子ども達を取り巻く環境が変化し、生活が豊かに、そしてますます便利になっている現代社会。しかしそのいっぽうで、子ども達が体を動かす機会は減少し、基礎体力や運動能力の低下などが課題となっています。
そこで大切なのが、体全体を動かして遊ぶ「運動遊び」を、心身が著しく発達する幼児期にたくさん取り入れること。運動遊びはただ楽しいだけでなく、子ども達の心身の成長に大きな影響を与える身体活動なのです。
今回は保育園や家庭で楽しめる運動遊びのアイデアを、年齢別にたっぷり紹介していきます!
「運動遊び」はなぜ大切なの?
文部科学省の幼児期運動指針によれば、幼児期の運動においては
一人一人の幼児の興味や生活経験に応じた遊びの中で、幼児自らが体を動かす楽しさや心地よさを実感することが大切である
とされています。
幼児期は、運動機能をはじめ、体の機能が著しく発達していく時期。だからこそ遊びのなかに運動を取り入れる、つまり日々の生活のなかで「運動遊び」を実践することで、さまざまな体の動きを経験し、会得することが大切なのです。
子ども達の育ちにとって、運動遊びはとっても大切なものなんだホィ!
運動遊びのねらいをチェックしよう!
それではまず、保育における運動遊びのねらいをチェックしていきましょう。
◆小学校教育との連携にもつながる!
2011年4月から、小学校では学習指導要領が新しくなり、低学年から「体つくり運動」が取り入れられるようになりました。
小学校入学前の幼児期に、遊びのなかで多様な動きを体験し、さまざまなことを学ぶことは、就学後の生活や学習をスムーズにすることにもつながるでしょう。
【0歳児】にオススメの運動遊び
運動遊びは、基本的に幼児期の子ども達にすすめられていますが、0歳の乳児保育においても、その要素を取り入れることができます。
◆体の動きを促す「赤ちゃん体操」
子どもを仰向けに寝かせ、手足をぐーんと伸ばしたり縮めたり、手を開いたり閉じたりさせます。大人とのふれあいを楽しみながら、体を動かす楽しみを感じられる遊びです。
◆おひざでジャンプ
子どもの脇を支えて保育士のひざの上でジャンプさせます。細かくぴょんぴょん跳ねさせたり、高くジャンプしたり……動きの強弱も楽しめます。ジャンプする感覚に慣れてくると、自分から足を動かそうという意欲が出てきます。
◆マット上り下り
くるくると巻いたマットのうえにもう1枚マットをかけて、坂を作ります。横から転げ落ちないように見守りながら、ハイハイで坂を上ったり下りたりして遊びましょう。
【1歳児】にオススメの運動遊び
個人差はありますが、1歳になるとハイハイからつかまり立ち、ひとり歩きへと移行していきます。動きも活発になる1歳児には、手足の筋力を鍛えるとともに、スキンシップで精神的安定も図ることのできる運動遊びを、たっぷり取り入れましょう。
◆ボール待て待て!
まだ立って歩くことができない子ならば、簡単なボール遊びにチャレンジしてみましょう。
保育士さんがボールを転がしたら「待て待てしよう!」と誘ってあげます。保育士さんもいっしょになっておいかければ、それだけで楽しいコミュニケーションになりますよ!
◆手の筋力を鍛えるひっぱりっこ
子どもを仰向けに寝かせたら、タオルを上から垂らします。子どもが握ったら、軽く上に引っ張ってひっぱりっこ。手を離してしまったらもう一度はじめから。手の力が強くなってきたら、左右前後に揺らしてみましょう。
◆全身の筋力と体の使い方を学べるトンネル遊び
ひざを伸ばして座った大人の足の上をよじ登って越え、超えたら今度は大人がひざを曲げてトンネルを作り、子どもはそれをくぐります。さまざまな体の動きを習得することができるので、総合的な運動機能の向上につながります。
【2歳児】にオススメの運動遊び
2歳になると、歩行もずいぶんしっかりしたものになり、走ることもできるようになります。歩行や走りをより安定させ、これからの発達につなげる運動遊びを取り入れて、体を動かす楽しさを感じられるようにしましょう。
◆走る能力アップ!しっぽ取りゲーム
製作遊びからつなげることもできるオススメの遊びです。
まずは、思い思いの動物のしっぽを作ってズボンやスカートのウエストに折りこみます。
その状態で追いかけっこをして相手のしっぽをとります。保育士がしっぽをつけて逃げ回るのも楽しいですよ!室内の場合、夢中になりすぎ壁などにぶつかりやすいため、外遊びに取り入れるのがオススメです。
肩車でゆーらゆら
肩車をして、子どもの足をしっかり固定したら、左右にゆらゆら揺れてみましょう。体のバランス感覚を養い、体幹を鍛える遊びです。
◆足の使い方を学べる!ボールキック
はじめはうまく蹴れなくても大丈夫! 片足でバランスを取りながら、もう片方の足でなにかをするという経験を積ませてあげることで、足の発達にも役立ちます。
◆どんぐりコロコロ
「どんぐりどんぐりコ~ロコロ」という保育士さんの掛け声にあわせ、マットの上に寝そべって横転します。連続で横転することで、平衡感覚や柔軟性を養うことができます。
◆ハイハイ&高ばいレース
転んだときにとっさに手をつけるようトレーニングするのにぴったりのハイハイ・高ばいの動きを、楽しいレースに取り入れてみましょう。
横一列に並んだ子ども達に、保育士さんが「せーの……ハイハイ/高ばい!」と号令をかけます。声掛けで指示のあった体制をとって、子ども達はレース開始!保育士さんのところまで来たらタッチしてゴールします。
【3歳児】にオススメの運動遊び
3歳になれば、基本的な体の動きが定着し、さらに発展的な遊びができるようになってきます。保育士と1対1で楽しむ遊びはもちろん、友達といっしょに体を動かす楽しさを経験するために、集団での遊びも積極的に取り入れてみるとよいでしょう。
◆タオルクライミング
丈夫なタオルを大人が胸のあたりでしっかり持ち、それを子どもが、大人の体を足場にしながらよじ登ります。足を踏んばる力も手の力も同時に鍛えることができるでしょう。
落ちても大丈夫なように、必ずマットなどの準備を忘れずに!
◆体幹を鍛えるロデオごっこ
まず、子どもが四つんばいになった保育士さんのうえにまたがります。保育士さんは、わざとゆさぶり落とすように前後左右に動いてみましょう。子どもは落ちないようにしがみついたり、うまくバランスを取ったりすることで体幹が鍛えられます。
発達の状況に応じて、揺さぶる早さや幅は変えましょう。また落ちることを想定してマットを敷いたり、周囲の保育士さんが補助できる体制を整えたりして、けが防止に努めることも大切です。
◆バランス感覚を高めるティッシュキャッチ
2枚重ねのティッシュを1枚にはがし、息を吹きかけます。子どもは変則的な動きをしながら落ちてくるティッシュの行方を追いながら、タイミングよくキャッチ! 臨機応変に体を動かす必要があるので、バランス感覚や瞬発力が身につきます。
◆だるまさんが転んだ
「だ~る~ま~さんが~……」でうしろを向いている鬼のもとにそろりそろりと近づき、「転んだ!」で振り返った鬼に見つからないようにピタッと動きを止めます。定番ながら、瞬発力やバランス感覚を養うのにぴったりのゲームです。
【4歳児】にオススメの運動遊び
4歳になると「片足をあげながらジャンプして前進する」というように2つの動きを同時に行うことができるようになってきます。
縄跳びやボール遊びのようにタイミングよく体を動かす、縄跳びのように体全体でリズムをとるような遊びをたくさん取り入れていきましょう。
◆荷物運搬トラックレース
背中に段ボール箱などを乗せてバトン代わりにし、四つんばいで進むチーム対抗レースです。一定の距離まで行ったら折り返し、スタート地点まで戻ったら、次の子にバトンタッチします。
背中の荷物である段ボール箱を落とさないように進むことで、バランス感覚や手足を慎重に使う能力が鍛えられます。歩くようになるとなかなかしないハイハイですが、腕の筋力を養うのにはピッタリの動き。楽しく遊びに取り入れてみましょう。
◆にょろにょろヘビさん
保育士さんが大縄跳びの縄をヘビに見立てて、地面を這わせるようににょろにょろと動かします。子ども達はその動きをよく見ながらジャンプで上手によけましょう。
慣れてきたら片足だけでチャレンジしてみても◎。
◆スキップ競争
スキップをしながら、一番先にゴールを目指しましょう。スキップは全身のバランス感覚やリズム感覚を養ってくれる動きのひとつ。うまくできないときは先生しっかりお手本を見せて、子ども達に真似てもらうようにしましょう。
【5歳児】にオススメの運動遊び
友達と遊ぶ際のルールも理解し、集団で楽しくあそべるようになる5歳児。かなり複雑な動きもできるようになり力も強くなってくるため、運動用具を使った遊びも上手にできるようになります。
できる・できないには個人差がありますが、「やってみよう」とする姿勢や繰りかえしチャレンジする姿勢をほめ、必要に応じて補助していきましょう。
◆バランス感覚を養うピンポン玉はこびレース
おたまなどにピンポン玉などを入れた状態で、落とさないように運びます。
中継地点で折り返してスタート地点に戻ったらバトンタッチ。早く一巡したチームの勝ちです! ピンポン玉を入れる容器の大きさや深さを工夫すれば、難易度を変えることができるので、慣れてきたらだんだんと難しくしてみてもよいでしょう。
◆楽しくアレンジ! ブリッジ状態で鬼ごっこ
鬼ごっこは、持久力と瞬発力を必要とする運動遊びのひとつ。普通に遊んでも楽しいですが、ひと工夫加えるとより体の発達を促せるものなるでしょう。
まず、座った状態から後ろに手をついて、おなかを持ち上げたブリッジのような姿勢になります。その状態のまま、手足を使って動いていき、相手を足でタッチします。
腹筋や腕の筋肉、太ももの筋肉など、さまざまな部分が鍛えられるとともに、持久力やバランス能力も要する遊びです。
◆ドッジボール
行き交うボールの速さや方向を瞬時に見極めながら、それに当たらないように逃げたり、うまくボールをキャッチして相手の陣地に投げ入れたりするゲームです。
後ろ向きで走ったり、瞬時に体の方向を変えたり……体をダイナミックに使って遊べるほか、友達と連携をとりながらゲームを進めていくので、コミュニケーション力や社会性を身につけることにもつながるでしょう。
編集者より
基本的な体の使い方を経験から学び、それを習得していく幼児期。遊びという子ども達にとって身近なものを通じて運動に親しむことで、「体を動かすって楽しい!」と思えれば、その経験はその後の人生において、きっと役立つものとなるはずです。
今回紹介した年齢別の発達段階は、あくまでも「めやす」です。子ども達一人ひとり成長の早さ、技能を会得するタイミングは異なりますので、観察を通して「今この子のなかに育ちつつある能力はなにか」を考えながら、保育を組み立てられたらよいですね。
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参考文献・サイト
- 月刊『保育とカリキュラム(2018年6月号)』ひかりのくに株式会社
- 川原佐公監修(2015)『発達がわかれば保育ができる!』ひかりのくに株式会社
- 田村正隆 発行(2017)『必ず役立つ!保育の年中行事まるごとアイデア』ナツメ社
- 文部科学省『幼児期運動指針』(2019/4/23)
- 文部科学省『幼児期運動指針ガイドブック』(2019/4/23)(2019/4/23)