クラスのみんなで一つのステージをつくりあげる「生活発表会」や「お遊戯会」。
練習を重ね、みんなのきもちが一つになった時の感動はひとしおですね。
一方でついつい「やらせる」形になりがちなこの行事。
今回は、「そもそも生活発表会における保育の意味は?」という考え方から、計画の立て方・職員間の連携・保護者対応まで、若手の保育者がおさえたい基本をお伝えしていきます。
劇・音楽・ダンスなどの実践的なプログラムのアイデア例はこちらから!
発表会は誰のため? 子ども達の生活の中からヒントを見つけよう
園で恒例の目玉行事となっており、保護者からの期待も高い「生活発表会」や「お遊戯会」。
クオリティの高い発表ができると、保育者としても自信にもなり、他の保育者や保護者からの評価にもつながるようでついつい力も入りがちです。
しかし、そもそも発表会は誰のためにおこなうのでしょう?
それはもちろん子ども達のためです。
発表会もあくまで子ども達の日常の遊びや生活の延長線上にあると意識し、子どもの思いや育ちを尊重することを忘れてはなりません。
発表会ありきで保育者だけが企画するのではなく、まずは日々の子ども達の様子をよく観察することから始めてみましょう。
そして、もう一つ大切なのは4月からみんなで作り上げてきた集団(クラス)を尊重すること。
「毎年劇だから今年も……」とプログラムを決めるのはでなく、「このクラスは大きな声を出してステージ上で何かを演じるよりも、繊細な音を楽しむ方が向いているから合奏にしてみようかな」などとクラスに合わせて柔軟に考えていくことが大事です。
「子どもが主役」の発表会で意識したいこと
●発表会も保育の一部であり、「子ども達」のための行事であることを意識する
●練習時間を配慮し、日々の子ども達の遊びや生活の連続性を失わないようにする
●個々の発達やクラスに合った題材選びをする
いつやる? 1年の集大成として年末や学期末に実施
生活発表会・お遊戯会は、年末の12月と学期末の2・3月に集中することが多いようです。
「1年でこんなことができるようになりましたよ」というお披露目の意味合いが強いためです。
凝った劇を行う場合は台本作りや大道具・衣装の作成、伴奏の練習などやることがたくさん。
準備は約2~3ヶ月前から、子ども達との練習は飽きがこないように約1ヶ月前を目安におこなうとよいでしょう。
風邪が流行する時期でもあるので、子ども達の健康に留意しつつ、欠席も考慮してゆとりある計画をたてることをオススメします。
「毎年準備が大変だ」という園は人員配置も工夫してみてね。
どこでやる? 「ホール」でという固定概念は捨てよう
「発表会」という響きからどうしてもホールの舞台で行わなくてはいけないと思っている保育者も多いのでは?
しかし、ホールは観客との距離も遠く、子ども達の姿がよく見えなかったり、声や音が聞こえ辛かったりと、ベストの環境ではない可能性もあります。
ステージから降りて観客席に近づくといった演出もよいですね。
音響設備や照明なども総合的に考慮して、環境の使い方を見直してみましょう。
普段の保育室で行うというのもおすすめです。
子どもが声を張り上げるような演技をすることがなくなり、保護者も子ども達を近くで見られるメリットもあります。
何をやる? 定番は「劇・音楽・ダンス」
生活発表会やお遊戯会のプログラムといえば、やはり劇遊びや合唱・合奏といった音楽、そしてダンスが定番でしょう。
ユニークな例だと、朗読や歌舞伎や手作りの馬にまたがって流鏑馬(やぶさめ)といった伝統芸能に挑戦したり、ハロウィンの遊びが発展しファッションショーをしたり大型製作を披露することもあるようです。
すでにお伝えしたように、まずは子ども達の日常に目を向け、興味関心から発表会の種を見つけていきましょう。
定番の劇・音楽・ダンスそれぞれのポイントはこちらから。
年齢別・発達にあったプログラムのヒントも詳しくお伝えしています。
生活発表会・お遊戯会のねらいは「表現」や「人間関係」
それでは、生活発表会における保育のねらいで意識すべき点はなんでしょうか?
発表会では「言葉」だけでなく音楽/身体運動/造形などの「表現」に親しむ機会が多くあります。
また、クラス全員で行う表現活動を通して、友達に関心をもちクラスの仲間意識が芽生えることも専門家からは指摘されています。
保育者は子ども達の喜びだけでなく葛藤や緊張など様々な感情と向き合いながら、クラスを陰からサポートできるとよいですね。
指針に沿ったねらいのポイント
『保育所保育指針』の「内容」と「内容の取扱い」を参考に、ねらいのポイントを下にまとめます。
【乳児期】
・歌やリズムにのって手足や体を動かして楽しんだり、様々な音・形・色・手触りと出会う。
→表現したいという意欲の芽生えの時期。保育者はその意欲を十分に受け止めたり、積極的に語りかけ・歌いかけをする。
【3歳未満】
・簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだり、イメージを豊かにしていく。
→保育者は五感の発達を意識して、子ども達の試行錯誤しながらの表現をサポートする。
・周囲の友達に興味をもち、関わり方を身につけていく。
→子ども同士のぶつかり合いも大切な経験。適切な仲立ちを心がける。
【満3歳以上】
・自分のイメージを音や動き・絵などで表現したり、演じる楽しさを味わう。
→保育者は素材や簡単なリズム楽器を用意したり環境の構成を工夫して子どもの主体性を援助する。
・友達のよさや一緒にいることの楽しさに気づき、共通の目的にむけて協力する。
→子ども達がアイデアを持ち寄って認め合ったり、失敗しても受容的な雰囲気づくりに努める。
「導入→展開→本番→ふりかえり」の流れを意識した指導計画を!
保育指針のねらいを確認したら、指導計画にも落とし込んでいきましょう。
行事がいっぱいな年(度)末。年間計画も見つつ、無理がないか確認することも忘れずに。
発表までの期間を大きく4つの期間に分けましょう。
導入は子ども達の関心を見つける環境を整えます。
子どもの関心を元に展開していきます。計画通り練習ができないことがあっても、おおらかに構えましょう。
本番直前は緊張感を和らげるように明るく援助し、ふりかえりの時間も設けて余韻を味わいながらそれぞれの思いを共有できるとよいですね。
また、他園の月間指導計画を元に頻出キーワードを抜き出してみたので参考にしてください。
指導計画で使えるキーワード
目標、達成感、自信、友達、団結、協力
表現、感情、緊張、想像力・創造力
「子どもが主役」のために! 子どもが「選ぶ」場面を用意して
保育者は「題材決めから台本や衣装作りまで全部自分一人でやらなければ!」と気負う必要はありません。
繰り返しますが、子ども達の日々の遊びや生活の中から自然と劇遊びなどに発展させていけることが望ましいです。
ある保育園の劇までの保育記録を分析した研究では、「ホール遊び→詩の朗読→即興劇を組み込む→リハーサルVTRを見て自分達で演技を工夫する」と子ども達の反応・発想に合わせて柔軟に発表の内容が決まり、変化していったことが分かります。
園によっては「代々劇をやると決まっている」などという場合もあるでしょう。
そんな時も、子ども達自ら選択でき、主体性を活かせる場面を設けることはできるので以下を参考にしてみてください。
●子どもが好きな絵本を数冊選んで「どれを演じてみたいか」話し合いをして決める
●様々な道具(衣装や楽器)のみを用意しておき、子ども達の遊びの展開を見守る
●これまでの生活や行事(遠足や運動会)から興味をもったことを膨らませていく
●シナリオやセリフ、振り付けを子ども達で考える
発表会のお仕事はてんこ盛り! 協力して乗り越えよう
出し物を考え、練習、道具制作など、発表会前は保育者たちもてんやわんや。
今一度、園全体の仕事を整理してみましょう。
【発表会のお仕事一覧】
□日程と会場の確保
外部のホールを利用する場合はスケジュールをおさえます
□プログラム調整
前年や他クラスと内容が被っていないか共有する
ホールなどでの練習時間の配分も
□役割分担
司会役や照明・音響担当などを決めます
園長保育者に劇に出演してもらっても面白いですね
□保護者への連絡
特に準備物(衣装作り)などの用意をお願いする場合はお早めに
□会場の飾りつけ
背景やたくさんの道具はクラスを越えて協力するとあっという間にできますよ
□リハーサル
観客の導線もイメージして
□本番
失敗しても大丈夫! 温かい雰囲気を作り出しましょう
□ふりかえり
反省点を洗い出し翌年へのステップに
特に若手の保育者は自分のクラスの出し物でいっぱいいっぱいになりがちです。
悩みや仕事は一人で抱え込まないように相談したり、周りを頼るようにしましょう!
先輩の保育者はぜひこれまでの経験からアドバイスしたり気づかってあげてくださいね。
場面別・保護者に伝えたいコト
お父さん・お母さんだけでなく、兄弟姉妹やおじいちゃん・おばあちゃん……一家総出で発表会を楽しみに見に来る家庭もありますね。
ここからは、みんなが気持ちよく発表会を楽しんでもらえるように、保護者対応で場面別に心がけたいポイントをお伝えします。
過程を丁寧に伝えよう ドキュメンテーションも上手に用いて
保護者の方は「発表会」という、日々の積み重ねの結果のみを目の当たりにするわけですが、本番に至るまで子ども達と色々なエピソードがありましたよね?
保育者の中で留めるだけでなく、ぜひ保護者の方にもこまめに共有できるとよいですね。
子ども達の興味や遊びからの発展の様子、発言などを文字や写真で記録して、ドキュメンテーションの形式で見せても喜ばれます。
子どもそれぞれの輝いている部分を丁寧に伝えれば、「出番に対する不平・不満」なども避けられるかもしれません。
衣装作りでトラブル勃発? 保護者への負担は最小限に
特に幼稚園で多いのが、子どもの衣装作りを保護者にお願いするパターン。
ただでさえ忙しい保護者の方にとって、大きな負担となる場合も多いです。
市販の物で代替できないか、衣装なしで表現できないかなど依頼する前に検討してみましょう。
お裁縫が得意な保護者に依頼が集中してしまい、保護者同士でトラブルになってしまうこともあります。そんなトラブルの種を保育者が作ることは避けたいですね。
どうしても協力をお願いする場合は、最小限に。
かつ、いつでも保護者が相談しやすい体制をとっておきましょう。
練習から終演後まで「あたたかい雰囲気づくり」に協力を呼びかけよう
大勢の前での発表は大人でも緊張します。
経験の少ない子ども達にとっては言うまでもないでしょう。
子ども達が楽しく安心して発表できるために、おたよりや当日のアナウンス、発表会の終演後に直接……と段階的に保育者から保護者へ呼びかけをしましょう。
お手紙の文例
発表会の練習が始まりました。
「踊った時に裾がふわっとするとお花みたいだよ!」と子ども達のアイデアで衣装づくりも進行中。当日のお披露目をお楽しみに…!
笑顔あふれる発表会となるよう、どうぞ応援をお願いいたします。
おたよりでは子ども達の頑張りの経過を伝え、保護者も期待がふくらむワンフレーズがあるとなお良いです。
当日のアナウンス例
そして終わりましたら、ぜひ温かな拍手をお願いします。
保護者も一体になって盛り上がれる演出は嬉しいですね。
未満児さんの場合は、初めての舞台に戸惑って泣いたりしてしまうこともあるので、ぜひ笑顔で温かく見守ってもらうようお願いしましょう。
保護者への言葉かけの例
プログラムが終わった後には、子ども個人だけでなく、クラス全体の成長や他の子どもの良いところに気づき、伝えてもらえるような一言を。
保護者も巻き込んでより良いクラスづくりにつながるでしょう。
観客マナーのトラブルはこうして防ごう
防ぎたい「観客マナー」のトラブル。
わが子の晴れ舞台についつい周りへの配慮も欠いてしまう保護者の気もちもわかります。
園としては、誰もに楽しんでもらえるよう前年までに起こったトラブルを会議などで共有し、できる対策をあらかじめ打っておきましょう!
それではトラブルごとの対処例をみてみましょう。
撮影禁止にして生の舞台を楽しんでもらおう
代わりに動画撮影を業者さんに頼んで、後から希望者がDVDを購入できる園も多いですよね。
保護者の方には「レンズを通さず、直接目でご覧になって発表をお楽しみください」と案内するのはいかがでしょう?
未満児クラスの発表は要注意! 「呼びかけ」対策
他の子ども達もそれにつられ発表どころではなくなってしまいました。
編集者より
子どもも大人もドキドキの発表会。
今回は「子どもたちが主役」となるような発表会の基本をお伝えしました。
肩の力を抜いて保育者も子ども達と一緒になって全力で楽しむことが、なによりの発表会成功への近道ではないでしょうか。
みなさんが笑顔の発表会を迎えられますように!
参考文献・サイト
- 厚生労働省「保育所保育指針」(2019/08/06)
- 社会福祉法人旭川木の実会旭川春光台保育園 春光台っ子「こだわり保育」(2019/09/02)
- 小林真・岩田夏実・岩田育代・米﨑瑛美(2017)「保育内容(人間関係)の観点から見た劇遊びの意義 : 富山大学人間発達科学部附属幼稚園におけるこどもまつりの教育的効果の検討」『教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要』(12), 171-179
- 南 元子(1999)「即興的な劇遊びによる表現と子どもたちのリアリティーのとらえ方―生活発表会へむけて活動した5週間の保育記録の分析―」『愛知教育大学幼児教育研究』(8), 35-43
- 遠藤晶・江原千恵・松山由美子・内藤真希 (2010)「幼児の「表現する過程」を大切にした劇つくりの実際」『武庫川女子大学紀要』(57),27-34
- グループこんぺいと(2007)『先輩が教える保育のヒント40―運動会・生活発表会・作品展』黎明書房
- 高橋詠美子・中島祐子・金田英恵・菊地君江・小菅恭子・部井友紀子(2008)『年齢別 行事ことばかけハンドブック』世界文化社
- 花輪充(2013)『みんなでつくろう発表会 (行事別保育のアイデアシリーズ)』フレーベル館
- 北向邦子・宮地明子ほか(2017)『必ず役立つ! 保育の年中行事まるごとアイデア』ナツメ社