多くの子どもたちを担当する保育士や、幼児期の子どもを持つ保護者にとって、子どもがお友だちを叩いてしまうという行動は悩みの種。「なぜ叩くのか原因がわからない」「何度も注意をしているのに、繰り返してしまう……」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
まだ力の加減がうまくできない子どもたちの場合、お友だちを叩いて、大きなケガを負わせてしまう危険性もあります。今回は子どもの叩く行動について、その原因や子どもたちの心理から対処法まで、解説していきましょう!
他の子を叩く=愛情不足とはかぎらない!
子どもが、保育園や幼稚園で、お友だちを叩いてしまう……。そんなとき、「家庭での愛情不足が原因である」という見方をされてしまうことがあります。
しかしながら、叩くという行動の原因が、家庭での愛情不足にあるとはかぎりません。
「フルタイム勤務で、両親とも帰りが遅く、子どもと接する時間が少ない」「兄弟が生まれたばかりで、どうしても赤ちゃんに手がかかってしまう」そのような家庭環境で、子どもが不安やストレスを抱えることが、叩く行動のきっかけになることはあるでしょう。
しかし、はたしてそれは、「愛情が不足している」ということなのでしょうか。
愛情は、その大きさをはかることができません。また、「これだけの愛情を注げば十分」と基準が決まっているわけでもありません。
保育士が、子どもの叩く行動について考えるときには、「愛情不足」と結論づけて、家庭の問題と見放すのではなく、どのようにしたら改善するかを、保護者とともに考えていく姿勢が大切です。
他の子を叩いてしまう5つの原因とは?
他の子を叩いてしまうという行動には、さまざまな原因があります。まずは、「なぜ叩いてしまうのか」その原因を確認していきましょう。
自分の気持ちがうまく伝えられない
自分の気持ちや要求を、うまく言葉にできないために、そのイライラや葛藤が「叩く」という行動にあらわれてしまう場合があります。
「おもちゃを取られた(やめてほしい)」というようなネガティブな気持ちだけでなく、「一緒に遊びたい」といったポジティブな気持ちが、きっかけとなることもあります。
不安やストレスを感じている
たとえば、「保育園や幼稚園に入園したばかりで、環境になじめていない」「兄弟が生まれて、パパやママを独占できなくなってしまった」といった、子どもの内面のストレスが、叩くという行動にあらわれることがあります。
大人の気を引くため
「叩く行動をすれば、大好きなママやパパ、保育園の先生が飛んできてくれる」ということを学習してしまうケースもあります。その場合には、大人の気を引くために、叩くという行動を繰り返してしまうこともあるでしょう。
【関連記事はこちら】子どもの噛みつき…どうすればいい?
叩くことが習慣になっている
たとえば、「おやつが欲しい時には保護者を叩く」というようなコミュニケーションが、習慣化してしまっているケースもあります。
子どもたちの力はまだ弱いため、叩かれた大人が、それを「一種のスキンシップ」ととらえてしまうことがあります。しかし、対処しないでいると、叩く行動がエスカレートすることもあるため、注意が必要です。
物を乱暴に扱う環境が身の回りにある
一見すると、関係がないことのように思われますが、「ドアを乱暴に閉める」「おもちゃを片づけるときに放り投げる」といった、物を乱暴に扱うという環境が、叩く行動のハードルを下げてしまっていることも考えられます。
叩いてしまったあとの対応のポイントは?
子どもが他の子を叩いてしまったときには、どのように対応すればよいのでしょうか。ここからは、叩いた子・叩かれた子、それぞれに対する、対応のポイントをご紹介します。
「叩いた」子どもへの対応
ここまでにお伝えしてきたとおり、お友だちを叩いてしまうという行動には、さまざまな原因があります。叩いてしまった子どもに接する際には、その原因を考えたうえで、対応方法を検討する必要があるでしょう。
◆まずは叩いた理由を聞く
言葉が話せる場合には、まず「どうして叩いてしまったの?」と聞いてみましょう。
うまく説明できないときや、「どうして叩いてしまったのか、よくわからない」というようなときには、子どもの気持ちを想像して、「おもちゃを取られてしまって、イヤだったんだね」「一緒にあそびたかったんだね」など、感情を代弁してあげるとよいでしょう。
- 【対応のポイント】
- 大人が感情に任せて叱っていると、子どもたちは、うまく心の整理ができなくなってしまいます。穏やかに、落ち着いて対応するよう、心がけましょう。
◆「叩くことはいけない」ということを伝える
どのような原因があったとしても、「叩くことはしてはいけないこと」であることは、ハッキリと伝えましょう。叩かれた子が痛かったことなど、相手のの子どもの気持ちを伝えてもよいでしょう。
- 【対応のポイント】
- 「叩く子は嫌いです!」「お友だちを叩く〇〇ちゃんなんて、もう知らないよ!」というような、子どもを突き放す、または疎外感を与える対応は避けましょう。
◆うまく言葉にできずに手が出てしまった場合は……
自分の気持ちや、お友だちにしてほしいことが、うまく言葉で伝えられずに叩いてしまった場合には、「こういうときには『貸して』っていうんだよ。」「今度からは叩かないで『一緒に遊ぼう』って言おうね。」などと、叩かなくてもよい方法を教えてあげましょう。
◆背景にストレスや不安があると思われる場合は……
叩く行動の背景に、子どもがかかえる不安やストレスがあると思われる場合には、行動を注意されることが、更なるストレスとなり、叩く行動を繰り返してしまうという悪循環に陥りやすい傾向にあります。
このような場合には、叩くことが悪いことと教える、叩かずにすむ方法を教える、という対応に加えて、子どもの心に寄り添い、受け止めてあげることが必要でしょう。
- 【対応のポイント】
- 子どもの話をじっくり聞いてあげる時間をもうける、ストレスを発散できるような遊びを取り入れるなどのフォローで、子どもの不安やストレスを、やわらげてあげましょう。
◆叩くことが習慣になってしまっている場合は……
叩くという行動は、エスカレートしやすいという性質があります。そのため、叩いてしまうたびに、それが「してはいけないこと」であると教え続け、やめさせる必要があります。
- 【対応のポイント】
- 家庭で保護者を叩いているような場合には、保護者とうまく連携をとり、家庭でも適切な指導をしてもらうことが必要でしょう。
「叩かれた」子どもへの対応
叩いた子の対応と同時に、叩かれた子どもへのフォローも大切です。もしもケガをしてしまっているような場合には、応急処置を優先的に行う必要があります。
◆まずはケガをしていないかチェックしよう!
まずは、叩かれた部位を目で見たり、触ったりして確認し、外傷がないか確認しましょう。このとき、擦り傷やこぶなどができていたら、適切な応急処置を行います。
https://hoiku-shigoto.com/report/trouble-at-work/injury-first-aid/
◆心のケアも忘れずに
叩かれた子の、傷ついた心に寄り添い、「痛かったね、びっくりしたね」と気持ちを代弁してあげましょう。抱きしめるなど、スキンシップで安心感を与えてあげるのもよいでしょう。
◆一緒に謝ってあげよう
「〇〇ちゃん、痛かったよね。〇〇くん、一緒に遊びたかったんだって。止めてあげられなくてごめんね。」など、叩かれてしまった子に謝る姿を見せることは、叩いた子に、「叩くことはいけないこと」だと伝えることにもつながります。
叩いて教え込むのはNG!
「叩かれたらこんなに痛いんだよ」と、叩いて教え込むことはやめましょう。大人が叩くという行動をすることで、「叩くことはいけないこと」という本当に大切なメッセージが、伝わらなくなってしまいます。
他人の痛みを知ることも大切ですが、叩くのではなく、きちんと言葉で伝えてあげるようにしましょう。
やめさせるにはどうすればいいの?
子どもが他の人を叩いてしまったときに、適切な対応をすることも大切ですが、あわせて「叩かないですむ工夫」も重要です。ここからは、叩く行動を予防するための対処法をご紹介します。
ストレスや不安を軽減しよう
不安やストレスを抱えることは、叩く行動のきっかけにもなります。「スキンシップを積極的にとる」「外遊びなど、思いきり体を動かしてストレスが解消できる時間をもうける」など、子どもたちが、心穏やかに生活できるように、工夫しましょう。
「叩く」ことに慣れさせないようにしよう
たとえば、「他者を殴るようなシーンが多いテレビ番組を、日常的に見ている」など、叩く行動を目にする機会が多いと、それに慣れて、自然とまねをするようになってしまいます。
「叩く」という行動が、日常的に身近にないか、あらためてチェックしてみましょう。
子どもの行動をよく観察しよう
子どもたちにできるだけ目を向け、叩くという行動を未然に防ぐことも大切です。
とくに、大人の目を引こうとして叩いている場合などには、お友だちを叩いてしまう前に声をかける、そっと手をとって止めてあげるなどを繰り返すことで、叩く行動を減らすことができるでしょう。
ごっこ遊びを活用しよう
叩かないですむための行動を、遊びを通じて教えてあげるのもよいでしょう。
「いいよ! はいどうぞ」
「ありがとう!」
「お店屋さんごっこだよ!」
「いいなあ、僕(私)も入れて!」
「うん、いいよ!」
ごっこ遊びとして、このようなやり取りを経験することで、同じようなシチュエーションが生じたときにも、叩かずに対応できるようになるでしょう。
叩かずにいられたら褒めてあげよう
友だちを叩かずに、適切な対応ができたときには、しっかりと褒めてあげましょう。
成功体験を積み重ねること、さらにそれを評価されることは、子どもたちの自信につながります。
発達障害の可能性はある?
ここまで、お友だちを叩いてしまうという子どもの行動について、その原因や対処法をお伝えしてきましたが、ときに、広汎性発達障害(PDD)や、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの特性が、叩くという行動にあらわれているケースがあります。
しかしながら、もちろん「叩く行動が多い=発達障害である」というわけではありません。
- 【ワンポイント】
- 発達障害は、たとえ同じ診断名であっても、個々にあらわれる特性が異なります。また医学的な診断名はつかないものの、いくつかの特性を持ち合わせる「グレーゾーン」とよばれる状況もあります。ほかの障害をあわせもつこともありますので、その特性は一様ではありません。
- 叩く行動がなかなかやめられない場合で、発達障害の特性にあてはまる部分が、ほかにもあるなど、もしも心配なときには、自治体の障害福祉課や、子育て支援センターなど専門機関に相談してみるとよいでしょう。
編集者より
子どもに叩く行動がみられるとき、大人はその子に対して「悪い子」「困った子」というレッテルを貼ってしまいがちです。
また、同時にその子どもの保護者に対しても、「愛情不足なのでは?」「しつけができていない」という視線を向けてしまうケースが多くあります。
しかしながら、子どもの叩く行動には、さまざまな理由があり、それは子どもたちが成長している証拠でもあります。
保育士さんをはじめ、まわりの大人に必要なのは、子どもや保護者へのレッテル貼りではなく、子どもの成長をあたたかく見守り、適切なかかわりでそれを支えることなのではないでしょうか。
※漢字表記については、厚生労働省および政府広報などに合わせて「障害」と記載しておりますが、「障碍」「障礙」「障がい」とも表記されます。
参考文献・サイト
- 須賀義一著(2015)『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』PHP文庫
- 田中哲・藤原里美監修(2016)『自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本』学研ヒューマンケアブックス
- 田中康雄監修(2016)『ADHDのある子を理解して育てる本』学研ヒューmsんけあぶっくす
- 河野俊一著(2013)『子どもの困った!行動がみるみる直るゴールデンルール』新潮社
- MARCH(マーチ)『子供の噛む叩くは必ずしも問題行動ではない!子供の心理と親の対処法』(2018/8/1)
- 子どもが育つまち天白 天白子ネット天白子ネット『子どもの気持ちを尊重する子育て』
(2018/8/1) - SHINGA FARM『うちの子がお友だちを叩いた!親としてどうすべき?』
(2018/8/1) - 保育士おとーちゃんの子育て日記『相談「叩く子供の姿」vol.1』
(2018/8/1) - ベネッセ教育情報サイト『お友達を叩いてしまう。やめさせるには?[教えて!親野先生]』(2018/8/1)
- ベネッセ教育情報サイト『子どもが人をたたいてしまう…そんな時どうしたらいいの?』(2018/8/1)