東京のど真ん中、千代田区にある高層ビルの3階にある、保育所「HUTTE(ヒュッテ)」。明るい陽射しがさんさんと注ぐ、真新しい保育室では、階上のオフィスで働くパパ・ママ社員の子どもたちが、のびのびと過ごしています。
今回は、ヤフー株式会社の企業主導型保育所として、2018年7月に開所したばかりの「HUTTE(ヒュッテ)」を取材。開設に携わった友成 愛さんにお話をうかがいました。
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*シリーズ「保育ノゲンバ」は、保育施設や保育士・園長先生などにフォーカスし、保育の現場(ゲンバ)をお伝えするリポート取材連載です。
企業主導型保育所「HUTTE(ヒュッテ)」ってどんなところ?
今回「HUTTE(ヒュッテ)」についてお話をうかがったのは、開設を担当された、政策企画本部の友成 愛(ともなり あい)さん。まずは「HUTTE(ヒュッテ)」がどのような保育所なのか、その特徴をお教えいただきました。
園名「HUTTE(ヒュッテ)」に込められた思い
――「HUTTE(ヒュッテ)」という園名の由来はなんですか?
ヤフーには、山登りに関連した名前の施設がたくさんあるのですが、「HUTTE(ヒュッテ)」もそのうちのひとつです。
ヒュッテ(HÜTTE)はドイツ語で「山小屋」という意味です。子どもたちが集まって、楽しく過ごせる場所になることを願って、この名前を付けました。
テーマは「おはなしとどうぶつ」
――可愛らしくて、とても楽しいデザインの保育室ですね!
「HUTTE(ヒュッテ)」のテーマは「おはなしとどうぶつ」です。保育室の壁や天井などには、絵本によく登場する動物たちが描かれています。動物たちのイラストは、『どうぶつれっしゃ』の作者でもある、絵本作家でイラストレーターのしのだこうへいさんに描いていただきました。
500冊もの絵本がずらり!
――とてもたくさんの絵本がありますが、何冊くらいあるのでしょうか?
約500冊の絵本を配備しています。絵本の選書には公益財団法人東京子ども図書館にご協力いただいており、子どもたちの心をひきつける、すばらしい絵本作品を数多く取り揃えています。
絵本はヤフー株式会社の社員に貸し出しを行っていますので、「HUTTE(ヒュッテ)」に子どもを預けていない社員にも、自宅などに持ち帰って活用いただいています。
――「読み聞かせ」プログラムにも力を入れられているとお聞きしました
東京子ども図書館の先生方をお招きして、「HUTTE(ヒュッテ)」の保育士さんたちを対象に、研修を実施しました。東京子ども図書館で学んだ知識や技術を活かして、子どもたちに絵本の読み聞かせをしたり、わらべ歌を歌ったりしています。
都会の真ん中でも自然に触れ合えるお散歩コース
――高層ビルの中にある保育園ですが、戸外活動などはあるのでしょうか?
「HUTTE(ヒュッテ)」がある東京ガーデンテラス紀尾井町の敷地内には、野鳥などの野生生物が生息する広大な庭園があり、お散歩コースとなっています。コースにはビオトープもあって、トンボや蝶のほか、ホタルも生息しているんですよ!
――こんな都会でもホタルが見られるのですか!
都会の真ん中にある都市型保育所ですが、子どもたちの心と体の成長のためにも、自然と触れ合う時間を大切にしています。
子どもと一緒に通勤する保護者にやさしい「手ぶら登園」
――子どもと一緒に通勤電車に乗って出勤するというのは、大変なことだと思いますが、その負担軽減のために工夫されていることはありますか?
「HUTTE(ヒュッテ)」では「手ぶら登園」を導入していて、洋服やお布団などを保育所内で洗濯しています。希望する場合には、保育所でオムツを用意することもできます。
また、勤務時間を調整することもできるようになっているので、通勤ラッシュの時間帯を避けることも可能です。
我が子をはじめて預けるからこそ経験豊富な保育士さんを
――「HUTTE(ヒュッテ)」の保育士さんには、どのような方を迎えたいと考えられましたか?
子どもたちを預ける保護者は、はじめて我が子を預けるという方ばかりです。だからこそ、多くの子どもたちの保育を経験してきた、ベテランの保育士さんに来ていただきたいと考えました。
「HUTTE(ヒュッテ)」の園長である、安藤 明美(あんどう あけみ)先生は、認可保育園の園長を務められたこともある、経験豊富な保育士さんです。
内閣府の企業主導型保育事業への助成決定が開設のきっかけに
――そもそも保育所を設置しようと検討されたのには、なにかきっかけがあったのですか?
『保育園落ちた日本死ね!!!』と題したブログが話題になったのは記憶に新しいと思いますが、待機児童問題に注目が集まる中、2016年、内閣府が「企業主導型保育事業」に対して、助成金を支給することを決定しました。
一定の要件を満たせば、保育所を設置する際にかかる初期費用の4分の3が助成されますし、運営費についても、認可保育園並みの補助が受けられます。この制度がスタートしたことを受けて、働く社員の復職支援や、待機児童解消に役立てたいと、「HUTTE(ヒュッテ)」の開設を検討しました。
高い復職率の裏に隠されたパパ・ママ社員の「努力」
――貴社では保育所を開設する前から、子どもを持つ社員がさまざまな働き方を選択できるよう、制度が整っていますよね。
もともと産休・育休からの復職率も高く、2017年度は96.1%でした。ですから会社移転の際に「保育所が欲しい」という声が出た際にも、具体的に検討していませんでした。
内閣府の企業主導型保育事業への助成がスタートし、保育所開設を検討することになったとき、あらためて自社の現状について、調べました。
すると、ヤフー株式会社では年間に約250人(2014年度から2016年度の平均値)の子どもが生まれていることがわかりました。
――すごい人数ですね!そのなかでの復職率96.1%というのは、全国的にも高いように思えますが……
ヤフーの職場は、雰囲気も明るく、社員も皆フレンドリー。いわば「帰ってきやすい環境」にあるのですが、実は復職するために、多くの産休・育休取得者が、大変な努力をしているという実態が明らかになりました。
たとえば、保育園に入りやすい地域にわざわざ引っ越したり、授乳中でもムリをして職場復帰の時期を早めたり、配偶者に育休を延長してもらったり、あるいは自宅から遠い保育園に預けに行ったり……。
復職した後のサポートについては、さまざまな制度が整備されていますが、復職する「前」のサポートも必要だと感じました。
「HUTTE(ヒュッテ)」の存在が、社員の心の安定にもつながる
私自身、職場復帰するための保活に苦労しました。40園に見学に行き、25園に申し込みましたが、すべて落選してしまいました。やはり「保育園に入れない!」という状況になると、誰もが絶望的な気持ちになります。
どこにも入れなかった場合にも「HUTTE(ヒュッテ)」がある、そう思ってもらうことが、社員の心の安定にもつながるのではないかと考えています。
「負担の少ないスムーズな」復職率100%を目指して
――「HUTTE(ヒュッテ)」の開所から1カ月半が経ちましたが、これからどのようなことを目指していきたいですか?
復職率100%も、もちろん目指していきたいですが、安心して復職できるということも大切です。復職のためにわざわざ転居したり、搾乳しながら復帰したり……そういった”ムリ”や”負担”のない、スムーズな復職が実現できることがいちばん重要なのではないかと感じています。
編集者より
「共働きで家計を支えなくてはならない」「家庭を持っても社会に出て活躍したい」そう考える女性が増えた現代において、社員が産休や育休を取得するということは、決して珍しいことではなくなりました。
しかし、「職場復帰の大変さ」に着目して、働きやすい環境や制度を作ろうと努力している企業は、まだ多くはないのではないでしょうか。
保育所というハード面の整備だけでは「社員が安心して仕事と子育てとを両立できるようにしたい」という思いは実現できません。
社員が抱えている困難を洗い出したうえで、ソフト面を整えた「HUTTE(ヒュッテ)」の開設は、今後、企業主導型保育所開設を検討する企業にとって、ひとつのモデルとなる取り組みだと感じました。
今回、取材にご協力いただきましたヤフー株式会社の皆さま、「HUTTE(ヒュッテ)」の皆さま、誠にありがとうございました!
後編では「HUTTE(ヒュッテ)」の園長である、安藤 明美(あんどう あけみ)先生にお話をうかがいます。
※この取材記事の内容は、2018年8月に行った取材に基づき作成しています。