特集・連載

モンテッソーリ教師・堀田はるな先生に聞く「新しい時代を生きる子どもたちに、いま、必要なこと」

あなたは、モンテッソーリメソッドをご存知ですか?
モンテッソーリメソッドは、数ある幼児教育法のうちのひとつで、「他人への思いやりと生涯学び続ける姿勢を持った自律した子ども」を育てていくことを目的としているものです。
子どもたちは自発的に自分が興味を持てることに取り組み、自らを成長・発達させる力を持っていると考えるのが大きな特徴。
モンテッソーリ・メソッドではさまざまな理論に基づいて、専用の教材や周りの教師・保護者の支援、環境づくりによって、子どもの自主性を尊重、サポートしていくことになります。

魅力がいっぱい!子どもの自主性を高める「モンテッソーリ教育」近年一部の幼稚園や保育園でも取り入れられ、話題となっている"モンテッソーリ教育"。 教育界に最も大きな影響を与えた教育法のひとつにして...

この連載シリーズ『「人生100年時代」の保育のカタチ』では、実際にモンテッソーリ教師としてご活躍されており、かつモンテッソーリ・メソッドについての書籍も執筆されている堀田はるな先生に、実践している立場から見えるものについてお話を伺います。
初回は、堀田はるな先生のモンテッソーリ・メソッドとの出会いや基本的な考え方、これからの保育における重要性などをお聞きしました。

その教育は、本当に子供の成長に繋がっているか?

――「子どもに考え方のヒントを与え、自主的に動けるようサポートする」ことに重きを置いているモンテッソーリ・メソッド。その重要性を、主流となっている一斉教育と対比させて考えます。

今の教育現場はどうしても、子どもを楽しませるプログラムを教師が主体的に考えて、それに子どもを乗せるというシステムになりがちです。
でも、子どもたちはそれぞれに異なる特性や興味を持っているわけですから、一斉教育のやり方があう子もいればあわない子もいます。その時にあわなかった子が「先生がやろうって言ってるから、やりたくないけど仕方なくやる」というのは不幸だと思うのです。活動に楽しさを見出せないのでは子どもの成長には繋がりません。

子どもが今、何を必要としているのか。ひとりひとり個別に考えて提供することによって、子どもは自分で自分の力を発揮できるようになります。モンテッソーリ・メソッド では、それぞれの子供が主体となって活動を選び、自分で楽しみを見つけられるように個別の特性や興味に寄り添っています。

「これが面白そう!」「やってみたいな」
教具棚から自分で好きな活動に選んだ子供は、当然ながらよく集中します。じっくりと自分のペースで活動し、ひとつ終えると自発的に次の活動を選んで取り組みます。教師は無駄に子供の邪魔をしないように控えめに見守り、子供が手助けを必要としたときに必要最低限のサポートをします。

子供は教師から「あれをしなさい」と指示をされることなく、自分で決めたルールに
従って生活します。自分で物事の段取りを考えたり、少し難しい課題にチャレンジしたりしながら自分自身を育てていきます。

教師主体のプログラムが、子どもの成長のどこに繋がっているのか疑問に思うこともあります。一斉教育にもいいところはありますが、主体的に人生を選択して生きていくにはそれだけじゃ足りないのかな、と思います。

だからこそ、一人ひとりの成長を見ながら主体性を育てることが、モンテッソーリ・メソッドに限らず必要だと思います。

ただ、楽しく人生を送ってくれたらいい

――モンテッソーリ・メソッドを実践するにあたって、現場の教師はどのようなことを考えて子どもたちに接しているのか。堀田先生に、教育について意識している点をお聞きしました。

モンテッソーリ・メソッドを実践する上で、掟のようなものは作らないようにしています。「○○しなきゃいけない」という制限を持っていると、子どもにするべき対応と実際の行動がちぐはぐになってしまうからです。
子どもにとって必要なサポートはその場その場で変わるため、「こうしないといけない」といった思考の縛りはかえって邪魔になってしまいます。
モンテッソーリ・メソッドは子どもを主体とした教育法。子供達を決まった型にはめるのではなく、それぞれの子供の良さを伸ばしていけるといいと思います。そのためには、目の前の子どもをしっかり見て、「この子には今何が必要なのか?」「自分はこの子に何ができるか?」を考えて対応することが大切です。

また、モンテッソーリ教師をしていて思うのは、とにかく、「子ども達が自分らしく楽しい人生を送れたらいいな」ということです。そのための教師ができることは、子供自身が柔軟な選択をするための基礎づくりを手伝うことだと思います。モンテッソーリ・メソッドに基づくプログラムでは、子どもたちは自分の興味関心に従って取り組むことを選びます。自分の能力よりも少し難しいことにチャレンジしたり、失敗したり、試行錯誤した経験を通して、自分の得意なことも苦手なこともきちんと把握することができるのです。

自分の得意なことがわからないから、なんとなくでしか進路を選べない……。
そんな中学生や高校生を、みなさんも見たこともあるのではないでしょうか。
モンテッソーリ・メソッドによって幼少期から「自分は何が得意?何ができる?」ということを試す機会があると、そういった進路を考えるときの判断材料になります。
好きなことや関心を持てることをたくさん追求することは、それだけ人生の選択肢を広げ、人生を豊かにするのです。

また、「頭を使って自分で考える」という習慣は、物事に対する判断基準を自分の中にしっかり持つことに繋がります。誰かに判断を委ねて、思考停止した状態でなあなあに過ごす人生はつまらないですよね。

だからこそ日々、子どもたちが楽しく「自分を育てられる」場を作っていきたいと思っています。

毎日が挑戦、ブラッシュアップの繰り返し

――子どもの自主性を育むモンテッソーリ・メソッド。それを実施する教師にも、何か得られるものはあるのでしょうか。尋ねると、堀田先生はすぐにうなずいてくださいました。

モンテッソーリ教師が、子どもから教わるということもたくさんあると思います。
モンテッソーリ・メソッドにはベースとなる理論がきちんとありますが、あくまでプログラムは子どもの興味に合わせて臨機応変に変えていくため、毎日トライアンドエラーを繰り返せるのが強みだと思います。
今日はこっちの教具に変えてよかったなとか、今日は子どもたちの反応がよかったなとか、思考錯誤しつつ試していけるのは楽しいですね。
頭を使いながら毎日プログラムを考えているおかげか、私の勤める教室でも、若々しくてエネルギッシュ、元気な先生が多いような印象を受けます。モンテッソーリ・メソッドに限った話ではありませんが、子どもたちからたくさんパワーをもらっていると思います。

モンテッソーリ教師の資格を取ろうとする人はまだ現状多くありませんが、人に興味をもって接するのが好きな人や、勉強するのが好きな人にはぜひモンテッソーリ・メソッドを学ぶことをすすめたいと思います。

教師にも多様性があっていい。自分なりの保育を見つけて

――アパレル関連の会社で5年、アメリカに本社を持つインターネット通販会社で8年、証券会社で4年。
社会人になってからしばらく保育と無縁の業界で、マーケティング担当として働いていた堀田先生は、偶然の巡り合わせによってモンテッソーリ・メソッドを知ることになります。

私がモンテッソーリ・メソッドと出会ったのは、夫がモンテッソーリ教師だったことがきっかけです。
彼の実家がモンテッソーリ・メソッドに基づいたプログラムを子どもに提供する幼児教育施設を運営していて、行事の時などには私もお手伝いに行っていました。
そこで働いている教師たちの子どもへのかかわり方を見て、興味を持ったのが始まりです。
そこから書籍などを参考に勉強を始めましたが、そのときはまだ、まさか自分も教師になるなんて思ってもいませんでした。

ですが、勉強を進めていくうちに、モンテッソーリ・メソッドは「これからの社会を生きていく子どもたちに必要な考え方」だと気付きました。
私はそれまで他業種で働いていて、一番キャリアが長かったのが外資系企業だったのですが、そこでは「自分の主張ややりたいことをきちんと持っているか?」ということをよく求められていました。今後はそれ以上に、主体性が求められる時代になるのかな、と思ったのです。
医療が進歩して、これからは多くの人が100年生きるような時代になっていきます。働く期間もそれだけ長くなりますから、今の子ども達が大人になった時には、キャリアの作り方も今とはまた違ってくるはずです。

積極的にどうなりたいか、というビジョンを持って、どうしたらそれを実現できるのか考えながらキャリアを作っていくことが必要になる。なんとなく働く、受け身でいる……というのでは、自分で自分の人生を選べなくなってしまう。これからはそういう、シビアな世の中になっていくと感じています。

だからこそ、これからを生きる子どもたちのためにモンテッソーリ・メソッドを広めていきたい。学んだことを、実際に子どもたちと向き合ってトライアンドエラーしてみたい。そう思い、モンテッソーリ教師として働き始めました。

――他業種から保育業界に飛び込んだ堀田先生。これまでの社会人経験はモンテッソーリ・メソッドを実践する上でどのように活きているのかお聞きしました。

私が勤める「モンテッソーリ原宿子供の家」では、最初からずっと保育士として勤めてきた長いキャリアの人もいれば、私のように他業種から転職してきた人もいます。教師にもいろんな考え方や生き方があり、そうした多様性がある環境というのは子どもたちにとっても悪いことではありません。
子どもが一人ひとり違うように、私たちも大人一人ひとり違う存在。
みんなそれぞれ違うということを、大人たちからも感じてもらえたらいいのかなと思っています。

他業種から保育の世界に入ろうとしている人や、一度離職して潜在保育士となっている人の中では、「今さら保育業界に入っても、ついていけないかも……」という不安の声が上がると聞きます。
ですが、「保育に関わっていなかった時間に得たものも保育に活かせる」と思えば、未経験やブランクは何のハンデにもならないと思いませんか?
保育士歴がただ長ければよいということはありません。保育のキャリアが長い人にはその人の、短い人にはその人の、それぞれのよさがあります。

考え方ひとつで、自分の経験は何でも活かせると思います。
たとえば私の場合は、ほかの業種で保育関係者以外の人と接してきた考えの広さを、子どもに対してもアウトプットできます。
私の保育士歴はさほど長くありませんので、ベテランの保育士さんのようになろうと思ってもそれは難しいこと。自分は自分にしかなれません。他人と比べるよりも、自分がこれまでに得てきたものを伝えられるよう、自分なりの関わり方をしていくのが大切だと考えています。

編集者より

将棋棋士の藤井聡太七段の活躍によって、彼が幼少期に受けていたとされるモンテッソーリメソッドは世間に広く知られるようになりました。
しかし、今はまだ名前だけが独り歩きしている状態で、その実情や実践方法を知らないという人の方が多数派なのではないでしょうか。
この連載では、モンテッソーリ教師・堀田はるな先生から、保育士さんが普段の業務に役立てられるような「モンテッソーリ・メソッド」の考え方をお聞きしていきます。
次回もお楽しみに!

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