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日々の保育にも活かせる!モンテッソーリ・メソッドの、子どもの「感覚」を育てる遊び

「他人への思いやりと生涯学び続ける姿勢を持った自律した子ども」を育てていくことを目的とするモンテッソーリ・メソッドには、子どもの敏感期に対応するさまざまな活動があります。
それらは日常生活の練習、感覚、数、言語、文化の5つのジャンルに大別されており、子供を成長させる活動の5領域と呼ばれています。

今回はそのうちのひとつ「感覚」を取り上げて、「子どもの感覚を育てるとは、具体的にどういうことなのか?」というテーマでモンテッソーリ教師・堀田はるな先生にお話を伺いました。
どのような遊びを通じて子どもの感覚を育てるのか? 子どもの感覚を育てることでどのようなことができるようになるのか? 専用の教具がない保育園でもできることは? など、気になる疑問にたくさんお答えいただきました。
モンテッソーリ・メソッドの考え方に興味のある保育士さん、必見です。

感覚は「世界を開く扉」

――そもそも「感覚」とは、どのようなことを指すのでしょうか。

普段、意識することは少ないかもしれませんが、私たちは日常生活のあらゆる場面で「感覚」を使っています。
料理の匂いや味を確かめて、自分好みに調節する時には「味覚」と「嗅覚」を使いますし、その日に着る服の色や組み合わせ、形のバランスを見る場合には「視覚」を使っています。音楽を聴いたり奏でたりするには「聴覚」を使いますね。
こうした例をあげてみれば、私たちの日常は「感覚」によって成り立っていると言っても過言ではないと思います。マリア・モンテッソーリは感覚を「世界を開く扉」と呼びましたが、「感覚」を磨くことは世界をより深く知る手段を持つということになるのだと思います。

感覚には主に五感と呼ばれる「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚」がありますが、これらが最も発達するのは3~6歳ごろと言われています。この時期に十分に感覚器官を使い、感覚を豊かにすることで、子供の世界はより広がることになります。
目や耳、舌といった感覚器官そのものは、もともと人間に備わっているものですが、それをどのように使えるようになるかということは環境によって大きく変わってきます。

「感覚」というものはたくさんの経験によって磨かれ、豊かになっていくものです。ワインを選ぶソムリエは、きっと一般の人よりも味覚や嗅覚が研ぎ澄まされているでしょうし、素晴らしいピアニストと呼ばれる人はおそらく聴覚に優れていることでしょう。こういった人たちの持っている「感覚」も、きっと多くの経験を積んだ結果だと思います。

――「感覚を育てる」とは、どのようなことを指すのでしょうか。

モンテッソーリ・メソッドにおいて、「感覚を育てる」とは、子どもが自分の感覚を頼りに、物事を判断できるようにサポートすることを指します。
3、4歳の幼児はまだ言葉で聞いて理解するのは苦手ですが、自分の感覚を使って見たり、触れたりすることで物を理解します。例えば、「りんご」を見たことがない子供は「りんご」と言葉を聞いても実物を想像することはできません。りんごを見て、触って、匂いを嗅いで、食べた経験があるからこそ「りんご」がわかるようになりますよね。

それから「大きい」や「小さい」のように抽象的な事柄を理解するのは、「りんご」や「みかん」など物の名称より難しいものですが、やはり感覚が頼りになります。言葉を聞いて理解できなくても、実際に「大きなもの」と「小さなもの」に触れてみれば子供にもそれがどんなものなのかわかります。

充分に感覚を使って感じたところで「これは『大きい』」「これは『小さい』」と言葉を紹介します。このプロセスを経ると子供が実感を持って「大きい」「小さい」を理解し、言葉にできるようになるのです。これが「物の概念を獲得する」ということです。

概念を獲得した子供は、次第にそれを自由に使えるようになります。ふたつのものを比較して「これはあれよりも大きい」と言うこともできますし、たくさんある中から「これが一番大きい」という具合に応用することもできます。このような活動は論理的に考えることの始まりなのです。

論理的な思考とはそもそも、

・「五感を通して体験したものを直感的に覚える」右脳の動き
・「それがどのようなものであるのか(固い、冷たい、ざらざらしている、など)言葉に置き換える」左脳の動き

このふたつが合致して初めて生まれるものです。

感覚の敏感期の子供は絶えずこの作業を繰り返して、自分の中にどんどん新しい情報を吸収していきます。思考や感覚が未分化である赤ちゃんや2歳以下の幼児には、まだそこまでのことはできませんが、まずは色々な体験をして五感で感じることが大切です。

感覚への刺激が特に敏感になるのは3~6歳ごろと言われていますが、それ以前の子供も感覚をたくさん使っておくことは良い下準備になると思います。ぜひ五感を使っていろんな物や素材に触れて、感じることを習慣にしておきたいですね。

――子どもの感覚を育てていく上で、大人が意識するべきことはありますか。

大人が当たり前のこととして見過ごしがちなことでも、子どもは「どうして葉っぱが黄色くなってるの!?」「アリさんが何か運んでる!」とひとつひとつのことに出会って感動します。子供の自然な興味を大切に、大人がその気持ちに寄り添う心持ちでいることはどんな時でも大切だと思います。
様々なものを見たり、触ったりと五感を充分に満たすことなしに、感覚を育てるのはとても難しいことです。
そこで、まずは子どもの視点を大事にして一緒に感じてあげることが大切ですね。

子供はいろんなものを実際に触って感触を確かめたがりますが、時には大人が触ってほしくない物もあると思います。たとえば、外遊びに行った子どもがポケットに砂をたくさん入れてくることがありますよね?その場で「汚いからやめなさい」と言うのは簡単ですし、実際の現場ではついつい言ってしまいがちです。しかし、ポケットから砂を出させるアプローチとは別に、子どもが砂の感触に興味を持っているということは大事にしてあげてほしいですね。

子供が砂を触っている時に、一緒に触って「気持ちいいね」「ザラザラだね」と素直な感想を言い合うだけでいいと思います。子供が砂を持ち帰らないようにしたいなら、砂を触る行為を否定するようなやり方ではなく、「別のお友達が遊べるように元に戻してあげよう」など声がけをするといいですよね。

それから、これは私の考えなのですが、「感覚」にも個性がありますよね。「感性」と言ったりもしますが、感じ方というものは人によって違います。子供それぞれに違った「感性」を持っていることを大事にして、それを伸ばしてあげられたらいいですよね。

感覚を育てる3ステップのプロセスとは?

――それでは、具体的に「感覚を育てる活動」の内容についてお聞きします。

モンテッソーリ・メソッドでは感覚を育てる活動にあたって教具を使用しますが、その教具は「段階付け」「同一化」「分類」という三つのことをトレーニングできるように構成されています。
この順に追って、それぞれどのような教具を用いて活動をしているかお話ししていきます。

※モンテッソーリ教育で使われる教具はあくまで「子どもが自分の得た体験を整理したり、言葉に置き換えたりといった、思考のプロセスを助けるもの」です。教具のない一般の保育園でも工夫次第で十分に「感覚を育てる活動」ができますので、ぜひ遊びに活かしてほしいと思います。

段階付け

段階付けとは、大きい→小さい、太い→細い、長い→短いといった、物の段階的な変化に気付くことです。
教具としては大きさの異なるピンクの立方体を積んでいく「ピンクタワー」や、太さの違いをとらえる「茶色い階段」、棒の長さや短さを感じる「赤い棒」といったものがありますね。

ピンクタワー

ピンクタワーは一辺の長さが1センチずつ変化する10個の立方体で構成されています。最小の立方体の1辺は1センチ、最大は10センチです。
はじめのうちは言葉を使わずに子どもに触れさせるようにします。立方体を二つずつ子供の前に置き、大きさを見比べて、大きいものから順にタワーになるよう積んでいきます。子供は立方体をよく触り、大きさや重さを感じながら教師と一緒に積み上げていきます。

ピンクタワーは名前の通りピンク1色で塗られていますから、子供の注意は大きさのみに集中します。その時点ではまだ「大きい」「小さい」という言葉は紹介していませんが、子供なりに「言葉にはできないけど何か違う」と感覚的に感じてもらうことが大切です。

言葉は子供が十分に感覚を使ったあとで紹介します。子供にふたつの立方体を持たせて「これが大きいだよ」「これが小さいだよ」と教えてから、「大きいのはどっち?」「小さいのはどっち?」と質問します。これがわかるようになった子供には「じゃあこれは何?」と問いかけて答えてもらいます。この方法を「セガンの3段階法」と呼んでいるのですが、これによって子どもは、言語を一緒に覚えることができるんです。
感覚で理解して、言葉でも表現できるように導くことが大人の役割。子どもが感じたことに対して、それをどう言葉にするかを教えるんですね。

そういう遊びを繰り返しているうちに、子ども達は自分で箱を比べて、どれが一番大きいものかを選べるようになるんですね。
私の勤める「こどもの家」では、こうした活動を2歳児から3歳児になるまでずっと反復しています

同一化

同一化とは、視覚や触覚などの感覚を使って同じものを探すことです。
教具の代表例として「秘密袋」というものがあります。作りはいたってシンプルで、巾着袋に形や素材の異なる物体を5~7個程度入れたものを二つ用意します。二つの袋は全く同じ素材、形、大きさをしたもので、中身も全く同じにします。
中身は身の回りによくあるもので、形が判別しやすいものを選びます。洗濯バサミやスプーン、木の実、おはじき、お手玉、こま、スポンジなどです。

秘密袋

これを教師と子供が一つずつ持ち、中に手を入れて物体に触れます。中を覗かず、手探りで物を取り出すので「秘密袋」を呼んでいるわけですが、まずは教師と子供が中身を順に全て取り出し、二つの袋の中には同じものが入っていることを互いに確認します。確認したら物体を袋に戻し、次は教師が袋から一つだけ物体と取り出してから、子供に同じものを取り出すようと伝えます。袋の中を覗かずに「手の感覚を頼りに」探すわけです。
子供は一生懸命に袋の中を探り、「これだ!」と袋から物体を取り出します。うまく探せたら二つを並べて置き、今度は子供が自分の袋から物体を取り出し、教師が同じものを探す番になります。

この教具の場合も、子供が十分に感覚を使って感じた後で物体の名称を紹介します。「これはおはじきだよ」という具合です。名称がわかれば、「袋の中からおはじきを出してみてね」と言葉で物体を指定する遊びもできるようになりますね。

他には、同じ色の板が2枚で対になっている「11色の色板」や、異なる素材の布から同じ素材のものを探す「布合わせ」などがあります。

色板

11色の色板は、じゅうたんの上に並べたすべての色板の中から1色選び、それと同じ板を探す遊びに使用します。
子ども達も最初のうちはどれが同じ色なのか判別できませんが、繰り返し遊んで慣れてくると、離れた位置にあっても同じ色の板がわかるようになります。それにより、「これとこれは同じ」という概念が子どもの中に生まれるんですね。
この概念を身につけることで、子どもは成長の過程で物の違いを意識的に識別できるようになります。

たとえば、果物のりんごも、一個一個色や形が微妙に違います。人によって思い浮かべるイメージもきっと差があります。そうしたものに対して「個体差があるけど同じりんごだ」とわかれば、物事への理解がずっと進みます。

布合わせ

布合わせも同じことが言えます。
サテンやコットン、ネル生地など、素材は違いますが全部布であることに違いはありません。それを子ども達は目隠しした状態で、手触りを頼りに同じ素材の布を探します。
感覚を頼りに、「これとこれは同じ」という概念を身につけることができるわけです。

一般の保育園でも、色や形に関しての同一化の訓練は簡単にできます。
見本となる図形や色を用意して、「丸いものは部屋にあるかな~?」「赤いものはあるかな~?」と、部屋の中にあるもので子ども達と形探しや色遊びを楽しむのです。これもまた感覚の同一化に繋がります。

分類

分類とは、同じ色や同じ大きさなどの「ある手がかり」をもとに仲間分けをすることです。
先ほどご紹介した「秘密袋」の発展形として、分類を目的としたものがあります。今度の場合は、袋は二つではなくひとつだけ、中身は3種類の「自然物」がそれぞれ8〜10個です。
「自然物」とは「種」「豆」「穀類」などです。「豆」の場合で説明すると、「インゲン豆」、「ひよこ豆」、「小豆」など大きさの異なるものを8~10粒ずつ一つの袋の中に入れておきます。

子供は豆を一つずつ袋から取り出し、大きさや手触りなどを頼りに種類別に分類します。手の感覚に意識を集中させるため、目隠しを使用する場合もあります。

豆を種類別に選別するのは、スプーンや洗濯バサミなどの特徴的な形をしたものと比べて難しいので、より細かな指先の感覚を必要とします。そこで、子供は意識を指先に集中させて、豆をよく触って注意深く違いを感じ取ろうとするのです。
そういった積み重ねが、子供の触覚をより鋭敏にしていきます。

「同一化」と「分類」の秘密袋は一般の保育園や幼稚園でも応用しやすいと思います。「分類」の場合は豆以外なら種や穀物でもできますし、「同一化」なら動物や果物などのミニチュアを利用するというもの良いと思います。

楽しみながらわかるようになる

――子どもの感覚を育てる活動の中にあたって、先生としてどのようなことを意識するべきでしょうか。

基本的なことですが、子供の活動というものは子供自身の自然な興味が出発点です。教師がいかに良い教具を用意したからといって、子供に「やらせよう」としてはあまり意味がありません。
教師は子供をよく見て、ちょうど興味がありそうな時期に感覚の活動に誘ったり、教具の使い方を紹介するなどして子供にきっかけを与えることが一番良いことだと思います。

本来、モンテッソーリ教具というものは子供が自分でやりたいものを選んで取り組むようになっていますから、教師は子供が助けを必要とするまでは過度に関わらずに様子を見守っています。
しかし、はじめのうちはどれを選んで良いかわからない子供もいますし、次々教具に触ってみるもののうまく集中できない子供もいます。

そういった場合では、「先生と一緒にやってみようか」と誘い、その子どもの発達度合いや興味に合いそうな教具を紹介したり、一緒に活動したりしています。子供の好きな生き物や車などのモチーフを使って教具を手作りすることもあります。ですから、その子が何を好きでいるのか、日頃からよく見ておくことが大切ですね。

後は、感覚を育てる活動だからと言ってお勉強にならないようにすることも意識したいですね。
たとえば「この板とこの板は同じかな?」という問いかけをしたとき、子どもが間違った答を言ったとしても、「違うよ」と否定するのはいけません。あくまで先生は答えを言わず、「本当にそうかな?」「よく見てごらん?」など、子どもが自分で間違いに気付けるように促すことが大切です。
同じ年代くらいの他の子どもに声をかけて、お友達同士で意見交換してもらうのもいいですね。

大切なのは子どもが正しいものを選ぶことではなく、触ったり考えたりすることを楽しみながら、ものの違いをわかるようになること。
その体験をすることが目的である、というのは忘れずにいたいですね。

みんな達成感に満ちた表情になる

――子どもの感覚を育てる活動の中で、堀田先生の印象的に残ったことはありますか。

私は2歳児クラスの担当なので、毎年4月になると新しい顔ぶれの子ども達と接することになるのですが、どの年度の子もピンクタワーや茶色い階段に熱狂するんですよね。
一度やり方を見せると、次からは子供は自分でやろうとします。立方体を運んで、積んで、また元に戻して、それを延々と繰り返します。大人から見れば何が面白いんだろうと思うような単純な繰り返しですが、子供の表情はとても真剣で情熱的なんです。

私たちは子供の活動を途中で遮らないように見守るだけですが、子供は満足すれば自分で活動の終わりを決めます。「先生できたよ!見て!」とこちらを見る時には、なんとも言えずいい表情をするんですよ。

その顔が毎年、どの子でも変わらないのが不思議だなあって感じますね。
子どもにとっては物を積み上げるとか、違う教具を組み合わせてみたときに接地面の大きさが同じことに気付くとか、そういう感覚と運動から受ける刺激が衝撃なんだろうなと思います。

編集者より

取材時にはたくさんの子どもの写真を見せてくださった堀田先生。映っている子ども達はどの子も自分の好きな遊びに夢中になっていて、パズルのピースを並べ終えたりタワーを積み終えたりしたときには、可愛らしい満足げな得意顔をしていました。
幼年期に繰り返し楽しんだ体験は、その後の人生でも忘れられない原風景になるもの。ぜひ皆さんの保育園でも、子どもの感覚を冴えさせる遊びに取り組んでみてくださいね!

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