LD(学習障害)とは、発達障害の一種で、読み書きや計算など特定の能力の習得に困難を抱える障害です。子どもたちがより良い環境で成長するためには、早期発見と適切な支援が必要ですが、実際は小学校入学まで気付けないことも多いそう。今回はLDについて、気付くためのポイントや関わり方のヒントをご紹介します。
LD(学習障害)ってどんなもの?
LD(学習障害)はLearning Disorders・Learning Disabilitiesの略で、言葉を聞いたり話すことができない、文字を書くのが苦手、計算をすることができないなど、ある特定の分野の能力習得が困難な障害です。
LD(学習障害)によくみられる行動 | |
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誤字障害 | 文字の意味を理解しながら読むことが難しい、似た文字がわからない、文章を読んでいるとどこを読んでいるかわからなくなる、読み飛ばしをしてしまう、さかさまに読んでしまうなど、文字または文章をを読むことに困難を抱えた状態です。 |
書字表出障害 | 文字を書き写すことができない、さかさまに文字を書いてしまう(鏡字)、自分で書いた文字が読めないなど、字を書くことに困難を抱えた状態です。 |
算数障害 | 数の大きい、小さいがわからない、簡単な計算ができない、指を使わないと数をかぞえられない、繰り上りが理解できないなど、計算分野に困難を抱えた状態です。 |
位置や日時が理解できない | 右、左といった位置関係が理解できない、今日と明日の違いがわからなくなる、時計が読めないなど、位置や時間の概念の理解に困難を抱えた状態です。 |
うまく伝えられない | 発音がうまくできなかったり、文章を頭でうまく構成することができず単語の羅列で話すなど、伝えることに困難を抱えた状態です。 |
LD(学習障害)の場合、知的発達に遅れを伴わないとされており、なかなか発達障害であると分からないケースもあります。また場合によっては、ADHD(注意欠陥多動性障害)やPDD(広汎性発達障害)を合併している場合もありますので、個々に抱える困難は、それぞれ異なってきます。
▲発達障害の種類を図に示したものです。いくつかの障害を合併する場合もあります。
気になる子に寄り添うために【後編】
~発達障害の種類とその特徴~
早期に気付くために…LDの子どもの特徴とは
LDの場合、未就学児での発見が難しく、小学校に入学して学習が進んできて初めて気付く場合も多くあります。それが適切な支援が遅れる要因になり得ることは、他の発達障害とは異なるひとつの特徴とも言えるでしょう。ここでは未就学児に見られやすい、LDの行動特徴をご紹介します。
- ◆保育園や幼稚園で見られる特徴の例◆
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□ ハサミがうまく使えない、折り紙やのり付けができない、ボタンのかけ外しが苦手
□ 言葉の言い間違えや聞き間違えがある
□「スパゲッティ」を「パスゲッティ」などと間違える
□ ものの名前を覚えられずにいつも「あれ」などと言う
□ ことばの遅れがある(語彙が少ない)・オウム返しばかりする
□ しりとりができない
□ 友だちに自分の思いをうまく伝えられない
□ くつの左右を間違える
□ お手本を見て絵や図形が描けない
□ 本の上下がわからない
□ 自分の名前を判読できない
□ 昨日や明日の概念がわからない、混同する
LDの兆候に気付くことが遅れれば、それだけ子どもや保護者が悩み、苦しむ時間が長くなります。一方で早期に気付くことができれば、就学後の学習の遅れを最小限にするケアも可能でしょう。
保育者として注意したい3つのポイントと関わり方
ではここからは具体的な関わり方について触れていきます。まず、LD(学習障害)の理解と関わり方を考えるうえで大切な3つのポイントをご紹介しましょう。
- ◆原因を理解する◆
- LD(学習障害) の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、脳の中枢神経系の機能に何らかの障害があることが原因と言われています。「できない」ことの原因はその子の性格や、保護者の育て方ではないのだということを十分に理解しておきましょう。
- ◆柔軟な対応を心がける◆
- LD(学習障害)は、読むのが苦手、書くのが苦手など、さまざまなタイプがあります。さらにADHDなど他の発達障害を合併している場合には、その障害に応じたケアも必要となります。
その子のタイプに合った教え方、学び方が必要であること、その子の苦手な部分に対して、しっかりと見極めて丁寧にアプローチすることが必要であることを知っておきましょう。
- ◆決めつけない◆
- 当然のことながら、先にご紹介した特徴がみられるからといって、必ずしもLD(学習障害)であるとは限りません。
保護者が問題意識を持っていて、相談を受けた場合には、一緒にどのようにサポートするかを具体的に話し合うことが必要ですが、その場合も診断名などは決めつけず、適切な支援ステップを踏んで、支えていく姿勢が必要です。
【関連記事】気付く・支える発達障害【後編】~保護者へ上手に伝えるためには~
では上記を踏まえたうえで具体的な関わり方の例をチェックしてみましょう。
文字や文章を読むのが苦手な場合
文章の場合には、指でなぞるよう支援する、大きな文字の絵本などを選ぶ、不要な文字を下敷きなどで隠すなどしつつ、ゆっくりと読み方を教えていきましょう。
書くことが苦手な場合
まずはマスを作ったり、なぞり書きをさせたりしながら、文字の書き方を学んでいきましょう。最初は指でなぞるだけでも大丈夫。そこからなぞって実際に書く、見ながらなぞらずに書く…というように段階を踏むようにしましょう。絵描き歌を活用してみても良いかもしれませんね!
思いを伝えることが苦手な場合
その子の興味、関心のあることを話しかけて、発語を促します。子どもが話し出したら、遮らずにじっくり聞いてあげましょう。語彙が少ないということも考えられますので、合わせて語彙が増えるような取り組みもしていくと良いかもしれませんね。
語彙が少ない場合
ゲームや歌あそびなどで、韻を踏んだ単語に何度も親しみましょう。簡単な絵本を繰り返し読み聞かせることも良いですね。聞くことが苦手か、読むことが苦手かによっても、対応は異なります。
子どもが発した言葉を書き留めて、見せながら発音してみても視覚と聴覚を双方使うのでトレーニングになるでしょう。
手先が不器用な場合
指先のトレーニングが楽しくできる方法を考えます。例えば好きなキャラクターのシールをたくさん用意して貼らせてみたり、水鉄砲やカード遊びなど、指先を動かす遊びに誘ってみたり…。
継続してできないことを続けさせると、自信の喪失にもつながりかねませんので、できることから少しずつ取り組ませましょう。
編集者より
発達障害において大切なのは、その子がどこに困難を抱えているかをしっかりと見極めて適切な支援を行うことでしょう。例えばLD(学習障害)の場合、視覚的な理解が苦手なのか、聴覚的な理解が苦手なのかによっても、支援の方法はまったく違ったものになります。保護者の方とうまく情報交換をしながら、子どもの抱える困難がどの部分にあるのか、見極められたら良いですね。
本文でも「LDと決めつけるのはNG」と述べましたが、ご紹介したような特徴が見られても、スロースターターで、特に問題のない場合もあります。一方で、保護者がとても問題視している場合には、必要に応じて専門的な相談機関を紹介してあげることも必要となるでしょう。
時間はかかりますが、子どもの状況、保護者の状況などを踏まえて、それぞれの段階に応じた対応を考える必要があると言えそうですね。
※漢字表記については、厚生労働省および政府広報などに合わせて「障害」とさせていただいておりますが、「障碍」「障礙」「障がい」とも表記されます。