墨田区横川。下町の風情がいまも息づく街の一角に、子どもの笑い声があふれる小規模保育所があります。その名は「ちゃのま保育園」。
まるで家庭のお茶の間のように、あたたかな雰囲気に包まれた園では、保育士さんが、それぞれの「得意」を活かして生き生きと働き、日々、子ども達の笑顔を生み出しています。
世間では「保育士の人間関係は難しい」と言われるなか、上下関係を作ることなく、「お願い!」「任せて!」と支え合っているという「ちゃのま保育園」。
今回は、そんなちゃのま保育園で働く3人の保育士さんに、ちゃのま保育園で働くことの魅力について、お話をうかがいました。
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*シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。
年齢も経歴もまったく異なる3人の保育士さん
今回、お話を聞かせてくれたのは、行事の企画が大好きな岡本 花(おかもと はな)先生、産休・育休から復帰したばかりだという、井上 沙紀(いのうえ さき)先生、そして、保育歴約30年というベテラン保育士、兼近 恭子(かねちか きょうこ)先生。(プライバシー保護のため一部仮名を用いています)
まずは、年齢も経歴もまったく違う3人の保育士さんに、ちゃのま保育園で働くまでの経緯を聞いてみました。
――そもそも、保育士になろうと思ったきっかけは?
――では、幼稚園教諭を目指されていたのですか?
花先生:はい。学校を卒業してからは、幼稚園教諭として働いていました。
ただ、働くなかで、育児との両立は難しいだろうと思っていたので、結婚を機に退職したんです。
その後、子育て支援施設で働いているときに、保育士として働く選択肢もあると思い、働きながら保育士資格を取得しました。
――結婚がひとつのターニングポイントだったのですね。沙紀先生はどうでしょう?
沙紀先生:でも、小さな頃から子どもは好きでしたね。私は小さい頃、秋田県で育ったんですが、周りには小さな子どもがいる家庭が多くて。公園などにいつも子ども達が集まっていたので、よくいっしょに遊んでいました。
沙紀先生:中学生のときに、職場見学で保育園に行ったときも、子どもと接していて疲れたり、「イヤだ」と感じたりすることがなかったんですね。それが、もしかしたら保育士を目指すきっかけになったのかもしれません。
高校の保育科で学んだあと、保育科のある短大に進学して、卒業してからはずっと保育士として働いています。
――恭子先生はどうですか?やはり、学生時代から保育士を目指していたのでしょうか
恭子先生:だから、私の場合には「花嫁修業」として保育の道に進んだんです。ピアノが好きだったので、「保育科なら好きなピアノも続けられる」と思って短大の保育科に入り、卒業後すぐに保育士として働きはじめました。
それぞれの「ちゃのま」との出会い
――皆さん、中途採用で入職されたとのことですが、なぜちゃのま保育園で働こうと思われたのですか?
花先生:私は幼稚園教諭、大規模な保育園を経験してきて、家庭的な保育園で働いてみたいという気持ちがあったからですね。
子どもとじっくり向き合って、保育がしたいという思いが強かったです。
沙紀先生:私は、転職活動のために、ハローワークを訪れたとき、たまたまそこに代表がいたのがきっかけでしたね。
(一同)え~っ!!すごい偶然(笑)
沙紀先生:近隣で働ける保育園を探していたら、「それなら今日、ちょうど墨田区で保育園を運営している人が来てるよ!」って、ハローワークの人が教えてくれて。
そのあと、代表と2時間くらい話をして、ちゃのま保育園で働くことにしたんです。
――決め手はなんだったのですか?
沙紀先生:代表が「仕事より家庭のことを優先していい」と言ってくれたことですね!
当時はまだ独身でしたが、「家庭の状況に応じて、パートやアルバイトなどの働き方に変えることもできる」と聞いて、「それならば、結婚したあとも働きやすいんじゃないかな」と思ったんです。
――恭子先生はどうでしょう
恭子先生:ここに来る前に勤めていた事業所内保育所が、事業所の閉鎖にともなって、閉園することになったんです。その頃ちょうど、ちゃのま保育園がオープンするということで、保育士を募集していたんです。
――恭子先生にとっての決め手はなんだったのですか?
他の保育園からも、採用の連絡をいただいていたんだけど、「書類はすべてパソコンで作成する」など、今の私にとって「難しいかな」と思う部分があったんですね。
ちゃのま保育園でもパソコンを使った業務はありますが、操作を得意とする職員が、複雑な操作や事務処理を受け持ってくれて、その代わりに自分にできること、得意な部分を活かして働けます。
そんなところに魅力を感じて、ちゃのま保育園で働くことにしたんです。
手厚い保育が実践できることの喜び
――実際に、ちゃのま保育園で働きはじめて、どんなことを感じましたか?
花先生:一人ひとりに、密にかかわってあげられるのが、本当に嬉しいと感じましたね!
恭子先生:一人ひとりの子どもに「目が届く」のは、やっぱり小規模園ならではよね。
受け持つクラスだけじゃなくて園のすべての子ども達が「自分の担当」みたいなもの。どの子にも同じように接するし、自分の担当クラスの子以外でも、愛着を示してくれる。
このあいだも、朝登園してきた他のクラスの子が「先生愛してる!」って言ってくれたのよ。
――そんなことを言ってもらえるなんて……キュンとしてしまいますね!!
沙紀先生:去年、恭子先生が受け持っていて、今年第二子が生まれたばかりのおうちの子がいるんですが、その子もやっぱり恭子先生のこと、大好きなんですよ!
お母さんが大変で、なかなか甘えられない時期だから、赤ちゃんの頃にお世話をしてくれていた恭子先生に、甘えたくて仕方ないんでしょうね。
ちゃのま保育園は、人員配置も手厚いから、「じっくりかかわる必要のある子」に、しっかり寄り添える体制にあるのがいいですね!
恭子先生:預かる子どもの年齢が幅広かったり、人員配置が不足していたりする園だと、「ケガをさせないこと」が日々の一番重要なポイントになってしまうけれど、ちゃのま保育園は子ども達一人ひとりとのかかわりを大切にできます。
――「手厚い保育」が実践できる環境は、子どもや保護者にとってだけでなく、保育士さんにとっても大きな魅力となっているのですね。
ちゃのま保育園で働いて気付いた「やりやすさ」
――ほかにちゃのま保育園で働くうえでの魅力はありますか?
恭子先生:いろいろなことが「やりやすい」と感じますね。ちゃのま保育園は、上から指示を出されるのではなくて、保育士同士が話し合いながらやり方を決めていけるから。
花先生:保育士全員が話し合えるような環境にあるので、意見もとても出しやすいんですよ。
沙紀先生:そうですね。お互いに声を出し合える関係性が築けているから、困ったときにもフォローをお願いできますし。本当にいい職場だと思いますね。
お互いを尊重するからこそ「働きやすさ」も実現できる
沙紀先生:「働きやすい」ということも魅力ですね。
私は産休・育休から復帰して、1日6時間の時短勤務で働いているんですが、時短で働くことや、お給料が減ってしまうことの不安など、代表に気軽に相談できますし、お休みも取りやすい。
全員出勤の日なんか、代表が「誰か有給とる?」って、積極的に有給取得を後押ししてくれるくらいですよ!
子育て経験者が多く、育児にも理解があるから、子どもの体調不良などで休んでも嫌な顔をする人はいません。
年齢層は幅広くても、関係性はフラット
――ちゃのま保育園では、幅広い年齢層の保育士さんが活躍されていますが、「やりにくさ」を感じるようなことはないのですか?
沙紀先生:歳の差というものは、あまり感じないですね。
保育士間の人間関係は、とてもフラットだと思います。「年上だから」「年下だから」ということは、お互いあまり意識していないんじゃないかな。
花先生:みんな、魅力的な人柄を持った方ばかりなんですよ。尊敬し合っているから年齢や経歴にかかわらず、間違っていることは「間違っている」と言えるし、お互いのよいところ、ステキなところも認め合うことができて……。だから、毎日とても平和です。
恭子先生:保育士の心がいつも穏やかじゃなければ、子どもと適切なかかわりを持つことはできないですからね。
ちゃのま保育園が開園したとき、「困ったときには『困った』と、嬉しい時には『嬉しい』と言える、そして困った人を見たら、かならず助けてあげられるような人間関係を築いていこう」と、話していたんです。
その考え方が、あとから入った若い保育士さんにも浸透していって。今は、本当にいい関係ができていると思いますね。
保育の根っこも子どもの姿も「変わらない」
――ちゃのま保育園の保育士さん達は、「ベテランだから年下に「“指示・指導”をする、若い人はそれに“従い・学ぶ”」というような、上下の関係ではないのですね。
恭子先生:ベテランの保育士は若い人の保育を見ながら、今の保育を学ぶことができるし、若い保育士は、その逆にベテランの保育士から学ぶこともあると思います。
「どっちが正しい」「どっちがよい」と対立するものではないんですよね。
私が20歳で保育士になったころと比べれば、保育士に求められる役割や、保育を取り巻く環境、保護者とのかかわり方など、変わった部分もあるかもしれません。
でも、保育者のもとで日々成長していき、悲しい時には涙をポロポロ流して泣いて、嬉しい時には満面の笑みを見せてくれる……そんな子どもたちの姿は、昔と変わらないでしょう?
それに、子どもが安全で健やかに、そして心豊かに成長できるよう、見守り、支えていく……そんな、保育の「根っこ」は、ずっと変わらないと思うんです。
恭子先生:大切な「根っこ」の部分だけ変わらなければ、やり方は保育士それぞれに違ってもいい。年上の保育士の方法に合わせる必要はないし、逆に新しい方法だけが正しい、というものでもないと思います。
職員同士だけでなく、保護者とも良好な関係を
――保育士同士だけでなく、ちゃのま保育園は保護者との関係性も、良好だとうかがいました
恭子先生:保護者さんから、「ほかの保育園とは空気が違う」と言われますね。
「保育士同士のやりとりを見ていて、とても雰囲気がよかったから、ほかの保育園をお断りして、ちゃのま保育園に来たんです!」なんて、うれしいことを言ってくださる保護者さんもいるんですよ。
―保育士さんの人間関係のよさは、職場の雰囲気全体も魅力的なものにしていたのですね
沙紀先生:ちゃのま保育園では、朝夕の送迎の時間には、一人多く保育士を配置しています。だから、悩みや心配ごとを抱えている保護者さんと、時間をかけてお話しする機会も設けやすいんです。
送迎業務をいったん、ほかの保育士さんにお任せして、お母さん・お父さんとじっくりお話ができるのも、保育士同士の連携と信頼があるから。
保護者さんがいつでも相談できる環境が整っているから、トラブルなく、いい関係性を築けています。
恭子先生:やっぱり、お父さんとお母さんが、ニコニコと心穏やかでいてくれることが、子ども達にとっては、一番よいことですから。
保護者の方が助言や助けを求めたときに、それをしっかり受け止められるような信頼関係を築くことは、大切なことだと思います。
成長を間近で見られるのは「保育の醍醐味」
――皆さん、日々生き生きとお仕事をされていますが、ズバリ、保育士という仕事の魅力はなんだと思いますか?
花先生:日々の遊びや行事のなかで、子ども達が生き生きと楽しんでいる姿を見られることですね。
あとは、子ども同士のかかわりを見ていて、ふと成長を感じることがあるんです。昨日までできなかったことができるようになっていたり、お友だちを思いやるやさしい心を見せてくれたり……。そんなときは本当に嬉しいです。
沙紀先生:子どもの成長を見られる、というのは、どの保育園で働いていても、やっぱり大きなやりがいになりますよね!
――恭子先生はどうですか?
恭子先生:じつは、私は、保育士になりたての頃は、あまり保育士という仕事に魅力を感じていなかったんです。
花先生:子ども達に毎日魔法のようなあたたかいことばをかけている、ステキな恭子先生が?
恭子先生:当時は気をつかうことが多いことや、「ケガをさせちゃいけない」っていうプレッシャーを強く感じていたんですね。でも、今では子ども達の喜ぶ顔が見たくて仕方なくて。
――園の手作りおもちゃには、そんな恭子先生の「愛」が溢れていますよね。
恭子先生:登園のときに、保護者さんと離れて寂しそうな顔をしていた子ども達が、どんどん笑顔になって、園で元気いっぱいに過ごしてくれる……。保育士としてはそれがいちばん嬉しいです。
そんな毎日の保育が、積み重なって子どもの成長につながるんですよね。赤ちゃんだった子が「伝い歩きをした!」「歯が生えた!」というように成長していく……その過程を見られるのは、保育の醍醐味だと思います。
これからも、保育士として……
――これからも保育士として、ちゃのま保育園で働きつづけたいと思いますか?
花先生:これからも、楽しく、やりがいを持って働き続けられたらいいなと思いますね。
沙紀先生:同じ子どもは二人としていないから、何年経験を積んでも、悩むことはあります。でも、子どもの姿をしっかりと見つめて、ベストなかかわり方を探しながら、これからも成長する子ども達を見守っていきたいです。
恭子先生:足腰が立つならば、100歳までだって保育士を続けたいです!でも、体につらさも出てきたので、「そろそろ限界かな……」とも思っているのだけどね。
今、保育の仕事が「ツラい」と感じている保育士さんへ
――最後に、昨今「保育士不足」や「潜在保育士」などが話題になっていますが、保育士を続けることが苦しくなってしまっている方に向けて、メッセージをお願いします!
沙紀先生:私も他の仕事に憧れて、3か月ほど保育から離れていた時期がありましたが、公園で遊ぶ子どもを見て「戻りたいな」って思ったんです。
不思議なものですよね。……でも、私はそれだけ保育が好きなんだと思います。
もしも今、ツラくて仕方がないのなら、一度保育から離れてみるのもひとつの手かもしれません。保育が好きならば、絶対に恋しくなって戻ってきたくなりますから。
恭子先生:そうね……自分の目指す保育が見えなくなっている方もいると思うのだけど、やっぱり、それはいろいろな経験をして見えてくるもの。
「変わることのよさ」もあると思います。
もちろん、ひとつの園にいても経験は重ねられるけれど、転職したからといって、経験がリセットされてしまうわけではないですから。
私自身、子育てをしていた頃は、保育から離れていましたが、離れたからこそ、保育の魅力に気づくことができました。今は「保育の世界に戻ってきて、よかった」と、心から思っています。
今、保育の楽しさが見えなくなってしまっているなら、気張らなくていい、変わろうとしなくていい。ただ、自分の「よいところ」だけ出してあげればいいと思いますね。
いろんな保育士さんがいるんだから、完璧になんてなろうとしなくていいんです。それぞれの保育士さんが「得意な部分」で頑張っていけば、バランスが取れるはずだから。
「これは私に任せて!」と言える部分が、自分にひとつあれば、それでいいと思います。
子どもと関わっていけば、おのずと自分の答えが出てくるはず!気負いすぎずに、自分らしい道を歩んで行ってほしいですね。
――皆さん、貴重なお話をありがとうございました!
編集者より
ちゃのま保育園の保育士さんには、いちど保育の世界から離れた方も多く働いていますが、2014年10月のオープンから、ひとりの保育士さんも欠けてはいないとのこと。
互いを尊重しあいながら、ともに保育をよくしていこうと歩んできた保育士さん達の努力、「保育士さんが笑顔で働ける職場づくりを!」と、奮闘してきた、代表の宮村 柚衣(みやむら ゆい)さんの努力……。
まさに家庭の「お茶の間」のような、和やかな園の空気は、そんな数々の努力によって生み出されているのだと、今回お話をうかがって感じました。
代表の宮村さんは、ちゃのま保育園を、保育士の働きやすさを追求する「保育士の楽園Project」のロールモデルにしたいと語ってくれました。
ここまでご紹介してきた3本の記事が、ちゃのま保育園のステキな部分や、保育士さんが笑顔で働ける環境づくりの大切さを、より広く伝えるものになれば、これほど嬉しいことはありません。
今回お忙しい中取材にご協力くださった、宮村代表、そして、ちゃのま保育園の皆さま、本当にありがとうございました!
※この記事は、2018年12月、および2019年1月に行った取材に基づき作成しています。
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