。
その方は、一から十まで、保育のさまざまなことを教えてくれた恩師なのですが、僕は毎日のようにさんざん叱られていました。それこそ、「お前の保育は最低だ!」とか(笑)。それはもう、こてんぱんに言われまくっていましたね。
でも、そんな先輩が、あるとき唐突に「保育に向いてる」と。「お前は保育士としてやっていけば、絶対に成功する。」……そんなことを言ってくれたんです。
とくに理由や根拠は話してくれなかったのですが、その言葉は僕の心のなかにずっとずっと残っていて。つらいときにはいつもそれを思い出して、乗り越えていくことができました。
――そのできごとがあったからこそ、保育士として踏みとどまれたのですね
不思議なものですよね。妻のひとことがなかったら、保育の道を目指すことはなかったかもしれない。そして、あの先輩の言葉がなかったら、今、僕は保育士を続けてはいなかったかもしれない。
本当に一つひとつが、大切な「出会い」だったんだと、今、とても実感しています。
「男性」だからこそできる保育もある
――保育士になられた頃は、男性の保育士さんも今よりずいぶん少なかったと思いますが、大変だったことはありますか?
当時はまだ、男性の保育士というのは珍しかったので、保護者の方から誤解を受けることも多かったですね。
僕の場合は、先輩に男性の保育士さんがいらっしゃいましたが、たとえば、女性だけの職場に、男性が一人だけ……という職場環境だったら、もっとつらい状況だったかもしれません。
そういった意味でも、男性の主任保育士さんの存在は、僕が保育士を続けるうえで、とても大きなものだったと思います。
男性保育士ならではの「遊び」の楽しさ
――長年保育士として活躍されてきて、どのような点が男性であることの「強み」になると感じておられますか?
とくに子どもたちとの遊びにおいて、男性保育士はその強みを発揮しやすいと思っています。安全に配慮しつつも、体力や腕力を活かして、ダイナミックな遊びをしたり、子どもたちのおふざけに全力で向き合ってみたり……。
今はケガをさせないようにと、なにかと「やらせない」方向に考えが傾きがちですが、自分の子ども時代を思い返してみると、そのようなパワフルな遊びがとても楽しかった。そんな「思いっきり遊ぶ」という楽しい記憶を、子どもたちにも伝え、つないでいくことができることは、男性保育士の強みになる部分だと思っています。
主任としてピノキオ幼児舎へ……そして園長に
――内山先生は、どのようにして園長までキャリアアップしてこられたのですか?
前職の保育園で10年間勤め主任を任せてもらうまでになりました。その園は定員100名ほどの大規模園だったのですが、長く務めるうちに、「もっと小規模な保育にも携わってみたい」と思うようになり、転職を考えはじめましたね。
そんなとき、小規模保育園を行っているピノキオ幼児舎の求人に目が留まり、主任保育士として採用されました。
それからはピノキオ幼児舎の園に務めてきましたが、あるとき声をかけていただき、園長に就任することが決まりました。
あれこれ考えるよりもまずは「やってみる!」
――園長という仕事は、現場の仕事とは内容も責任も大きく変わりますよね。不安はありませんでしたか?
園長を任せてもらうお話が舞い込んだときには「はい!やらせてください!!」と二つ返事でしたね。
僕は、結果がどうなるかあれこれ考えたり、その選択が正しいのかどうか立ち止まって悩んだりするよりも、「まずはやってみること」。これが大切だと思って、今まで仕事に取り組んできました。
だからこそまずはやってみて、もしも失敗をしたなら、二度と同じ過ちをしないようにそこから「学ぶ」。そんな姿勢を大切にしてきたからこそ、チャンスをいただくことができたんだと思いますね。
――実際に園長になってみて、どうでしたか?
園長になってみると、自分が今まで知らなかった環境に身を置いて、いろいろな人と出会うことができるようになりました。歴史のある保育園で長年経験を積み重ねてきたベテランの園長先生から、貴重なお話を伺うような機会にも恵まれました。
これはいち保育士だったら、得られなかった経験だと思います。だから、本当にありがたいことだと感じましたし、なによりも「楽しい」と感じました。
「いいトコ取り」な園長という仕事
一歩引いた目線で、園全体を見なければいけない園長という立場においては、もちろん大変なこともたくさんあります。ときには失敗して「向いていないのかな……」と落ち込んだことだってあります。
しかし、外部の人と出会う機会は多くなりますし、自分の見識を広げたり、学びを深めたりすることもできます。子どもと直接関わる時間は減りますが、それでも保育の現場でその醍醐味を味わうこともできる。
そういった意味では、園長は「いいトコ取りな仕事」なんじゃないかな、と僕は感じていますね!
保育士さんに「保育の楽しさ」を堪能してほしい
――園長として、一緒に働く保育士さんにどんなことを大切にしてほしいと思いますか?
園長として保育士の皆さんに願うのは「子どもたちの命をしっかり守ってほしい」、そして「保育の楽しさ・魅力を存分に味わってほしい」という2点です。
僕たち保育士は、大切な子どもたちの「命」を預かるという役割を担っています。ですから、根本的な部分ではありますが、お預かりする間、しっかりとその命を守るという使命は、絶対にまっとうしなくてはいけません。
加えて、僕は保育士の仕事には、他の職業では得られない「楽しさ」がある仕事だと思っています。日々子どもたちと関わるなかで、そんな保育士という仕事の魅力にたくさん触れて、「保育って楽しいな」と感じてもらいたいですね。
保育の楽しさを感じながら働ける環境づくりを
――保育士さんたちが「保育の楽しさ」を感じながら働けるよう、園長として気を付けていることはありますか?
いきいきと笑顔で働いてもらうためには、なんといっても仕事とプライベートとの「メリハリ」が大事。
土曜日に出勤していただくこともあるので、代休の取得を徹底したり、持ち帰り業務はもちろん、残業もできる限りしないように配慮したりしていますね。
また、今年から事務業務に一部ICT(情報通信技術)が導入されましたが、かなりの業務効率化につながると考えています。今後も活用しながら、保育士さんたちの業務負担を軽減していきたいですね。
保育士としての学びの機会もしっかり作る
保育の考え方というのは、どんどん変わっていくものなので、保育士として成長していくためには、新しい知識の獲得とスキルアップに努めることも重要です。だからこそ、研修には積極的に行ってもらっています。
基本的には保育士さんの負担にならないよう、勤務時間内の日中に社内や自治体の主催する研修に参加してもらうことが多いですね。
個々の目標などは面談で定期的にヒアリング
――園長を目指したい方もいれば、現場で保育士を続けたいという方など、人それぞれにキャリアの考え方があると思いますが、キャリアアップなどについても相談に乗られるのですか?
それぞれの保育士さんが、どのような思いで保育に向き合っているのか、今後のキャリアについてどんな希望を持っているのかということについては、定期的に面談の場を設けていますね。
将来に対して不安や悩みを抱えている場合には、組織全体としてキャリアアップをサポートする体制があることや、さまざまな働き方があることなどを伝えるようにしています。
保育士は楽しく、かけがえのない仕事
――最後に、保育士という仕事の魅力はなんだと思いますか?
僕は、保育士は他の仕事とはひと味違う、かけがえのない仕事だと思います。
たとえば、午前中に晴れ渡った青空のもとで、子どもたちとお散歩をしながら、みんなで一緒に声をあげて笑いあう……そんな体験って、他のお仕事ではできないことじゃないですか。
もちろんそれは遊びではなくて「仕事」ではありますが、本当にこの仕事をすることでしか得ることができない、貴重な時間だと思うんです。
保育士として子どもたちとかかわるなかで、「ああ、保育士の仕事ってすばらしいな」と感じてきましたし、今も「しあわせだなぁ」と日々思っています。
編集者より
これまでに苦難もたくさん経験してきたはずの内山先生。しかし保育のこと、子どもたちのことを語る内山先生は、終始穏やかな笑顔をたたえていました。
その笑顔からは保育士という仕事を心から愛していること、そして最後に語ってくれた「しあわせ」な気持ちがひしひしと伝わってきます。
「保育士という仕事は『楽しい!』」
一見するとありきたりにも思えるこの言葉ですが、忙しさや責任の重さなどに隠れ、いつしか見えなくなってしまうという保育士さんも、少なからずいることでしょう。
この記事が、そんな保育の楽しさを再認識するきっかけになることを祈りつつ……。
取材にご協力いただきました内山先生、本当にありがとうございました!
次回は、ピノキオ幼児舎芦花保育園で働く若き男性保育士、油井 敏(ゆい さとし)先生にお話を伺います!
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※この取材記事の内容は、2018年10月に行った取材に基づき作成しています。