「幼児教育・保育の無償化」。子育て世帯への負担軽減につながる取り組みとして、子育て世帯を中心に大きな注目を集めています。
間もなく実施される「幼児教育・保育の無償化」について、基本的な制度の内容やメリット、デメリットなど、保育士さんが知っておきたいポイントを最新の情報をふまえて、わかりやすくご紹介します。
そもそも「幼児教育・保育の無償化」とは?
幼児教育・保育の無償化とは、どういった制度が説明できますか? まずは基礎的な知識をお伝えします。
【いつから】
・2019年10月1日から
【対象】
・0歳から2歳までの住民税非課税世帯を対象に
・3~5歳児は一律で
【どうなる】
・幼稚園、保育所、認定こども園等の利用料が無償になること
(参考)
●幼児教育・保育の無償化に関する都道府県等説明会 : 子ども・子育て本部 – 内閣府
●幼児教育・保育の無償化はじまります。
根拠となる法律は「子ども・子育て支援法」で、2019年5月に無償化に向けて一部が改正されました。
それでは「幼児教育・保育の無償化」の背景を見てみましょう。
①生きていくうえで必要な力を幼児期に誰もが身につけられるようにする
幼児教育の場では認知能力(読み書き・体力など)に加え、非認知能力(粘り強さ・コミュニケーション能力など)が養えると近年着目されるようになってきました。
②少子化対策
子育て世代にとって、教育費などの支出が子どもをもつことへのハードルとなっています。そのハードルを下げ、子どもをもちたいと思える若い世代を増やす意図があります。
③有償の幼稚園に通う子どもが多い
自費で高い幼稚園に通わせる家庭が多く、海外と比べても、幼児教育費の負担が高いことが問題視されてきました。
【チャート図解】ややこしい幼児教育・保育の無償化の内容・条件
幼児教育・保育の無償化においておさえておきたい基本原則は2つ。
①0~2歳児の非課税世帯に対する無償化と②3~5歳児の一律無償化です。
所得制限は子どもの年齢によって変わってくるということですね。
こちらのチャートで対象や条件の概要をつかみましょう。
※1 対象となる保育所
保育所、認定こども園に加え、「地域型保育(小規模保育・家庭的保育・居宅訪問型保育・事業所内保育)」、「企業主導型保育(標準的な利用料)」も対象。
※2 認可外保育施設
一般的な認可外保育施設・地方自治体独自の認証保育施設・ベビーシッター・認可外の事業所内保育など。
また、ここでは一時預かり事業・ファミリーサポートセンター事業なども含まれる。
※3 子育て支援新制度の対象となる幼稚園か
不明な場合は園に直接、または住んでいる市区町村(自治体)に問い合わせる。
※4 保育の必要性認定
住んでいる市町村(自治体)から認定を受ける必要あり。
保護者の就労や疾病、就学や妊娠、出産など、家庭での保育が難しいとされる事由のいずれかに該当していること。一般的に「専業主婦(夫)」は認定対象外になる。
①②について費用と共に詳しく説明すると以下のようになります。
①0~2歳児の場合
0歳児から2歳児については、住民税非課税の世帯の場合のみ無償化の対象となります。
認可外の保育サービスに関しても同様に、住民税非課税世帯の場合に限り月42,000円を上限に保育料補助が受けられます。
②3~5歳児の場合
3歳児から5歳児の場合、認可を受けた保育園(保育所)、幼稚園、認定こども園の利用は一律で無償となります。
(※ただし幼稚園については公定価格である月あたり25,700円を無償となる金額の上限とし、送迎費や昼食の材料費は自己負担です。)
また、保育の必要性の認定を受けている場合には、認可外の保育サービス(事業所内保育施設やベビーシッターなど)についても、月37,000円を上限に保育料の補助を受けることができます。
幼児教育・保育の無償化のメリットは「子育ての負担軽減」
幼児教育・保育の無償化のメリットは、無償化の対象となる子育て世帯にとって、大幅な負担の軽減につながることでしょう。
たとえば、保育料が月20,000円の長男(4歳)と、10,000円の長女(3歳)を認可保育園に通わせている場合、年間保育料は360,000円。仮に保育料が卒園まで変わらない場合で考えると、卒園までには800,000円を超える基本保育料が必要です。
ただし、これはあくまで保育料の負担がゼロになる条件に当てはまった際のメリットです。無償化の対象外になる、または無償とする金額に上限があるなど、状況によってはこのメリットを十分に感じられないケースもあるので、注意が必要です。
ここが気になる! 「無償化」の疑問&懸念点5つ
政府資料や事例を元に、保育者や保護者が気になる事項を5つに絞って説明します。
こちらでカバーできなかった疑問については、以下のリンクまたは住んでいる自治体に問い合わせてください。
●こんなときどうするの?|幼児教育・保育の無償化はじまります。
https://www.youhomushouka.go.jp/app/faq/
●幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/administer/setsumeikai/r010530/pdf/s9.pdf
Q1.無償化の対象にならない園や施設はあるの? 私立幼稚園はどうなるの?
「対象とならない園か、どうか」はなかなか判断は難しいのが、対象となる「私立幼稚園」の範囲です。
学校法人などが運営する「私立幼稚園」の多くは無償化となることが多いです。
一方で、「認可外幼稚園」や「幼児園」などという名称でも、いわゆる「幼児教室」の位置づけで、文部省の管轄外となっている園が、無償化における「対象とならない園」です。
確かめる方法は、園に直接問い合わせるか、市区町村に問い合わせるのが確実な方法です。
(自治体によってはHPで一覧にしています。)
独自の教育・保育を展開する「森のようちえん」や自治会運営による園も「対象とならない園」となり、現場や保護者からは不満も出ています。
ベビーシッターや障害児施設まで範囲が拡大!
一方で、無償化の範囲が拡大する場面もあります。
今回注目を集めているのが「認可外保育施設」に分類されるベビーシッターや、「就学前障害児の発達支援」などの無償化です。
●幼稚園や保育園・認可こども園に通っていない3歳から5歳までの子ども(上限37,000円/月)
●0歳から2歳までの住民税非課税世帯の子ども(上限42,000円/月)
●幼稚園に通う子どもの預かり保育としてベビーシッターを使う場合
また、いわゆる「療育」の現場も新たに無償化の対象となります。
Q2.地域の差はどれだけあるの?
保護者の所得状況や子どもを預ける施設だけでなく、自治体によって無償化・補助のメニューが異なり、保護者間で実質的な負担額の「地域差」が出ることもあります。
たとえば、東京と大阪を比べてみると……
たとえば全国と東京(世田谷区)と大阪(大阪市)それぞれで、幼稚園(新制度移行園を除く)で通った場合を比較してみると以下のようになります。
大阪府大阪市では、副食費の対象がやや広がる条件があるものの、全国基準の「原則保育料のみ無償化」は変わりません。
一方、東京都世田谷区では、全国基準に比べ利用料の無償額が高くなっていることや入園料にも補助が出るなど、「地域差」があることがわかります。
Q3.給食費により以前より負担額がアップ!?
無償化の対象となるのは、原則保育料のみ。
入園料、給食費(主食代・飲み物などを含む副食代)、制服代、送迎費(バス代など)、行事参加費などは無償化の対象外となっています。
これにより問題視されるのが「給食費」について。
これまでは2号認定の子どもの給食費は主食代のみの実費負担でしたが、無償化後は給食費を全て負担することになります。
また、無償化によって運営が苦しくなる園は給食費を値上げすることにより、無償化後の方が負担額が多くなるという家庭も現れる可能性があります。
自治体によっては副食費を無償化する場もあるようなので、今一度確認しておきましょう。
厳密なチェックが保育者の負担増になる可能性も
また、現場の保育者にとっては一人ひとりしっかり主食・副食を食べたのか厳密なチェックが必要となり、保育施設の経理担当者にとっては一人ひとりの出欠・実食状況によって食費が変わり計算や確認が複雑化することが予想されます。
※【速報】副食費については園や保護者の負担としてすすめられてきましたが(いわゆる「上積み公定価格案」)、2019年9月18日に撤回されました。具体的な対応の変化については今後も注意深く見守る必要がありそうです。
Q4.所得制限はあるの?
0歳児から2歳児までの子どもについては、住民税が非課税となる低所得世帯のみが幼児教育・保育の無償化の対象となりますが、3歳児から5歳児までは、所得に対して制限が設けられていません。
・生活保護を受給している
・世帯主が未成年者、障がい者、寡婦(夫)
※前年合計所得金額が125万円以下であること
・前年合計所得が各自治体の定める金額以下の人
(※入園年の1月1日時点による)
参考:地方税法 第三条の三 第二十四条の五ほか
Q5.保育の質は保てるの?
保育ニーズ増加から受け入れ人数を増やしたり、新規に保育園を設立するなかで保育の質をいかに保つかも課題です。
保育経験の浅い職員の割合が多くなったり、仕事に慣れる間もなく多くの子どもたちを見なくてはならなかったりという状況にどのように対応するか、検討が必要でしょう。
また、保護者にとっても「保育の質」については大きな課題。
園・施設に対する「保育の質」のチェックの目は厳しくなるかもしれません。
保育士さんの職場環境に与える影響は?
幼児教育・保育の無償化の実施は、保育士や幼稚園教諭の働く環境にも影響を与えることが考えられます。具体的にどのような変化が考えられるのか、見てみましょう!
保育士や幼稚園教諭のニーズが高まる
「今までは認可外の保育園が高かったから通うのをあきらめていたけれど、補助が出るなら入園させよう!」「無償なら幼稚園に通わせたい!」など、無償化で潜在的な保育ニーズが高まれば、保育施設やそこで働く保育士さん、幼稚園教諭さんのニーズも高まります。
また、一部の認定を受けたベビーシッターなども対象となるため、保育資格や経験がある方の働く場所の選択肢はますます増えるでしょう。
今後、幼稚園運営は競争が激化?
一方で、幼稚園の経営については陰りも見えます。
このまま少子化が続けば、2040年を目処に保育施設は充足し、待機児童問題も収束との見込みもあります。
今回の無償化で一足先にその問題に直面したのは無償化の対象外となる施設です。
無償化の対象外となることで、他の園に流れることが予想されています。
認可外幼稚園の閉園騒動も記憶に新しいでしょう。
【川崎区の認可外幼稚園 新年度直前に突然閉園通知でパニック】
2019年3月末。有限会社アメリカンラングエイジセンターが運営する認可外幼稚園「A.L.C.貝塚学院」が次年度以降継続不可能であると、閉園する旨を保護者とそこで働く保育者に突然通知し、混乱が起きた。背景として多い時は約150人いた新入園児が、無償化対象外となる煽りを受け2019年度には約70人に減ったことにある。
(地元企業の援助を受け、次年度以降も園は継続可能となった。)
参考:川崎の認可外幼稚園「A.L.C.貝塚学院」閉園通知から一転、継続へ 地元企業が支援 | 子育て世代がつながる | 東京すくすく – 東京新聞
それぞれの園は生き残りにかけて「より特色ある保育」を目指したり、規模縮小の動きがみられます。
期待される保育士の「処遇改善」
いくらニーズが高まっても、働く保育士さんや幼稚園教諭さんがいなければ園は成り立ちません。そこで、人材の獲得競争になり、園によって給料や待遇が引き上げられることも見込まれます。
無償化の財源には、消費税率アップによる増収分があてられます。保育士不足が深刻な今の状況で、「もっと保育士の処遇改善、労働環境改善に財源をあてるべきでは?」という声もあがっています。
政府ではこれを受けて「少子高齢化対策の2兆円パッケージ」の名のもと、2019年4月からは1%(月3,000円相当)の賃金引上げ(ベースアップ)が実施されました。
また、2017年度には東京都で月額平均4.4万円/人の給与上乗せを打ちだしたり、2019年3月には那覇市で「潜在保育士」確保に向けて10万円就職応援給付事業をするなど、各自治体でも一時的・長期的に渡る処遇改善をしています。
職員の負担が増える可能性も……?
2018年に行ったウェルクスのアンケートでは現役保育士・幼稚園教諭の「67.1%」が無償化に反対していたというもの。
また「業務負担の増加」や「保育の質低下」が懸念となっていました。
保育ニーズが増えれば、新規で保育園などを作ったり、子どもの受け入れ人数を増やしたり、あるいは既存の幼稚園を認定こども園に移行するなどの必要が生じます。
「受け持つ子どもの人数が増える」「経験の少ない職員が配属され、指導をしなくてはならない」など、職員の負担が増える可能性もあるため、対応を検討していく必要があるでしょう。
編集者より
小さな子どもを育てる家庭にとっては、一見喜ばしく見える「幼児教育・保育の無償化」。
しかし、世間では不安や疑問の声も多く上がっています。解決すべき問題が山積みのなか、この無償化を優先的に実施することに、違和感を持つ方が多いのが現状と言えるでしょう。
「すべての子どもに質の高い幼児教育を提供する」もちろんそれも大切ですが、いっぽうで待機児童や保育士不足の問題などへの早急な対応が求められます。国や自治体の取り組みについて、今後も注意深く見守っていきたいですね。
最新情報があれば、順次追記していきます!
参考文献・サイト
- 内閣府『平成30年度における子ども・子育て支援新制度に関する 概算要求の状況について』(2017/7/18)
- SankeiBiz『政府、幼保無償化を半年前倒し来年10月の方針、対象は「保育認定」受けた世帯限定』(2017/7/18)
- HugKum『「幼児教育無償化」いつから?2019年10月開始予定の制度の所得制限や対象の年齢について解説』(2017/7/18)
- ニッセイ基礎研究所『教育無償化への期待と不安』(2017/7/18)
- 2018 新児童手当まとめサイト『幼児教育無償化 最新情報 2018年』(2017/7/18)
- NHKオンライン『何のための幼児教育無償化か』(時論公論)(2017/7/18)
- 内閣官房『幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書(案)』(2017/7/18)
- 幼児教育・保育の無償化はじまります。(2019/09/24)
- 内閣府「幼児教育・保育の無償化: 子ども・子育て本部」(2019/09/24)
- NHK政治マガジン「幼児教育と保育無償化へ 改正法成立 10月1日施行」(2019/09/24)
- 時事ドットコム「幼保無償化、10月開始=消費増税分を活用-改正子ども・子育て支援法が成立」(2019/09/24)
- 株式会社ウェルクス「保育士・幼稚園教諭の67.1%が無償化に反対 / 無償化に合わせ「更なる保育士の確保」と「保育の質の担保」も必要?」(2019/09/24)
- 株式会社ウェルクス『<保存版>幼児教育・保育の無償化』を公開(2019/09/24)
- 厚生労働省「幼児教育・保育の無償化について」(2019/09/24)
- 東京新聞―東京すくすく「歴史ある「幼児教室」、評価高まる「森のようちえん」も幼保無償化の対象外に… 不公平ではないの? | 子育て世代がつながる」(2019/09/24)
- 現代ビジネス/猪熊弘子「日本の保育無償化は誰も幸せにならない」といえるこれだけの理由
むしろ支払いが増える家庭も(2019/09/24) - 世田谷区「幼児教育の無償化について」(2019/09/24)
- 大阪市「幼児教育・保育の無償化 (…>教育・保育サービス>教育・保育サービスの利用について)」(2019/09/24)
- キッズライン「10月からの幼保無償化、ベビーシッターも対象に。政府が「個別保育」として認定」(2019/09/24)
- 厚生労働省「就学前の障害児の発達支援の無償化に係る方針について」(2019/09/24)
- 総務省「平成31年版 地方財政白書|第3部 1 人づくり革命の実現に向けた取組」(2019/09/24)
- 内閣府「政策パッケージ」(2019/09/24)
- 日本経済新聞「都、保育士給与補助4.4万円 17年度から月額」(2019/09/24)
- 保育園副食費が無償に/自治体100超 秋田県は半数以上/各地で共産党が要求(2019/09/24)
- 日本総研/池本美香 「幼児教育無償化の問題点 ― 財源の制約をふまえ教育政策としての制度設計を ― 」(2019/09/24)
- しごと計画コラム(しごと計画学校)「保育料無償化、所得制限は?どこまでが対象?」(2019/09/24)
- morecareee「幼児教育・保育無償化|2019年10月から何がどう変わる?条件・手続き・内容をわかりやすく解説」(2019/09/24)
- 大豆生田啓友,(2019)「マメ先生からのメッセージ」『びーのびーのガイド』特定非営利活動法人びーのびーの
- 無藤隆,(2018)「おしえて! 無藤先生 幼児教育・保育の無償化ってどうなるの?」『保育とカリキュラム 2019年1月号』ひかりのくに株式会社