保育士としての働き方には、正規職員(正社員)やパートタイマーなどさまざまな選択肢がありますが、近年では新しい選択肢として「派遣保育士」という働き方が注目されています。
オフィスワーカーなどの間では、すでに広く知られている「派遣」という働き方。
ですが「派遣雇用の保育士さんって、どんな働き方なの?」「ほかの保育士さんたちと、いったいどんな違いがあるの?」など、保育業界における派遣のイメージがわかない方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「派遣保育士」について、ほかの働き方との違いや、派遣ならではのメリット・デメリットなどを詳しくご紹介します!
そもそも「派遣」ってどういう働き方なの?
そもそも「派遣」という働き方は、正規職員やパートとは何が違うのでしょうか。
まず、派遣保育士の雇用主は人材派遣会社です。
正規職員やパートは保育施設を運営する事業者に直接雇用されますが、派遣の場合は園と派遣契約を結んでいる人材紹介会社の職員として園に派遣されることとなります。
保育施設は、派遣保育士に対して業務上の指示や管理を行います。
しかし勤怠の管理や給与の支払い・福利厚生制度などは、人材派遣会社が行うこととなります。
そのほか、期限の定めなく人材派遣会社に雇用される「無期雇用派遣」や、派遣先での将来的な正規雇用を前提とした「紹介予定派遣」などがあります。
「紹介予定派遣」の場合には、派遣保育士として最長6ヶ月勤務ののち、園と労働者双方が合意すれば、派遣先の保育施設に雇用されることとなります。
正規職員・パート・アルバイトとの違い
派遣という働き方のもっとも大きな特徴は、雇用主が人材派遣会社となることですが、もちろんそれ以外にもさまざまな違いがあります。
派遣 | 正社員・パート・アルバイト | |
---|---|---|
雇用主 | 人材派遣会社 | 保育園等の運営母体となる事業者 |
給与の支払い | 人材派遣会社 | 保育園等の運営母体となる事業者 |
雇用期間 | 有期雇用 (原則3年が限度) |
正社員:無期雇用 パート・アルバイト:有期雇用 |
社会保険、福利厚生 | 人材派遣会社の規定が適用 | 保育園等の運営母体となる事業者の規定が適用 |
業務上の指揮命令 | 保育園など派遣先の職場 | 保育園などの職場 |
基本的に有期雇用であることに注意
雇用主の違いとあわせて、派遣保育士の働き方で特徴的なのは、基本的に期間の定めのある「有期雇用」であるという点です。
3ヶ月/6ヶ月/1年間など、契約期間は人材派遣会社と園との取り決めによって異なります。
更新の可能性もありますが、2015年における派遣法改正によって、同じ事業所で3年を超えて派遣保育士として働き続けることは基本的にできなくなりました。
継続して3年以上派遣される見込みとなった場合、人材紹介会社には次のような雇用の安定を図るための措置をとる義務があります。
- 派遣先への直接雇用の依頼(派遣先の園が同意すれば、派遣先の職員となる)
- 新たな派遣先の提供
- 派遣元での派遣労働者以外としての無期雇用
- その他雇用の安定を図るための措置(紹介予定派遣の対象となることなど)
「数年間のうちに職場や働き方が変更となる可能性がある」ということは、派遣という働き方の特徴としてしっかり抑えておきましょう。
【仕事内容】基本的にほかの保育士と変わらない
派遣保育士として働くうえでは、業務内容の違いも気になることでしょう。
基本的には園の直雇用の保育士であっても派遣保育士であっても、保育士としての業務内容はほとんど変わりありません。
ただし有期雇用であることや、時短勤務など保育士さんの希望する働き方にあわせて働く場合が多いことなどから、パートタイム・アルバイト雇用の保育士さんに近い業務内容を担当するケースが多いようです。
「紹介予定」などの場合には責任ある業務もできる
基本的に有期雇用となる派遣保育士ですが、「紹介予定派遣」など、ゆくゆくは事業者(園)の直雇用となる可能性がある場合はクラス担任など責任あるポジションを任せてもらえることもあるでしょう。
突発的な残業などは少ない
業務内容は事業者に雇用されたほかの保育士さんとあまり変わらないものの、給与の支払いや勤怠管理を人材派遣会社が行っているため、派遣保育士の場合は突発的な残業や、労働契約にない持ち帰り業務などは少ない傾向にあります。
【待遇】給与は一般的なパートより高め!
続いて、派遣保育士のお給料水準についてチェックしてみましょう。
現在「保育のお仕事」に掲載されている求人759件の時給情報をもとに算出すると、派遣で働く保育士・幼稚園教諭の給与情報は次のとおり。
派遣保育士の給与情報 | |
---|---|
平均時給 | 1,249円 |
最高時給 | 1,500円 |
最低自給 | 1,000円 |
いっぽう、正規雇用の求人(7,278件)の給与情報は次のとおりです。
平均月給 | 19.8万円 (22日勤務/8時間勤務の場合の時給:1,125円) |
最高月給 | 38万円 (22日勤務/8時間勤務の場合の時給:2,159円) |
最低月給 | 11万円 (22日勤務/8時間勤務の場合の時給:625円) |
また、非常勤・パートの求人(1,469件)の給与情報は次のとおりです。
平均時給 | 1,036円 |
最高時給 | 1,900円 |
最低自給 | 800円 |
経験やスキルによって派遣として働く際の給与水準は変わってきますが、一般的に派遣保育士の平均時給は高めであると言えるでしょう。
(※:所定内給与額/千円単位で四捨五入)
全体的に見ても、派遣保育士さんの時給の水準はよいと言えるね!
派遣の場合、賞与は基本的に支給されない
注意しておきたいのは、基本的に派遣保育士の場合には賞与(ボーナス)の支給はないということです。
そのため、時給ベースでの給与水準は正規職員と同等でも、賞与を含んだ年収となると正規雇用の保育士さんよりも水準が低くなるケースがほとんどでしょう。
もしも残業が発生したら……?
残業は基本的に少ない派遣保育士ですが、もしも残業が発生した場合には、人材紹介会社からきちんと残業代が支給されます。
これは、保育士さんの派遣が園(事業者)と人材紹介会社との契約に基づくものであるため。
何分刻みでタイムカードを記載するのかなど、人材紹介会社によって細かな違いはありますが、「サービス残業ばかりで残業代が支払われない!」ということは基本的にないので安心して働けるでしょう。
【働き方】ライフスタイルにあわせて選べる
派遣保育士という働き方には、「保育士さんの希望するライフスタイルにあわせて働ける」という特徴があります。
「子どもがまだ小さくて、時短での勤務しかできない」「土日にシフトに入ることができない」「自宅の近隣で働きたい」といった場合でも、人材派遣会社に相談のうえ、できるだけ希望に沿った案件を紹介してもらえるでしょう。
有給休暇や産前産後休暇などの取得も可能
人材派遣会社ごとの労働条件によって異なりますが、
- 雇用契約から6ヶ月以上同じ職場に継続して勤務している
- 同じ人材派遣会社から就業している
- 全労働日の8割以上勤務している
など一定の条件を満たしていれば、派遣保育士であっても有給休暇が付与されます。
利用する場合には派遣先である園と相談のうえ、人材派遣会社にも報告することが必要ですが、有給の取得も可能であることは覚えておくとよいでしょう。
また、所定の条件を満たす必要はありますが、産前・産後休暇を取得することも可能です。
ほいくん;派遣契約には定められた契約期間があるため、休暇の取得を希望する場合や、将来的に取得する場合の対応について知りたい場合には、あらかじめ人材派遣会社に確認しておくと安心だホィ。
ブランクありでもOK? 派遣保育士として働く条件
派遣保育士として働くためには、基本的には保育士資格や幼稚園教諭等の資格が必要です。できれば保育士として働いた経験があると、お仕事が決まりやすくなるでしょう。
ただし、保育補助の募集などの場合で「未経験可」とされている場合には、保育現場での実務経験がないようなケースでも働ける場合があります。
まずは人材派遣会社に、自分の保有する資格や経験などを伝え、仕事の紹介を受けることができるかどうか、確認してみるとよいでしょう。
また「ブランクはあるけれど、保育士として長年勤務していた」という方は、即戦力として活躍することも可能。
いきなりの長時間勤務が不安な場合は、短時間勤務からスタートするなど、希望を伝えたうえでお仕事探しをしていくとよいですね。
派遣保育士として働くメリット・デメリット
ここまで「派遣保育士」という働き方について、その特徴を紹介してきました。
なかには「特徴はわかったけれど、自分に向いているのかどうかわからない……」と感じた保育士さんもいらっしゃることでしょう。
ここで、派遣保育士として働くうえでのメリットとデメリットを改めてまとめてみましょう!
派遣保育士として働くうえでの7つのメリット
派遣保育士として働くメリットは、主に7つ。
【1】柔軟性のある働き方ができる
正規職員として働くことが難しい場合でも、保育士として活躍するチャンスがあります。
【2】残業や持ち帰り業務が少ない
人材紹介会社と事業者(園)との派遣契約があるため、残業や持ち帰り業務は少なく、残業代もきちんと支給されます。
【3】人材紹介会社のサポートがある
職場の労働環境などに困った場合などは、人材紹介会社に相談することができます。人材紹介会社によっては、保育士さん向けのスキルアップ研修などを独自に行っていることもあります。
【4】パート・アルバイトに比べて時給がよい
一般的なパート・アルバイト契約と比べて時給が高めのため、安定した生活基盤を整えやすいと言えるでしょう。
【5】人間関係に縛られない
基本的には有期契約となるため、契約期間満了をもって職場を変えるということも可能です。自分にあった職場をじっくり探すという選択もできるでしょう。
【6】さまざまな経験が積める
派遣先は保育所だけでなく、認定こども園や小規模保育事業、企業内保育などさまざまです。
短期で職場を移るなかでは、個性的な保育理念に触れたり、すばらしい保育者に出会ったり……と刺激を受けることも多いでしょう。
【7】じっくりキャリアプランを検討できる
「派遣」というと一般的にキャリアアップから遠ざかってしまうイメージもあるかもしれませんが、「自分がどのような保育をしていきたいのか」「どんな生き方をしていきたいのか」について定期的に見直す機会があることは、派遣として働くうえでのひとつのメリットです。
派遣保育士として働くうえでの5つのデメリット
一方、注意しておかなくてはならない点もあります。
【1】契約期間に限りがある
先にもお伝えしたとおり、派遣契約には一定の契約期間があります。
気に入っていた職場でも、契約期間満了とともに離れなくてはならないケースもある……ということは念頭に置いておきましょう。
また、派遣という働き方が気に入っていても、慣れ親しんだ職場で働き続けるために雇用形態を変更しなくてはならない場合もあります。
【2】「派遣されている」というプレッシャーも
事業者が直接雇用しているのとは異なり、派遣保育士は事業者(園)の依頼にもとづいて、人材派遣会社が派遣するスタッフです。
万が一勤務態度がよくない場合や、欠勤が目立つ場合などには、人材派遣会社の信頼にも関わるという意識を持たなくてはなりません。
【3】対等な人間関係を築きにくい
雇用主が異なることや給与水準が異なること、また任される仕事の範囲などから、ほかのスタッフとの間に「壁」を感じてしまうこともあるかもしれません。
【4】年収ベースでなかなか収入が上がらない
派遣契約の場合には賞与がないため、年間の収入額がなかなか上がりにくいというデメリットもあります。
時給という賃金制のため、長期休暇等の場合には収入が落ち込んでしまうこともあるでしょう。
【5】契約期間終了までは基本的に辞めることが難しい
雇用期間に定めのある派遣保育士の場合、途中で「こんなはずではなかった」「辞めたい」と思ったとしても、基本的には個人的な事情で突発的に辞めることが難しくなります。
保育士さん自身が「派遣」という働き方の特徴を十分に理解していることはもちろんのこと、人材紹介会社との労働契約書等にもきちんと目を通し、納得したうえで勤務をスタートすることが重要です。
派遣保育士の求人を探すには……?
派遣の保育士求人を探すには、さまざまな方法があります。
- 「保育士×派遣×地域」等でインターネット検索を行う
- 保育士専門の人材派遣会社に登録を行う
- 保育士専門の求人サイトで派遣の雇用形態求人を探す
- 保育士向け人材紹介サービスを利用する
派遣の場合、人材派遣会社を探して登録するという流れが一般的ではありますが、現在では一般的な求人サイトでも派遣保育士の求人をたくさん紹介しています。
「保育のお仕事」でも、派遣保育士の求人を取り扱っているホィ!
各会社によって紹介可能な求人が異なりますので、効率的に仕事を探すためにも、複数のサービスに登録して職探しを行っていくとよいでしょう。
編集者より
今回は「派遣」という働き方に絞り込み、その魅力や注意点をご紹介してきました。
どんな働き方でも同じことではありますが、何をメリットと感じ、何をデメリットと感じるかは人それぞれ。
働き方が多様化している今だからこそ「自分が今後どのように保育と関わっていきたいのか、どんなキャリアを望んでいるのか」をじっくりと考えたうえで、あなたに合った勤務形態を選べるとよいですね。
参考文献・サイト
- 厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」(2020/06/23)
- 厚生労働省『派遣で働く皆様へ』リーフレット(2020/6/23)