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無藤隆先生・大豆生田啓友先生登壇「変化する保育のあり方、これから選ばれる保育園とは?」~少子化の現在と「保育の質」~【講演会レポート・前編】

2019年10月9日(水)、ユニファ株式会社主催「少子化・人口減時代に考える、変化する保育のあり方とこれから選ばれる・選ぶべき保育園とは? 『スマート保育環境整備』に向けた有識者による講演会」が開催されました(於:フクラシア丸の内オアゾ)。

10月1日には幼児教育・保育無償化が開始され、2019年の出生率は90万人を割るとの見こみが立つなど、日本の子ども、家庭、そして保育を取り巻く環境はめまぐるしく変化が起きています。

そのような今、日本の保育の現場はどのようなことが起きているのでしょう。
保育の現場で働く人は、何をするべきなのでしょう。

今回は無藤隆先生(白梅学園大学大学院特任教授)や大豆生田啓友先生(玉川大学教授)に加え、南順子さん(内閣府 子ども・子育て本部 少子化対策担当 参事官)、永田哲也さん(株式会社パパスマイル 代表取締役)、土岐泰之さん(ユニファ株式会社 代表取締役)が登壇。

それぞれの分野をこえて「よりよい保育のためにはどうしたらよいか」が話し合われた貴重な講演会の様子を、前・後編でレポートします。

無藤隆先生・大豆生田啓友先生登壇「変化する保育のあり方、これから選ばれる保育園とは?」~モノを活かしたスマート保育園~【講演会レポート・後編】2019年10月9日(水)、ユニファ株式会社主催「少子化・人口減時代に考える、変化する保育のあり方とこれから選ばれる・選ぶべき保育園とは...

「静かなる有事」と言われる少子化、国は何をしてきたか

▲内閣府子ども・子育て本部 少子化対策担当 参事官 南順子さん

南順子さん(以下、南):日本の女性が生涯で出産する子どもの数は今や1.42人
日本の少子化は「静かなる有事」と言われるほど危機的状況にあります。

10月から始まった「幼児教育・保育の無償化」も「子育てや教育における支出への不安」をもつ子育て家庭の悩みを解消し、「子どもが欲しいと思う全ての人が子どもをもてる社会」の実現のため、急ピッチで様々な対策を進めてきました。

「子育て安心プラン」、そして2兆円の支出へ

南:2017年発表の「子育て安心プラン」は6つのパッケージがあり、保育現場で働く人にも大きく関わってきます。

「子育て安心プラン」
① 保育の受け皿の拡大
②保育の受け皿拡大を支える「保育人材確保」
③保護者への「寄り添う支援」の普及促進
④保育の受け皿拡大と車の両輪の「保育の質の確保」
⑤持続可能な保育制度の確立
⑥保育と連携した「働き方改革」

②の「保育人材の確保」では、保育補助者の育成や業務負担軽減の支援についても触れられています。

それに続き、「新しい経済政策パッケージ」では、子育て・教育分野に2兆円規模の資産を投入することも決められました。

また、5年に一度行われる「少子化社会対策大綱」は2019年中に第四次大綱が検討される予定です。

まだまだ父親の育児参加も足りない


南:対策の進展していない分野の一つが「父親の育児参加」でした。
父親の育児休暇取得率は国としては2020年までに80%を目指していましたが、現実として10%にも満たない状況です(2019年10月現在)。

父親が育児参加することで「ワンオペ育児」を脱け出すことが、特に子どもの乳幼児期においては重要です。
さんきゅうぱぱプロジェクト」の立ち上げなど今後も啓発にも力を入れていきます。

「人にしかできないことを」、国としても技術活用に期待

▲「誰もが子育てに前向きになれる」社会を目指して

南:2018年からは官民が合同の「子育て応援コンソーシアム」が発足しています。
直近の開催では、企業の育休推進施策や、技術によって育児の負担を軽減する「ベビーテック」について意見が交わされました。

人口減少の時代、育児における負担はテクノロジーで解決できる部分も大きく、期待をしています。
だからこそ国も「人間でなければできないところ」に目を向けて、誰もが子育てに前向きになれる社会づくりを産業界とも連携して進めていく使命があります。

※ベビーテックについては後編にて詳しく紹介します

「今は大きなピンチであると同時に大きなチャンスである」

▲手前から無藤隆先生、大豆生田啓友先生、土岐康之さん

内閣府の報告ののち、ユニファ株式会社代表取締役の土岐さんをファシリテータ―として、無藤先生・大豆生田先生による対談がありました。
実際に保育の現場に足を運び、また保育学生を指導し、日々研究に励んでいるお二人にとっては、現状はどのように目に映っているのでしょうか。

大豆生田先生は、この状況を「今は(保育業界の)大きなピンチであると同時に大きなチャンスである」ととらえているとのこと。

無藤先生も、麻生政権時代から提案されてきた幼保無償化が実現したこと、そして2兆円規模の資源が投入されることを踏まえて、「保育の重要性に社会の目が向けられ、実現したことは大きな前進だ」と言います。

一方で、「幼児教育・保育の無償化」にはいくつかの懸念もあります。

無償化の最大の懸念は「保育の質」がないがしろになること

▲白梅学園大学大学院特任教授 無藤隆先生

無藤隆先生(以下、無藤):待機児童問題は少子化によりいずれ解消されていきます。
そのような流れの中で、幼稚園は縮小やこども園への移行、また預かり保育の実施などが進むでしょう。
幼児教育を受けられる子どもは増え、義務教育に近しい形が実現していきます。

一方で、今回の無償化では質の低い保育の増加が最大の懸念として挙げられます。
国によるチェック体制も不十分であるというのが現状です。

保育の長時間化は保育士の負担増加にも

▲玉川大学教授 大豆生田啓友先生

大豆生田啓友先生(以下、大豆生田):今回の無償化では11時間の長時間保育が対象になりました。

現在保育士の求人倍率は全国で3.64倍。保育現場の感覚から言うともっと人手が足りていないように感じられます。
そのような中、長時間保育が増えると保育士にとっては負担が大きくなります
厚生労働省の「中間的な論点」でも、保育者の深刻な状況が指摘されています。
現場の保育士の負担が増えれば、保育の質も下がってしまうでしょう。

これまでの施策はあくまで「子育て」支援であり、「子どもやその次の世代がよりよく生きるには」という点が議論されていないことが問題です。

「子ども中心」で「保育の質」を高める


保育は「子ども中心」に考えるべきだ、と語るのは大豆生田先生。

そこで保育者の役割は「保育の質」の向上です。

「保育の質」を高める3つのレベル


無藤:まず、「保育の質」の定義はなんでしょうか?

保育の質をはかる指標は多様であり、一概に定義するのは難しいですが、共通していえることもあります。

「保育の質」を高める3つのレベル
①マニュアルをきちんと守り、安全な体制を作る
保育現場の重大事故の要因はマニュアル(国の基準)を無視していることにより起こる
②保育指針を学び、生かせるような体制づくり
保育の根本となすものであり、現場で定期的に学ぶ機会を設けるのがよい
③記録をとり、検証していくことで日々の保育を見直す
「記録、振り返り、実践」のサイクルを回しより良い保育を目指す

これに加えて行政によるチェックや第三者委員会の整備体制を敷くこと、さらに「質の高い保育」を実施している園には加算をするなど評価制度の整備を提言しています。

「構造の質」と「プロセスの質」


大豆生田:私は、「保育の質」には2種類あると考えています。
制度や配置基準など固定化されている「構造の質」と、毎日の振り返りとその積み重ねによって磨かれていく「プロセスの質」です。

前者はすぐに変化を起こすのは難しいので、保育現場にいる人はまずは「プロセスの質」を高めていくよう努力していくことが大事だと思います。

保育の根幹は手厚い「養護」「教育」です。
安心・安全な空間で応答的な関わりを子どもとすること、そして子どもの主体的な遊びを通して学びを引き出すことが重要です。

そのためには、実践事例を集めて蓄積することや、日々の振り返りを元にした自己評価のガイドラインを準備することが求められます。
おおげさに構える必要はなく、毎日10~15分の積み重ねで実現できます。

このような整備を進めていくことで、全国どの園でも高い「保育の質」が保障されるべきでしょう。

――質の高い保育のため「記録とふり返り」が重要であることが、お二人から指摘されました。
後編ではテクノロジーの力で「保育の質」を向上させる具体的な方法について紹介していきます。

主催会社、ユニファ株式会社の情報はこちらから
https://unifa-e.com/

ユニファが企画・運営を行う「ルクミー」の情報はこちらから
https://lookmee.jp/

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