保育士試験を受験された方、筆記試験お疲れさまでした。
筆記試験が終えたみなさんは、すでに実技試験の対策へシフトしているかもしれません。
この記事では、保育士試験で「言語表現」を選択し合格した筆者が、合格のためのポイントや実体験をふまえたアドバイス、さらに2019年度試験からの変更点も解説するので、ぜひ試験の参考にしてみてくださいね。
保育士試験実技の「言語表現」とは
保育士試験の選択実技科目の一つである「言語表現」。
試験で行うのはいわゆる「素話」です。
視聴覚情報(絵や音楽)を一切用いないで、
物語を覚えて子ども達に語ること
絵本の読み聞かせや紙芝居と異なり、物語を覚える苦労はあるでしょう。
しかし、子ども達が集中して人の話に耳を傾けられ、言葉から様々なイメージをふくらませられるという点で発達にも大きな意味があります。
また、お話を覚えてさえいれば道具が不要でいつでもどこでもできるので、保育の現場でもきっと役立ちます。
「素話」は保育士として働く上で身につけておきたい基本のスキル。で、話し手の自由な解釈によって子ども達の可能性を広げていくこともできます。
しかし、保育士試験ならではのルールがあるのも事実です。
「手引き」で試験のきまりを確認
試験の概要や詳しいルールは全て「受験申請の手引き」に書かれているので、しっかり読み込みましょう。
課題となる物語が書かれているだけでなく、条件や注意点などマイナーチェンジがある可能性もあります。
再受験の場合でも必ず目を通すようにしましょう。
また、これまでの出題内容は過去の試験問題からも見ることができます。
【速報】2020年の試験より一部科目の名称が変更
2019年6月には次年度より「筆記試験科目・実技試験分野の名称」を変更することが発表されました。
実技試験は下記のように名称が変更になります。
改正前 | 改正後 |
---|---|
言語表現に関する技術 | 言語に関する技術 |
造形表現に関する技術 | 造形に関する技術 |
音楽表現に関する技術 | 音楽に関する技術 |
(参考:一般社団法人全国保育士養成協議会「保育士試験科目改正について」)
筆記試験はこれに伴い出題範囲が一部変更になったようですが、実技試験に関しては名称以外の大きな変化は現時点では明らかになっていません。
最新情報は公式HPに随時掲載されていますので、これから受験を考えている方は注意深くチェックするようにしましょう。
「保育のお仕事レポート」でも、随時最新情報をお知らせします。
以下からは最新の手引きを元に試験の詳細を解説していきます。
「保育士として」ふさわしい話し方が重要
3歳児クラスの子どもに「3分間のお話」をすることを想定し、下記の1~4のお話のうち一つを選択し、子どもが集中して聴けるようなお話を行う。
求められる力:保育士として必要な基本的な声の出し方、表現上の技術、幼児に対する話し方ができること。
【課題】
1.「おむすびころりん」(日本の昔話)
2.「ももたろう」(日本の昔話)
3.「3びきのこぶた」(イギリスの昔話)
4.「3びきのやぎのがらがらどん」(ノルウェーの昔話)
●子どもは15人程度が自分の前にいることを想定する。
●一般的なあらすじを通して、3歳の子どもがお話の世界を楽しめるように、3分にまとめてください。
●お話の内容をイメージできるよう、適切な身振り・手振りを加えてください。※太字は編集者によるもの
引用:令和元年保育士試験受験申請の手引き[後期用]29p
「求められる力」から実際の場面を想像して
注目したいのが「求められる力」です。
保育士さんがクラスでお話をする場面を思い浮かべてみるとよいですね。
にぎやかな15人の3歳児クラス。
保育士さんの「お話をするよ」の声かけで子ども達が集まってきます。
「どんなお話をするのかな」とワクワクしながら保育士さんの方を見ます。
…………そのような状況でどんな話し方をしますか?
「声量」はお話の展開で変化をつけるとさらに◎
まずは声量。
期待のあまりおしゃべりが止まらない子どもがいる中でも、全員の子ども達の耳に届き、興味をひきつけられるような声量は最低限必要です。
また、お話の展開によって声量にも変化をつけられるとなおよいです。
たとえば悪者が近づくシーンでは声を潜めたり、クライマックスの重要なセリフでは声のボリュームを上げてみたり……という表現の工夫があるとお話にメリハリが出ますね。
「スピード」は3分で800字を目安に
次にスピード。
子ども達は保育士さんの声の情報のみで、物語を頭の中でイメージします。
子ども達が理解できるようなゆっくりとしたスピードで読みましょう。
一般的な3分間のスピーチで話す文字量は約900字程度と言われるので、子どもを相手にした場合を考えるとさらにゆっくりになります。
3分間で800字程度を目安に話すようにしましょう。
(台本の書き方については後ほど紹介します)
そして、想像の余地をもたせるような「間」もあると良いでしょう。
劇団員のような声だしをする必要はありませんが、幼児期の子ども達の興味をひきつけるような緩急や抑揚のある話し方を意識しましょう。
発達の理解をもとに15人の「3歳児クラス」に向けて
今回の条件に書かれているのは「15人程度」の「3歳児クラス」です。
(※2018年度の試験までは「20人程度」でした)
3歳児クラスの職員配置基準から見ると、ややゆとりがある状況です。
筆記試験の際に勉強をしたことを思い出しつつ、3歳児の発達段階を簡単に思い出しておけるとよいですね。
注意したい点はふたつです。
3歳児の理解できる言葉選びを
ひとつは「3歳児の理解できる言葉選びができているか」です。
たとえば「おむすびころりん」に出てくるお土産の入った「つづら」。
これは3歳児向けに「宝箱」に言い換える、あるいは「つづら」の説明を付け加えるなどの工夫が必要です。
大人が一般的に使っている言葉でも、子ども達には伝わらない可能性がありますので、単語のチェックをするようにしましょう。
集団に対して話すように
もうひとつは「15人の集団に向けて話せているか」です。
先ほどもお伝えした通り全員に届く声で話すことを前提として、次に気を付けたいのが「目線」です。
正面の一点だけを見て、あるいは対面の試験官だけを見て話すのではなく、15人一人ひとりの表情を見るように視線を配らせる意識をしましょう。
紙芝居と異なり、目線を子ども達の方に向けられ、ダイレクトに表情を見ることができるのが素話の魅力です。
タイムオーバーでも大丈夫⁉ 制限時間3分の壁
多くの受験者が戸惑うのが「3分」という制限時間。
3分に収まりきる台本を作ること、そして練習を重ねて3分以内に起承転結が分かるように調整していくほかありません。
試験会場の部屋に時計があるとは限りません。
3分という時間を体で覚えることが重要です。
しかし、神経質になる必要はありません。
実際試験を受けた方のクチコミによれば「多少タイムオーバーしてしまったが合格した」という声も聞かれます。
時間は試験官がタイマーで測り(受験者はそのタイマーを見ることができない可能性が高いです)、3分間経過するまで退出はできません。
課題選びで気にしたい「読みたい気持ち」と……?
課題となる作品は例年誰もがストーリーを知っているなじみのある日本や世界の昔話・童謡などです。
では、課題によって有利/不利ということはあるのでしょうか?
これは自分にとって「好き、読みたい、覚えやすい」と思える題材を選ぶ、そして「声の演じ分けをしやすい題材を選ぶ」方が有利だと言えます。
また受験経験者に聞くと、声の演じ分けのしやすさや楽しいフレーズがあることから「おむすびころりん」は圧倒的な人気でした。
2019年は「ももたろう」も選択課題のひとつに入っていますが、定番のストーリー展開の通りの登場人物だと、桃太郎、おじいさん、おばあさん、犬、猿、キジ、鬼……と少なくとも9種類以上の声の演じ分けが必要になり、難易度が少し高いように感じます。
(もちろん声色だけでなく、語尾を「~だワン」などと工夫したりすることで演じ分けることもできます。)
自身の気持ちと力量を見極めて、作品を選択してみてくださいね。
また登場するキャラクターも「しゃがれた声のおじいさん」と「甲高い声のねずみ」だけと少なく、演じ分けやすいと感じていました。
さらに、「おむすびころりん、すっとんとん」という定番のフレーズがリズミカルで「3歳児も楽しくなって一緒に繰り返してくれそうだ」というイメージが沸きました。
【NEW】平成31年より「身振り・手振り」が明言化
これまでは受験者の間で「言語表現において身振り手振りは禁止」とまことしやかに言われていました。
しかし、平成31年(前期)試験より、手引きにて「お話の内容をイメージできるよう、適切な身振り・手振りを加えてください」と明記されました。
確かに、保育の現場で実際に素話をするとしたら、「子ども達に伝えたい」という思いから自然とジェスチャーが入ってしまいますよね。
無理におおげさな身振り・手振りを付ける必要はないでしょう。
形や大きさ、感情などを表す自然な身振り・手振りを入れましょう。
注意事項も確認
手引きから、最後は「注意事項」の確認です。「知らなかった」では済まされない重要事項を紹介します。
最初に題名を子どもに向けて言う
試験官との間には子どもに見立てた椅子があります。
この椅子を目印に子どもが15人いるというイメージをもってください。
そして、試験官から実技の開始の合図がされたら、読むお話の題名を子どもに向かって言います。
緊張しているとついつい言い忘れて、お話を始めてしまうこともあるかもしれません。
減点対象になりかねないので、題名は始めに忘れずに言いましょう。
物の持ち込み禁止
絵本や道具(台本・人形)等の使用は禁止されています。
お話は完全に暗記し、もちろんカンニングペーパーなども見ることはできません。
「言語表現」に限らず、試験中不正行為があった場合、その試験は無効となり、以降3年間は保育士試験を受験できなくなります。
当日も試験官やスタッフの説明をよく聞き、注意しましょう。
合格者おすすめの練習方法
「言語表現」の練習方法は王道ですが「くり返し練習する」に尽きます。
ここでは筆者の行った準備~練習のステップを紹介します。
課題選び・情報収集→素話のイメージをつかむ→台本作成→台本を読みながら時間を計る→台本調整→3分間で収まるように練習・台本暗記→タイマーを見ないで3分間で話せるように最終調整
暗記は通勤中などのすきま時間を使って行いました。
もう一つの選択科目の対策とのかねあいで練習時間を配分できるとよいですね。
動画で「素話」のイメージをつかむ
読み聞かせをしてもらったことはあっても、「素話」をしてもらった経験は意外と少ないかもしれません。
実演動画などから上手なお手本を探し、よいところを取り入れるようにしましょう。
大まかな台本を用意する
絵本などをもとにオリジナルで台本を一から作るのも手ですが、参考書やインターネットにある台本にアレンジを加えるのが初心者にとっては楽だと思います。
3分に収めるためには大胆なアレンジも
たとえば「おむすびころりん」の場合……
やさしく謙虚なおじいさんがおむすびをねずみの穴に落としてしまい、喜んだねずみから宝をもらいます。それを見たいじわるなおじいさんも自分が宝が欲しいとわざと穴におにぎりを落としねずみ達を騙し……というストーリー。
このままでは3分に収まりきらないので、いじわるなおじいさんのくだりはカットし、やさしいおじいさんのハッピーエンドにしました。
このくらいの大胆なアレンジでも許容されるようでした。
話し方を確認しつつ反復練習(チェックリスト付き)
台本ができたらそれをもとにくり返し練習をして覚えていきます。
一字一句完璧に覚えるのではなく、お話の流れを覚えて身につけることに集中しました。
筆者の場合、「間(ま)」・「ここで子どもの方を見る」などのセリフ以外のことも台本に書き足して、ブラッシュアップしていきました。
練習の際に意識していた箇所をチェックリスト化してみました。
【話し方】
☑話すスピード
┗早口になって聞き取りづらい箇所がないか
☑なめらかに話せているか
┗毎回つっかかる部分があればそこを重点的に練習or台本を修正
☑滑舌
┗モゴモゴと話さない、言いづらい表現は言い換えをする
☑声のトーン
┗基本的に明るいトーンで、怖い場面ではおどろおどろしく
【表現】
☑メリハリ
┗声のボリュームや声色の変化、緩急をつける
☑表情
┗基本的には笑顔を心がけ、登場人物の感情にあわせてかえる
【対象】
☑3歳児にとって難しい表現はないか
┗台本の単語をチェックし、必要に応じ言い換えたり説明を補足する
☑飽きの来ない展開か
┗楽しいフレーズ、擬音語を混ぜるなどリズム感を出す
【その他】
☑非言語情報
┗姿勢、自然な身振り・手振り、子ども全体を見つつ適宜視線を動かす
始めの頃はタイムオーバーなどを気にせずに、子ども達に喜んでもらえるように感情をこめた話し方で練習するとよいでしょう。
このような解説動画も参考になります。
タイマーを使って3分以内に読めるように
表現豊かに暗唱できることに加えて大切なのが3分以内に話せるようになること。
まずは台本を読みながら時間を計って3分におさまるように台本を調整していきます。
当日までにはタイマーを見なくても3分以内に話せるように練習をしていきます。
時間計測はスマートフォンのタイマー機能を使っていました。
最初は台本を読みながら、ストップウォッチでどの位時間がかかるかを計ります。
どの場面にどれくらいの時間だと望ましいかの目安にするためラップ機能も使いました。
大体3分程度で話せるようになったら、タイマーを使って3分以内に話しきる練習をしていきます。
余裕があれば「録音・録画」や「実演」も
話し方を客観的にみるのは難しいです。
ぜひ試してほしいのが「録音・録画」や「実演」をして振り返りをして、さらに改善を重ねることです。
「録音」は声だけで伝わりづらい箇所がないか確認することができます。
「録画」は上記に加えて、姿勢や表情、自分では気づかなかった癖にも気づくことができるでしょう。
素話と言っても、子どもはお話以外の部分にも注目します。猫背やずっと硬い表情をしている場合は本番までに直しましょう。
そして、お話しを聞いてくれる相手がいる場合はぜひ「実演」してみてください。
「ここはもっと溜めた方がよさそうだ」、「聞き手も盛り上がっていたあのシーンはこれくらいオーバーに話してもよいんだな」と気づけます。
できれば試験の条件と同じ3歳児クラスの子ども達の前で練習できると良いのですが、なかなか難しいものです。
家族や友人でも構わないのでぜひ協力してもらいましょう。
相手の反応が何よりのフィードバックになります。
いよいよ本番! 「言語表現」試験の流れ
実際に受けた試験の様子を紹介しますので、少しでも試験のイメージが湧いたら幸いです。
※実施回・試験会場によって、詳細は異なる場合がありますのでご了承ください。
入室~試験まではあっという間、リラックスしてやり切ろう!
午前中に「造形表現」が一斉に実施されます。「言語表現」と「音楽表現」は個別の実技になるので、順番を待ちましょう。
「言語表現」の実技前は広めの控室に集合し、順序が近づくと試験官のいる部屋の前まで呼び出されます。
部屋の前には3~5人の人が順番を待っています。
自分の番が来たら、入室します。
入り口近くに荷物置き場が用意されているので荷物をおき、所定の位置に座ります。
室内は試験官が二人、試験官と受験者との間に「子どもの絵」が貼られた椅子が左右に1脚ずつありました。
実技が始まったら、この椅子周辺に目線を合わせるようにしましょう。
その後試験官から説明があり、合図とともにスタートします。
お話の題名を忘れずに言ってスタート。
教室内に時計があるとは限りません。
時計に頼らず、自分で3分の時間感覚をもっておくことが無難でしょう。
確かに実際の保育の場面を思い浮かべてみても、お話をしながら腕時計をチラチラと見るのは不自然ですね。
完璧じゃなくてOK!間違えても合格できる
完璧にこなす必要はありません。リラックスして臨みましょう。
噛んだり言い直したりしてしまっても、セリフが飛んで少しくらい間があいても、合格している人がほとんどです。
かわいい子ども達に話しかけるように、自信をもって明るく楽しい雰囲気で話を進めてくださいね。
「造形」対策はこちらから
編集者より
素話は保育士にとって基本のスキル。
これが上達すれば、読み聞かせやシアターなど保育士としてできることの幅も広がります。
緊張はしますが、自分もお話の世界を楽しむ気持ちを忘れずに、練習の成果を出せるとよいですね。
みなさまの合格を心より祈っております。
参考文献・サイト
- 一般社団法人全国保育士養成協議会「保育士試験を受ける方へ」(2019/10/18)
- 一般社団法人全国保育士養成協議会「令和元年保育士試験受験申請の手引き[後期用]」(2019/10/18)
- 工房しろうず 保育士試験 造形 対策講座「保育士実技試験(言語)身振り手振りってどの程度すればいいの?」(2019/10/18)