新たな年の訪れを祝い、一年の健康と幸せを願う日本の伝統行事「お正月」。
家族とおせち料理を囲んだり、お年玉をもらったり、凧揚げやコマ回しなどで遊んだり……日本のお正月にはさまざまな風習があります。
ですが、お正月の風習に込められている意味やその起源、由来について知っているという方は、実はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。
「お正月ってなあに?」「どうしてみんなでお祝いするの?」
そんな疑問が子ども達から出てきても、しっかり答えられるようにしておきたいですよね。
今回の記事では、子ども達に伝えたいお正月の由来や伝統的な遊びの紹介、ねらいの設定や言葉かけアイデアなど、保育に活かせる情報をたっぷりご紹介していきます!
そもそも「お正月」ってどんな行事?
「お正月」は、1年の幸福をもたらすためにやってくる「年神様(としがみさま)」を、それぞれの家庭でお迎えする行事です。
昔の日本人がたくさんの幸せを授けてもらうために、年神様をお迎えしてさまざまなおもてなしをしたことが、お正月の風習として今に至るまで残っています。
日本において、もっとも古い年中行事とされる「お正月」。
起源にはまだ解明されていない部分が多くありますが、6世紀なかばにはすでに存在していたと言われています。
「お正月」はいつまで?
元々「正月」は1月を表す言葉でしたが、現在では正月行事を行う期間を指すようになっています。
一般的には「松の内」や「小正月」までを「お正月」として、この期間内に一連の正月行事を行います。
正月にまつわる言葉 | |
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元日(がんじつ) | 1月1日のこと。「元旦」はこの日の朝を指す |
三が日(さんがにち) | 1月1日~3日までの期間のこと |
松の内(まつのうち) | 1月1日~7日までの期間のこと |
小正月(しょうしょうがつ) | 1月1日~15日(地域によっては20日)までの期間のこと |
保育園での「お正月遊び」のねらいは?
羽根つきや凧揚げ、福笑い……お正月ならではの遊びにはさまざまな種類があります。
お正月が近くなると、こうした「お正月遊び」を保育に取り入れようとする園も増えてきますよね。
保育園で「お正月遊び」を行うのは、子ども達に遊びながら日本の伝統・慣習を教えるため。
昔からの行事や遊びを通じて、子ども達に日本の文化を受け継いでいくねらいがあるからです。
子ども達と楽しもう! お正月遊び
お正月遊びにはさまざまなものがありますが、その一つひとつに由来や意味があります。
ここでは保育園でも取り組めるお正月遊びについて、どのようなものがあるのかを見ていきましょう。
子どもの無病息災を願う【羽根つき】
羽根つきは1年の厄をはね、子どもの健やかな成長を願う遊びです。
元は「羽に硬貨をつけたものを蹴る」遊びで、室町時代に中国から伝来したと言われています。
2人でバドミントンのように羽根をつきあう「追羽根」と、1人で続けて羽根をつく「つき羽根」があります。
羽子板を使い、羽根を落とさずに長くつければ勝ち。羽根を落とすと顔に墨を塗られてしまいます。
羽根つきに使われるムクジロの実は「無患子」と書くため、子どもの無病息災を願う験担ぎとして、子どもの初正月に羽子板を贈る風習が生まれたとか。
失敗したとき顔に墨を塗るのも、魔よけのおまじないの意味があるそうです。
高く上がるほど元気に成長!【凧揚げ】
凧揚げは江戸時代ごろ、男の子の誕生祝いとして親しまれていた遊びです。凧が高く上がるほど子どもが健やかに成長すると言われています。
平安時代に貴族の遊びとして伝来しましたが、元は中国にルーツを持つもので、占いや戦いの道具として使われていたのだとか。
上手に風に乗せて、凧を空高く揚げるのが一般的な遊び方です。
そのほかにも、凧同士をぶつけて相手の凧を落とす「凧合戦・凧喧嘩」という遊び方もあります。
日本では「立春の季に空に向くは養生のひとつ」といわれていたことから、昔は立春に凧揚げをしていたとされています。
笑う門には福来る【福笑い】
明治時代ごろからお正月の遊びとして定着している福笑い。
その起源についてはわかっていない部分も多くありますが、新年の幸福を願い、縁起物であるおかめやひょっとこの顔を用いて親しまれるようになったと言われています。
おかめやおたふく、ひょっとこなどをかたどった輪郭の上に、目や鼻、口といった顔のパーツを目隠しした状態で並べます。
そうしてできあがった面白いおかめの顔を笑い、楽しむ遊びです。
視界を遮られている中で「より正確に顔を組み立てた人」「よりおもしろい顔を作った人」など、ルールを決めて遊ぶと楽しいですよ。
集中力アップにも……【お手玉】
奈良時代ごろからすでに親しまれていたとされているお手玉。
袋の中に小豆や大豆を入れる現在の形になったのは江戸時代だと言われています。
小豆などが入った布製の玉を複数宙に投げて、それを左右同時に投げてキャッチしたり左右に持ち変えたり、手の甲で受け止めたりして遊びます。
おじいちゃん・おばあちゃんが孫に教えるなどして、世代を超えて遊べるため、お正月には広く楽しまれてきました。
手先を使うお手玉遊びは、脳を刺激して集中力をアップさせてくれる効果も期待できるのだとか。
強くたくましい男の子になるように【コマ回し】
まっすぐに芯が通ったコマはよく回ることから、「お金がまわる」「ものごとが円滑にまわる」こととかけて縁起物とされています。
日本には奈良時代ごろ、中国から伝来してきました。
軸の部分に巻いた糸を勢いよく引き、こまを美しく、長く回転させます。
相手のこまと自分のこまとをぶつけあう「喧嘩ごま」などの遊び方もあります。
回る時間の長さを競ったり、ぶつけ合って強さを競ったりすることから、男の子に「強くたくましく育ってほしい」という願いも込められています。
幸せな1年を願って……【だるま落とし】
転んでも起き上がることから縁起物とされているだるま。
お正月に新年への願いを込めて新しいだるまを買い、前年のだるまを供養するのが慣わしになっています。
しかし、だるま落としのだるまは起き上がれません。
そのため、転ばないように=新たな1年に災いや困難がないように、と願いを込めて遊ばれるようになったと言われています。
積み木の上に置かれただるまが転ばないようにしつつ、木づちで下段の積み木を飛ばして落としていきます。
最後までだるまが転ばなければ、その一年は困難のない幸せな年になる……そんな願掛けの意味も込めて、お正月に遊ばれているようですね。
大勢で楽しめる【すごろく】
すごろくは奈良時代に日本に伝わったと言われる遊びです。
もともとは2人で相手の陣に攻め入る早さを競う「盤すごろく」が主流でしたが、次第に旅や人生にかけた「道中すごろく」「出世すごろく」などが広く親しまれるようになりました。
順番にサイコロを振って、出た目の数だけコマを進めます。もっとも早くゴールにたどり着いたら勝ち。
順番やルールを守りながら遊ぶすごろくは、社会性を身につけるのにぴったりな遊びです。止まるマス目ごとにお題やイベントなどを書き込んだオリジナルのすごろくを作ってみるのもいいですね!
保育園でわくわく制作! お正月を楽しむ工作
お正月の雰囲気を楽しむ方法は、お正月の伝承遊びだけに限りません。
子ども達みんなで力を合わせて工作するのも、新年の幕開けとして素敵な思い出になること間違いなしですよ!
お正月の壁面装飾を作ろう!
見るたびに華々しくハッピーな気持ちになれる、新年のお祝いをイメージした壁面装飾を作ってみましょう。
ここではお正月のキーアイテムのひとつ、鏡餅の装飾の作り方をご紹介します!
台座をつくる
茶色の画用紙を四角に切って、鏡餅をのせる台座を作ります。
台座の足部分は太めに、大部分は細い長方形に切るのがポイント。赤と白の三角形をふたつ重ねて飾ると、ますます雰囲気が出ます。
お餅をつくる
白い画用紙から、大小異なる2つの楕円形を切り出します。
それを重ねて貼りつければ、あっという間にお餅の完成です!
オレンジの画用紙を丸く切ってみかんにすると、もっと可愛くなります。
手作りすごろくで遊ぼう!
園児一人ひとりを登場人物の「コマ」にしたり、子ども達が夢中になっていることをゲームとして取り入れたりしながら、オリジナルのすごろくを作ってみるのもおすすめです。
すごろくボードをつくる
まずは舞台となるすごろくボードを作りましょう。
園庭から教室まで戻ろう! など、すごろくのテーマを決めたら、最初にスタートとゴールの位置を画用紙に描き入れます。
あとはテーマに沿って、スタートとゴールを繋ぎながらマスを作っていきます。途中のマスに【一回休み】【〇〇の歌をうたう】【〇〇先生のまねっこをする】などのイベント・ゲームを書き込むと面白いですよ。
コマをつくる
次に、ボード上で動かすコマを作ります。すごろくボードのマスに合わせたサイズで作りましょう!
まず画用紙を細長く切ったら、中央部で山折りにします。続いて、地面に接する部分を5mmほど谷折りにします。
最後に目印となるシールを貼ったり、絵を描いたりしたら完成です!
お正月を楽しむための言葉かけ例文集
保育園で正月行事を行うのは、子ども達に新年を迎える晴れやかな気持ちを感じてもらいながら、お正月の伝統を楽しく学んでもらうため。
そのためには、保育士さんから子ども達に向けた「温かい声かけ」も重要です。
年末年始の時期、どんな言葉をかけてあげたらいいのか、その一例をご紹介します。
まずは基本のあいさつ!「あけましておめでとうございます」
新しい年になることを「年が明ける」ということから、お正月には「あけましておめでとうございます」と新年のあいさつをかわします。
大人にとっては常識であるため見落としがちですが、実はこのフレーズ、小さな子どもにはあまり馴染みがないのではないでしょうか?
「あけましてってなぁに?」「どうしておめでとうなの?」という素朴な疑問に答えつつ、お正月に会うであろうおじいちゃん・おばあちゃんにしっかりあいさつできるよう、練習させてあげてくださいね。
年賀状やお年玉……お正月の慣習を教えよう!
子ども達の家に届く年賀状や、各家庭でさまざまな形で渡されるお年玉など、お正月にまつわる慣習や飾りがどのようなものかを伝えていくのもいいでしょう。
由来を話し聞かせる際には「むかしむかし……」と昔話のような語り口にするなど、子どもたちの関心をひく工夫ができると素敵ですね。
主な正月行事の由来 | |
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お年玉 | 年神様の魂が宿るとされる鏡餅の餅玉を、家長が家族に分け与えたのが由来。 現在はおこづかいを渡すのが一般的になっています。 |
門松 | 年神様が迷わずにやってこれるよう、古くから神を待つ木とされる松を目印として玄関前に飾ります。 1月1日~7日までの門松を飾る期間を「松の内」といい、年始のあいさつや年賀状のやりとり、初詣などもこの期間に行われます。 |
おせち | 神様にお供えする料理という意味の「御節供(おせちく)」が略されたもの。 福を重ねる、という縁起を担いで重箱に詰められているのが特徴で、それぞれの品目にもおめでたい意味や願いが込められています。 |
「今年がんばることを決めよう!」1年の抱負づくり
お正月は新しい1年の始まりをお祝いする行事でもあります。
特に年長さんが相手であれば、「今年一年の目標を墨で書く」書き初めに挑戦してもいいかもしれませんね。
子ども達がどんなことをがんばりたいと思っているのか、何を目指しているのか、みんなで発表しあうような形を提案するのもいいでしょう。
お家のお手伝いをする、泳げるようになる、毎日早起きする、転んでも泣かないように我慢する……などなど、どんなことでもいいので子ども達に考えてもらいましょう!
「初夢」の話題は冬休み前後で切り口を変えて
初夢はその名の通り、新年を迎えて最初に見る夢のこと。
古くは「一富士、二鷹、三なすび」といって、日本一高い山である富士山、空高く飛ぶ鷹、当時の高級品だったなすの夢を見ると縁起がいいとされていました。
冬休みの前であれば「どんな初夢が見たいか?」、冬休み明けであれば「どんな初夢を見たか覚えているか?」少し切り口を変えて声をかけてみるとよいですね。
子ども達のユニークな想像を聞き出したり、休みのうちに見た夢の意味を考えたりして楽しみましょう!
編集者より
新年を迎えると、いつもと同じ朝の光も空気も、まるで新しく生まれ変わったかのような印象をうけるもの。
「あけましておめでとう」と互いに言い合いながら、心も新たに「また今年も頑張ろう」という前向きな気持ちになれるから、不思議なものです。
旧年を無事に過ごせたことに感謝し、新たな1年、健康で幸せであるように願う「お正月」。
人々が昔から受け継いできたこの美しい伝統を、子ども達にもぜひ伝えていきたいものですね。
皆さまと皆さまが大切に思うすべての方に、新たな1年もたくさんの幸せが訪れますように……。
参考文献・サイト
- All About オールアバウト暮らし『正月行事の由来と過ごし方』(2018/12/20)
- 旬の話題『お正月とは? 本来どんな行事なのか?』(2018/12/20)
- 日々是活き生きー暮らし歳時記『お正月』(2018/12/20)
- 『年齢別 行事ことばかけハンドブック』世界文化社(2015/05/10)