取材・インタビュー

保育に正解はない。だから「対話の力」を信じて歩み続ける~まちの保育園・こども園保育士さんインタビュー【後編】~

アイキャッチ_まちの保育園・こども園保育者インタビュー(後編)

子どものよりよい育ちを目指し、地域の人や施設をも巻き込んだ「まちぐるみの保育」を目指す「まちの保育園・こども園」ナチュラルスマイルジャパン株式会社)。

常に子どもを中心に「園をまち全体、ひいては社会をよりよいものにするための拠点としたい」という想いをもつ同園では、志を同じくする個性豊かな職員が、笑顔あふれる保育のなかでその理念を体現しています。

そんなまちの保育園・こども園で働く5人の保育者の皆さんにインタビューを行った今回。

後編では代々木上原園の園長先生にも加わっていただき、働きやすい環境づくりや、園の理念実現のために工夫していることなどについて、じっくりお話をうかがっていきます。

●インタビューの前編はこちらから

アイキャッチ_まちの保育園・こども園保育者インタビュー(前編)
こどもとおとなの「想い」が共鳴する保育~まちの保育園・こども園保育士さんインタビュー【前編】~「子ども主体のまちぐるみの保育」をコンセプトに、子どものよりよい育ちを目指すことはもちろん、園をまち全体、ひいては社会をよりよいものにす...
    *シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。

まちの保育園・こども園の保育を支える保育者たち

後半のインタビューの前に、今回お話を聞かせてくれた「まちの保育園 小竹向原・まちのこども園 代々木上原」の保育者の皆さんを、あらためてご紹介します!

【今回お話を聞かせてくれた保育者の皆さん(所属園/在籍歴)】

◆小林 恵子(こばやし けいこ)さん
まちの保育園 小竹向原/8年目

◆神 帆乃果(じん ほのか)さん
まちの保育園 小竹向原/1年目

◆井上 美帆(いのうえ みほ)さん
まちの保育園 小竹向原/7年目

◆山田 太一(やまだ たいち)さん
まちのこども園 代々木上原/2年目

◆古澤 瞳(ふるさわ ひとみ)さん
まちのこども園 代々木上原/3年目

まちの保育園・こども園の保育者さん▲左から小竹向原園の小林さん、神さん、井上さん、代々木上原園の山田さん、古澤さん。カメラに向けてくれる笑顔はキラキラと輝いて見えた

また、後半からはまちのこども園 代々木上原園の園長である福田 由紀子(ふくだ ゆきこ)先生にも、インタビューにご参加いただきます。

福田 由紀子先生▲まちのこども園 代々木上原園で園長を務める福田先生。多忙ななか、快く取材に応じてくれた

まずは、まちの保育園・こども園における職員同士のコミュニケーションや連携のとり方について、お話を聞かせていただきました

保育者の「対話」を通じて保育が生み出される

――前半のインタビューを通じて、年齢や経験年数といった「壁」を設けず、みなさんがお互いフランクにお話されていたのが印象的でした

小林 恵子さん(以下、小林):私達の園では、決められたことをやるのではなく、目の前の子どもと向き合って「どうすればいいか」を考えて組み立てていきます。

だから、職員同士の「対話」をとても大切にしているんです。

――まさにまちの保育園・こども園の理念で大切にされている「対話の力」を職員間でも重んじているのですね

小林:はい。ただ、その「対話」というのはお互いの意見をぶつけ合う対話ではなくて、あくまでも「相手の意見を否定しない」対話です。

出てきた意見をすべて書き出してみて、で、どうするか考えていく……。そうして保育を作りあげていくんです。

小林さん▲小竹向原園で働きはじめて8年目になるという小林さん。対話をしながら保育を組み立てていくことは、日々のやりがいになっているという

――意見をぶつけ合うのではなく、自分の想いも相手の想いもいったん「受け止める」というイメージでしょうか。意識していないとなかなか難しそうですね……

井上 美帆さん(以下、井上):否定しない対話って、対等な関係性が築けていないと難しいんですよ。

「この人には言いやすいけれど、この人には言いにくい」っていう状態になってしまうと、どうしても対話が限定的なものになってしまうし、たとえば新人の保育士さんが意見を言えずに、年長者の言うことを聞くだけになってしまうというように、「対話」そのものが成り立たなくなってしまうこともありますから……。

だから対話がしやすいように、小竹向原園では「フラットな関係性」も大切にしているんです。

先輩・後輩っていう立場の差は、正直あまり意識していないですね。上下関係の壁を取り払ってざっくばらんに交流するなかで、「対話」ができる関係性を築けるようにしています。

フラットな関係性を重んじると語る井上さん▲「歳が離れた職員にもあえて敬語なしで話してますよ」と笑顔で話す井上さん(写真右)。それもまた相手を尊重するがゆえの対応だ

――開園2年目の代々木上原園ではいかがでしょう……?

山田 太一さん(以下、山田):フラットな関係性は代々木上原園でも大切にされていますね。保育歴が長いからといって、上から目線で接してくる人はいないし、みんないろいろと教えてくれる。

ここでは子どもも大人も、役職者もそうでない職員も……みんなが「対等」な存在として尊重されているんですよ。

子どもも大人も対等と語ってくれた山田さん▲音楽の道から保育の世界へ飛び込んだという山田さん(写真右から2番目)。職員間の対等な関係性があるからこそ、得意分野を活かしてのびのびと働けるという

――なるほど。(福田園長に)園長と職員との関係性はいかがですか?

福田 由紀子園長(以下、福田園長):どの園でも、園長や先輩職員が「絶対にこうしなさい」というトップダウンの指示を出すことはありませんね。

「こうしたらもっとよくなるんじゃない?」というようなアドバイスはするけれど、それをどのように捉えるか、アドバイスに従うかどうかは職員に委ねています。

――なるほど、園長からのアプローチも単なる指示や命令ではなく、「私はこう思うけれど、あなたはどう思う?」というひとつの“対話”なのですね

福田園長:そうですね。お互いを尊重し、対話を通じていっしょに保育を組み立てていくからこそ、保育者が一人ひとりの個性を活かして活躍できる。単に上長や先輩職員からの指示を待つだけでなく、自分の考えを発信することができると思っています。

笑顔で話す福田園長▲職員がやりたいことに対し「もっとやっていいよ!」と後押しするという福田園長(写真右)。職員は「対等」な存在として見つめ、その意思を尊重している

福田園長:「対話」を日ごろから行うことのよさには、自分のことだけでなく周りにも目を配ることができるようになるということも挙げられますね。

たとえば、先日は子ども達のお世話に忙しくて事務作業ができずにいた1・2歳児クラスに、ヘルプとして4・5歳児クラスの職員が入ってくれて……。でも、私がそうしろと指示を出したわけではないんですよ。相手の状況を見て、自然と皆で助け合うという体制ができていた。……嬉しかったですね。

職場において「助け合う」というのは、一見当たりまえのことのように思えるけれど、それを実践するのってとても難しい。

代々木上原園は開園してまだ2年目ではありますが、職員同士互いを思いやり、対話をし、そして助け合う……そんな関係性がきちんと育まれているんだなと思います。

すべてを結びつける「対話」の力

――保育士1年目の神さんから見て、そんなまちの保育園・こども園の雰囲気はどうですか?

神 帆乃果さん(以下、神):正直、「1年目で、こんなに働きやすい園に入っちゃっていいのかな~?」って思ってます(笑)

一同(笑)

神:経験の浅さが理由で発言しにくい、ということはまったくありません。1年目の私も、きちんと自分の考えを発信できる。業務中だけじゃなくて、休憩中でも気さくに対話ができるようなフラットなかかわりができる……。

そんな環境のなかで保育ができるのは、すごく幸せなことだと思います。

笑顔の神さん▲小竹向原園に実習に来たことがきっかけで保育士になったという神さん。職員一人ひとりの個性が活きた職場に魅力を感じたという

神:大人同士の関係性の良し悪しって、かならず子ども達にも伝わると思うんですよ。やっぱり、保育者の心に余裕があってはじめて、目の前の子どもに対しても余裕のある対応ができるものだから……。

よりよい保育を目指すために、子ども一人ひとりに向き合って「対話」を大切にしているのはもちろんですが、対話をすることで保育者同士の風通しがよくなる。そしてそれが保育者の心にゆとりを生み出し、子どもとの向き合い方にもよい影響を与える……全部つながっているんだと思います。

去っていった人の足跡にも意味がある

――人間関係で悩む保育士も多いと言われるなか、対等な関係性のもとで「対話」ができる環境というのは貴重ですね。フラットな関係性を大切にしようという方針は、職員同士で話しあって決めたものなのでしょうか?

小林:……というよりは、自然とその想いに共感できる人が、今の園に残っている……という感じですかね。

井上:もちろん、これまでには辞めていった職員もたくさんいますよ……。

小林:うんうん。でも、去っていった人達もまた、今の園の文化を築き上げてくれた存在。その足跡があってこその「まちの保育園 小竹向原」なんです。

いままでここで働いてきた人の存在、その人達が実践してきた保育……その一つひとつにちゃんと意味がある。私達はそう思っていますね。

井上:そう、残してもらった足跡があるからこそ、それに対しても「対話」をする。そうすることで保育をよりよいものにしていけるんですよ。

「いままではこうしていたけれど、今目の前にいる子ども達に対して適切な保育になっているのかな……」

そんなふうに考えて保育をアップデートしていけるのは、やっぱりこれまで多くの保育者がいろいろな想いを持って、まちの保育園 小竹向原の保育にかかわってきたからだと思います。

井上さん横顔▲先人の残してくれた足跡を尊重しながらも、それをもとに保育を前向きに更新していく……「それが小竹向原園のやりかた」と話してくれた井上さん

ゲンバをわかってくれる代表の存在

――まさにまちの保育園・こども園の共通理念である「一人ひとりの存在そのものを喜び互いが育み合うコミュニティを創造する」ということを、体現している皆さんですが、理念の実現をするために欠かせないものはなんだと思いますか?

井上:ひとつには「人が充実している」ということですね。

保育士ってもちろん子どもと向き合うことが仕事なんですけど、それ以外に事務的な仕事もあるし、基準配置の人数ギリギリではどうしても「時間が足りない!」という状態に陥りがちだと思います。

でもまちの保育園・こども園の場合、代表の松本 理寿輝(まつもと りずき)さんが、現場の保育士の仕事をちゃんと理解してくれて、人材という部分にきちんと予算を割いてくれている。だからある程度ゆとりのある人員配置のなかで働くことができるんです。

十分に職員がいれば、有給休暇を取得してリフレッシュしたり、うまく業務を分担して子ども達に向き合ったり、よりよい保育に向けて職員同士で「対話」の時間を設けたりできますから……。やっぱり「職員が充実していること」は欠かせない要素だと思います。

小林:私達の園の場合は、理寿輝さんが「保育士自身が心身ともに充実していることが不可欠」という考えを持ってくれていますからね。

代表と園長との間に運営に対する方向性のギャップがあって、それがもとで現場の先生達が大変になってしまう……ということもほかの園ではあるかもしれませんが、理寿輝さんの場合にはきちんと現場に目を向けて、第一線で働く保育者のことを考えてくれる。

そして園長先生方も、私達の声をきちんと聞いてくれて、園をまとめ、まちの保育を保育者と代表といっしょに作ってくれている。

それもまた理念を共通のものにして皆で実現していくうえでは、大きな要素のひとつだと思います。

――代表の松本さんと現場の保育者とが直接話をする機会もあるのですか?

小林:理寿輝さんは各園に定期的に来ていて、保育への想いについて直接話を聞くこともできるし、私達の想いを伝えることもできます。

古澤 瞳さん(以下、古澤):私は代々木上原園の開園当初からいますが、本当に代表との距離が近いなと思いますね。きさくに話しかけてくれるし、私達も気軽に話しかけることができます。

井上:よく「理寿輝さん!子ども達、こんなことができるようになったんですよ!」なんて話をして成長を喜び合うんですよ。

距離感がとても近いから、子ども達も親しみを込めて「りずきさん」って呼ぶし、私達もまた同じ。皆、社長でも代表でもなく、「理寿輝さん」って呼んでいますね。

――お話を聞いているだけでも、風通しのよさが伝わってきますね

福田園長:職員全員が代表と直接話ができる、というのはかなり珍しいんじゃないかと思いますね。

いまではまちの保育園・こども園も5園になりましたが、理寿輝さん、園が増えて忙しくなっても「現場にもっと顔を出さなくちゃ……!」って言っているくらいなんですよ。

――なるほど、現場で働く職員とのコミュニケーションを大切にする……ここでもやはり「対話」が重視されているのですね

福田園長:そうですね。理寿輝さんは、園でなにか問題があってもまず「大丈夫です!」と言ってくれる人。職員一人ひとりときちんと対話をしているからこそ、現場の私達を信じて任せてくれている……そう感じています。

井上:やっぱりその存在は大きいですね。理寿輝さんの信じていることを、私達も信じているから……。迷った時の確固たる「軸」になってくれています。

保育に正解はないから、学び、対話し続けたい

――代表・園長・保育者……それぞれが互いを尊重しながら良好な関係を築いていることがよくわかりました。最後に、そんなまちの保育園・こども園で、これから保育者としてどのように活躍していきたいか、代々木上原園の古澤さんと小竹向原園の小林さんのお二人にうかがいます

古澤:私は、まちの保育園・こども園は「勉強できる場所」だと思っています。

ここでは子ども一人ひとりの声に耳を傾けることができる。きちんと向き合うことができる。そんな保育のなかで、子どもの持つ力から学ぶことが多くあります。

まちのこども園 代々木上原に来て、私は「もっと子どものことを学びたい!」と思うようになりました。今では他園に勉強に行ったり、研修を受けさせてもらったり……充実した日々を送っています。

「これからもまだまだ多くのことを学んでいきたい」そんな気持ちになれたのは、この園だからなんですよね。

学びのおもしろみを知ることなく、保育の世界から去っていってしまう保育者もたくさんいるなかで、それってとてもラッキーなことで、幸せなことだと思うんです。だから、これからも前向きな気持ちで保育に向き合っていきたいですね。

笑顔の古澤さん▲「学びを通じて感じたことや得られたことはとても多い」と生き生きとした表情で話してくれた古澤さん。

小林:まちの保育園・こども園における保育のおもしろみは、誰かが確立した保育を子どもに押し付けるのではなく、職員同士対話を繰り返して、イチから保育を創りあげていくこと。私は8年間小竹向原で保育をしてきて、そう思っています。

保育に正解はありません。私達の今のやり方に対してだって「それは違うんじゃない?」と思う先生だっていると思います。

だから、今までもこれからも疑問を抱くたびに、そこから目をそむけずにきちんと向き合って、話し合っていきたい。きちんと「対話」をしていきたいなと思いますね。

それが私にとってのやりがいにもなりますし、子ども達にとってのよりよい保育にもつながっていくはずですから。

5人の保育者さん▲和やかな雰囲気ながらも、熱い思いを語ってくれた5人の保育者さん。これからもまちの保育園・こども園を支え、子ども達の育ちを見守っていくのだろう

編集者より


今回のインタビューで驚いたのは、保育者の皆さんが、これまでに園を辞めてしまった職員に対しても、「今の園を築いてくれた存在」として、敬意を持って話してくれたこと。

先人が築き上げてくれたものを「足跡」と呼ぶ彼女らの言葉には、どこか古い友人を懐かしむような親しみやあたたかみを感じました。

子どもの存在を中心に置き、子どもの持つ力やコミュニティの力、そして対話の力を重んじた「まちぐるみの保育」を行うまちの保育園・こども園。

その理念の根っこには、代表、園長、職員、子ども……そんな立場や年齢の差にかかわらず「人」をどこまでも大切に思う、そんなまっすぐな想いがあるのだと感じた取材でした。

彼女たちの保育に対する想い、子ども達に対する想いは、きっと今日も子ども達の心にかけがえのない思い出と学びを与えていることでしょう。

今回取材にご協力いただいたまちの保育園・こども園の皆さん、ありがとうございました!

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