子ども達のすこやかな成長に欠かせない「睡眠」。とくに、乳幼児期に十分な睡眠をとることは、脳や体の発達だけでなく、生活リズムを安定させるためにも、とても重要です。しかし、「夜遅くまで寝てくれない」「寝かしつけに長時間かかって……」と悩んでいる保護者も多いことでしょう。
今回は「寝かしつけ」をスムーズにするために大切な3つのポイントや、家庭と保育園との上手な連携のとり方をお伝えします。
子育て中のパパ・ママはもちろん、保護者支援にかかわる保育士さんも、ぜひ参考にしてみてくださいね!
乳幼児期の睡眠はどうして大切なの?
まず、なぜ乳幼児期の子どもたちにとって「眠り」が大切なのか、確認していきましょう。
脳の発達に欠かせない「レム睡眠」
睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類に分けられます。
「レム睡眠」のときには、記憶や感情を整理しているとされており、その日学習したことの理解を深める、記憶として定着させるなど、脳の発達に大きくかかわっています。
成長ホルモンの分泌に必要な「ノンレム睡眠」
いっぽう、深い眠り=「ノンレム睡眠」のときには、成長ホルモンがもっとも盛んに分泌されます。
成長ホルモンは、筋肉や骨の成長、脳内の神経ネットワークの形成などに役立つため、成長著しい乳幼児にとって、欠かせないものと言えるでしょう。
生活リズムの安定にも欠かせない睡眠
生まれて間もない赤ちゃんは、昼夜にかかわらず眠ったり起きたりを繰り返しますが、生後3ヶ月頃からは体内時計が整い、昼夜の区別がついてきます。
眠りを通じて生活のリズムができあがっていくのが、乳幼児期のにおける、成長のしるしのひとつ。
上質な睡眠は、規則正しい生活リズムの形成につながり、子どもの体や脳の成長、情緒の安定、ひいては保育園における生活の充実にもつながります。
「子どもが寝ない……」を改善する3つのカギとは
乳幼児期の子どもを持つ保護者の多くが悩むという「寝かしつけ」。
子どもにとって睡眠が大切なことは分かっていても、「夜なかなか寝てくれない」「寝かしつけに時間がかかり、就寝時間が遅くなってしまう……」など、頭をかかえてしまうことも多いのではないでしょうか。
そんな寝かしつけをスムーズにするためには、まず、以下の3つの要素を見直してみるとよいでしょう。
1…子どもに適切な睡眠環境が整っていること
2…子どもと保護者の心が安定していること
3…生活リズムを整えること
1……適切な睡眠環境を整える
子どもが心地よく入眠し、起床までぐっすりと眠るためには、適切な睡眠環境を整えることが不可欠です。具体的には、以下の点を意識しながら、環境設定を見直すとよいでしょう。
◇室内の温度・湿度は眠りに適しているか
東京都福祉局の『健康・快適居住環境の指針』によれば、乳幼児に適した室温は20〜25度くらい、湿度は50〜60%であるとされています。
非加熱式加湿器はカビなどが発生しないよう、こまめにメンテナンスするホィ!
大人でも、暑すぎたり寒すぎたりする環境では寝付きにくいもの。まずは室内の温度・湿度を子ども達に適したものに整えることを、心がけましょう。
《ポイント》
エアコンを使用する際には、子ども達の体に、風が直接当たらないようにしましょう。
◇就寝中の衣服はどうすればいいの?
乳幼児の体温は37度程度と、大人と比べて少し高め。
大人の感覚に合わせて衣服を着せすぎてしまうと、汗をかきすぎて体を冷やしてしまう、寝苦しさを感じる要因となるなど、眠りを妨げてしまう可能性があります。
汗をしっかり吸ってくれる素材でできた肌着を着せ、大人よりマイナス1枚を目安に、衣服を調節するとよいでしょう。
◇乳幼児に適した寝具は?
敷き布団は、未発達な骨を支える硬めのものを選びましょう。
また、素材には、ムレやあせもを防止するために、吸湿性・放湿性の高いものを選ぶのがオススメ。夏場など汗をかきやすい時期には、汗取りシーツなどを併用してもよいでしょう。
掛けふとんは、できるだけ軽いものを選ぶようにし、「寒いだろうから」と毛布などを重ねすぎないよう注意します。
とくに乳児期の場合には、ふとんが鼻や口を覆ってしまっても、自力でどかすことができず、掛け布団が窒息の原因となってしまう可能性があります。
《ポイント》
就寝中の子どもの体温が高くなりすぎると、乳幼児突然死症候群(SIDS)が発生する可能性が高くなるとされています。衣類の着せすぎ、掛けふとんや毛布の掛けすぎには、十分注意しましょう!
https://hoiku-shigoto.com/report/archives/5424/
◇無音空間・暗闇は逆に眠りにくい?!
「さぁ、ねんねの時間だよ」と電気を消し、いきなり静寂が訪れると、不安を感じてしまう子どもも多いもの。
足元をほんのりと照らすようなコンセントタイプの常夜灯を利用したり、川のせせらぎや波の音・ホワイトノイズを流したりして、入眠に適した環境づくりをしましょう。
《ポイント》
ホワイトノイズとは、たとえば、テレビの砂嵐や、ドライヤーをかける際の「サー」という雑音のこと。赤ちゃんが胎内にいた時に聞いていた音と近いと言われており、乳幼児の心を落ちつけるのに役立つとされています。
近年では、スマートフォンのアプリでホワイトノイズを流せるものもあるので、活用してみるのも手です。
◇安全な睡眠環境をキープしよう
どれだけ理想的な入眠環境を整えても、事故を引き起こしかねない、安全性の低い環境では意味がありません。
各家庭の居住環境にもよりますが、安全のためにも、以下のことに注意して、環境を見直しましょう。
・窒息の可能性のある、重い寝具や、枕、クッションなどは置かない
・ベビーベッドの場合は、落下の可能性がないようガードの高さを適切に調整する
・2階以上を寝室にしている場合には窓が開けられないように鍵や窓ロックをかける
・火傷の可能性のある暖房器具などを寝室に置かない
・感電の危険性があるため、コンセントはカバーなどで覆う
・地震の際に倒れてくるような家具をふとんの近くに置かない
《ポイント》
ふだんの生活はもちろん、万が一地震などの災害が発生した場合のことも考えて、寝室の環境を整えましょう。
2……子どもと保護者の心を安定させる
環境の整備と同様に必要なのが、子どもと大人、双方の心の安定です。
子どもは大人の心の状態を敏感に感じ取ります。大人がイライラした状態で、子どもを寝かしつけようとしても、子どもは不安を感じ、うまく眠ることができません。
子どもの心が満たされ、安心できていることはもちろんですが、夜、寝かしつけを行う保護者の心もまた、満たされている必要があるのです。
《ポイント》
日中保育園に子どもを預けて働く保護者の場合は、降園から寝かしつけまでの時間が短いこと、仕事や家事など両立させるべき課題が多いことなどがストレスとなり、それが子どもにも伝わってしまいがちです。
「夜なかなか寝てくれない……」という場合には、保育園ともうまく連携をとりながら、どのようにしたら状況を改善し、ストレスを軽減できるか、考えていきましょう。
《ポイント》
「日中、子どもと一緒に過ごせないから、子どもの心が満たされないのでは……」と心配する必要はありません。短時間であっても、スキンシップをとり、会話をし、「大好きだよ」と伝えてあげることで、子どもの心を十分に満たしてあげることができます。
3……就寝までの生活リズムを整える
保育園に通う子ども達の場合には、朝起きる時間や登園する時間、降園する時間などは、ある程度一定に保たれているでしょう。
しかし、家に着いてから寝るまでの生活パターンはどうでしょうか?「今日は食事ができるまでに時間がかかるから、先にお風呂に入ってしまおう」「もう寝る時間だけど、まだ遊び足りないみたいだから、もう少しいいかな……」と、日々異なった生活リズムで過ごしている方もいるのではないでしょうか。
仕事の都合などで難しいこともあるかと思いますが、できるだけ帰宅から就寝までの生活パターンは一定にし、入浴→歯磨き→絵本→子守歌→消灯など、決まった「入眠の儀式」を習慣づけることを心がけましょう。
《ポイント》
同じ流れのなかで生活することは、子ども達の心の安定につながります。
また、「入眠の儀式」にマッサージや「ぎゅっと抱きしめること」などを加えておくと、親子のスキンシップの時間が取れ、保護者の心の安定にもつながるため、オススメです。
《ポイント》
テレビやパソコン、スマートフォンなどが発するブルーライトは、睡眠を抑制してしまうと言われています。寝る直前まで動画などを見せる習慣がある場合には、あわせて控えるようにするとよいでしょう。
◇【これも大切!】朝はしっかり朝日を浴びて
夜ぐっすりと眠るためには、睡眠ホルモンともよばれる「メラトニン」が体内で分泌される必要があります。その「メラトニン」を多く分泌させるために必要となるのが「セロトニン」とよばれるホルモンです。
セロトニンを作り出すには、いくつかの条件がありますが、なかでも重要なのが「朝、太陽の光を浴びる」ということ。
朝日を浴びて体内にセロトニンが分泌されると、体内時計がリセットされ、その約15時間後にメラトニンの分泌量が増え、よい睡眠をもたらしてくれるのです。
夜ぐっすり眠ってもらうために保育園でできること
「子どもが夜寝ない」=家庭の環境や生活のリズムに問題があるのでは、と考えてしまいがちですが、子どもの睡眠には、日中の活動の内容も関係しています。
ここからは、子どもの睡眠をよりよいものにするために、保育士さんができることを考えていきましょう。
子どもによって「眠れない」理由はさまざま
「たっぷり遊んで疲れれば、自然とおうちで眠くなって、スムーズに眠れるはず……」と思われがちですが、じつは、長時間活発に遊ぶことが、夜の入眠の妨げになっているケースも。
日中の楽しい活動であっても、あまり興奮しすぎると、夜間になってもその興奮がさめきらないことがあります。
また、寝ぐずりがひどいという場合には、うまく眠る方法がまだわからないために、「疲れた→眠い→うまく眠れない→ストレスでさらに眠れなくなる」という、負のスパイラルに陥ってしまっていることも考えられます。
《保育園での支援ポイント》
子どもによって、うまく眠れない理由はさまざま。「夜なかなか寝ない」という保護者がいたら、日中の子どもの様子をよく観察する、家での生活リズムや入眠の環境について聞いてみるなど、原因を探りながら、解決策を検討するようにしましょう。
日中の活動で疲れすぎていることが、入眠を妨げているようであれば、夕方に落ち着いて過ごせるような室内遊びを検討するなど、園での生活を調整することも必要かもしれません。
◇子どもが活動できる時間には限界がある?!
子どもの睡眠コンサルタントである愛波 文(あいば あや)さんは、
(前略)子どもが疲れすぎる、前に眠らせることが大事なポイントとなります。まずは子どもが眠くなったときのサイン=眠い合図をしっかりと見極めていきましょう。
(中略)
とはいえ、家事などをしていると眠りの合図を見過ごしてしまうことも多いはず。そこで、チェックしたいのが(中略)子どもの活動時間です。
※ママと赤ちゃんのぐっすり本 「夜泣き・寝かしつけ・早朝起き」解決ガイド (p.14-15)
と書いています。「子どもの活動時間」とは、子どもが起きて活動をしていられる時間の限界を示しており、生後1ヶ月までは約40分、6~8ヶ月では約2時間~2時間30分程度、10ヶ月~1歳2ヶ月では約3時間30分~4時間、1歳半~3歳では約6時間と、成長に伴い、時間が伸びていきます。
場合によっては午睡時間を調整する必要も
たとえば、0歳児クラスの子で、しっかりお昼寝をし、午後は活発に遊ぶけれど、帰宅する頃には疲れてぐずってしまう、家に帰ると夕食の前に寝てしまう……といった場合には、午前寝や午睡の時間を調整したり、夕方に30分程度寝かせるなどの配慮が必要なこともあるでしょう。
また、年齢が上がり、お昼寝の時間が長いことで、寝る時間になっても「眠くない」と訴えるような場合には、少し午睡時間を短くして、様子をみるのもひとつの手段です。
《保育園での支援ポイント》
集団生活のため、一人ひとりの状況や家庭の要望に応えるのは、難しいかもしれません。
保護者には、園で対応できることを伝えるとともに、家庭でできる工夫についても伝え、連携をとりながら状況の改善を目指しましょう。
子どもの「満足」「幸福」を生み出す保育を
子ども達が「幸福感」「満足感」を持ち、情緒が安定した状態で園生活を送れることは、安心してぐっすり眠ることの土台になります。
日中の多くの時間を保育園で過ごす子どもたちにとって、心の安定をもたらしてくれる保育士さんの存在は、とても大きなものと言えるでしょう。
《保育園での支援ポイント》
一人ひとりの発達にあわせ、生理的・心理的要求を満たしてあげましょう。
またふれあいや、ことばかけを通して、子ども達が愛情を感じながら、安心して過ごせるようにしましょう。
園での入眠時の環境や、寝かしつけのポイントを共有する
保護者が寝かしつけに困っているようならば、園での午睡の様子や、午睡時の睡眠環境、保育士のかかわりかたなどを共有してみましょう。
「園では、そうすればねんねできているのね!」という気づきが、睡眠改善のヒントになるかもしれません。
https://hoiku-shigoto.com/report/archives/4818/
家庭と保育園との「連携」が上質な睡眠につながる!
保育園に通う子ども達の生活は、家庭と園、双方によって組み立てられています。
だからこそ、相互に連携をとりながら、子どもの生活をよりよくする方法を探っていく必要があります。
良質な睡眠が子ども達にもたらすメリットや、その必要性については、おたよりなどを通じてしっかり保護者に伝えましょう。
毎日の送迎や、連絡帳でのやりとり、個人面談などを通じて、保護者と積極的にコミュニケーションをとり、相談しやすい環境づくりを心がけましょう。
家庭によって、置かれた状況はさまざま。子どもにとって睡眠が必要なことは分かっていても、遅くまで仕事をしていて、早く子どもを寝かせることができないなど、各々に事情を抱えています。
家庭の事情に共感を示し、理解したうえで、いっしょに改善策を検討していく姿勢が大切です。
園でどのような様子なのか、家庭ではどのような様子なのか……双方の状況がわからなければ、改善すべき点は見えてきません。
どちらか一方が情報を提供するけでなく、情報を共有し合うことを重視しましょう。
保育士も保護者も、同じ子どものことを思って日々尽力しています。だからこそ、子どもがすんなりと、ぐっすりと眠ることができたことを、ともに喜び合えるような関係性を築いていきたいもの。
「昨日は早く寝かせていただいたおかげで、今日は〇〇くん、こんな様子だったんですよ!」など、園で見られた喜ばしい姿を共有するとともに、「昨日はすんなり眠ってくれたんです」といった家庭で見られた成長にはともに喜び、保護者が、保育士は子どもの成長を「いっしょに見守る存在」あることを感じられるようにしていきましょう。
編集者より
共働きで帰宅時間が遅く、食事や入浴が遅くなってしまう。両親の生活パターンが合わず、新夜のパパの帰宅で、子どもが起きてしまう……。
社会や家庭状況の変化により、子どもの睡眠を取り巻く環境は、昔と比べて大きく変わってきています。
子どもの眠りに対して悩みを抱える保護者は多く、個別の対応が必要とされるため、保育士さんにとって、悩みの種となることも多いことでしょう。
しかし、保育士さんが、日々の保育のなかで身につけたノウハウや知識は、悩みを抱える保護者にとって、一筋の光となるはずです。
「こうすれば必ず寝付く!」というような、魔法のような方法はありません。
しかし、それぞれの子どもにじっくりと向かいあい、家庭と保育園とで連携をはかることで、一人でも多くの子どもと保護者が、幸せな気分で眠りにつけるようになれば、それこそ真の「保護者支援」に繋がるのではないか……そう思います。
寝かしつけに苦戦するパパやママが、ほんの少しでも楽になり、幸せな気持ちで眠りにつくことができることを願って。
参考文献・サイト
- 愛波 文 著(2018)西野 精治 監修『ママと赤ちゃんのぐっすり本「夜泣き・寝かしつけ・早朝起き」解決ガイド』講談社
- 厚生労働省『保育所保育指針解説書』(2019/2/25)
- NHKエデュケーショナル すくコム『子どもの寝相はどうして悪いの?(レム睡眠とノンレム睡眠)』(2019/2/25)
- 大川匡子『子どもの睡眠と脳の発達─睡眠不足と夜型社会の影響─』(2019/2/25)
- Sleepdays『良い睡眠を取るために必要不可欠なホルモンメラトニンとセロトニンを上手に分泌させて良い睡眠を』(2019/2/25)
- 高光製薬株式会社『睡眠と成長 子どもの成長のための3大要素とは?』(2019/2/25)