「有給が取れない…」保育士さんからは、時にこんな不満の声を聞くことがあります。仕事を休んでも賃金が発生する「年次有給休暇」の取得は、本来労働者の権利として定められていますが、実際にはその権利が守られていない現実もあるようです。
今回は、現場で働く保育士さん103名を対象に有給休暇取得の実態について伺った、アンケート調査結果をご紹介します。
そもそも有給休暇ってどんなもの?
有給休暇は、正式には「年次有給休暇」と言います。その名の通り仕事を休んでもお給料が発生する休暇のことで、一定期間勤続した労働者に対して、それぞれ定められた日数が付与されます。
厚生労働省の定義をチェックしてみましょう!
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。
◆付与される条件と休暇日数は?
年次有給休暇が付与されるには以下の2つの条件を満たすことが必要です。
(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと
上記の条件を満たしていれば、労働者は最低10日の年次有給休暇が付与されます。
また、勤続年数が増え、かつ(2)の条件を満たしていれば、付与される休暇日数は増えていきます。
雇入れの日から起算した勤続期間 | 付与される休暇の日数 |
---|---|
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
パートタイムなど、非正規雇用であっても年次有給休暇は付与対象ですが、1週間の労働日数や、年間の労働日数に応じて、付与日数は調整されます。
(例)週の所定労働日数が4日、1年間の所定労働日数が169日~216日の場合
雇入れの日から起算した勤続期間 | 付与される休暇の日数 |
---|---|
6カ月 | 7日 |
1年6カ月 | 8日 |
2年6カ月 | 9日 |
3年6カ月 | 10日 |
4年6カ月 | 12日 |
5年6カ月 | 13日 |
6年6カ月以上 | 15日 |
◆すべて希望の日に取得できる訳ではない!
年次有給休暇は、付与日数のうち5日は個人が自由に取得できるように必ず残しておく必要がありますが、それ以外の日数については事業者が従業員に一斉に付与するなど、計画的付与制度の対象となります。
また、自由に取得できるとされる5日分についても、繁忙期などで、休暇取得が正常な事業運営を妨げる理由があれば、事業者が他の時期に年次有給休暇の時期を変更できる「時季変更権」を持つため、必ずしもすべての年次有給休暇を、好きな時に取得できるとは限りません。
保育士さんは有給休暇を取得できているの?
今回は、保育士さんの年次有給休暇の取得についてその実態を調査するため、107名の皆さまにアンケート調査にご協力いただきました。ここからは、有給休暇の付与対象であるとご回答をいただいた103名のご回答をもとに、調査結果をご紹介していきましょう。
◆有給取得をしたことがある方が8割以上
まずは、今までに有給休暇を取得したことがあるかどうか伺ってみました。すると「ある」と回答した方が全体の86%、「ない」という回答は13%となりました。
◆有給取得の目的は?
ではどのような時に有給休暇を使うのか、実際に有給休暇を取得した経験のない方を除く90名に伺ってみました。
最も多かった回答は「体調不良のため」で71%。次いで「自分や家族の遊びや趣味のため(43%)」、「健康診断や通院などのため(33%)」という結果となりました。有給休暇を取得するケースの多くが、体調不良や通院などやむを得ない事情によるもので、趣味や遊び、子どもの行事などの目的で取得するケースを大幅に上回っていることが伺えます
また「その他(11%)」のうちの6%については、職場の都合で取得させられるという内容になっており、有給休暇自体は取得しているものの、自由に使えないという職場もあることが伺えました。
◆有給を取ったことがないのはなぜ?
なお、今までに有給休暇を取得したことがないと回答された方に、取得をしない理由を伺ったところ、「人員不足や忙しすぎるなどの理由で取得している余裕がないから」が69%、「体調不良などやむを得ない場合しか取得できないから」「どんな理由であろうと有給を取得させてくれないから」「上司や先輩が取得しないから」がともに38%と、なかなか有給休暇を取得できない職場の現状が伺えました。
有給休暇「取得しにくい」が58%という現実
では有給休暇の取得のしやすさについてはどうでしょうか。実際に今までで有給休暇の取得をしたことがある方を対象に、有給の取得がしやすいか否かを伺ってみました。
上のグラフのとおり、有給休暇が「取得しやすいと思う」という回答が42%だったのに対し、「取得しにくいと思う」という回答が58%と約6割を占める結果となりました。
◆取得しにくいと感じる理由は…?
ではなぜ「取得しにくい」と感じてしまうのか。その理由について伺って見たところ、最も多かったのは「人員不足や忙しすぎるなどの理由で取得している余裕がないから」で49%、次いで「体調不良などやむを得ない場合しか取得できないから(28%)」、「上司や先輩が取得しないから(18%)」という結果となりました。
- 人員不足のため取れない。しかし、主任、施設長は旅行や私的な理由で普通に取っている。現場の人間が有給を取りたいと言うと、全員の前で嫌みを言われる。何のために取るのか、その日は駄目だとか、無理だとか言われ、嫌な顔をされてしまう。(35~39歳/保育士・正規職員/女性)
- 勝手に有給を勤務表に入れられる。聞いてからいれてもらいたい…。(30~34歳/保育士・正規職員/女性)
- 体調が悪くて休んだ翌日、園長に「有給は使わない方がいいよ」と言われた。有給はなんのためにあるのか…まったく意味がわからなかった。(35~39歳/保育士・正規職員/女性)
自由回答からは、有給休暇を取得してしまうと、他の職員に負担がかかってしまうという悩みや、職場全体の固定の休みに有給が充てられて自由に使えない、雇用形態によって取得のしやすさが異なり不平等である、などの不満が伺えました。
特に職員の配置人数に一定の決まりがある保育士さんの場合には、代替の職員が手配できない限り自由に有給休暇の取得ができないケースも多いよう。十分な人材の確保は、有給休暇を取得しやすい環境づくりには欠かせない要素と言えそうです。
保育士さんの4割が「有給消化は難しい」と回答
年次有給休暇は勤続年数等に応じて、一定の休暇日数が付与されます。本来労働者の権利として付与されるものですので、期間内に使い切る、つまり有給を消化することは問題ないはずですが、実際に保育士さんたちは付与された日数分の有給休暇を取得できているのでしょうか?
有効回答者全員に対し「あなたの職場では付与された有給休暇は消化できますか?」と伺ってみたところ、「必ず消化できる」と回答したのはわずか16%。「必要性があれば消化できる」が33%、「消化できない」が41%と、半数近くの回答者は消化が難しい現状に置かれていることがわかりました。
また、「職場は消化できなかった有給休暇がある場合に何らの対処をしてくれますか?」と聞いてみたところ、「翌年に持ち越してくれる」が53%、「特に何の対処もない」が38%、「残りの有給分を金銭に換算して買い上げてくれる」に関してはわずか2%という結果になりました。
労働基準法第115条によれば、年次有給休暇の請求権の時効は2年。しかし実際には翌年への繰り越しがされていない、されたとしても制限があるなど、職場独自の暗黙のルールができてしまっているケースもあるようです。
職場の規定について違法性が高い場合には、各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などの総合労働相談コーナーを利用して相談することもできるホィ。