保育士として再就職や転職を考えている方にとって、雇用保険制度の一つである再就職手当は重要な制度です。生活を安定させ、新たな職場での新生活をスムーズにスタートさせるための大きな助けとなります。
ただし、受給条件を満たしていないと支給されないため注意が必要です。
本記事では、多くの方が気になる再就職手当の基本的な疑問について解説していきます。記事を読めば、再就職手当の申請資格や必要書類、申請のタイミング、支給までの流れなどが分かります。
再就職手当を最大限活用するためのポイントや注意点についても詳しく説明するので、これから保育士として新たなスタートを切る方は参考にしてみてください。
【この記事でわかること】
- 再就職手当の申請資格や必要書類、申請のタイミング、支給までの流れ
- 再就職手当の対象者や金額、手続きの流れ
- 再就職手当を最大限活用するためのポイントや注意点
もくじ
再就職手当をもらえるのはいつ?
再就職手当は、申請をして審査に通過し、支給されます。支給されるまでに1~2カ月程度かかるといわれています。
申請しても手続きに時間がかかるため、すぐには振り込まれません。提出書類に不備があると審査が遅れる可能性があるので、申請前に全ての書類を慎重にチェックしながら作業を進めることをおすすめします。
再就職手当とは?
再就職手当は、失業給付(雇用保険の基本手当)をもらう資格がある人が、当初予定されていた期間よりも早く仕事を見つけた場合に支給される給付金です。
支給される金額は失業給付の残日数によって決定されます。早く再就職すればするほど、より多くの手当を受け取れる仕組みです。
※参考:厚生労働省.「再就職手当のご案内」.https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001129215.pdf ,(参照 2025-03-14).
対象者
再就職手当の対象者は、以下の8つの条件に当てはまる人です。
- 受給手続き後、7日間の待期期間を経て就職または事業を開始した
- 就職日前日までの失業認定を受け、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある
- 離職した前の事業主(関連している事業も含む)に就職していない
- 給付制限を受けている場合は、最初の1カ月間はハローワークまたは職業紹介事業者の紹介により就職した
- 雇用される期間が1年を超えることが確実である
- 雇用保険の被保険者になっている
- 過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当を受けていない
- 受給資格決定前から決まっていた就職ではない
保育士の場合でも、上記の条件を満たしていれば、他の職種と同様に再就職手当の受給が可能です。職種を問わず、条件を満たす全ての方が利用できる制度となっているため、保育士として再就職される方も安心して申請できます。
金額
再就職手当の金額は「基本手当日額 × 所定給付日数の残り数 × 支給率(60%または70%)」の計算式で求められます。以下の項目は年齢や勤続年数などで変動します。
- 所定給付日数:雇用保険の失業給付(基本手当)を受給できる日数
- 基本手当日額:失業手当の1日当たりの支給額
- 支給率
基本手当日額は年齢によって以下の上限があるので、注意してください(基本手当の上限額は、毎年8月1日に変更となる場合あり)。以下は2025年7月31日までの金額です。
- 離職時60歳未満:6,395円
- 離職時60歳以上65歳未満:5,170円
支給率は就職が決まった後の残りの給付日数で変動するので、該当する数値で計算しましょう。
- 残りの給付日数が規定日数の3分の1以上の場合:残り日数の60%分
- 残りの給付日数が規定日数の3分の2以上の場合:残り日数の70%分
再就職手当の金額を計算したい場合は、以下の表を参考に算出してみてください。
所定給付日数 | 支給残日数 | |
支給率60%以上 | 支給率70%以上 | |
90日 | 30日以上 | 60日以上 |
120日 | 40日以上 | 80日以上 |
150日 | 50日以上 | 100日以上 |
180日 | 60日以上 | 120日以上 |
210日 | 70日以上 | 140日以上 |
240日 | 80日以上 | 160日以上 |
270日 | 90日以上 | 180日以上 |
300日 | 100日以上 | 200日以上 |
330日 | 110日以上 | 220日以上 |
360日 | 120日以上 | 240日以上 |
保育士Aさんの場合
保育士Aさんが以下の条件で再就職手当を受け取る場合の、具体的な計算方法を詳しく見ていきましょう。
- 保育士A(対象者)
- 26歳(年齢)
- 所定給付日数90日(雇用保険の受給可能日数)
基本手当日額が4,000円、残日数が60日あった場合で計算すると、以下の通りです。基本手当日額は、離職前の賃金日額に基づいて算出されます。
なお、所定給付日数に対して基本手当の残日数が60日(3分の2以上)なので、支給率は70%になります。
【計算式例】基本手当日額4,000円×残日数60日×支給率70%=再就職手当支給額168,000円
よって、168,000円が保育士Aさんに支給される再就職手当の金額です。
再就職手当を受け取るまでの流れ
ここからは、再就職手当の申請から受給までの詳しい手順を解説します。手続きの参考にしてみてください。
1.失業給付の受給資格を取得
2.待期期間満了
3.再就職先が決定
4.必要書類をハローワークに提出
5.審査後、支給決定通知を受け取る
6.振り込み
失業給付の資格を取得するには、ハローワークを訪問して雇用保険被保険者離職票を提出して手続きする必要があります。
再就職先が見つかったら、必ず受給要件に沿っているかを確認してください。受給要件に該当しないと、再就職手当をもらえません。
再就職手当がもらえないケース
特定の状況では、申請しても支給対象外となることがあるので、事前に確認しておくことが重要です。ここでは、再就職手当の支給対象とならない一般的なケースについて詳しく見ていきましょう。
支給残日数が3分の1未満の場合
失業給付の受給残日数が一定以下になってしまうと、せっかく就職が決まっても再就職手当の支給対象外となってしまいます。
そのため、ハローワークで残日数を事前によく確認し、再就職手当の受給要件を満たせるように就職活動を進めることが重要です。
再就職先で1年を超えて雇用される見込みがない場合
短期のアルバイトや契約期間が1年以下の場合は、原則として再就職手当の対象外です。ただし、特別な事情がある場合は個別に検討される可能性があります。
有期契約であっても、更新の可能性が高く、継続的な雇用が見込まれる場合には、前向きに考慮されることがあります。その際は過去の契約更新の実績や、雇用主からの継続雇用の意思確認が必要です。
保育士の場合は正社員以外にも、パートや契約社員、派遣社員など多様な雇用形態があります。雇用形態によって適用条件が異なるため、事前に詳細な確認が必要です。
保育施設の種類や規模によっても条件が変わることがあるので、慎重に確認をしましょう。
離職前と同じ会社に再就職した場合
原則として、同じ企業グループ内での再就職を行った場合は、給付金の支給対象とはなりません。これは、実質的な継続雇用と見なされるためです。
ただし、個別の状況に応じて判断される場合もあるので、再就職先の企業との資本関係や取引関係状況などによっては例外的に支給対象となる可能性もあります。不明な点がある場合は、必ずハローワークや労働局に事前に確認してみてください。正確な情報に基づいて手続きを進めることが重要です。
支給決定されるまでに再就職先を退職した場合
支給が決定される前の時点で再就職先を退職した場合は、支給対象外となります。再就職手当を受け取りたい場合は、支給決定の手続きが完了する前の退職は避けましょう。
再就職手当と人材紹介会社などのお祝い金は異なる
お祝い金は、人材紹介会社が求職者に対して独自のサービスとして支給していた制度です。各企業が独自の基準と金額で設定し、支給していました。
一方で、再就職手当は雇用保険制度に基づく公的な給付金です。一定の条件を満たした失業者が早期に再就職を果たした場合に、ハローワークを通じて支給される制度となっています。
二つの制度の違いは、支給元と法的根拠です。お祝い金は民間企業による任意のサービスですが、再就職手当は国の制度として運営されています。
ただし、令和3年4月1日から施行された改正職業安定法により、求人企業以外の者が求職者に対して金銭などを提供することは禁止されました。現在、人材紹介会社によるお祝い金の支給は認められていません。
再就職手当を受け取るメリット
再就職手当を受け取るとさまざまなメリットがあります。経済的な支援が得られるだけではなく、新しい職場での生活をスムーズにスタートさせるための助けにもなります。ここでは、再就職手当の主なメリットについて詳しく紹介していきましょう。
収入を安定させられる
再就職手当によって再就職直後の生活費を補えることで、経済的な不安を軽減し、新しい仕事に集中できる環境を整えることが可能です。
また失業給付の金額は失業前の給与に比べて低く、再就職が決まらないと生活にゆとりを持ちにくいでしょう。そのため早期に再就職することで、金銭面に加えて精神面の不安も軽減できるでしょう。
非課税なので税金の心配がない
再就職手当は失業給付と同様に、所得税や住民税などの課税対象になりません。受給額がそのまま手元に残ります。税金に関する煩わしい手続きや、後からの追加納付などの心配も必要ありません。
ただし、社会保険における被扶養者の認定の際は、再就職手当も収入として算定対象に加算される点に留意が必要です。扶養の範囲内で収入を調整している方は、この点を事前に確認することをおすすめします。
再就職先を退職しても失業給付を受け取れる
前回の失業給付の受給期間内に再就職し、その後再び離職した場合でも、一定の条件を満たせば失業給付を受給できる可能性があります。この制度は受給期間延長と呼ばれ、求職者の生活保障を支援するものです。
ただし、前回の失業給付の受給期間や残りの給付日数、離職理由、雇用保険の被保険者期間などの条件によって受給の可否が判断されます。詳しくはハローワークでの確認が必要です。
再就職手当を受け取るデメリット
再就職手当を受け取れば一時的な収入を得られるメリットがありますが、デメリットもあります。デメリットを理解しておけば、より適切な判断ができます。
失業給付は打ち切りになる
再就職手当を受給した場合、それまでの失業給付が終了することを理解しておきましょう。
再就職手当と失業手当は制度上、同時に受け取れません。この点を十分に理解した上で、再就職手当の申請を検討してください。
再就職先の決定を焦ってしまう可能性がある
前述の通り早く就職が決まれば支給金額が多くなるため、十分な検討時間を取らずに焦って就職先を決めてしまう可能性があります。結果として自分の価値観や希望と合わない職場環境を選択してしまうリスクがあります。
早急な判断は、長期的なキャリア形成において望ましくない結果をもたらす可能性があるので注意しましょう。
特に保育士は、子どもたちの成長に関わる職種であるため、職場の理念や保育方針、労働時間や休暇制度などから慎重に職場環境を吟味する必要があります。
再就職手当のよくある質問
再就職手当に関するよくある質問を、分かりやすくまとめました。再就職手当を受給する際の参考にしてみてください。
失業手当と再就職手当どちらをもらう方が良い?
手当の金額面のみを単純に比較した場合、失業給付を満額受給する選択肢の方が大きいです。
しかしながら、満額受給にこだわり過ぎるとリスクがあります。例えば失業給付に依存した生活パターンが定着してしまい、その後の就職活動への意欲が低下する可能性が高いです。求人のタイミングを逃してしまい、就職のチャンスを失ってしまう恐れもあります。無職期間が長くなると、将来的なキャリア形成に支障を来すでしょう。
単なる目先の給付金額だけではなく、将来の就職可能性や長期的な収入の見通し、自身のキャリアプランという複数の要素を総合的に検討することが不可欠です。
また再就職をすると、手当だけではなく再就職先からの給与が手に入ります。失業手当の金額と、再就職手当に給与を加えた金額を比較すれば、再就職した方が経済的に安定するケースが多いでしょう。
ハローワークを使わず自分で就職先を見つけてもよい?
ハローワーク以外の民間の職業紹介事業者やインターネットサービスを通じても、失業給付の受給申請が可能です。
ただし失業給付を受給するためには、一定の条件を満たしていることが必要不可欠です。
具体的には、離職理由や被保険者期間などの基本的な要件を満たし、定期的な求職活動報告を行うなどの手続きを適切に進める必要があります。
正社員以外でも再就職手当をもらえる?
受給条件を満たしていれば、再就職先の雇用形態は問われません。正社員だけではなく、パートやアルバイト、契約社員などの再就職であっても、受給要件を満たしていれば再就職手当の対象となります。
再就職手当を受領した後すぐに退職したら返金?
基本的には再就職先で1年を超えて雇用される見込みがないと、再就職手当は支給されませんが、再就職手当を受け取ってから、すぐに退職しても返金を求められません。
再就職手当の手続きをしてもなかなか振り込まれない……なぜ?
再就職手当の申請から実際の振り込みまでは、前述の通り1~2カ月程度の処理期間がかかるといわれています。これは申請書類の確認や審査、支給決定などの必要な手続きを慎重に行うためです。
ただし、手続きの進行状況や書類の完成度、ハローワークの混雑状況などによっては、より早く振り込まれるケースもあります。申請時に必要書類が全てそろっており、内容に不備がない場合は比較的スムーズに進むことが多いです。
再就職手当の申請を忘れてしまったら?
再就職手当の申請は就職後1カ月以内に行う必要がありますが、何らかの事情で申請が遅れそうな場合は、事前にハローワークへ連絡を入れることが重要です。
期限を過ぎても申請を受け付けてもらえる可能性があります。ただし、連絡なく申請が遅れると、手当を受け取れなくなる可能性もあるので、できるだけ早めに相談しましょう。
まとめ
再就職手当は、保育士として再就職を考えている方にとって、経済的な後押しとなる制度です。条件を確認し、期限内に適切な申請を行うことで、よりスムーズな職場復帰が可能となります。
保育士として再就職を考える際は、再就職手当の支給のために焦って早急に決めることは避け、自分のライフスタイルやキャリアプランに合った職場を慎重に選ぶことが大切です。
働き方や職場の雰囲気、保育方針など、さまざまな要素を考慮しながら、じっくりと時間をかけて職場選びをしてください。
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監修者情報
礒部はるか
保育士資格・幼稚園教諭一種免許状を保有。大学卒業後、学童・児童館にて保育士として従事。その後、保育園にて乳幼児クラスを担当。現在は複数の保育メディアにてライター・編集者・監修者として活動。