保育士の業務の簡略化や負担の軽減を行い、人材不足を解消しようと全国で進んでいる保育園の「ICT化」。今回は現場で働く保育士さんを中心に、ICT化に期待する点、ICTシステム導入の現状、そして今後の課題についてアンケート調査を行いました。
「ICT化」って一体なに?
「ICT化」という言葉をご存じでしょうか。ICTとはInformation and Communication Technology(情報通信技術)の略で、簡単に言えばパソコンやタブレット端末を利用した業務支援システムのこと。それを推進していこうという流れが「ICT化」です。
◆国も推進する保育園のICT化
厚生労働省は平成27年度補正予算より、「保育所等における業務効率化推進事業」を新たに創設しました。これは、保育園が業務負担の軽減や効率化に役立つICTシステムを導入する際に、一定額の補助を受けられるというもの。この事業創設を機にICT化導入への関心が高まりました。
(平成29年4月からは「保育施設・事業の届出に伴うICT化推進事業」が新たに予算に組み込まれています。)
◆どんな業務支援システムがあるの?
保育士さんの業務を手助けしてくれるICTシステムには、次のようなものがあります。
- 登降園管理
- 保育日誌・指導計画の管理
- 園児台帳の管理
- おたより作成/メール配信
- 延長保育料自動計算
- 写真の販売
- 勤務シフト作成
- 業務の引き継ぎ情報の共有
- 請求管理
ICTシステムは、それをパソコンやタブレットでもっと簡略化して、保育士さんの負担を減らすことを目指しているよ!
ではこのICT化、実際保育士さんの業務負担軽減にどれほど役立つものなのでしょうか。
今回は保育園のICT化について、すでにICTシステムを導入している保育園、まだ導入をしていない保育園、それぞれにお勤めの保育士さん計104名を対象にしたアンケート調査を実施。保育現場のニーズや、システム導入後の負担軽減度、現状の課題などについて本音を伺ってみました。
ICTシステム未導入園の70%は効果に期待!
まず、ICTシステムをまだ導入していない保育園にお勤めの方44名に、ICTシステムの導入が業務簡略化、負担軽減に役立つと思うか伺ってみました。
すると70%が「はい(役立つと思う)」と回答。「いいえ(役立つと思わない)」7%、「どちらとも言えない」23%を大きく上回る結果となりました。
ICTシステム未導入園のうち、いままでにシステム導入が検討されたことがあるのは18%でしたが、ICT化に対しては多くの保育士さんがその導入効果に期待していることがわかります。
◆手書きでの書類作成が減ることに期待大!
具体的にどのような点に期待を寄せているのか、先の質問で「はい(役立つと思う)」と回答された方に伺ってみました。
まず、もっとも回答が多かったのは「手書きでの書類作成が減ること」で87%。「紙媒体の管理が少なくなること(77%)」「保育士同士の情報共有が簡単にできること(77%)」が続く結果となりました。
手書きでの書類作成では、同じ内容を記入する際や、修正、加筆をする際にも多大な時間を要します。また大量の書類を管理するには、場所の確保や、個人情報などが流出しないよう厳密な管理体制も必要です。
アンケート結果では、現場においてそれらが保育士さんの負担になっていること、また改善が期待されていることが伺えました。
保育士さんのお仕事の上で、日誌や指導計画はそれだけ作成が大変なものなんだね。
「役に立っている」の声はわずか22%!その実態は?
続いて、すでにICTシステムを導入している保育園のお勤めの方60名に、職場で導入している業務支援システムはどんなものか?また、システム導入が業務簡略化や負担軽減に役立っているか、伺ってみました。
導入されているICTシステムで多かったのは「登降園管理(77%)」や「保育日誌・指導計画の管理(65%)」など。ICTシステム未導入園で比較的希望が多かった業務支援機能についても、「おたより作成/メール配信(47%)」「勤務シフト作成(42%)」、と多くの園で導入されていることがわかりました。
しかしながら、「ICTシステムの導入は、あなたの業務簡略化、負担軽減に役立っていると思いますか?」という質問に対して、「はい(役立っていると思う)」と回答したのはわずか22%。「いいえ(役立っていると思わない)」30%、「どちらとも言えない」48%いずれも下回る結果となりました。
◆75%が「業務時間短縮につながっていない」
「ICTシステム導入で、業務にかかる時間は、1日あたりどれくらい短縮されましたか?」という質問に対しても、最も多かったのは「短縮されたとは思わない」で75%。1時間30分以上業務時間が短縮されたという意見は、全体のわずか4%にとどまっています。
手書きでの書類作成削減には92%が納得!
ICTシステム導入園にお勤めの方のうち、システム導入が業務簡略化や負担軽減に「役立っている」と回答された方に、どのような部分が役に立っているか聞いたところ、「手書きでの書類作成が減ること」については92%が役立っていると回答。
「保育士同士の情報共有が簡単にできること(62%)」「情報管理のフォーマットが一律になり見やすいこと(54%)」についても、回答者の半数以上が改善を実感されているという結果になりました。
- 【保育士さんの声(一部抜粋)】
- ・今まで家でやっていた保育日誌を園で打ちこむので、持ち帰り仕事がなくなった。(30~34歳・保育士/正規職員・女性)
- ・指導計画は、PC入力で書き直しの手間が減ったと思う。(35~39歳・保育士/正規職員・女性)
環境整備不足と操作の不慣れが「役に立たない」原因か
ICTシステム導入が、保育士さんの業務改善や負担軽減につながらない理由は一体どこにあるのでしょうか。システム導入が業務改善に役立っていないと感じている方に「どのような部分が役に立たないと感じるか」伺ってみました。
最も多くの方が「役に立たない」と感じる部分は「気づいたときや手が空いた時間に作業がしにくい」で78%。
「PCやタブレットでの入力に慣れないため時間がかかる(72%)」「閲覧・入力可能なPCなどの端末が少ない(67%)」「一部手書きの業務があるなど一元管理できていない(56%)」「ICTシステム導入に際して十分な研修やレクチャーがない(56%)」「ネットワーク環境が悪く業務に時間がかかる(56%)」なども回答者の過半数が不満を抱える課題点となっています。
- 【保育士さんの声(一部抜粋)】
- ・結局PCやUSBの持ち帰りがNGなので、園内でやろうとしても園児が起きたりすると手が止まり進まず…なら、手書きでウチでやると言った具合で…意味がない。(35~39歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
- ・きちんとした説明をしないで導入しているので、保育士が振り回されている。(45~49歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
ICT化をしてもメリットを活かしきれない現状
保育士さんは、午睡の時間など子どもたちのお世話が一段落した「スキマ時間」を活用しながら、日誌の記入や書類作成などの事務作業を行うことが多いもの。
- 作業できるPCなどの端末が少ない
- 特定の場所に行かなければ作業できない(子どもを見ながら作業できない)
- 入力に不慣れで作業そのものに時間がかかる
- ネットがスムーズにつながらない
そのような状況では、せっかくICTシステムを導入してもうまく活用ができません。今回のアンケートでは、ICTシステムそのものの有用性以上に、職場における操作環境の差が回答に影響を与えているという一面もあるようです。
PCやタブレット端末不足の改善を!
最後に、今後どのような改善があれば、さらなる保育士の業務効率化につながると思うか、自由回答にてお答えいただいたところ、次のようなご意見が寄せられました。
- 【端末不足に対する改善要望】
- ・保育士一人一人に専用のパソコンがあると良い。またICT化に向けて研修があると使いやすい。(25~29歳・保育士/正規職員・女性)
- ・園にタブレットがあってもクラスに一台ではないので、他のクラスに迷惑が掛からないように廻していくことにストレスを感じる。(35~39歳・保育士/正規職員・女性)
- ・パソコンを増やす。部屋に持ち込み可能な端末の導入。(35~39歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
- 【補助金に対する改善要望】
- ・パソコンは使ううちに消耗するものなので、セキュリティーを含め、ICT化にもっと補助金が出ないと厳しい。(45~49歳・保育士/正規職員・男性)
- 【指導・研修に対する改善要望】
- ・ICTでやっているのに、手書き書類と重複していることを減らしていけば良いと思う。システムを使いこなせていない職員がいるため、せっかくのシステムが有効活用されていないので、新しく雇用された職員には使い方の指導し、連動できることを増やせば効率化できると思う。(45~49歳・保育士/正規職員・女性)
- ・まず、パソコンやタブレットの勉強をさせて欲しい。昔は、手書き。復職したらいきなりパソコン。学生時代は、まだパソコンも主流ではなかった。今、パソコンを使ってお便りを書くことが精一杯。研修など設けてくれないと、業務軽減どころか使い方がわからなければ負担にしかならない。(40~44歳・保育士/正規職員・女性)
- ・誰もが分かりやすく使いこなせるような研修があれば…。(40~44歳・保育士/パート・アルバイト・女性)
多くの声が寄せられたのは、やはり使用できるパソコン、タブレット等の端末の不足について。操作方法に対して十分なレクチャーがないことや、環境整備に十分な補助金が出ていないことなどに対しても、改善が必要との声が多く寄せられました。
システム販売業者や導入を決めた園の管理者が、現場の職員、保護者にしっかり使い方などのレクチャーをしていない場合、操作が得意な職員が他の職員に教える「付加業務」が発生しているケースもあるようです。
保育園でICTシステムを十分に活用するためには、まず導入を推進する国や自治体、システム販売業者、そして導入を検討する園の責任者や担当者が、現場で働く保育士さんの状況をよく理解することが必要です。その上で抱える課題を解決するためにどのようなフォローが求められているか、きちんと考える必要がありそうですね。
編集者より
保育士不足の解消の糸口としても、注目を集める保育園のICT化。今回の調査では、多くの保育士さんにとっても、それが期待度の高いものだということがわかりました。
しかしながら、システムそのものは保育士さんの業務の負担を減らすものになっているのに、環境整備の不十分さや、レクチャー、フォローの不足からそのメリットを十分に享受できていない現状も伺えます。
ICTシステムは「ただ導入すれば良い」というものではありません。今後、導入を検討する立場の人がそのことを十分に理解し、ICT化が真の意味での保育士さんの業務負担軽減につながることを願っています。
・実施期間:2017年6月9日~6月20日
・実施対象:
保育士/正規職員(64%)・保育士/パート・アルバイト(22%)・保育園経営者・園長(6%)・元保育士(8%)
・回答者数:104人
(導入園にお勤めの方:60名/未導入園にお勤めの方:44名)
・平均年齢:34歳)
・男女割合:女性/93%・男性/7%
※ご協力いただきました皆さま、貴重なご意見をありがとうございました!
※いただいた回答は一部抜粋し、個人が特定できないようご紹介しております。