「あれ…このアザもしかして…」
保育士さんは家庭における虐待の早期発見という重要な役目も負っています。毎日長時間子どもたちに接する中で、小さな異変から虐待に気付くこともあるかもしれません。しかし中には「判断に自信がない…」などその対応について苦悩される声も…。今日は保育士さんが、子どもたちの虐待のサインに気付くためのポイントと対処法についてお伝えします。
虐待には4種類ある!定義と今の現状を知ろう
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虐待と言ってもその種類はさまざま。具体的には下記の4種類が挙げられます。
◆虐待の4つの種類◆ | |
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身体的虐待 | 殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、 やけどを負わせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど |
性的虐待 | 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、 性器を触る/触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなど |
ネグレクト | 家に閉じ込める、食事を与えない、不潔にする、 車内などに放置する、病気でも病院に連れて行かないなど |
心理的虐待 | 言葉による脅し、無視、兄弟姉妹間での差別的扱い、 目の前で家族に暴力をふるう(DV)など |
虐待はまれなケースではありません。厚生労働省によれば、平成24年度の児童相談所の虐待相談対応件数は、児童虐待防止法施行前(平成11年度)の5.7倍!年間66,701件もあり、また同年度、虐待で99人もの子どもの命が奪われています。
虐待に気づくためのポイントとは?
日中、保護者と離れた状態の子どもたちと長時間過ごす保育士さんは、時に虐待に気づく”要”となることもあります。ここでは子どもと保護者それぞれの様子から、気付きのポイントをご紹介します。
子どもの様子から虐待に気付くポイント
- ◆外傷や病気◆
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・多数の打アザや傷がある。
・こめかみ、目、首、うで、腹部、背中、ももなどケガをしにくい場所の外傷。
・アイロンやたばこが原因と思われるヤケドをしている。
・性器や肛門のまわりの外傷がある。
・ケガが繰り返し起こる。
- ◆発育や発達の遅れ◆
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病気以外で低身長や低体重など身体発達面での遅れがみられる場合、十分な食事や栄養が与えられないことが原因である場合があります。虐待のストレスから成長ホルモンの分泌に影響を与えることもあります。
また、親との関わりがないために言葉などの知的発達に遅れが出る、外で遊ぶことが極端に少なく歩行機能が不十分というケースもあります。
- ◆子どもの不自然な様子◆
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・服や体が清潔でない、着替えや入浴がほとんどされていない。
・着替えを嫌がるなど衣服を脱ぐことに異常な不安を見せる。
・表情や反応が乏しい、無気力。
・給食の残り物など食べ物に固執する。
・親に対しておびえた態度をとる。帰宅を嫌がる。
・体に触れようとすると身構えたり、嫌がる。
・大人の動きをじっと目で追うなど、警戒心が強い。
・自分より弱い子に威圧的な態度をとったり、暴力を振るう。
保護者の様子から虐待に気付くポイント
- ◆子どもに対する態度◆
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・接し方が乱暴で威圧的、体罰を肯定する。
・子どもに対して拒否的であったり、冷たい。
・子どもに対し無関心もしくは過度な依存がある。
・病気やけがをしても治療を受けさせていない。
- ◆親自身の態度◆
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・感情的になることが多く精神的に不安定。
・被害者意識が強い。
・子どもの園での様子に関心を示さない。
・アルコール依存や精神疾患が疑われる。
- ◆他者に対する態度◆
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・子どもや家族のことを話すことを嫌う。
・懐疑的・攻撃的であり人間関係を築くのが困難。
- ◆保護者の置かれた状況◆
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・夫婦仲や祖父母との関係が良くない。
・両親のうち一方が失業中など、経済的に苦しい。
・親しい隣人や親戚が近くにおらず、周囲から孤立している。
・家庭訪問の際に室内が片づけられていない。
・近所から「怒鳴り声が聞こえる」などの情報がある。
虐待かもしれないポイントを見つけたら…
不自然な点を見つけた際には冷静に分析する目が必要です。落ち着いて状況を観察するとともに記録をとり、施設内で相談しあう、児童相談所に連絡をするなどの行動を早めにしましょう。
子どもたち…保護者…どう接したらいい?
子どもに安心感を与えることが大切
子どもから虐待を受けていることを訴えることはまれであり、子どもが「話したことでもっと虐待を受けるのではないか」「自分が悪い子だから叩かれるんだ…」などと思っているケースも多くあります。まずは保育施設は安心できる場所であり、保育士は守ってくれる人であるという安心感を伝えることが大切です。
- ◆子どもが虐待の事実を訴える場合は…◆
- ・他の子どもに聞かれない静かな場所を選びましょう。
- ・大勢でなく1人~2人で聴くのが威圧感を与えないポイントです。
- ・誘導的な質問はせず、どうしてケガをしたかなど答えやすい聞き方をしましょう。子どもは保護者を大切に思っているため批判的な表現は避けましょう。
- ・嘘があっても問い詰めたり無理に事実を引き出すのはNGです。子どもが悪くないこと、話をしてくれたことへの感謝を伝えてあげましょう。
保護者も苦しんでいることも…
虐待の背景には保護者の子育てへの不安や苦悩があることが多いものです。事実を無理に引き出したり、一方的に非難、指導をすることは反発を招き、関係が遮断されて子どもの心身の危険を大きくしてしまうことも…。子育てのつらさや頑張りを認め、共感的態度で接することが大切です。
保護者が誰にも相談できずに孤立している場合もあるので、何でも相談に乗るという姿勢を見せましょう。子育てのスキルに関してのアドバイスなどが、潜在的な虐待へのリスクを軽減することもあります。
虐待を疑ったら疑いの段階で”通告”を!
虐待が疑われる場合は子どもを心身の危険から守るためにも、疑われる段階で児童相談所に通告を行います。通告は電話でも構いません。市役所や福祉事務所に相談するのも良いでしょう。通告や相談は施設長などに相談し、可能ならば施設として行うようにしましょう。
保育施設として通告を行った場合、虐待を通告した旨を保護者に伝えてほしいと協力を要請される場合があります。対応については、施設長などの上席が対応を行うのがよいでしょう。保護者が暴力的であれば事前に児童相談所や警察に相談しておくことも必要です。
・児童虐待防止法では、疑いがある場合でも通告する義務があること
・児童相談所は子どもと家族を援助する機関であること
・保育所としては今後とも子どもと家庭を支援していくこと
- 《参考:全国各地の虐待通告窓口》
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◆ 児童相談所全国共通ダイヤル(TEL:0570-064-000)
……近隣の児童相談所に電話をつないでくれる総合窓口です。◆ 平成25年度全国児童相談所一覧→ 詳細はコチラ
◆ 内閣府|児童虐待等の相談・通報窓口→ 詳細はコチラ
通告に抵抗感がある…判断に自信がない…お悩みQ&A
- “通告”というとハードルが高く感じます…
- とても責任が重く難しいイメージがありますが、通告とは児童相談所などに、援助が必要な子どもがいることを連絡することです。匿名、手紙、電話でも通告が出来ます。どうしても敷居が高く感じる場合は、虐待かどうかの判断や対応についての相談をしてみても良いでしょう。
- 家庭事情を密告するようで抵抗感があります…
- 虐待を行う保護者には、子育てがうまくいかず苦しんでいる方もいます。通告を”虐待行為の告げ口”ととらえずに、子育て支援の必要な保護者に対する援助を求めることだと、考えてみてはいかがでしょうか。
- 虐待と判断してよいか自信がなくて…
- 保育士さんが逆地の照明を行う必要はありません。間違っていたら…という不安や、疑うこと後ろめたさよりも子どもたちの安全を優先させましょう。
- 施設長などから通告しないでよいと言われたけれど…
- まれなケースではありますが、虐待が疑われる場合の通告は「義務」です。内部では通告しないことにしたが、個人として放っておけないこと、相談したことは秘密にして欲しいことを伝えれば情報が伝わることはありません。場合によっては児童相談所が後方支援というかたちで保育施設や保育士さんをサポートする場合もあります。
- 自分が通告したことは保護者などに知られるの?
- 通告者の保護は法律で定められており、市町村や福祉事務所、児童相談所が通告した人が特定される情報を漏らすことはありません。
編集者より
子どもの心身に深い傷を負わせる虐待…。的確で繊細な対応を求められる保育士さんにとって最も大切なことのひとつは「一人きりで抱え込まない」ということでしょう。
心が痛む虐待事件が多い今…子どもたちを虐待から守るため日々奮闘されている保育士さんも大勢いらっしゃいます。虐待の疑いが頭をよぎったら、一人で悩まずに上司や施設長、児童相談所などへ相談することで、子どもたちはもちろん、ご自身のことも守ってあげるようにしてくださいね。
子どもたちが傷を抱えることなく、健やかに育っていけることを願っています。