「学童保育」は、厚生労働省が管轄する「放課後児童健全育成事業」の取り組みの一端として行われている保育事業です。
日中、保護者が家にいない子どもに遊びや生活の場を与えて、健全な育成を促すことを目的としています。
それらの施設は一般的に学童クラブや児童クラブといった名前で呼ばれていて、小学校の敷地内や学校近くの児童館に併設されていることがほとんどです。
保育士さんの中には、転職先のひとつとして学童保育を検討したことのある方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、「学童保育指導員」として働くとはどういうことか? について詳しくご紹介します!
子どもにかかわる仕事の選択肢を広げたいという保育士さん、必見です。
学童保育指導員とは
学童保育指導員(学童保育士)とは、いわゆる「学童の先生」のこと。
放課後に通所してくる小学生の子ども達を保護監督する立場で、これまでは資格の有無・雇用形態に関わらず、学童保育に携わるすべての人をそう呼んでいました。
しかし、2015年に「放課後児童支援員」の資格が新設されてからは、学童保育指導員の中でもその資格を持っている人のことは放課後児童支援員と呼ぶようになっています。
資格の有無とそれによる呼び名が異なるだけで、仕事内容はどちらもあまり変わりません。
- 放課後児童支援員って?
- 保育の受け皿拡大と質の向上を目的として施行された「子ども・子育て支援の新制度」の一環として、2015年度より新しく創設された資格です。
この資格が生まれたことで、学童保育には2名以上の放課後児童支援員を配置することが義務付けられていました。
しかし基準を満たす人材の確保が難しかったことから、今後は有資格者の配置を義務ではなく「望ましい」とし、各自治体の裁量に任せる方針に変更されるもようです。
(参考)内閣府「第87回 提案募集検討専門部会 議事次第・配布資料」
学童保育は現在、全国に約2万4000か所以上設けられています。
共働き家庭やひとり親家庭が増えている中で利用児童の数も増え、今では117万人近い子供が学童保育で放課後の時間を過ごしています(厚労省資料より 平成29年度5月現在)。
1年間で考えると、小学校で過ごす時間よりも学童保育で過ごす時間の方が長くなるというデータもあります。
学童保育指導員の仕事内容
学童保育指導員の主な仕事は、「子ども達が安心して過ごせる場を提供する」こと。
夫婦共働きの家庭も珍しくない昨今。子どもは学校が終わってから保護者が仕事から帰ってくるまでの時間、家でひとりぼっちになってしまいます。小学校に進級しているとはいえ、まだ小さな子どもを長い間ひとりにしておくのはとても不安ですよね。
そこで、家を留守にしている親御さんに代わって子どもの世話をする……というのが、学童保育指導員の役割です。
学童保育指導員は子ども一人ひとりの活動や体調を細かくチェックし、その発達の特徴を理解した上でサポートします。
子ども達の安全を確保しつつ、宿題をしたり遊んだりして過ごす姿を見守り、何かあればすぐ保護者の方に報告して連携を取ります。
以下は学童保育指導員の一日の仕事の流れの一例です。
10~12時 | 出勤 |
13時~ | 子ども達が来所 |
13~15時 | 宿題、自由時間 |
15時 | おやつ |
15時半~ | 自由時間 |
17時半 | 子ども達が帰宅 |
18時 | 会議、雑務 |
19時 | 退勤 |
学童によっても異なりますが、一般的に放課後児童支援員の勤務時間は平日の昼~閉所まで、土曜日や長期休暇の際は朝~閉所までです。授業のある平日と、学校がお休みの土曜日や春・夏・冬の長いお休みの間も開設している学童保育が多いようです。
「放課後児童支援員」になるには?
学童保育の求人に応募して採用されれば、学童保育指導員にはなれます。
必ずしも資格を持っている必要はありませんし、パートやアルバイトとして学童保育に入るという選択肢もあるでしょう。
しかし、学童保育への有資格者の配置が自治体によっては義務付けられている現在、放課後児童支援員の資格を持っていた方が就職・転職には有利です。
そこで、ここからは「放課後児童支援員」になるための資格要件や資格のとり方などを解説します。
必要な資格
放課後児童支援員の研修を受けるためには、以下の資格を持っている必要があります。
- 保育士
- 社会福祉士
- 幼稚園教諭
- 小学校教諭
- 高卒以上で二年以上児童福祉事業に従事している ……など
保育士資格を持っていれば、放課後児童支援員の資格を取るための条件は満たしているということになりますね。
また、上記の資格を持っているだけでなく、幼児・児童に関わる福祉系の専門職やあるいはその仕事を長く続けている人であれば、放課後児童支援員研修の受講資格があります。
研修
放課後児童支援員の資格を取得するための都道府県認定研修は、放課後児童支援員としての役割について共通の理解を得たり、職務を遂行する上で必要な知識や技能を習得したり、その実践に際しての基本的な考え方などを認識したりしてもらうことを目的としています。
研修自体は各都道府県が主催し、研修の運営は資格学校などが担っていることが多いようです。
1回の研修日数は4~8日、期間は原則2~3か月以内とされていますが、県によっては2期に分けて行うケースもあります。
カリキュラムは以下の6分野16科目、1科目90分の計24時間です。
保育士資格をはじめ、すでに別の資格を所有している受講者は免除されるものもあるので、よく確認するようにしましょう。
- 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の理解
- □放課後児童健全育成事業の目的および制度内容
□放課後児童健全育成事業の一般原則と権利擁護
□子ども家庭福祉施策と放課後児童クラブ
- 子どもを理解するための基礎知識
- □子どもの発達理解
□児童期(6~12歳)の生活と発達
□障害のある子どもの理解
□特に配慮を必要とする子どもの理解
- 放課後児童クラブにおける子どもの育成支援
- □放課後児童クラブに通う子どもの育成支援
□子どもの遊びの理解と支援
□障害のある子どもの育成支援
- 放課後児童クラブにおける保護者・学校・地域との連携・協力
- □保護者との連携・協力と相談支援
□学校・地域との連携
- 放課後児童クラブにおける安全・安心への対応
- □子どもの基本的な生活面における対応
□安全対策・緊急時対応
- 放課後児童支援員として求められる役割・機能
- □放課後児童支援員の仕事内容
□放課後児童クラブの運営管理と職場倫理
参照:厚生労働省 放課後児童支援員に係る都道府県認定研修ガイドライン(案)の概要
研修の全科目を履修した人には都道府県から修了認定が行われ、全国共通様式の修了証が交付されます。
「都道府県名 放課後児童支援員認定資格研修」で検索してみよう!
元放課後児童支援員が研修を体験レポート!
放課後児童支援員になるために行われる研修ですが、「実際はどんなことするの?」「研修のポイントなどはある?」と気になる方も多いはず。
そこで、『保育のお仕事レポート』では、実際に研修を受けたことがある元学童保育指導員の研修体験レポートを掲載しています。ぜひ、研修を受ける前にチェックしてみてください!
子育て支援員「放課後児童コース」を受講して補助者として働く
また、「放課後児童支援員」の他にも、「子育て支援員」の制度を活用する方法もあります。
「子育て支援員」とは、「子ども・子育て支援新制度」に基づき制定された全国共通の認定制度です。
「基本研修 + 専門研修」を受けることで、「子育て支援員」に認定され、様々な子どもと関わるフィールドで働くことができます。
東京都が定めた研修(「基本研修」及び「専門研修」)を修了し、保育や子育て支援分野 の各事業等に従事する上で、必要な知識や技能等を修得したと認められる方のことです。 東京都より委託を受けた事業者が、「東京都子育て支援員研修」を実施し、東京都が本研修 の修了者を、全国で通用する「子育て支援員*」cccとして認定します。
(*国家資格ではありません。)
(引用)「東京都子育て支援員研修」パンフレット
こちらも、各都道府県が主催し、資格学校などが運営を担っているパターンが多いです。
必要な資格
研修を受けるにあたり、主催の都道府県に在住または子どもと関わる分野で在勤していれば、必要な資格や制限は特にありません。
「放課後児童支援員」の受講資格に当てはまらなかった場合は、こちらの制度を利用すると良いでしょう。
費用も原則無料です。研修会場への交通費、昼食代のみ実費負担となります。
開催場所によっては資料代が必要となりますが、詳しくは案内をご確認ください。
研修
学童で働きたい場合は、「子育て支援員」の「放課後児童コース」を受講し、修了することで、放課後児童支援員の補助者として働くことができます。
学童クラブ(保護者が就労等により昼間家庭にいない児童に対し、放課後等に適切な遊びや生活の場を提供する場)に従事する放課後児童支援員の補助者として、勤務する方向けのコースです。
(引用)東京都「子育て支援員研修」パンフレット
研修は、全コース共通の「基本研修」と放課後児童クラブについて専門的に学ぶ「専門研修」を受講します。
「基本研修」2日間、「専門研修」2日間の計4日間の研修です。
「保育士」、「社会福祉士」、「幼稚園教諭、正看護師、保健師の資格を持っており、日々子どもと関わる業務に就いている人」は「基本研修」は免除になります。
- 【基本研修】(8科目・9時間)
- 1.子供・子育てに関する制度や社会状況における子育て支援事業の役割を捉えるための科目
2.支援の意味や役割を理解するための科目
3.特別な支援を必要とする家庭を理解するための科目
4.総合演習
- 【専門研修】(6科目・9時間)
- 1.放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の理解
2.子供を理解するための基礎知識
3.放課後児童クラブにおける安全・安心への対応
4.放課後児童クラブにおける子供の育成支援
5.放課後児童クラブに従事する者として求められる役割・機能
「基本研修」と「専門研修」の最後には、それぞれ振り返りテストを行い、習熟度を確認します。
そうして、研修の全科目を履修した人には都道府県から修了認定が行われ、修了証が交付されます。
異業種から「これから子どもと関わる仕事に就きたいな」と考えている人にもお勧めできるホィ!
学童保育指導員の給料
実際の求人などを見てみると、学童保育指導員の平均月給はおよそ20万円弱。正規雇用であれば保育士の月給とさほど変わらない金額です。
それぞれに違う魅力と大変さがありますので、自分にはどちらの方が向いているのか考えるとよいでしょう。
また、今後学童保育の数が増えていくことになれば、それだけ「放課後児童支援員」の有資格者の需要は高まります。
そのときにはよりよい待遇の求人が出ることもあるかもしれません。
働くメリット、デメリット
学童保育指導員の魅力や働く上でのやりがいは、どのような点にあるのか見てみましょう。
メリット
- 子どもの成長を見守ることができる!
- 保育士や幼稚園教諭と同じように、学童保育指導員も子どもの成長を近くで見守る機会に恵まれています。その姿に喜びややりがいを感じる方も多いのではないでしょうか。
特に保育士経験のある方の目線に立つと、幼児とはまた違った形での子どもの発育を見守ることになるので、より幅広い知識や技能を身につけられるというメリットもあります。
- 勤務時間が短く、サービス残業も少ない
- 保育園の場合は保護者の方のお迎えがあるまで保育士さんも残っている必要がありますし、行事イベントの制作などで忙しい時期には持ち帰り残業なども発生する場合があります。
しかし、学童保育が対象とするのは小学生の子ども達。お迎えを待つのではなく、自分の足で家に帰れる年齢です。
そのため学童保育では閉所時間がしっかり守られており、残業する必要がさほどありません。
- 自分の「好き」や「得意」を活かせる
- 保育士は音楽・造形・運動など様々な能力が幅広く求められることも多いですが、「苦手なことよりも、もっと自分の得意なことを活かしたい!」と感じている方もいるかもしれません。
最近では特色のある学童も増えています。身体を動かすことが好きな方は普段の子ども達との外遊びの際に大活躍できることはもちろん運動に特化した学童へ就職したり、英語が得意という方は英語教育に力を入れている学童へ就職したりすることもできます。
デメリット
一方、学童保育指導員として働くにあたって苦労する点もあります。
- 多感な時期の子どもの対応が大変
- 手がかからないという意味ではメリットとして挙げられていた小学生の子ども達への対応ですが、乳幼児とはまた違った難しさがあります。
それは子ども達が思春期に差し掛かる年頃であるということ。反抗する子どもや暴言を吐く子どもがいたり、いじめがあったり……複雑な気持ちを汲んであげる必要があります。
編集者より
共働き家庭が増加の一途を辿る中、これから保育園だけでなく学童保育の需要も高まっていくと考えられます。
そうすれば学童保育指導員もその分だけ必要になりますし、有資格者や専門知識をもっている人は今よりも求められる人材となります。
学童保育で働きたいという保育士さんは、ぜひご自身のキャリアを広げる意味でも、資格取得や学童への就職を視野にいれてみてはいかがでしょうか?
参考文献・サイト
- 保育士くらぶ「学童保育士(学童保育指導員)とは?給料や年収、仕事内容、必要な資格を解説!」(2018/10/04)
- 就活の未来「【学童保育指導員に必要な資格とは】詳しい仕事内容から取得すべき資格までを大公開!」(2018/12/03)
- 株式会社明日香「放課後児童支援員になるには?資格の取り方や仕事内容について解説」(2019/02/13)
- 学童保育.com「放課後児童支援員について」(2019/02/14)
- TBSラジオ「学童保育指導員が置かれている現状」(2019/02/14)
- 給料BANK「学童保育指導員の給料年収や手取り額、初任給を解説!」(2019/02/20)
- 厚生労働省「放課後児童クラブの概要」(2019/05/13)
- 厚生労働省「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(2019/05/13)
- 時事ドットコム「学童保育の職員配置緩和=分権一括法案を閣議決定」(2019/05/13)
- 東京都「子育て支援員にテンシン!」(2019/05/13)
- 公益財団法人 東京都福祉保健財団「子育て支援員研修事業」(2019/05/13)
- LEC東京リーガルマインド「東京都子育て支援員研修事業」(2019/05/13)