保育の基礎知識

「小1プロブレム」とは?~保育者が知りたい対策・幼保小連携・保護者対応~

小1プロブレム」という言葉を知っていますか?
これは小学校だけでなく、保育の現場も真剣に考えるべき問題なのです。

この記事では「小1プロブレム」の基礎知識や保育現場でできる対策を事例を踏まえてお伝えします。
5歳児(年長)の担任の皆さんはもちろん、長い視野で「子どもたちの成長について知りたい!」と考えている保育・教育関係者の方はぜひ参考にしてくださいね。

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「小1プロブレム」とは?


まずは、「小1プロブレム」の定義について確認します。

第1学年の学級において、入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数か月にわたって継続する状態
引用:東京都教育委員会『小1問題・中1ギャップの予防・解決のための「教員加配に関わる効果検証」に関する調査の結果について』「第1学年児童の不適応状況」の定義 」
(※太字は編集部によるもの)

つまり、小学校にあがったばかりの子ども達の落ち着かなさが長いこと続いてしまう状態のことを言います。
入学してすぐは小学校の生活に慣れないこともあり、子ども達自身も不安や落ち着かないこともあるでしょうが、この状態が長期間続いてしまうことが問題となっています。

「小1プロブレム」が特に問題視されるようになったのは1990年代半ば頃から。
それ以前から「学級崩壊」は問題となっており、「小1プロブレム」はその一部だとみなすこともあります。
しかし、一度はまとまっていたクラスが崩壊していく「学級崩壊」とは異なり、「小1プロブレム」は入学当初からクラスが成り立っていないというのが大きな違いです。

次の項でその原因をみていきましょう。

「小1プロブレム」の原因~「家庭のしつけ」の問題だけではない~

「小1プロブレム」は「家庭のしつけ」に原因があると捉えている保育者も少なくはないようです。
しかし、「小1プロブレム」は保育施設と小学校とのギャップの大きさが根元にあり、さらに様々な要因が重なって起こると理解しておきましょう。

小1プロブレムの原因の一例

保育施設と小学校のギャップ:過ごし方、保育者・教員の経験不足や人員不足、他機関連携の欠如
家庭:生活リズム、子育ての方針
子ども自身:多様な人間関係構築の経験の少なさ、発達障害
社会環境:核家族化、地域コミュニティの希薄化

保育者は「家庭のしつけが悪い」「小学校の先生が指導力不足だ」と考えるのではなく、広い視野で就学後の子ども達の不安や戸惑いを減らしていくようにしたいものです。

ここでは特に保育者が知っておきたい「小1プロブレム」の原因についてとりあげます。

小学校での過ごし方とのギャップ(段差)


すでに説明した通り、「小学校での過ごし方とのギャップ(段差)」の大きさが「小1プロブレム」の主要な原因です。

小学校で起こる変化の例
・遊び中心から勉強(座学)中心になる
・時間割に沿ったスケジュールになる
・担任1人に対しての児童数が増える
・集団行動が増える
・子ども自身が自分で判断し動く場面が増える

これらのギャップを少しでも埋めるために、保育の現場でも「小学校との連携」が叫ばれるようになりました。
保育所保育指針」等でも配慮事項として「小学校との連携」が挙げられています。
(後ほど詳しく説明します)

小学校で求められる「自立」


上記の例の最後に挙げた「子ども自身が自分で判断し行動する場面」とは、たとえば保育園では「次は〇〇をしますよ」などと保育者が声がけを子ども達が行動する場面が多いでしょう。それが、小学校にあがると子ども自身が自分で時間割を確認し、次の教科に備えて準備をする……というような場面が増えます。

したがって幼児期から「自立」のためのトレーニングも必要となってきます。

「幼小接続における教育課程編成・指導計画作成上の留意点」
学びの基礎力の育成を図るため、幼児期(特に幼児期の終わり)から児童期(低 学年)にかけての教育においては、「三つの自立」(学びの自立、生活上の自立、精神的な自立)を養うことが必要である。
(中略)
「生活上の自立」…生活上必要な習慣や技能を身に付けて、身近な人々、社会及び自然と適切にかかわ り、自らよりよい生活を創り出していくこと。
引用:「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)

「小1プロブレム」では特に「生活の自立」が要になります。
また、「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」(10の姿)もよく読むようにしておきましょう。

5領域・10の姿・3つの柱
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発達障害や子どもの特性


「発達障害児の存在が小1プロブレムの原因である」と決めつけることは危険ですが、発達障害や特性のある子ども達にとって小学校進学は大きなハードルと言えます。

保育者は発達障害や「気になる子」について理解し、見きわめ、対処、計画策定を進めていきましょう。
気づいたことを職員間で共有し、家庭や学校と連携をとることも重要です。

発達障害についての基礎知識はこちらから。

アイキャッチ_水野智美先生①
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ここからは、発達障害の行動特性の一例をみてみましょう。

先生の話を座って聞く時間でも立ち上がってフラフラする


注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴の一部には「じっとしていられない」「様々なことに興味がいく」「集団で同じことを行う意識が低い」「見通しの立たなさへの大きな不安」などがあります。
そのため、静かに椅子に座って話を聞くことが難しく、立ち上がって教室内をうろつくことに繋がります。

そのような困り感をなくすために、保育者は子どもに見通しを知らせたり、一定時間目をつぶる集中力トレーニングをしてもらうなどが保育施設でもできるでしょう。

集団行動ができない


自閉症スペクトラム(ASD)の特徴の一部には「相手の気持ちを理解しづらい」「一人での行動を好み、友達の輪にうまく入れない」「場の状況判断が困難」などが挙げられます。
そのため、集団行動の際に一人違うことをしてしまったり、友達を傷つけるような発言をしたり、集団から浮いたりしてしまうこともあります。

保育者は大人や玩具を介したりして少しずつ友達の輪を広げていったり、気持ちを絵のカードにして伝えたりといった配慮ができると良いでしょう。

アイキャッチ_自閉症周防ペクトラム対応法
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「小1プロブレム」の対策~保育施設でできること~


「小1プロブレム」は小学校側だけの問題ではありません。
子ども達の就学を見据えて、保育施設から少しずつ子ども達の自立する力を養い就学に向けて慣らしていくことが大切です。
そのためには、幼児期にふさわしい日々の保育を充実させていくこと、そして小学校や家庭などと協力して環境を整えていくことが必要です。

これらは何より子ども達の不安を軽減し、安心感や自信をもって学校生活を送れることにつながります。

それではいよいよ、「小1プロブレム」対策として保育施設が取り組みたいことを具体的に紹介していきます。

小学校への「なめらかな接続」のための保育活動

ランドセル
デンマークでは小学校にあがる前の年を「0学年」として義務教育化しています。0学年では、生活規範や教科学習の基礎を子ども達が学び、スムーズな小学校生活への移行の助けになります。

制度上、日本でこれを完全に真似ることは難しいですが、特に年長クラスでは「小学校の準備期間」というつもりで日々の保育も計画していきましょう。
国立教育政策研究所の「スタートカリキュラム」も参考にすると良いでしょう。

その際に意識したいことは、一人ひとりの育ちを踏まえた上で5領域(表現・言葉・人間関係・環境・健康)と小学校の教科や生活を結び付けた保育実践です。
この教科は5教科だけでなく道徳・生活・体育・音楽なども関わってきます。

意気込みすぎる必要はありません。普段の保育でも自然に取り入れられる実践方法を紹介します。

実践①:数と形あそび


保育者が前に立ち、子ども達は画用紙とクレヨンを用意します。
保育者は「△(さんかく)が2つで何に見えるかな」「〇が3つで何にみえるかな」がその数と形が書かれた紙を見せながら問いかけていきます。
子ども達は想像を膨らませながら、絵を描いていきます。

楽しみながら数や形の概念が身につき(算数)、表現する力を養えますね(図工)。

実践②:小学校カルタ


オリジナルのカルタを作って、チーム戦をします。
たとえば「ひ」なら「広い運動場で 休み時間は 鬼ごっこしよう」など学校生活がわかるような内容にしましょう。
ひらがなに触れるなどの国語の勉強になるだけでなく、小学校へのイメージを子ども達がもつことができます。

こちらの本では40の実践例だけでなく、CD‐ROMに様々な教材が入っています。
学校カルタもあるので、時間がない先生はぜひ活用してみてください。

小学校との連携


次に小学校との連携です。ここでは人と情報の連携が特に重要です。

「人同士の交流」は保育者と小学校の先生の連携だけでなく、園児と小学生の交流もあると望ましいですね。
たとえば、小学1年生と5歳児がペアやグループになって学校内の探検に行かせてもらったり、園の運動会に近所の小学生が参加できるプログラムを設けて招待したり……。
「小学校にはやさしいお兄さん、お姉さんがいるんだな」と子ども達も安心し、楽しみになるでしょう。

そして、「指導要録・保育要録」も忘れてはなりません。
子ども達の成長を記録し、小学校へ送付します。
小学校の先生はこの資料を元に、子どもへの接し方を考えます。
ここには育ちの過程--「こんなことができるうようになった/できるようになりつつある」と成長のポジティブな側面配慮してほしいことを記入しましょう。

書き方に悩んだらこちらも参考にしてみてください。

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家庭との連携

連絡帳
小学校入学が不安なのは子どもだけでなく、実は保護者も同じ。
もしも小学校の不安を相談されたら、じっくりと話を聞きましょう。

そのためにも、大切なのは日々のコミュニケーションです。
こまめに連絡帳や口頭で、子どもの様子を伝えることで、保護者も小学校での子どもの様子をイメージできるでしょう。

また、保育者が子どもの様子をみて「気になるな」と感じた時は、職員間で相談をし、「いつ、誰が、どのように」伝えるかを考えていきましょう。

園だけで解決しようとせず、時として、地域の教育委員会や療育センター、役所の児童課や児童相談所などとも連携していくことも重要です。

編集者より


「小1プログレム」において、子ども達は荒れたくて荒れるのではなく、慣れない学校生活での困り感や不安からそうせざるをえない状態になっているのです。

子ども達に楽しい学校生活を送ってもらう為にも、小1プロブレムを理解し、周りを巻き込んでより良い保育をしていきましょう。

参考文献・サイト

  • 文部科学省「 幼児期の教育と小学校教育の接続について」(2019/11/11)
  • 東京学芸大学「小1プロブレム」研究推進プロジェクト「研究成果発表」(2019/11/11)
  • 文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター「スタートカリキュラムの編成の仕方・進め方が分かる スタートカリキュラムスタートブック」(2019/11/11)
  • 社会福祉法人日本保育協会「 保小連携に関する調査研究報告書」(2019/11/11)
  • 古屋喜美(2012)「デンマークの保育 ・教育からの学び- 保育 ・教育システムと森の幼稚園」『神奈川大学心理・教育研究論集』31:5-15
  • 長谷部比呂美(2004)「保育者をめざす学生の幼保小連携に関する意識 :「小1プロブレム」の背景要因についての自由記述から」『お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要』 (1), 43-52
  •  板倉憲政・三谷聖也・渡辺瑞紀(2016)「幼稚園教員を対象にした小1プロブレムへの対応に関する基礎調査」『岐阜大学教育学部 教師教育研究』12:63-71.
  • 無藤隆(2009)「幼小連携の充実に向けて現場が取り組むべきこと」『これからの幼児教育を考える 2009春号』ベネッセ次世代育成研究所
  • 三浦光哉(2013)『小1プロブレムを防ぐ保育活動 実践編』クリエイツかもがわ
  • 三浦光哉・井上孝之(2013)『小1プロブレムを防ぐ保育活動 理論編』クリエイツかもがわ
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