取材・インタビュー

「『21世紀のはさみ』をどう使いこなすかが重要」コビープリスクールよしかわみなみ園長に聞く、ICT保育の核心

コビープリスクールよしかわみなみ」。
埼玉県吉川市美南に、同法人の園を前身として2019年3月にリニューアルオープンしたばかりの私立認可保育園です。
真新しいシックなデザインの園舎には、子どもの育ちや過ごす環境にこだわり抜いた「保育の質の向上」のための様々なツールが多数取り揃えられています。登降園管理や連絡ツールなどとして最新のICT機器が活用され、それは保育の中でも活かされており、子どもたちが自在にiPadを使いこなしている姿が見られるのも大きな特徴です。

そんな子どもたちを優しく見守っているのが、コビープリスクールよしかわみなみの園長である三鍋明人(みなべ あきひと)先生。
今回の記事では、従来の保育の良さを活かしつつ、最新ツールも積極的に保育に取り入れている意図や園長となるまでのご経歴など、他では聞けない深いお話をたっぷりお聞きしました。

    *シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。

「男性保育士お断り」厳しい状況の中で出合った法人で、園長職に就くまで

――三鍋園長のご経歴を教えてください。

三鍋園長:2003年に新卒でグループ法人の株式会社コビーアンドアソシエイツに入社して、保育士として働き始めました。コビーが運営する千葉県野田市の認可園で3年働いてから吉川市の認可園に異動し、6年働いて主任保育士となりました。2011年にコビープリスクールかめいどが開園した際に初めて園長となりました。新園の立ち上げに1年携わったのち、2012年に吉川市に戻ってコビープリスクールよしかわの園長に。そして2019年3月に、移転という形で今のよしかわみなみの園長になりました。
保育士として過ごしてきた時間と園長として過ごしてきた時間がもうすぐイーブンになりますね。

――ずっとコビーの運営する園で勤務されているのですね! コビーを選んだきっかけなどはありましたか?

三鍋園長:コビーに出合ったのは、男性保育士を受け入れてくれる園を探していたときでした。私が保育士になった当時はまだ男性保育士が少なくて、ほとんど受け入れてもらえないような状況だったんです。電話をかけた時点で「うちは男性取らないから」って門前払いされてしまうような。だから、まず男性保育士の採用を行っている法人を探していた、というのがきっかけとしてあります。

そのときのコビーはまだ野田の直営の認可園が1園しかない状態で、株式会社として公立認可園の運営受託を始めたタイミングでした。運営園が3園に増えるタイミングで、立ち上げに携わるような形で採用されましたね。

――なるほど……。ちなみに三鍋園長は園長職となるまでに、副主任・主任と段階的にキャリアアップされています。その際に何か意識されていたことなどはありますか?

三鍋園長:キャリアアップするタイミングで何か行動した、ということはありませんが、法人内でのグループ活動で経験を積んだのは大きいと思います。
たとえば夏になると、法人内の男性保育士が集まって七夕のために本物の竹を山に取りに行くんですね。その際、子どもたちがいない中でもリーダーシップを発揮できるかどうか、とか。男性同士で楽しくやりつつ、それが一種の研修になっているんです。

また、法人内には委員会制度があり、若い保育士でも上の立場になることがあるので、人への指示の出し方とか仲間との連携の仕方とかを学ぶ機会が多いです。ひとつの園の中だけだと園長・中間管理職・現場の保育士という上下だけの関係になりますが、法人全体での活動となると横の広がりの中で別の関係性が生まれます。ですから、そこを意識できる保育士は、おのずとステップアップしていけるのだと思います。

――コビーでは、研修制度などはあるのですか?

三鍋園長:法人内に専門の研修制度がありますね。新人研修とか、2年目のフォローアップ研修、管理職向けの研修など経験に応じた研修が行われています。社会人としてのルールといった基本的なところから、現場で起こりうるトラブルについてどう対処するかといった実践的なところまでしっかり学べます。
あとは各先生の個性や特技を伸ばすような外部の研修をすすめることもあります。運動が得意な先生にはスポーツ系の研修に行ってもらうとか、0歳児クラスを初めて担当する先生には乳児研修に行ってもらうとか。これによって先生方も自信を持って働いてくれていますね。

三鍋園長のキャリアパス

2003年 株式会社コビーアンドアソシエイツに入社
2003年 株式会社コビーアンドアソシエイツに入社 千葉県野田市の認可保育園に配属される
2006年 埼玉県吉川市の認可保育園に異動 副主任保育士
2009年 同園 主任保育士
2011年 東京都江東区の認可保育園に異動 園長
2012年 社会福祉法人コビーソシオに転属 コビープリスクールよしかわ 園長
2019年 コビープリスクールよしかわみなみに移転 同園園長

子どもたちは皆、「園の中の兄弟」

――コビープリスクールの大きな特徴として挙げられる『マトリクス保育』について、よしかわみなみではどのような取り組みをされていますか?

三鍋園長:異年齢保育と年齢別保育を融合させた『マトリクス保育』の実践として、ファミリーグループというものを作っています。これは年齢別のクラスとは別の縦割り班で、各年齢ごとに2~3人集めて組んでいます。全部で8つあって、ご飯を食べるときにはこのファミリーグループのメンバーと一緒に食べることになっています。

異年齢のグループを作って毎日一緒にリラックスした時間を過ごすことで、年長児は小さい子の面倒を見るリーダーシップを学びます。同時に年少児はお兄さんお姉さんに憧れを持つようになります。園の中の兄弟として過ごすんですね。
食器の片付けなどの際も、先生が注意するのではなく、年長の子からグループの子どもたちに声をかけられるように促していますね。積極的に子ども同士で協力し合える状況をサポートしているんです。

――ファミリーグループの取り組みは以前から行っていたのですか?

三鍋園長:ファミリグループ自体は移転前からあったのですが、以前の園舎は昭和の時代に設計された旧来型の建物で年齢別の保育室だったため、ファミリーグループで昼食をとろうとしてもなかなか機会を設けることができませんでした。
ですが、今の園舎になってからは目的に分けて部屋を使用できるので、毎日一緒に昼食を食べられる環境になりました。そのおかげで、子どもたち同士でグループのメンバーを覚えられるようになってきたところです。
保育を行う上では、やっぱりハードの部分も大事だなと思いますね。

今が絶対ではない。常に最新で最善を考えて園舎を「使い倒して」いきたい

――他に類を見ないようなハイテク機材がたくさんありますが、移転前と後で働く保育士さんの反応はいかがでしたか?

三鍋園長:先生たちにとっては新しい園舎に戸惑いもあったと思いますが、皆前向きに受け入れて試行錯誤してくれているな、という印象があります。
移転して1カ月半、今はやっとよしかわみなみのスタイルを確立させられたところなんです。だからこれからよりよい保育のために、園舎をどんどん使い倒していきたいなと思っています。
「今の使い方が絶対に正解か?」というときっとそんなことはなくて、よりよいやり方はこれからもっと出てくると思うんですね。だから常に最新で最善の環境を考えていきたいし、先生方にもこのマインドは共有しています。

――具体的に、これから何かやってみたいことなどはありますか?

三鍋園長:このよしかわみなみはリニューアルオープンしたばかりの園ですが、コビーグループでの保育の実績は昭和23年からあって、古くから続けている行事などもあります。子どもたちに伝承していくものは、もちろん大切にしていきたいと思います。
ですが、時代は変わっていくもの。歴史のあるものを大切にする一方で、新しい行事についてもこの環境を活かして幅を広げていきたいですね。

前の園舎のときの話ですが、園の周りに田んぼがあったので、農家の方にご協力いただいて、子どもたちに田植え体験などをさせられたんです。園舎裏でたくさん釣れるザリガニをきっかけに、大規模な釣り大会を開催したこともあります。
その経験があるので、今の環境でも子ども達と一緒に新しいことができる。だから新しい環境になった中で、できることを考えて探していきたいです。

ICTは「21世紀のはさみ」子どもの20年後を見据えて

――コビープリスクールよしかわみなみでもうひとつ特徴的なのが、やはりICTを活用されている点だと思います。これについて、詳しくお聞かせください。

三鍋園長:ICT保育自体は、移転前のコビープリスクールよしかわでもやっていました。私自身、デジタル機器などが元々好きだったので、法人本部からiPad借りる機会があったことをきっかけに導入しました。
わずらわしかった手作業の代替ができるのはとても便利だと思っていますが、ツールをどう使いこなしていくか、活用していくかは自分達の勉強次第だということは強く意識しています。
たとえば、園舎に導入している照明の色や明るさが自動で変わる機能。これをただ与えられたままに使用するのではなく、子ども達が過ごす環境としてよりよい明るさに設定し直せるのではないか、色をもっと変えられるのではないか、など細かいところでも常に試行錯誤していくべきだと感じていますね。

これは、業務的に活用する以外に、子どもたちがiPadを使用した保育をする際にも同じことが言えます。
ゲームをしたり動画を見たりするだけの使い方なら家でもできますから、保育に導入するにあたって、ただそれだけのものにしてしまうのはどうかなと思ったんです。
そこで、「iPadをもっとツールとして子ども達の活動に活かせないか?」という観点で考えて、子どもたち自身がチームで協力して使えるような発表ツールとしての運用を工夫しました。そこから企業や大学の方々とディスカッションして情報を仕入れ、コビーでもカリキュラムを組めるようになったんですね。

――ICT機器に触れることだけを目的としないわけですね。ですが、まだ幼い子どもたちに多機能の精密機器を与えることに、懸念などはありませんでしたか?

三鍋園長:私は保育に導入したiPadを、「21世紀のはさみ」だと考えています。
使い方を間違えれば確かに危ないものですが、きちんと使い方を覚えれば安全に、色々なことに使えるツールになるんです。これを、子どもが小さいうちから実体験として伝えることを目指しています。

ですから、使用の際の指導もきちんと行っています。水に濡らしてはいけないとか目を近付けすぎると視力が悪くなるといった基本的なことから、カメラ機能を使う際に「嫌がっている友達の写真は撮っていいのかな?」「トイレや着替え中の人の写真は撮っちゃだめだよね?」「撮られた人が恥ずかしいと思う写真はいけないね」といったリテラシーについて子どもたちに考えてもらうんです。
ツールとしてのiPadを通じて、デジタルリテラシーを学ぶこともできるんですね。そうした経験を通じて、道具を使いこなすということが実体験としてできるようになっていく。目的のためにこれを使うと便利だ、ということがわかるようになるわけです。

――なるほど! ちなみに、先ほど仰られていた「発表ツールとしての運用」について、具体例などはありますか?

三鍋園長:そうですね、絵を描いてみんなの前で発表する、などの使い方をしています。これもiPadで絵を描くこと自体が目的ではなく、アイデアを出すことを重要視して使っています。
子どもの中には絵を描いている最中に間違えると、間違えた部分を塗りつぶして何の絵かわからなくしてしまったり、やる気をなくしてしまったりする子もいます。表現したかったはずのアイデアがもったいないですよね。
デジタルなら、間違えてもワンタッチでやり直すことができます。これによってアイデアの幅を広げ、想像力を発揮して形にすることができるのです。

また、絵を描く際にもひとりではなく、友達と一緒にやってもらうようにしています。お題を出してそれに沿った絵を描いてみることで、子ども同士で相談しながら、コミュニケーションを取ることができます。。課題解決をするのにiPadを利用し、コミュニケーションをとることを目的とするんですね。

20年後の未来、今の子どもたちが大人になる頃はICTを使いこなさないといけない時代になっているはずです。ですから今のうちから苦手意識をなくして、使えるツールの選択肢を増やしてあげたいと思っています。

先生たちに助けられて園長がある

――園長としてのやりがいを教えてください。

三鍋園長:もちろん責任も生じますが、自分のやりたいことに挑戦しやすいというのはあると思います。
私もICTを導入する際は保育室に同席していましたし、自分が率先してリードをとっていました。最初から保育士に丸投げにすることはなかったですね。新しいものを作っていく感覚は、やはりやりがいだと思います。

後は園が一丸となるために、先生たちとのチームを作っていくことも園長の醍醐味だと思います。
組織のトップというのはどうしても孤立しがちなものですが、その中でもチームを作れるといいですね。先生たちに助けてもらっている、という感覚でいないとうまくいかないと思います。「園長先生って指示だけ出していればいいんでしょ?」と誤解されがちですが、そういうわけではないんです。
やりたいことがあっても先生たちがついて来ていなかったら独りよがりになってしまいます。だからこそチームづくりが大切だし、それができたときは嬉しいなと思いますね。

――では、そのチームメンバーとなる保育の先生は、どのような人が望ましいですか?

三鍋園長:一緒に働きたいと思う保育士さんですか? 子どもが好きであればどんな人でもいい、というのが正直なところです。その先生の特徴を活かしてあげたいし、いいところを探したいなと思います。
ただ、強いて言えば子どもたちと何か活動したいという意思がある人が来てくれると嬉しいですね。新しい取り組みを色々やってみたいという前向きな先生がいると、柔軟なアイデアがたくさん園に良い影響をもたらしてくれるのかなと思います。
今年新卒で入ってきた先生も、「ICT保育がやりたい」という熱意で何と青森から入職してくれたんです。こうやっていろいろなことを吸収してくれる人だといいですね。

とはいえ、全員が全員「革新的なことをやりたい!」というメンバーでも、それはそれで園のバランス的にはちょっと悩ましいところ。中には子どもとじっくり接したい、という先生がいてもいいし、大切なのはどのような保育がしたいのかを積極的に言ってくれることですね。

全国の保育士さんに一言!

――最後に、全国の保育士さんやそれを目指す方、あるいは潜在保育士の方にメッセージをお願いいたします。

三鍋園長:子どもの色々な様子に気付ける人は保育の才能がある、と思います。子どものちょっとした不調を見抜くのでも、新しいことをキャッチアップするのでも、色々なところにアンテナを張っている人は保育に向いていると思います。そういう人たちが保育から離れているのはもったいないですね。
保育士不足の背景として、保育=大変というイメージが強すぎるのが問題かな、と思います。実際に子どもと一緒に過ごしていると、「楽しい」って感情の方がきっと強く残るはずなんです。もちろん命を預かる責任重大な仕事であることは事実ですが、それ以上に楽しくて魅力的な仕事だと思って私は保育士を続けたので、園長としての今の自分があります。
ですから、これから保育士を目指す人はぜひ視点をポジティブに変えて、保育の世界に来てくれるといいなと思います!

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