待機児童問題とは、保育園に入りたいのに、入れない子どもたちが存在する社会問題です。共働き家庭が増え、女性が社会で活躍する今、保育へのニーズは高まっています。待機児童問題は、子育て世代の毎日に大きな影を落とすだけでなく、未来の社会を担う子どもたちの育ち、そして日本の少子化という課題にも深く関わっています。
本記事では、これからお子さんを保育園に預けたいと願う保護者や、この問題に関心を持つ保育士の皆様に向けて、待機児童問題の現状を分かりやすくお伝えし、その解決に向けた具体的な対策を探ります。
【この記事で分かること】
- 待機児童問題の概要と現状
- 待機児童問題の発生原因
- 待機児童問題への対策方法
- 保育士向けの待機児童問題解消施策
待機児童問題とは

待機児童とは、保育の必要性がある子どものうち、保育施設への入所申し込みを行っているにもかかわらず、利用ができていない未就学児のことを指します。
近年、女性の社会進出や核家族化の進展による共働き世帯の増加、保育士不足や施設の収容能力の限界といった要因を背景に、待機児童の人数が徐々に増加傾向にあります。特に都市部では、人口の多さに保育施設の数が追い付かず、待機児童数が多くなっています。
待機児童問題の現状
2024年4月の待機児童数は2,567人となっており、2017年4月時点での過去最多となる26,081人から大幅な減少を示しています。これは、政府によるさまざまな取り組みの成果と考えられます。
近年では待機児童解消加速化プランや子育て安心プラン、新子育て安心プランが順次実施され、保育所の増設や保育士の処遇改善などが進められてきました。これらの取り組みにより、保育の受け皿は着実に拡大しています。
しかし、この統計には育児休業中で復職に向けて保育サービスの利用を検討しているものの、現時点では申し込みをしていないケースや、求職活動のため一時的に保育サービスの利用を控えているケースは含まれていません。また特定の保育施設のみを希望しており、空きがないために待機状態となっている児童も、自治体によっては統計に含まれない場合があります。そのため、潜在的な保育ニーズを含めると、実際の保育サービスを必要とする児童数は、統計の数字を大幅に上回っている可能性が高いと考えられます。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
近年、待機児童数が減少していますが、これは子育て支援の取り組みを含む保育の受け皿の拡大のほか、少子化で子どもの数が減っていることも理由として挙げられます。またコロナ禍以降、テレワークが普及したことで保育園の利用申請数が減っていることも考えられます。ただ、昨今はオフィス回帰の企業が増えており、共働き家庭も依然として増えると予想されるため、今後も保育のニーズは増えると見込まれます。
※参考:こども家庭庁.「令和6年4月の待機児童数調査のポイント」.
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4ddf7d00-3f9a-4435-93a4-8e6c204db16c/490e7d02/20240830_policies_hoiku_torimatome_r6_06.pdf ,(参照 2025-03-28).
年齢別にみる待機児童
2024年4月1日時点の待機児童数を年齢別に分析すると、3歳未満児が全体の91.1%という大きな割合を占めています。特に注目すべき点は、1歳児および2歳児の待機児童数が2,178人(全体の84.8%)と、非常に高い数値を示していることです。
この背景には、現行の育児・介護休業法の規定が大きく関係しています。育児・介護休業法では、原則として育児休業期間は子どもが1歳に到達する日の前日までと定められています。そのため、多くの保護者が子どもの1歳の誕生日を機に職場復帰を計画し、それに伴って保育施設の利用を希望するケースが増加していることが、この年齢層における待機児童の要因の一つです。
※参考:こども家庭庁.「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」.
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4ddf7d00-3f9a-4435-93a4-8e6c204db16c/82ad22fe/20240829_policies_hoiku_torimatome_r6_02.pdf ,(参照 2025-03-28).
地域別にみる待機児童
2024年4月1日時点の首都圏や近畿圏の7都府県と、その他の指定都市・中核市における待機児童の状況を分析すると、待機児童数は全国全体の60.8%を占めており、都市部に集中している傾向にあります。
待機児童数の多い都道府県ランキングは、以下の通りです。
ランキング | 都道府県名 | 待機児童数 |
第1位 | 東京都 | 346人 |
第2位 | 沖縄県 | 338人 |
第3位 | 埼玉県 | 217人 |
第4位 | 神奈川県 | 170人 |
第5位 | 滋賀県 | 169人 |
しかし待機児童率をみると、以下の通り比率としては地域間で著しい格差はみられません。
待機児童率 | |
7都府県・指定都市・中核市 | 0.09% |
その他の道県 | 0.10% |
待機児童の問題は都市部・地方を問わず、全国的な課題となっています。
※参考:こども家庭庁.「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」.
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4ddf7d00-3f9a-4435-93a4-8e6c204db16c/82ad22fe/20240829_policies_hoiku_torimatome_r6_02.pdf ,(参照 2025-03-28).
待機児童問題の発生原因

待機児童問題は、現代の日本社会が直面する重要な課題の一つです。以下では、深刻な社会問題の背景にある主な要因について詳しく解説していきます。さまざまな観点から発生原因を理解しましょう。
<待機児童問題の発生原因>
- 経済不況と共働き世帯・核家族の増加
- 保育士の不足
- 保育施設の不足
経済不況と共働き世帯・核家族の増加
待機児童問題には、経済不況や共働き、核家族の増加が大きく影響しているといえます。
近年、社会構造の大きな変化や長期的な経済不況の影響を受けて、従来多かった専業主婦世帯から共働き世帯へと大きくシフトしてきました。出産後も保育施設を利用しながら子育てと仕事を両立する女性が増加している傾向にあります。
また核家族化の増加により、以前のように祖父母による育児支援を得られる機会も減少しているため、保育施設の利用ニーズがさらに高まっている状況です。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
総務省統計局の「労働力調査」によると、2024年の共働き世帯数は1,300万世帯で、前年の1,278万世帯から22万世帯増加したことが明らかになりました。共働き家庭が増加している理由には、労働意識の変化に伴う女性の社会進出のほか、物価の高騰や世帯の平均所得の減少なども挙げられます。このような社会背景もあり、家計のために共働きを選ぶ家庭は今後も増えていくことが予想されます。
保育士の不足
保育士の数が保育現場での需要に追いついておらず、特に都市部では深刻な人材不足が続いている状況です。
一方で、地方から都市部へ若者が転出してしまう人口流出の影響により、地方の保育施設でも必要な保育士を確保できないケースが増加しており、地域の子育て支援体制に影響を及ぼしています。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
保育士不足は依然として深刻な状況です。政府の対策により、保育の受け皿は拡大しているものの、現場では人員不足による業務過多、 保育士一人当たりの負担の増加が深刻化しています。特に、子ども一人ひとりへと丁寧に関わりたいという思いと、目の前の業務をこなすことで手一杯になる現実とのギャップに苦しむ保育士は少なくありません。書類作成や保護者対応、行事の準備などに追われ、子どもとじっくり向き合う時間が十分に取れないこともあります。
保育施設の不足
都市部への人口集中が進んでおり、特に大都市圏において深刻な保育施設不足の問題が発生しています。新たに保育園を設立しようとしても、建設予定地周辺の住民からの反対や理解が得られず、計画段階で終わってしまうケースが目立っています。
適切な用地の確保や建設コストの高騰といった経済的な課題も、新規保育施設の開設を困難にしている要因といえるでしょう。
待機児童問題の対策方法
近年、都市部を中心に深刻化している待機児童問題について、各自治体や国が取り組んでいる具体的な対策方法を詳しく解説していきます。保育所の増設から保育士の確保まで、現状の課題と解決への取り組みをみていきましょう。
政府の対策
政府の待機児童問題に対しての施策として2024年度末まで実施されていたのが、新子育て安心プランです。
新子育て安心プランは待機児童問題の解消を目指し、保育施設の整備や保育士の確保に焦点を当てたものでした。具体的な概要として、令和3年~6年度末までの4年間において、全国規模で約14万人分の保育の受け皿を計画的に整備することが目標です。この目標は、各地域の保育ニーズを詳細に分析し、人口動態や地域特性を考慮した上で設定されていました。
目標を達成するための具体的な対策は、以下の通りです。
- 都道府県等が関係市区町村等と協議する場の設置を促進
- 保育コンシェルジュによる保護者への寄り添う支援
- 巡回バスによる自宅から遠距離にある保育所等への利用を可能にする支援
- 幼稚園の空きスペースを活用した預かり保育の推進
- 保育士等の業務負担の軽減・ICT化の支援
プランに基づき、保育士の待遇と職場環境の改善対策として保育士の給与アップや有給休暇の取得推進、スキルアップのための研修体制の整備などが実施されていました。同時に、保育サービスの質を維持・向上させつつ、待機児童の解消を目指し、地域全体で支える仕組みの構築に取り組まれました。
新子育て安心プランの終了後は、引き続き政府は同プランに基づき、待機児童解消のための取り組みを進めていく方針です。なお、待機児童が多い自治体に対しては、丁寧にヒアリングを行い、それぞれの事情に合わせて自治体と連携を図りつつ待機児童の解消に取り組む姿勢を見せています。
※参考:厚生労働省こども家庭局.「待機児童対策について」.
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000907012.pdf ,(参照 2025-03-28).
自治体の対策
政府だけではなく、自治体も対策を行っています。ここでは、神奈川県横浜市、兵庫県西宮市における待機児童問題対策の具体例について詳しく解説します。
横浜市の対策
まず横浜市では、以下の対策を行っています。
- 定期利用一時保育制度の導入
- 保育コンシェルジュの配置による相談支援体制構築
- 私立園長会・ハローワーク・県社会福祉協議会との連携
新設保育所の4・5歳児保育室を活用した、定期利用一時保育制度が導入されています。定員割れが発生しやすい傾向にある新設園の4・5歳児保育室において、年間契約(ただし、当該年度末までの期間に限定)による一時保育サービスが利用可能です。また既設の保育園においても同様の年間契約方式を導入することで、より柔軟な保育サービスを提供しています。
また保育コンシェルジュの配置による相談支援体制にも力を入れています。保育サービスに関する相談業務を専門的に担当する保育コンシェルジュを各区役所に配置し、子育て全般の相談を受け付けています。一時預かりサービスや幼稚園における預かり保育などの情報提供と利用案内も実施しています。
さらに保育士不足に対応するため、私立園長会・ハローワーク・県社会福祉協議会との連携体制を構築し、新卒者および潜在保育士を対象とした就職説明会の開催や、就労支援講座などの取り組みを展開しています。
他にも、送迎が難しい保護者向けのサービスが好評です。駅周辺の利便性の高い場所に一時的な児童預かり機能を備えた送迎保育ステーションを整備し、各保育所へのバス送迎システムを導入して、保護者の通勤と保育の両立をサポートしています。
西宮市の対策
西宮市では、賃貸物件を活用した民間保育所分園の展開や小学校・幼稚園における余裕教室の活用など、既存施設を活用した保育ルームの整備などに力を入れています。
他にも、4歳児待機児童対策事業「4歳児ランド」の実施も展開しているのが特徴です。未就園の4歳児を対象として、同年齢の友達との交流を通じた集団遊びの機会を提供し、子どもたちの健全な成長発達を支援する場として、各地域の幼稚園において実施しています。
開催スケジュールは各回2時間(原則として月曜日・水曜日の午後1時30分~)で、年間を通じて約50回のプログラムを提供しています。
保育士向けの待機児童問題解消施策

保育施設や保護者向けだけではなく、保育士に向けてもさまざまな支援策や取り組みが実施されています。待機児童問題の解消に向けた具体的な施策について詳しく解説します。
<保育士向けの待機児童問題解消施策>
- 保育施設の職場改善
- 保育士の処遇改善
- 保育士の教育体制構築
- 保育士資格のない人が活躍できる仕組み作り
- 潜在保育士に向けた支援
保育施設の職場改善
保育施設では、保育士の長期的なキャリア形成と定着率向上を目指し、働きやすい職場環境の整備や業務の効率化に積極的に取り組んでいます。具体的にはシフト管理の効率化や休憩時間の確保などです。
保育施設の業務負担の軽減と、より質の高い保育の提供のため、政府はICTシステム導入に対する補助金制度を設けています。保育施設はこの制度を活用し、保育士の事務作業時間を削減し、子どもと向き合う時間を増やすための保育記録デジタル化システムや、保護者との連携を強化し、安心感を提供するコミュニケーションツールなどの導入を進めています。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
最近は、ICTシステムを導入している保育園が増えており、登降園管理や日誌作成、保護者との連絡などをPCやタブレットで完結している施設も増えています。音声入力機能やテンプレートを活用できるシステムなら、記録作業をさらに効率よく進められます。
保育士の処遇改善
保育士の勤続年数や経験年数に応じた処遇改善の実施により、長期的なキャリア形成と専門性の向上を支援し、保育の質や職員のモチベーション維持・向上を図っています。
役職や職務内容、資格取得状況に応じた昇給制度を確立し、公平な評価・報酬体系を整備することで、保育士の継続的な成長とキャリアパスの実現を支援しています。
【監修者・礒部はるかのアドバイス】
近年の保育業界では、保育士の賃金や処遇を改善するための「処遇改善」と呼ばれる補助金制度が施行されています。この制度は主に、保育士の勤続年数やキャリアアップの取り組みに応じて加算する「処遇改善等加算Ⅰ」、役職を設置し月額5000円~4万円を支給する「処遇改善等加算Ⅱ」、国からの補助により、保育士の賃金をベースアップさせる「処遇改善等加算Ⅲ」の3種類があります。
保育士の教育体制構築
政府は保育士が継続的にスキルアップを図り、質の高い保育を提供できる環境を整備するため、保育士キャリアアップ制度を導入しました。
研修を受講することで、保育士個人の専門性が高まるだけではなく、施設に対する運営費の補助金や保育士への処遇改善等加算といった経済的なメリットがあります。キャリアアップ制度によって、保育士の継続的な学びと成長を支援する体制が整備されているのが現状です。
保育士資格のない人が活躍できる仕組み作り
保育施設における人材確保の選択肢を広げ、より多くの潜在的な保育士の就労を促進するため、厚生労働省は特例措置として、常勤保育士1名分の配置を、複数の短時間勤務の保育士による柔軟な勤務体制で代替することを認めています。この取り組みにより、短時間勤務の方も働きやすい環境を整備し、より多くの保育人材の確保を目指しています。
潜在保育士に向けた支援
保育士資格を取得しているものの、さまざまな理由により現在保育現場での就業を選択していない方に向け、以下の包括的な支援とアプローチを実施しています。潜在保育士の方の、保育現場への円滑な復帰を促進することが目的です。
- 専門のキャリアカウンセラーによる個別相談窓口の設置
- 最新の保育実践に関する実技講習の実施
- 職場見学や体験実習の機会提供
- 勤務条件の相談や保育施設とのマッチング
このような総合的な支援策により、潜在保育士の方のスムーズな職場復帰の実現を目指しています。
まとめ
待機児童は都市部でも地方部でも発生しており、共働き世帯と女性の就業者数の増加により、待機児童問題は深刻なものとなっています。
国や自治体は待機児童問題を解消するために、新しい保育所の建設や保育士の給与・労働条件の改善、企業による保育所の設置など、さまざまな取り組みを進めています。取り組みにより、ピーク時よりは待機児童の数は減っているものの、潜在的な保育ニーズを含めると、統計の数字よりも多いと考えられ、今後も継続的な対策が求められています。
待機児童問題の解決に重要な要素の一つが、保育士の確保です。子どもたちの笑顔を守り、保護者が安心して働ける社会を実現するために、保育の現場で活躍する人材が求められています。「保育のお仕事」では、全国の保育関係の求人を紹介しています。転職に関する不安や疑問を解消できるよう、専任のキャリアアドバイザーが親身にサポートします。保育士資格をお持ちではない方でも、資格取得支援制度がある求人や、保育補助の求人など、さまざまな働き方があるので、ぜひ「保育のお仕事」のWebサイトをチェックしてみてください。
よくある質問
そもそも待機児童問題とは何ですか? なぜ起こるのですか?
待機児童問題とは、保育所などへの入所を希望しているにもかかわらず、入所できない児童が存在する状態を指します。
この問題が起こる主な理由としては、共働き世帯・核家族の増加による保育施設の利用ニーズの増加や、保育士・保育施設不足などが挙げられます。
待機児童問題への対策にはどのようなものがありますか?
待機児童問題解消に向けて、政府や自治体が以下のような対策を行っています。
【政府】
- 都道府県等が関係市区町村等と協議する場の設置を促進
- 保育コンシェルジュによる保護者への寄り添う支援
- 巡回バスによる自宅から遠距離にある保育所等への利用を可能にする支援
- 幼稚園の空きスペースを活用した預かり保育の推進
- 保育士等の業務負担の軽減・ICT化の支援
【自治体】
- 定期利用一時保育制度の導入(横浜市)
- 既存施設を活用した保育ルームの整備(西宮市)
保育の現場向けに行われている待機児童問題解消施策はありますか?
保育士向けには、長期的なキャリア形成と定着率向上を目指すため、保育施設の職場改善や処遇改善、教育体制構築などが行われています。また保育士資格のない人が活躍できる仕組み作りや、保育士資格を取得しているものの、さまざまな理由により現在保育現場での就業を選択していない潜在保育士に向けた施策も行われています。具体的には以下のような施策です。
- シフト管理の効率化や休憩時間の確保
- 役職や職務内容、資格取得状況に応じた昇給制度を確立
- 政府による保育士キャリアアップ制度の導入
- 常勤保育士1名分の配置を、複数の短時間勤務の保育士に代替可能な制度導入
- 潜在保育士向けの個別相談窓口の設置 など
監修者情報

礒部はるか
保育士資格・幼稚園教諭一種免許状を保有。大学卒業後、学童・児童館にて保育士として従事。その後、保育園にて乳幼児クラスを担当。現在は複数の保育メディアにてライター・編集者・監修者として活動。子育て中の保護者の悩みに寄り添った情報発信を心がけている。